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122号 AUTUMN 目次を見る

CLINICAL REPORT

クリアフィルマジェスティLVの臨床

秋本 尚武

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■目 次

■はじめに

従来、コンポジットレジンはペースト性状が比較的硬いことから、充填時に窩洞内へ気泡が混入しないよう臨床的な工夫がなされてきた。そのため臨床において流動性のよい、あるいは低粘度のコンポジットレジンの可能性も検討され、そのニーズに応える形でクラレメディカル(当時クラレ)はコンポジットレジン修復材料として化学(自家)重合型のクリアフィルSCを1979年に開発した。
一方でクラレメディカルは、1991年レジン接着材の接着性能をさらに向上させる目的で、これまでのトータルエッチング法の2ステップレジン接着システム(クリアフィルニューボンド、クリアフィルフォトボンド)を改良し、4ステップのレジン接着システム「クリアフィルライナーボンドシステム」を開発した。4ステップという接着操作数は、操作の簡便化が叫ばれている現在ではほとんど受け入れられないが、当時このシステムは「エッチング-本製品ではコンディショナー(CAエージェント)」、「プライマー(SAプライマー)」、「ボンディング(フォトボンド)」そして「低粘度レジン(プロテクトライナー)」からなり、それぞれのステップが歯質との最高の接着強さを発揮するために非常に重要な役割を持つものとして採用されていた。
この中で、ボンディング層とコンポジットレジン間のライニング材、そして接着界面における重合収縮の緩衝材として採用されていたのが、フィラーを含む光重合型低粘度レジン(low viscosity resin)「プロテクトライナー(後にフッ素徐放性のプロテクトライナーFに改良)」であった。このプロテクトライナーのフィラー含有量はコンポジットレジンの定義からは大きく外れる約20wt%程度であったが、その名のとおりライニング材として光重合型低粘度レジンが内側性修復におけるレジン接着材処理後のライナーあるいは接着界面の重合収縮に対する緩衝材として応用されるようになった。
その後、クラレメディカルは低粘度コンポジットレジンを光重合型修復材料として応用するため、1992年クリアフィルSCを改良し「クリアフィルフォトSC」を開発した。これにより流動性(フロー)のよい光重合型の材料が、窩洞のライニング用そして修復用として臨床の場で受け入れられるようになった。
1990年代になると欧米各社よりフロアブルレジンという名で、各種シェードを揃えた審美修復用低粘度コンポジットレジン製品が市販されるようになった。日本においても歯科材料メーカーが研究開発を進め、現在では各社からフロアブルレジンが市販されている。
クラレメディカルは、2004年修復用フロアブルコンポジットレジン「クリアフィルフローFX」を開発し、本製品はモリタより販売された。そして今春、さらに改良を加えた「クリアフィルマジェスティLV」を開発し、同じくモリタより販売を開始した。
本製品の一番の特長はフィラー含有量であり、前述のプロテクトライナーが約20wt%、クリアフィルフローFXが約65wt%であるのに対し、クリアフィルマジェスティLVは81wt%のフィラーを含有している。通常のペーストレジンのフィラー含有量が80wt%前後といわれている中、フロアブルレジンでありながら本製品はペーストレジンと同等のフィラー含有量を有していることがわかる。フィラーはバリウムガラスとシリカ系マイクロフィラーであり、高密度充填が可能な表面処理がされている。

■シリンジの改良による操作性の向上

これまでフロアブルレジンのような低粘度コンポジットレジンは、シリンジからレジンを採取した後、シリンジ内部に圧力が残り、チップ先端からコンポジットレジンの「後ダレ」が起ることが多かった。これを防ぐために臨床ではシリンジの内筒をレジン採取後にわずかに引くことが行われていた。
しかしこの操作によりペースト内部にさらに気泡を巻き込むことが起り、後ダレの原因になるとともに、次回使用時にチップ先端からペーストと同時に気泡が出ることが少なくなかった。小さな窩洞などチップ先端を直接窩洞内に挿入し繊細な充填を行う際、臨床ではこの気泡の混入が非常にストレスとして感じることが多かった。
このため各歯科材料メーカーは材料とともにシリンジの改良にも取り組んできた。
今回クラレメディカルも新規にシリンジを開発し、この問題を解決した。「クリアフィルフローFX」と比較すると、採取後のキレは非常によく、全くペーストの「後ダレ」が起らない(図12)。注意しなければならないことは、これまでの習慣でペースト採取後にシリンジ内筒を1度引いてしまうと、気泡を巻き込むことが起きるということである。この点について特にアシスタントに注意をしておく必要がある(図3)。


