DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

CLINICAL REPORT
マイクロスコープ(歯科用実体顕微鏡)の一般臨床医における有用性
坂東 信

■目次

はじめに

最近のITなどの情報化の発達により、『歯科用実体顕微鏡(以下マイクロスコープ)の有用性は語り尽くされた』あるいは、『歯科医誰もが必要性を感じていること』と、思われるが、現実にはまだまだ1歯科用ユニットに1台どころか、1診療室に1台というような普及率にはほど遠い状態である。筆者は、一般臨床医として5~6年程マニー株式会社製のマニーマイクロスコープDMS25Z(図1)を使用しているが、非常に有用性を感じている。また昨年、待望の可変鏡筒タイプ(図2)が発売され、選択の幅が広がった(図34)。つたない臨床提示であるが、今一度、一般臨床医普及のために筆をとるものである。一般的にマイクロスコープをイメージすると、『大きくてゴツイ、一般開業医向きではないなー、非常に高価、大学病院のような大きな病院向きだな』などであろう。
しかし最近は、我が国の開業医にも普及し始め、筆者自身も使用しその有用性を実感している。また、従来使用されている拡大鏡とは異質であり、その一端を紹介する。
医科の分野では、その歴史は古く1920年代から使用され始め、1950年代には、耳鼻咽喉科、1960年代には、眼科、脳神経外科、血管外科等の分野で使用されてきたが、歯科の分野では、非常に歴史は浅く1990年代に入ってから主にエンド領域において用いられるようになった。また、1998年には米国の歯内療法専門医の教育プログラムで義務付けされた。

  • マニーマイクロスコープDMS25ZC。
    図1 マニーマイクロスコープDMS25ZC。
  • 昨年発売された、待望の可変鏡筒タイプ。<br />マニーマイクロスコープIMS22ZC。
    図2 昨年発売された、待望の可変鏡筒タイプ。
    マニーマイクロスコープIMS22ZC。
  • 可変鏡筒になると、無理なく適切な姿勢がとれる。
    図3 可変鏡筒になると、無理なく適切な姿勢がとれる。
  • ライカM300。
    図4 ライカM300。

マニーマイクロスコープの選択理由

国内、自社製、レンズは、光学系の会社のものを使用、価格、メンテナンス等々いろいろ考慮したが、なんと言っても、以前よりリーマー、ファイルなどの根管治療用器具や針、バーなどのインスツルメントを提供している会社であり、その工程において必ず、光学顕微鏡を用いてチェックしており(図5)、その点光学系に非常に強い印象があり決意した。また、最大の特長は、倍率変換がズーム式であり、我々術者の任意の倍率で固定をして仕事ができるため、非常に使い勝手の良いものと感じている(図6)。

  • マニー社の製品点検。
    図5 マニー社の製品点検。
  • 変倍機構はズーム式。これまでの3~5段階の固定倍率(ドラム式)ではなく、国内初のズーム式倍率変換により、4×〜24×までを観察できる。
    図6 変倍機構はズーム式。これまでの3~5段階の固定倍率(ドラム式)ではなく、国内初のズーム式倍率変換により、4×〜24×までを観察できる。

マイクロスコープ使用の利点

現代の歯科医学の発展により、より以上のクオリティーを要求されるが、我々人間の目すなわち裸眼では、解像度約0.2mmといわれクオリティーを上げるためには解像度を上げる必要があり、マイクロスコープの解像能は、約0.006mm(6μ)でありマイクロスコープの使用を望まれるのは当然といえる。この解像度が高いということはとかく“拡大”に注目されがちであるが、イルミネーションすなわち光源も注目される利点と思われる(図7)。
もうひとつ臨床医にとっての最大の利点は、その明るく拡大された画像を患者様と共有できること、すなわち患者様と共に、その場で、診査、診断の機会があることと思われる。臨床でのインフォームドコンセントに優位である(図8)。
また従来使用されている拡大鏡は、焦点距離を短縮するため、大きく見えるのであって見えにくいものに顔を近づけるのと同じであり、その点顕微鏡とは、性質が違う(図9)。
口腔内という暗くて狭い空間を術者の勘を頼りに行ってきたものが、明るく、拡大された空間に想像の世界から現実へと変化される。故に、診断をはじめ、歯内療法、歯周治療、保存修復治療、補綴治療、口腔外科治療などで幅広く応用することができる。

  • 拡大とイルミネーションが最大の利点。
    図7 拡大とイルミネーションが最大の利点。
  • 当医院のプレゼンテーションシステム。
    図8 当医院のプレゼンテーションシステム。
  • 従来型拡大鏡。
    図9 従来型拡大鏡。

