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122号 AUTUMN 目次を見る

CLINICAL REPORT

クラウンブリッジにおける 優れた最終印象へのアプローチ

天﨑 光宏/佐藤 亨

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■目 次

■はじめに

適合のよいクラウン・ブリッジを作製するには、優れた最終印象を得ることが重要なことは言うまでもない。この優れた最終印象を得るための条件として、
①支台歯および周囲の歯周組織の環境が整っていること
②適切な支台歯形成であること
③印象採得のための適切な前処置、とくに歯肉圧排ができていること
④適切な印象方法、印象材料を選択すること
などがあげられる。
そこで本稿では、優れた最終印象を得るための臨床的アプローチを紹介する。

■歯肉圧排法

支台歯および周囲の歯周組織の術前処置が完了した場合、最終補綴処置に取りかかる。まず支台歯形成に際し、歯肉圧排を行う(図1)。歯肉圧排は表1のような方法があるが、適切な歯肉圧排を行うためには歯肉の形態を把握し、その歯肉に適した圧排方法を選択することが重要である。歯肉圧排における分類は他にも数多く存在するが、Biolgic Widthの確保されているか否かによって、前歯部の補綴処置ではマージンを歯肉溝の深さの半分の位置、あるいは歯肉縁下0.3~1.0mmに設定する必要がある。
この支台歯形成時の圧排には、図2に示すように糸の編みが目立つ太めの圧排糸と非常に細い網目でスムーズな細い圧排糸がある。また薬品を一切使用しない綿100%の圧排糸もある(サイズは4種類)(図3)。
歯周組織の歯肉溝が1.0mm程度の時には縫合糸などの細いコードにて圧排する。しかし歯肉溝が2.0mm程度の時は縫合糸などの細いコードでは、圧排糸が歯肉溝内に隠れてしまい、マージンの明示、形成時のタービンによる歯肉の損傷の防止等の本来の目的を果たせないために、太いコードを用いる必要がある。
歯肉圧排器は、図4に示すようにいろいろな形態がある。これらは柄に角度を付けて、操作時に圧排器の先端面が歯面に適合する工夫がなされている。また圧排糸に接する先端部分がスムーズなものと凹凸を付けてあるものがある。先端がスムーズなものは細い網目のスムーズな圧排糸に、先端に凹凸があるものは編みが目立つ太めの圧排糸にむいている。
歯肉圧排は支台歯形成時とともに印象採得時に行われるが、支台歯形成と印象採得を同時に行う場合は、一回の操作で兼用する。しかし、理想的には同日の形成、印象採得は避けたほうが良い。
印象採得時の歯肉圧排は、基本的に支台歯形成時の歯肉圧排と同様であるが、マージンの明示のみを重要視するあまり、過大な挿入圧は歯周組織に為害性を及ぼすことがあるので注意を要する。この挿入圧は、歯周組織の保護の観点から、25~30gが適当であり、圧排糸は挿入時、あるいは除去時に歯肉を傷つけないためには湿潤状態で使用することが望ましい。この湿潤状態にするために、止血効果のある薬品を使用すると効果的である。ただし、重合阻害となることがあるため、硫酸第二鉄、塩化アルミウムを成分とする薬品の使用は避けることが好ましい。
圧排糸は印象採得の直前に除去するが、この圧排糸を除去する方向は挿入時の反対に行うことが望ましい。


  • 表1 歯肉圧排法とその特長
  • [写真] 支台歯形成にあたり歯肉圧排を行う
    図1 支台歯形成にあたり歯肉圧排を行う。
  • [写真] 歯周組織を考慮し、圧排糸を選択する
    図2 歯周組織を考慮し、圧排糸を選択する。
  • [写真] 綿100%の圧排糸(クリニシャンズチョイスデンタルプロダクツ社:ファーストストリングリトラクションコード)
    図3 薬品を一切使用しない綿100%の圧排糸(クリニシャンズチョイスデンタルプロダクツ社:ファーストストリングリトラクションコード)。
  • [写真] 歯肉圧排器(ヒューフレディ社:リトラクションコードパッカー。左から、GCP 113、GCP CSI1、GCP YD1、GCP G7)
    図4 歯周組織および圧排糸を考慮し歯肉圧排器を選択する(ヒューフレディ社:リトラクションコードパッカー。左から、GCP 113、GCP CSI1、GCP YD1、GCP G7)。

