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119号 WINTER 目次を見る

TRENDS

歯科用漂白材「ピレーネ」

三菱ガス化学株式会社

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■目次

■ 1. はじめに

現在、変色歯の漂白(Office Bleaching)には高濃度の過酸化水素が主体として用いられているが、厳重な歯肉保護、知覚過敏や術中・術後の疼痛など、術者、患者にとって負担が大きく、より安全で効果の高い漂白材の開発が望まれている。二酸化チタンは、食品添加物や歯磨き粉にも使用されている安全・無害な物質であり、「光触媒機能」を有する。
我々は(独)産業技術総合研究所中部センター殿と共同で、この機能を歯の漂白に応用する可能性を検討し、二酸化チタンと低濃度過酸化水素を主体とする漂白効果と安全性を両立した歯科用漂白材「ピレーネ」(図1)を開発することに成功し、2003年に薬事承認申請をし、この度薬事認可を取得した。

  • 歯科用漂白材「ピレーネ」
    図1 歯科用漂白材「ピレーネ」

■ 2. 「ピレーネ」組成

開発した歯科用漂白材「ピレーネ」の組成を表1に示す。
本漂白材は、溶液-1および溶液-2の二液からなり、使用時に両者を混合し漂白材とする。
混合後の漂白材のpHは約6であり、過酸化水素の濃度は3.5%と消毒用オキシドール並みの濃度である。
「ピレーネ」は、光照射との組合せにより漂白効果を発揮するものであり、波長380~420nmの可視光に対して反応するように調整している。

  • 漂白材「ピレーネ」の組成
    表1 漂白材「ピレーネ」の組成

■ 3. 抜去歯による漂白試験

抜去歯を用いた漂白試験を実施した。入手した抜去歯は比較的着色の少ないものであり、研磨前のシェード(VITAPAN 3D-Master)で3M3より着色度の低い11本を用いた。
生理食塩水中に保存した抜去歯を漂白前に歯面研磨を行った後、「ピレーネ」をエナメル質表面に1mm程度の厚さになるように塗付し、照射装置を用いて照射した。光照射は塗付漂白液から1~2mm離して照射し、5分経過ごとに漂白材を水洗除去後、塗付してこれを10回繰り返した。
測色は歯面研磨後および各漂白処理終了後に実施した。漂白面のほぼ中心を3回ずつ測定し、その平均を測色値とした。測色表示にはL*(明度)、a*(赤味)、b*(黄色味)表色系を用い、色差△E*は次式により算出した。
△E*={(L2*-L1*)2+(a2*-a1*)2+(b2*-b1*)2 } 1/2ここで、L1*、a1*、b1*は歯面研磨後、L2*、a2*、b2*は漂白後の測定値である。また、視感比色として研磨前と漂白10回後のシェードの比較も併せて行った。
図2に、色差△E*の漂白回数による変化の1例を示す。
図3にはその抜去歯の研磨前および漂白10回後の写真を示す。
抜去歯10本について漂白処理を10回行った時のL*、a*、b*、および△E*値の変化を図4に示す。
漂白処理によって明るさが増し(L*値の増加)、黄味が著しく減少(b*値の減少)した。a*値については、今回用いた抜去歯では負の値となっており緑色の成分を含むが、漂白後は絶対値で小さくなっており着色が減少している。漂白前後の色差△E*は10本の平均で3.9であった。
表2に研磨前、漂白前、漂白後の視感比色データを示す。いずれの場合にも明度、或いは彩度で1ポイント以上の改善が得られている。
漂白処理に伴うエナメル質の性状変化を検討するために、漂白10回処理後のエナメル質表面の変化をレーザー顕微鏡観察によって調べた。
図5に示すように、漂白処理前後においてエナメル質表面の変化は全く見られなかった。また表面粗さを示す指標であるRaの値にも変化が見られていない。
以上のように、本方法ではエナメル質表面を殆ど傷めずに漂白できることから、処理後の後戻りが高濃度過酸化水素による漂白に比較して少ないことが期待される。

  • 漂白回数による△E*の変化
    図2 漂白回数による△E*の変化

    • 研磨後

    • 漂白10回後
    図3 「ピレーネ」による漂白例

  • 図4 漂白前後のL*、a*、b*、△E*値
  • 視感比色(VITAPAN 3D-Master)
    表2 視感比色(VITAPAN 3D-Master)

    • 研磨前(×2000) Ra=0.22μm

    • ピレーネ漂白10回後(×2000) Ra=0.20μm
    図5 漂白前後のエナメル質のレーザー顕微鏡写真および表面粗さRa変化

■ 4. 安全性試験

本漂白材の生物学的安全性について、「医療用具の製造(輸入)承認申請に必要な生物学的試験のガイドラインについて」(薬機第99号、平成7年6月27日)、および「歯科材料の物理的・化学的および生物学的試験のガイドラインについて」(薬機第419号、平成8年10月28日)に準拠し、急性毒性試験、細胞毒性試験、皮膚感作性試験、口腔粘膜刺激試験、歯髄・象牙質試験を実施した。
表3に試験結果を示すが、本漂白材は安全性に問題ないことが確認された。

  • 歯科用漂白材「ピレーネ」の生物学的安全性試験
    表3 歯科用漂白材「ピレーネ」の生物学的安全性試験

■ 5. 臨床試験

前臨床において安全性が確認されたことより、三菱ガス化学(株)が臨床試験を依頼し、二施設、62症例について漂白処置を行い、その後6ヵ月間の観察期間を設けて色戻りについての評価も行った。漂白前後の色の評価は、シェード(VITAPAN 3D-Master)による視感比色、色差計による測色、口腔内写真を併せて行っているが、3回程度の漂白処置で充分な漂白効果が得られ、その後の色戻りも僅かであり、良好な結果を得ている。
また、術中に疼痛を訴えた例は極めて少数であり術後に関しては全く無く、患者満足度は91.3%と極めて高い結果であった。

■ 6. おわりに

今回開発した「ピレーネ」は、光触媒を歯科材料分野へ初めて応用したものであり、従来のものに比べてはるかに低濃度の過酸化水素で高い漂白効果を示す安全性の高い歯科用漂白材である。

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