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119号 WINTER 目次を見る

CLINICAL REPORT

マイクロスコープを使用した根管治療を有効的にする器具と使用法

辻本 恭久

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■目次

■ はじめに

マイクロスコープ(実体顕微鏡)(図1)を使用した治療は様々な分野において行われている。著者も日常の臨床においては、歯内療法分野ばかりではなく、コンポジットレジン充塡時の、う蝕除去や充塡物の研磨に使用したり、インレーやクラウンの形成マージンの確認、レーザー使用による歯肉のメラニン色素除去など、ほとんどすべての治療にマイクロスコープを使用している。
しかし、マイクロスコープ治療が米国に比較して、日本における普及率は低く、マイクロスコープを使用した治療法や治療器具の開発、普及が遅れている。既に、実体顕微鏡を有効利用するための知識と実践―その1―、―その2―1 , 2)で報告したように、見えることと、治療ができることはイコールではなく、専門知識を持っていること、専用の器具を有効に利用することによって、治療の成功率が高まる。すなわち、正確な治療によって患者さんの健康に貢献できることになる。
今回は、現在私がマイクロスコープを使用して行っている根管治療を、抜去歯を用いて解説を行う。

  • 日本製の代表的なマイクロスコープ。
    図1 日本製の代表的なマイクロスコープ。

■ 超音波発生器、ENDO-HOLDER、Ni-Ti fileの有効利用

マイクロスコープを使用して根管治療を行う場合、超音波発生器は必要不可欠のものである。以前にも報告したが2)、従来のソルフィーではヘッド部分がマイクロスコープを使用した場合に視野の妨げとなっていた。
改良されたソルフィー用のコネクター(エンドチップM)と各種エンドファイルが市販されるようになり、日本大学松戸歯学部付属病院保存科では(株)モリタのユニット(図24)にソルフィーが装備されており、図56に示したように、セットを組んだエンドファイルとダイヤファイルを使用している。もちろん、ソルフィーヘッド部分もすべて滅菌されたものを使用している。ユニット装備されているソルフィーとは別にソルフィーZXを使用することもある(図78)。
また、根管長を測定しながら根尖部の仕上げをするための器具としてENDO-HOLDERと各種チップを使用している(図910)。
第3回日本顕微鏡歯科学会(平成18年4月、於:東京医科歯科大学)でも報告3)したが、ENDO-HOLDERは、図11に示したように根管長を測定する際に根管長測定器のクリップをENDO-HOLDER本体に接続しても、各種チップに接続しても測定値は一致しており、マイクロスコープ治療を行うときばかりでなく、通常の肉眼による根管治療時においても、視野の妨げがなくなり、適確な治療を行うことができる。
実体顕微鏡を有効利用するための知識と実践-その2-2)の中でも報告したが、超音波のチップを使用して根尖部の形成を行うとレッジを形成したり、ジッピング、ストリッピングパーフォレーションをひきおこしてしまう可能性がある。したがって、超音波発生器用チップを用いての根管拡大shapingは根中央部1/3の範囲において使用することが望ましい。また、根尖部1/3 においては歯根が湾曲しているケースが多く、この部分の拡大、形成には手用の切削器具、あるいは湾曲根管の拡大に優れた能力を発揮できるNi-Ti ファイル(エンドウェーブ)を使用することが望ましいと考えている。

  • 日本大学松戸歯学部付属病院保存科で使用しているモリタのユニット。
    図2 日本大学松戸歯学部付属病院保存科で使用しているモリタのユニット。
  • ソルフィーのパワー調整ダイヤル。
    図3 ソルフィーのパワー調整ダイヤル。
  • ソルフィーにダイヤファイルを装着した状態。
    図4 ソルフィーにダイヤファイルを装着した状態。
  • 日本大学松戸歯学部付属病院保存科で使用している超音波用エンドファイルの組み合わせ。
    図5 日本大学松戸歯学部付属病院保存科で使用している超音波用エンドファイルの組み合わせ。
  • 日本大学松戸歯学部付属病院保存科で使用している超音波用エンドファイルの組み合わせ。
    図6 日本大学松戸歯学部付属病院保存科で使用している超音波用エンドファイルの組み合わせ。
  • ソルフィーZXにダイヤファイルを装着した状態。
    図7 ソルフィーZXにダイヤファイルを装着した状態。
  • ソルフィーZXにダイヤファイルを装着した状態。
    図8 ソルフィーZXにダイヤファイルを装着した状態。
  • 日本大学松戸歯学部付属病院で使用しているENDO-HOLDER用マイクロファイルの組み合わせ。
    図9 日本大学松戸歯学部付属病院で使用しているENDO-HOLDER用マイクロファイルの組み合わせ。
  • 日本大学松戸歯学部付属病院で使用しているENDO-HOLDERとENDO-HOLDER用ファイルの組み合わせ。
    図10 日本大学松戸歯学部付属病院で使用しているENDO-HOLDERとENDO-HOLDER用ファイルの組み合わせ。
  • デンタポートを使用してENDO-HOLDER本体(左)、エンドファイルにクリップを装着して測定値の比較をしている。両者に差はない。
    図11 デンタポートを使用してENDO-HOLDER本体(左)、エンドファイルにクリップを装着して測定値の比較をしている。両者に差はない。