  • 図1

  • 図2

  • 図3

■ペースト性状

現在、各メーカーから独自のコンセプトを持ったフロアブルレジンが市販されている。臨床での操作性を考慮し、ペースト性状がフロー(流れ)の非常に良いものから、低いものまで様々である。
フロアブルレジンの用途を考えると、充填時には流動性が高く、充填後には低くなるものが理想的である。内側性窩洞のライニングとして使用する場合には高い流動性が求められる一方で、くさび状欠損修復などでは充填時に流動性が高いと歯肉あるいは歯肉溝にまで流れ込んでしまう。また流動性が高ければ付形も難しくなってしまう。臨床ではライニングで使用する場合を除き、高流動性のフロアブルレジンの使用頻度はあまり多くない。
今回のマジェスティLVでは、形態保持性と付形性を兼ね備えた1種類の流動性の製品を提供している。

■光照射器

クリアフィルマジェスティLVは各種光照射器に対応している。しかし、本製品に限らずメーカー指示通りの光照射条件を守らなければ重合が不完全になる。
本製品では、特にキセノンランプの光照射時間は5秒間であり注意が必要である。また照射器のチップ先端の汚れなどのメンテナンスとともに、使用している光照射器の光強度の確認を定期的に行い、十分な光強度の下で修復を行うことが必要である。

■適応症

以上の性能から、クリアフィルマジェスティLVの適応症は、くさび状欠損修復、3級修復や内側性修復のライニングなどのように、これまでフロアブルレジンの適応症として使用されてきた症例の他に、臼歯辺縁隆線部の小さな2級修復や小さな咬合面修復など、小臼歯や大臼歯の充填修復にも使用可能である。そして、ライニングにおいても機械的物性が向上しているので、臼歯隣接面修復におけるベースあるいはライニングにも安心して使用することができる。
一方で、クリアフィルマジェスティLVには、平均粒径約3μmのバリウムガラスフィラーが含まれていることから、あまり広範囲な修復に対しては修復を控え、研磨性の高いペーストレジンであるクリアフィルマジェスティと併用することが望ましい。

■まとめ

最近、忙しい臨床家の間でフロアブルレジンの人気が非常に高い。しかし多くのフロアブルレジンは機械的物性が低いことから、くさび状欠損窩洞や内側性窩洞のライニングなど使用できる症例が限られている。
一方で、ペーストタイプのコンポジットレジンとは異なり、シリンジチップから直接窩洞に充填できる手軽さから、臨床家の中には臼歯部咬合面の大きな窩洞などフロアブルレジンの適応外と思われる症例に使用するケースが見られるようになってきた。
クリアフィルマジェスティLVは、臨床家からのこのようなニーズに応える形で開発が進められた。フロアブルレジンでありながらフィラー含有量をペーストレジンと同程度にまで増量させ、機械的物性が大幅に向上したことから、これまで以上に様々な症例に対して対応できる。
しかしながら、クリアフィルマジェスティLVに限らずフロアブルレジンを使用する際には、決して全ての症例に対して安易に使用することなく、製品の特性を見きわめ適応症例をよく考えた上で無理のない使用に努めることが肝要である。

■症例1 上顎両中切歯近心隣接面の修復(3級修復)