■既製トレーを使用した積層一回印象法

精度の高い補綴装置を作製するためには、優れた印象採得が不可欠である。ここでは印象採得時にエアーブローを使用するテクニックと積層一回印象法について紹介する。シリコーン印象材はサルタン社ジーニー(モリタ)を用いる。
印象採得時には支台歯周囲を乾燥し(図5)、マージン部は流動性に優れた印象材にて、気泡が入らないように、専用シリンジを用いて、シリンジの先端を印象材から離さずに、一筆書きで注入する(図6)。
支台歯のマージン部分に、適切な圧力にて歯肉溝方向にエアーブローをし、支台歯および歯肉溝への印象材の挿入をはかる(図7)。そして再び印象材内をスターティングポイントとして歯面全体に印象材を注入する(図8)。
一方同時に、既製トレー内面にヘビーボディタイプの印象材を盛る(図9)。図10に示す既製トレーは、ヘビーボディ用既製トレーで印象部分は保持孔の付いたプラスチックタイプで、把柄部分は金属で作製されて、それぞれが分かれる構造になっている。これによりトレー部分は患者ごとに使用できるタイプとなっている。
今回、トレー部分にはヘビーボディタイプの印象材を用いている。この印象材は、従来のトレーにパテタイプを用いた積層一回印象法に比べ、それぞれの硬化速度が等しく、かつパテタイプのように、支台歯部分に細部再現性の劣る印象面が存在することがない。
これらの点から、従来積層一回印象法では適応が難しかった、全顎再構成などのロングスパンブリッジにも耐え得る精度の印象採得が行えるようになっている。
マージン部分は流動性のよりよい印象材(エクストラライトタイプ)により再現され、同時に支台歯面はエクストラライトタイプとヘビーボディタイプの印象材にて、一面のきれいな印象面が得られている(図1112)。エアーブローテクニックが特に有効なのはこのエクストラライトである。
今回使用したジーニー印象材の特長は、ラズベリーの香りを配合しており、印象採得時の不快臭が少ない。また、印象の撤去がスムーズで、強く引っ張られる不快感が少なくなっている。また各種のフローの印象材が用意されており、ディスペンサータイプであるため操作も容易で、印象材も確実にミキシングされ、高い印象精度を有していると考えている。特に既製トレーを使用したラバー印象では、従来パテタイプの印象材を使用することが多く見受けられたが、レギュラータイプ、ヘビーボディタイプをトレー部に、エクストラライトタイプ、ライトタイプ、レギュラータイプを支台歯部に使用した積層一回印象法を行うことができる(図13)。
先にも述べたが、パテタイプを用いた、積層一回印象法のように、支台歯部および咬合面部の印象面に、細部再現性の劣るパテタイプの印象材の面が存在せず、全顎にわたる症例においても、高い精度の印象採得が得られる。また、パテタイプを用いた、積層二回印象法のように支台歯部および咬合面部にスペーサーをおいたり、硬化したパテタイプの印象材を部分的に除去したりする必要がないことから、より効率的な印象採得という、利点が存在する。
図1417の症例はトレー部にヘビーボディタイプ印象材を、支台歯部にライトタイプ印象材を使用した。印象採得時には、歯周組織の状態が良好であることを確認し、印象採得を行う。支台歯の印象部分はきれいな印象が得られている。図1821の症例は、支台歯部分に一次印象材(ライトタイプ印象材)を注入した後、マージン部分にエアーブローを行い、トレー部に注入したレギュラータイプ印象材と合わせて、積層一回印象法にて印象採得を行った。きれいな支台歯部分の印象が得られている。