■ 実際の根管治療法の解説

1.下顎大臼歯
図12左に示したのは、下顎大臼歯を近遠心的に切断した面であり、図12右は天蓋除去を行った後の状態を示すものである。
図13は咬合面からの根管口を観察したものであるが、頬舌的広がりを確認することができる。
図14左は、ENDO-HOLDERにマイクロスプレッダーを装着して根管口を確認しているところである。図14右は、ソルフィーにダイヤファイルを装着して根管口を削除しているところである。
図1516は遠心根管と近心根管の根管口のエルボー部分を除去しているところであり、それぞれを側面と咬合面からみているところであるが、このエルボー部分(エンド三角)を除去しなければ、根管内に根管治療用器具をスムーズに挿入することができないため、これまでの治療法においても当然除去していた。そして、その除去はピーソリーマーやゲーツグリデンドリル等の回転切削器具を用いていた。
しかし、楕円形をした根管口を回転切削器具で切削すると、切削状態は円錐形になりやすく、未切削部分を残留させることもある。あるいは健康歯質を過剰に切削してしまうこともある。
マイクロスコープを使用して、根管口の状態を確認しながら、ソルフィーに装着したダイヤファイルで削除すると、削除したい部分のみを除去できる。すなわち、歯質を過剰切削することがないため、ミニマルインターベンション的治療を行えるわけである。
ダイヤファイルを使用する際、ソルフィーのパワーレベルは2~3が適当と思われる。それ以上で使用すると、ダイヤファイルの先が、折れて飛んでしまうためである。
超音波発生器を使用する場合、チップの先端が扇状に振動するため強いパワーを与えてしまうと、先端部が破折してしまうことはよく知られているので、使用する際は注意を要する。
図1718はENDO-HOLDERにマイクロスプレッダーを装着したもので、根管の状態を確認しているところである。根管の中央部分までスムーズに挿入できるか、途中で止まってしまうかの確認を行う。
スムーズに入っていくところまでを、図1920で示したようにソルフィーにステンレススチールのエンドファイルを装着して根管全体を削除する。この際のソルフィーのパワーレベルは2~1が望ましい。
図21はエンドファイルで根管を削除した後の状態である。ここまでの段階を超音波発生器ソルフィーを利用して行う。
次に、根尖部1/3の拡大形成を行わなければならない。
はじめに、この部分は、図22に示したように、ENDOHOLDERにマイクロファイルタイプK(形態はK型ファイルと同一で断面は四角形、テーパーは0.02)でデンタポート等を利用し、根尖までの長さを測定しながら全周ファイリングを行う。
続いて、同様にENDO-HOLDERにマイクロファイルタイプH(形態はH型ファイルと同一で、テーパーは0.02)を使用して全周ファイリングを行う(図23)。
当然のことではあるが、根管洗浄を行いながら全周ファイリングを行うのが薦められるが、マイクロスコープで根管を確認しながら拡大形成するときは、薬液浴下だと根管内がよく見えないことがあるため、著者は、ある程度の湿潤下(根管長測定器が使用可能な状態)で、切削が必要な部分を確認しながら切削除去を行っている。
次に根管にテーパーを付与し根管充塡を行いやすくするための処理を、ENDO-HOLDERにマイクロファイルタイプF(形態はK型ファイルと同一で断面は三角形、テーパーは0.05)を使用して行う(図24)。
図25は形成後の咬合面からみた根管口の状態である。また、図26はソルフィー用ダイヤファイルとピーソリーマの太さを比較したものである。必要最小限の削除になっていることが観察される。
Ni-Tiファイルのエンドウェーブ(図27)を使用して拡大形成する場合は、図28に示したように、必要な番手まで使用し根管の拡大形成を行う。
著者は、最終的に根尖部の形成(アピカルストップ)確認は手用ファイルで行うが、マイクロスコープ下では術者の指が視野の妨げとなるので、図29に示したようにENDOHOLDERにマイクロファイルタイプFあるいはマイクロファイルタイプKを装着したもので、根管長を測定しながらこの処置を行っている。
図30には根管拡大前と拡大形成後の根管の状態を示した。