  • [写真] 術前1(口蓋側面観)
    1-1 術前1(口蓋側面観)
    上顎左右中切歯近心隣接面の接触点直下にう蝕が認められる。
  • [写真] 術前2(唇側面観)
    1-2 術前2(唇側面観)
    唇側からは隣接面う蝕の存在は明瞭でない。
  • [写真] ラバーダム防湿
    1-3 ラバーダム防湿
    上顎第一小臼歯間計8歯のラバーダム防湿を施す。
  • [写真] う窩の開拡
    1-4 う窩の開拡
    ラウンド型ダイヤモンドポイント(φ0.5mm)でエナメル質の削除を行う。
    • [写真] う蝕検知液(カリエスディテクター)で感染象牙質を染色する
    • [写真] う蝕検知液(カリエスディテクター)で感染象牙質を染色する
    1-5 う蝕検知液(カリエスディテクター)で感染象牙質を染色する。左右の中切歯とも感染象牙質が染色されている。感染象牙質は、スチールラウンドバーを用い無注水下で超低速回転により用い削除する。
  • [写真] レジン接着材の塗布(プライマー)
    1-6 レジン接着材の塗布(プライマー)
    クリアフィルメガボンドFAのプライマーを塗布する。
  • [写真] レジン接着材の塗布(ボンド)
    1-7 レジン接着材の塗布(ボンド)
    クリアフィルメガボンドFAのボンドを塗布する。
  • [写真] 光照射
    1-8 光照射
    透明ストリップスを挿入後、光照射を行う。
  • [写真] コンポッジットレジン充填
    1-9 コンポッジットレジン充填
    クリアフィルマジェスティLVを充填する。シリンジのチップ先端を直接窩洞内に挿入し充填し、ストリップスを圧接し、光照射を行う。
  • [写真]
    1-10 充填、形態修正終了
    光照射後、レジン接着材のバリをスケーラーで除去する。形態修正には12枚刃のカーバイドバー、仕上げには30枚刃のカーバイドバー、そして最終研磨としてダイヤモンドペーストによる研磨を行う。
  • [写真] 術後1週間
    1-11 術後1週間。

■症例2 下顎前歯くさび状欠損と切縁咬耗の修復

  • [写真] 下顎前歯および犬歯6本の歯頸部にくさび状欠損、そして切縁には咬耗が認められる
    2-1 下顎前歯および犬歯6本の歯頸部にくさび状欠損、そして切縁には咬耗が認められる。
  • [写真] 歯頸部にクリアフィルマジェスティLV(シェードCV)による修復を行った、また切縁部には着色が認められたのでオペークシェード(OA3)とA2により充填を行った
    2-2 クリアフィルメガボンドによる接着処理後、歯頸部にクリアフィルマジェスティLV(シェードCV)による修復を行った。また切縁部には着色が認められたのでオペークシェード(OA3)とA2により充填を行った。

■症例3 下顎小臼歯咬合面咬耗の1級修復

  • [写真] 下顎第二小臼歯遠心咬合面に咬耗が認められる
    3-1 下顎第二小臼歯遠心咬合面に咬耗が認められる。形成は行わなかった。
  • [写真] クリアフィルマジェスティLV(A2)により修復を行った直後
    3-2 クリアフィルマジェスティLV(A2)により修復を行った直後。

■症例4 下顎大臼歯辺縁隆線部分の2級修復

  • [写真] う蝕除去後、隔壁を装着したところ
    4-1 下顎第二大臼歯近心辺縁隆線部分にう蝕が認められる。患者の希望により咬合面のアマルガム修復物はそのまま保存した。う蝕除去後、隔壁を装着したところ。
  • [写真] クリアフィルマジェスティLV(A3)にて修復を行った直後
    4-2 クリアフィルマジェスティLV(A3)にて修復を行った直後。

■症例5 犬歯切縁咬耗に対する修復

  • [写真] 上顎犬歯の咬耗が認められる
    5-1 上顎犬歯の咬耗が認められる。
  • [写真] 側方運動時(頬側面観)
    5-2 側方運動時(頬側面観)
  • [写真] クリアフィルメガボンドで接着処理後
    5-3 クリアフィルメガボンドで接着処理後、クリアフィルマジェスティLV(A2)による修復を行った。

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