マイクロスコープ導入を決意した症例

  • ・70代女性右側上顎第一大臼歯遠心隣接面う蝕。
  • ・自発痛(-)誘発痛(-)X線にて偶然う蝕を発見。
  • ・臨床症状が全く無いことと、歯髄腔をX線にて確認できないことを考慮して、コンポジットレジンによる修復処置を施行した。
  • ・処置後、若干の冷水痛あるも患者様の都合により約1カ月来院休止。
  • ・冷水痛(+)咬合痛(+)により再来院、X線所見からも非常に歯髄腔が狭窄しており、抜髄するも根管口発見できず中止。
  • ・症状変化なく、マイクロスコープ(当時デモ機)を用いて再抜髄、無事3根管発見。
  • ・症状緩和し難を逃れた。実は、この症例により筆者自身マイクロスコープの購入を決意した(図1013)。

今後は、高齢者の増加にともない、このような歯髄腔の狭窄した抜髄症例が増えてくると思われる。これからは、マイクロスコープは、必須の治療器具であると言える。

  • 初診時X線。歯髄腔が明瞭ではない。
    図10 初診時X線。歯髄腔が明瞭ではない。
  • 充塡後の口腔内所見とX線。
    図11 充塡後の口腔内所見とX線。
  • 肉眼では根管口を確認できなかった。
    図12 肉眼では根管口を確認できなかった。
  • マイクロスコープ下で根管口確認、抜髄処置。
    図13 マイクロスコープ下で根管口確認、抜髄処置。

まとめ

以上のことを臨床の視点から挙げると

  • ・術中に診査、診断が行える
  • ・歯内療法においては、破折線、見逃し根管、器具の破折片、パーフォレーション、ラバーダムの適合などの確認
  • ・保存修復、補綴においては、微細な形成、印象の確認、マージンフィット、余剰セメントの確認・歯周治療においては、歯石の確認
  • ・形成外科的利用
  • ・歯科衛生士の使用等々きりがないほど利点が挙げられる(図1426)。
  • カリエス、歯周病等の診査、診断。
    図14 カリエス、歯周病等の診査、診断。
  • 破折線。
    図15 破折線。
  • (左)下顎前歯2根管(右)下顎大臼歯5根管 根管数。臨床においては、見落とし根管が非常に多い。
    図16 (左)下顎前歯2根管(右)下顎大臼歯5根管
    根管数。臨床においては、見落とし根管が非常に多い。
  • 器具の破折片。破折片の確認と除去後.これも患者様と共に画像で確認できる。
    図17 器具の破折片。破折片の確認と除去後.これも患者様と共に画像で確認できる。
  • パーフォレーション。
    図18 パーフォレーション。
  • ラバーダムの適合。
    図19 ラバーダムの適合。
  • 外科的歯内療法。レトロミラー、レトロ超音波チップ使用。
    図20 外科的歯内療法。レトロミラー、レトロ超音波チップ使用。
  • CR充塡。マトリックスの適合確認。
    図21 CR充塡。マトリックスの適合確認。
  • 形成、印象の確認。
    図22 形成、印象の確認。
  • マージンフィット、余剰セメントの確認。
    図23 マージンフィット、余剰セメントの確認。
  • 歯石等感染の確認。
    図24 歯石等感染の確認。
  • 歯周形成外科。マイクロ用メス、7-0ナイロン糸使用。
    図25 歯周形成外科。マイクロ用メス、7-0ナイロン糸使用。
  • 歯科衛生士の使用。
    図26 歯科衛生士の使用。

おわりに

たくさんの利点ばかりを挙げてきたが、マイクロスコープを購入するだけで即治療ができるのではなく熟練を要するのも事実である。また歯科治療そのものは、基本的な術式(滅菌、消毒、ラバーダム等)の積み重ねであり、それが達成されてはじめて、最新式の器具、機材、術式が功を奏するのである。マイクロスコープの導入に関しても同様と考える。
マイクロスコープの導入は、非常に高価で、チェアタイムなどを考慮すると、現行の保険制度では、医院経営を圧迫するものであろうが、一度使用すると手離せなくなるものであり、一般臨床医の普及を強く望むものである。

参考文献
  • 1) 宮下裕志:歯内療法の歴史からみた診断、治療における原則Part2) 治療、the Quintessence、Vol.19 No.10/2000-2053.
  • 2) 澤田則宏ほか:特集 歯科治療におけるマイクロスコープの可能性、 日本歯科評論、707、Vol.61(9).
  • 3) 宮下裕志:歯科におけるマイクロスコープの応用、2002モリタ友の会カルチャー講演会.
  • 4) 飯島国好:編著 中川寛一、宮下裕志、澤田則宏:マイクロスコー プによる歯内療法、クインテッセンス出版、2005.