  • 下顎大臼歯を近遠心的に切断した状態。左は天蓋除去前、右は天蓋除去後。
    図12 下顎大臼歯を近遠心的に切断した状態。左は天蓋除去前、右は天蓋除去後。
  • 天蓋除去後の根管口の状態の確認。
    図13 天蓋除去後の根管口の状態の確認。
  • ENDO-HOLDERに装着したマイクロスプレッダーで根管口の確認。
    図14 ENDO-HOLDERに装着したマイクロスプレッダーで根管口の確認。
  • ソルフィーにダイヤファイルを装着し根管口の拡大を行っている(遠心根管口の拡大)。パワーレベルは2~3を使用。
    図15 ソルフィーにダイヤファイルを装着し根管口の拡大を行っている(遠心根管口の拡大)。パワーレベルは2~3を使用。
  • ソルフィーにダイヤファイルを装着し根管口の拡大を行っている(近心根管口の拡大)。パワーレベルは2~3を使用。
    図16 ソルフィーにダイヤファイルを装着し根管口の拡大を行っている(近心根管口の拡大)。パワーレベルは2~3を使用。
  • ENDO-HOLDERに装着したマイクロスプレッダーで遠心根管の確認。
    図17 ENDO-HOLDERに装着したマイクロスプレッダーで遠心根管の確認。
  • ENDO-HOLDERに装着したマイクロスプレッダーで近心根管の確認。
    図18 ENDO-HOLDERに装着したマイクロスプレッダーで近心根管の確認。
  • ソルフィーにエンドファイルを装着して遠心根管中央部までの拡大を行う。パワーレベルは2~1を使用。
    図19 ソルフィーにエンドファイルを装着して遠心根管中央部までの拡大を行う。パワーレベルは2~1を使用。
  • ソルフィーにエンドファイルを装着して近心根管中央部までの拡大を行う。パワーレベルは2~1を使用。
    図20 ソルフィーにエンドファイルを装着して近心根管中央部までの拡大を行う。パワーレベルは2~1を使用。
  • ソルフィーを使用し根管中央部までの拡大終了。
    図21 ソルフィーを使用し根管中央部までの拡大終了。
  • ENDO-HOLDERに装着したマイクロファイルタイプKで作業長の確認。
    図22 ENDO-HOLDERに装着したマイクロファイルタイプKで作業長の確認。
  • ENDO-HOLDERに装着したマイクロファイルタイプHで全周ファイリング。
    図23 ENDO-HOLDERに装着したマイクロファイルタイプHで全周ファイリング。
  • ENDO-HOLDERに装着したマイクロファイルタイプFで全周ファイリングを行い適度なテーパーを形成と根尖部の仕上げ。番手は症例によって定める。
    図24 ENDO-HOLDERに装着したマイクロファイルタイプFで全周ファイリングを行い適度なテーパーを形成と根尖部の仕上げ。番手は症例によって定める。
  • 拡大形成後の根管口の状態。
    図25 拡大形成後の根管口の状態。
  • 各種ピーソリーマーとダイヤファイル。根管口から根管中央部までが最低限の削除になっている。
    図26 各種ピーソリーマーとダイヤファイル。根管口から根管中央部までが最低限の削除になっている。
  • デンタポートとエンドウェーブ。
    図27 デンタポートとエンドウェーブ。
  • エンドウェーブを使用して生理学的根尖孔までの拡大。
    図28 エンドウェーブを使用して生理学的根尖孔までの拡大。
  • ENDO-HOLDERに装着したマイクロファイルタイプFで根尖部の最終形成。
    図29 ENDO-HOLDERに装着したマイクロファイルタイプFで根尖部の最終形成。
  • 根管拡大前(左)と拡大後(右)。
    図30 根管拡大前(左)と拡大後(右)。