  • [写真] 印象採得時の圧排はマージンの最終チェック
    図5 印象採得時の圧排はマージンの最終チェック、印象材のスペースの確保、滲出液等の排除などを目的とする。
  • [写真] 印象材塗布時
    図6 印象材塗布時、シリンジの先端は、歯肉には接触させずに歯面に沿わせて一筆書きで行う(流動性のすぐれている、エクストラライト印象材を使用)。
  • [写真] 歯冠側からマージン方向に印象材をエアーブローする
    図7 歯冠側からマージン方向に印象材をエアーブローする。
  • [写真] エアーブロー後、必要により印象材を追加する
    図8 エアーブロー後、必要により印象材を追加する。
  • [写真] ヘビーボディタイプ印象材を既製トレーに盛り、積層一回法の印象を行う
    図9 支台歯部の印象材塗布と並行して、介補者はヘビーボディタイプ印象材を既製トレーに盛り、積層一回法の印象を行う。
  • [写真] デンタルトレーシステムインターナショナル社:DTSトレー
    図10 今回使用した既製トレーは、プラスチックでできたトレー部と金属の把持部が分割できるようになっている( デンタルトレーシステムインターナショナル社:DTSトレー)。

  • 表2
  • [写真] 支台歯部印象面は2種類の印象材が移行的にきれいな面を再現している
    図11 支台歯部印象面は2種類の印象材が移行的にきれいな面を再現している。
  • [写真] 歯型は、支台歯形成面およびマージンが正確に再現されている
    図12 歯型は、支台歯形成面およびマージンが正確に再現されている。
  • [写真] シリコーン印象材(サルタン社:ジーニー)
    図13 今回使用したシリコーン印象材は各種タイプの印象材が用意されている(サルタン社:ジーニー)。
  • [写真] 歯冠補綴処置を行う際には歯周組織の状態にも配慮する
    図14 歯冠補綴処置を行う際には歯周組織の状態にも配慮する。
  • [写真] 印象時にはしっかりとした圧排を行う
    図15 印象時にはしっかりとした圧排を行う。
  • [写真] 積層一回印象を行う
    図16 支台歯マージン部にライトボディタイプ印象材、既製トレー部にヘビーボディタイプ印象材を使用し積層一回印象を行う。
  • [写真] 支台歯部内面は支台歯形成面およびマージンが正確に再現されている
    図17 支台歯部内面は支台歯形成面およびマージンが正確に再現されている。
  • [写真] 支台歯形成終了後、印象採得のための歯肉圧排を行う
    図18 支台歯形成終了後、印象採得のための歯肉圧排を行う。
  • [写真] 支台歯部分にライトボディタイプ印象材を塗布する
    図19 支台歯部分にライトボディタイプ印象材を塗布する。
  • [写真] 歯冠側からマージン方向に印象材をエアーブローする
    図20 歯冠側からマージン方向に印象材をエアーブローする。
  • [写真] 各個トレー部にレギュラーボディ印象材を使用し印象採得を行う
    図21 各個トレー部にレギュラーボディ印象材を使用し印象採得を行う。

■おわりに

以上、今回はクラウンブリッジにおける優れた最終印象を得るためのアプローチとして、歯肉圧排法、既製トレーを使用した積層一回印象法を中心に症例の提示を行った。従来のパテタイプ印象材を用いた積層一回印象法に比べ、ヘビーボディタイプの印象材を用いることにより、簡便に、また高い精度の印象を得ることが可能になったと考えている。

参考文献
  • 1) 中村公雄ほか:印象採得・精密印象を知るクインテッセンス出版2005.
  • 2) 内藤正裕:臨床ヒント1 考える補綴臨床 アースワークス2004.
  • 3) 中村公雄ほか:現代の臨床補綴 歯周治療をふまえた補綴治療1998.
  • 4) 印象材はこう使う 歯科医展望別冊1991.

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