近年のインプラント治療は受診者の願望の高まりから、機能性に加え、審美性も求められるようになってきた。
このような中でインプラント治療を成功させるための最も基本的な条件としては、インプラントが補綴的に適正な位置に埋入されているということがあげられる。そのためには、サージカルテンプレートを使用し埋入することが確実な方法である。具体的には、歯科医師からの診査、診断の情報をもとに歯科技工士が診断用WAX-UP(セットアップモデル)を行い、これをもとにインプラントの補綴的に適正な埋入位置をわりだし、サージカルテンプレートを製作する。
また診断用WAX-UPはこの他にも、最終修復物のゴール像として治療計画の立案や、受診者への説明用など重要な役割がある。
本稿はSPIシステムの技工の連載第1回目として、技工術式を中心にSPI(Swiss Precision Implant)システムを応用するための診断用WAX-UPとサージカルテンプレートの一般的な製作方法について図説を中心に紹介する。
審美的インプラント修復の達成には、歯肉歯頸線を含む歯肉形態が歯冠形態とともに歯列内で調和していることが条件となる(図1)。この条件を満たすためにはインプラントが必ず歯列内に埋入されていなければならない(図2、3)。また埋入方向は抜歯窩舌側骨壁に沿った方向とする(図4)。埋入深さは予測する唇側(頬側)歯頸線より約2mm根尖側に設定する(図5)。
全顎の診断用模型を咬合器に付着する。この時ボーンマッピングにより骨形態を印記したい場合は、先に分割復位式の診断用模型を製作してから咬合器付着する。
歯科医師から受診者の願望やパノラマX線写真など総合的な情報の提供をうけ、補綴的視点から最終修復物について歯科医師と相談する。これをもとに歯科技工士が診断用WAX-UPし、最終修復物のゴール像を決定する(図6、7)。
次に分割復位式にした診断用模型の診断用WAX-UP歯冠の近遠心的中央部を頬舌的に分割する(図8、9)。
歯科医師がボーンマッピングした数値をもとに模型断面に骨形態を描記する。そして診断用WAX-UPで決めた頬側歯頸線の位置を保つために必要なインプラント頬側縁上粘膜の高さと幅を、インプラント唇・頬側縁上粘膜の高さと幅の生物学的比率の概念(H:W=1:1.5)に基づき算出する(図10)。この数値と描記された骨形態及び診断用WAX-UPの歯軸方向を参考にしてインプラントの埋入位置、方向、深さを決定する(図11~14)。
決定した埋入位置の中心をサベーヤーで決めた埋入方向に、SPIシステムで最初に使用するベクトパイロットドリルφ2.0を使いドリリングする(図15、16)。サベーヤーとベクトパイロットドリルを使用し、ベクトパイロットドリル用ガイドスリーブを模型にWAXで固定する(図17)。分離材を塗布後、即重レジン(オーソクリスタル)のクリアーを築盛する(図18)。カーバイドバーで形態を整え、ペーパーコーンにワセリンをつけ研磨、完成する(図19~22)。
製作したサージカルテンプレートのインプラント埋入位置、方向が正しいかどうか確認するため、口腔内に装着しパノラマX線画像(図23)やCT画像を撮影する。撮影されたガイドスリーブを基準に正しい位置、方向かどうか周囲組織とのかねあいを含め診断する。変更したい場合はガイドスリーブを付け直す。このステップは埋入前の再確認となるため非常に重要である。
臨床における診断用WAX-UPとサージカルテンプレートの製作法を以下の図24~35にて解説する。<次号に続く。なお参考文献については最後に一括して掲載する。