2.下顎前歯
下顎前歯の拡大形成を図3135に示した。
マイクロスコープを使用した時ばかりでなく、著者は下顎前歯のアクセスオープニングは、ほとんどの症例において切端部から行っている。
舌側から行った場合、①髄角を確実に除去できない、②2根管を見逃してしまうことがある、③根管治療器具が根管内に入っていかないためである。
下顎中側切歯の2根管は約30%あると報告4 , 5)されており、十分に注意をしてアクセスオープニングしないといけない。また、年齢が高くなると、切端の咬耗が進み切端部の唇舌的幅径が大きくなるため、切端からアクセスすることが容易となる。
図31左はアクセスオープニングを行う前の縦断面である。図31右はアクセスオープニング後にマイクロファイルタイプFを使用して根管の状態を確認しているところである。
図32で示したようにソルフィーに装着したダイヤファイル、エンドファイルで根管中央部まで根管拡大し、症例によって超音波用ファイルを使用せずに図33左のようにENDO-HOLDERにマイクロダイヤファイルを装着し、手用で拡大を行い、その後図33右のように、ENDO-HOLDERに各種マイクロファイルを装着して根尖部の拡大形成を行い、図34のように根尖部の形成の仕上げ(アピカルストップの形成)を行う。
図35は根管形成を終了した状態のものであるが、ピーソリーマで拡大するよりも、ダイヤファイルを使用して根管口の形成を行うほうが、歯の削除量が少なくすみ、歯の破折防止になり、その後のコア装着、クラウンあるいはレジン充塡に大きく影響する。
また、このような直線的根管のケースではエンドウェーブを使用する必要はなく、ソルフイーとENDO-HOLDERを併用して根管治療を行っている。
湾曲根管、狭窄根管の場合には、エンドウェーブを併用する。

  • 下顎前歯のアクセスオープニング前(左)とアクセスオープニング後(右)の状態。
    図31 下顎前歯のアクセスオープニング前(左)とアクセスオープニング後(右)の状態。
  • ソルフィーにダイヤファイル(左)やエンドファイル(右)を装着し、根管中央部までの拡大形成。
    図32 ソルフィーにダイヤファイル(左)やエンドファイル(右)を装着し、根管中央部までの拡大形成。
  • 症例によってはENDO-HOLDERに装着したマイクロダイヤファイル(左)で根管中央部まで拡大形成し、マイクロファイルタイプK(右)等を使用して根尖孔までの拡大形成をする。
    図33 症例によってはENDO-HOLDERに装着したマイクロダイヤファイル(左)で根管中央部まで拡大形成し、マイクロファイルタイプK(右)等を使用して根尖孔までの拡大形成をする。
  • ENDO-HOLDERに装着したマイクロファイルタイプFで根尖部の最終形成。
    図34 ENDO-HOLDERに装着したマイクロファイルタイプFで根尖部の最終形成。
  • 各種ピーソリーマーとダイヤファイル。根管口から根管中央部までが最低限の削除になっている。
    図35 各種ピーソリーマーとダイヤファイル。根管口から根管中央部までが最低限の削除になっている。

■まとめ

以上、マイクロスコープを使用した場合の、下顎大臼歯と下顎前歯における根管形成法について、現在著者が行っている方法を抜去歯を使用して簡単に解説したが、基本的には他の歯種についても同様である。
マイクロスコープを使用すれば、必要な部分だけを狙って切削を行うことができる。すなわち、結果的に根管治療を適切に行うことができるとともに、ミニマルインターベンション的治療を行えるわけである。
また、そのことによって患歯の破折を防ぎ、結果として患歯の寿命を長くできる可能性がある。歯を削除して薄くしてしまうとそれだけ歯は破折しやすくなる。
マイクロスコープを使用した治療は正確で、そして侵襲の少ない治療であると考えている。

参考文献
  • 1) 辻本恭久:実体顕微鏡を有効利用するための知識と実践ーその1-,デンタルマガジン, 112, 40-44, 2004.
  • 2) 辻本恭久:実体顕微鏡を有効利用するための知識と実践ーその2-,デンタルマガジン, 115, 30-35, 2005.
  • 3) 辻本恭久, 小塚昌宏, 三浦 浩, 加藤友寛, 角田千春, 坂本大輔, 川島正, 金子典夫, 高瀬敏之:マイクロスコープ治療におけるENDOHOLDERの有効性, 第3回日本顕微鏡歯科学会抄録, http://jamd.biz/member/limit/memberindex.html(2006).
  • 4) Ingle JI, Bakland LK: Endodontics, Fourth Edition, Folio of coronal endodontic cavity preparations, 105-227, A Lea & Febiger Book,Williams & Wilkins, 1994.
  • 5) Walton R, Trabinejad M: Principles and practice of endodontics, 463-477, W B Saunders Company, 1989.

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