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124号 SPRING 目次を見る

CLINICAL REPORT

ベラビューエポックス3Dを使った臨床

波田野 哲也

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■目 次

■はじめに

従来、通常の歯科用X線撮影装置に関しては、フィルムかデジタルかを選び、偏心投影法や咬合法などを利用するものの、結局、近遠心的な2次元画像情報が主で、頬舌側方向の情報は、わずかな画像上の変化を心眼でというものに近かったと思います。
私の若い頃大学の口腔外科医局で、初めて見た頭頸部CT(医科用ではありますが)の情報量の多さに驚かされたことを思うと、CT画像は臨床現場では必要なものとの想いはずっとありました。しかし歯科で特に個人医の場合、CTまでというのはスペースや価格などの問題で、なかなか手が出せないレベルだったことは間違いなかったと思います。
そのような中でも、平成19年(2007年)8月の開業にあたり、後述する種々の特長により、最新機種であるベラビューエポックス3D(以下VE3D:図1)の導入を決定し、8月下旬に兵庫県で初の同装置の設置の運びとなりました。

  • [写真]ベラビューエポックス3D
    図1 ベラビューエポックス3D

■レントゲン検査の変遷

このVE3Dに行き着くまでは、特にインプラントの術前レントゲン検査において私自身色々な変遷がありました。最初に行ったのは、どなたでも経験があると思いますが、メタルボールを使用し、通常のパントモ撮影(図2)を行い、実径との比率で顎骨の計測をし、触診やボーンサウンディングとともに骨状態を把握するものでした。かなり感覚的であったと思います。
その次には、以前のベラビューエポックスにクロス断層機能を付け断層撮影(図3)をしていました。頬舌方向のイメージが多少なりつかめるものの、これも骨形態と解剖学的位置の概略的な把握程度でした。
次に行ったのは、別医療機関のヘリカルCTを用い、当該部位をフィルムで出力し、その上にトレース(図3)を行い計測をしていました。
その後、シミュレーションソフトのコンピュータガイドシステム(以下CGS)を入手し、ヘリカルCT撮影→CGS分析(図4)をルーティーンとして行っていきました。これらの変遷の中で、手元にCTがあれば、もっと利用価値も利用頻度も高い状態で使用するだろうということは自然に考えられることでした。

  • レントゲン写真
    図2 フィルム上で、メタルボールの直径を測り実径との比を出すことで骨状態の把握に利用していた。
  • [写真]クロス断層撮影
    図3 クロス断層撮影により、頬舌的な骨形態と解剖学的な位置関係を少しでも把握しようとしていた。次に医科用ヘリカルCTで撮影後クロスセクショナル画像を作成し、プリントアウトしたフィルム上にトレーシングペーパーをおいてシミュレーションをしていた。
  • [写真]CGS画像
    図4 CGS画像。これにより診断・分析に関しては、術者の負担が極めて軽くなり診断精度も上がった。

■VE3Dの特長

今回のVE3Dの最大の特長は、デジタルパントモ機(図5)でありながらCT撮影が可能というものです。これは、コーンビームCTに最適なフラットパネルディテクタ(以下FPD:図6)が、この機に搭載されることで可能となりました。このサイズは、既存医院のレントゲン室にでさえ、本機をそのまま入れ替えることができます。つまり、デジタルパントモ機とCT機の二重投資にならない、余分なスペースを確保しなくてよい、ということになります。オプションですが、セファロも取付可能です。
FPDは、40×40カセッテと80×80カセッテがありますが、当院は40×40カセッテを使用しており、このカセッテでφ40×H40mm(図7)とφ40×H80mm(図8)の3D撮影が可能です。頻度が高いのは、対合歯関係や上下の骨状態も一度に把握できるφ40×H80mmです。この40×40カセッテを使用した撮影セッティングは非常に簡単で、パントモ撮影と同様に立位でビーム(図9)を合わせ、パノラマ写真状態のスカウト(図10)撮影を行い、ディスプレイ上で関心部位をセットポジション(図10:十字印)するだけで位置設定が完了、CTが撮影できます。この方法は、歯科臨床現場で概念的に捉えやすく、誰がセッティング・撮影しても大きな誤差は生じにくい撮影法だと思われます。より高精度の位置決めなら、2方向スカウトで撮る方法もあります。また、CT撮影時間は約9.4秒で非常に機動力がありますので、術後すぐにCT撮影という使い方も全くストレスなく現実的です。被曝線量は、CT撮影でフィルムパントモ1枚分、スカウトでフィルムデンタル1枚分程度ですし、医科用頭頸部CTと比べると1/15~1/20程度の被曝量です。低被曝で臨床的にも人体への影響が非常に抑えられた撮影機ということができます。

  • [写真]ベラビューエポックス3D
    図5 通常のデジタルパントモ機(セファロ付)と変わらない大きさ、形態でCT撮影が可能である。
  • [写真]FPDを装備
    図6 FPDを装備。通常のパントモとして使用するときは、CCDカセッテに差し替えて撮影する。
  • レントゲン写真(φ40×H40mmモードで撮影)
    図7 φ40×H40mmモードで撮影。
  • レントゲン写真(φ40×H80mmモードで撮影)
    図8 φ40×H80mmモードで撮影。
  • [写真]位置セッティング
    図9 位置セッティングはパントモ撮影時と同じである。
  • [写真]パノラマスカウト
    図10 パノラマスカウト。関心部位をポジショニングすると、左側部に印されているような十字印が付きCT撮影中心ポイントとなる。
  • [写真]撮影した画像
    図11 左画像が撮影したままの画像で、スライス面を変更(再スライス)することで右画像のような任意の観察面を作ることができる。
  • [写真]ボリュームレンダリング
    図12 ボリュームレンダリング。コンピュータガイドシステム(シミュレーションソフト)にも付属している機能だが、i-VIEW-3DXでもこれにより3次元的に歯牙や骨の形態を把握できる。

■VE3Dの臨床

現在、当院ではVE3Dをインプラント術前後検査(図1314)の中核として使用しています。全く別施設に行くことなく、撮影当日にも状態をご本人にお伝えできます。このことは、実際の労力や時間のことだけではなく、検査費用負担が軽減することや、お互いにあまり構えずストレスなく通常のX線写真として撮影できるということであり、非常に有意義なことと思われます。
CTを使っていくに従って、インプラント検査関係以外にもいくつか興味深いと思われる症例が出てきました。設置してまだ間もないので、限られた症例の中からではありますが、今回その症例を以下に述べます。

1. 顎骨内異物

上顎臼歯欠損部にインプラントを計画し、VE3DにてCTを撮ったところ、左上6相当部に異物が迷入しており、口蓋側方向への骨欠損をも認めました(図15)。以前通っていた歯科医院で、数年前に歯牙破折により同部の抜歯を行った既往がありました。同院での抜歯時、剥離した歯根表層部が板状に残存していたと思われました。
異物(板状歯根片)を除去し(図16)、口蓋側への骨欠損部はGBRにより骨造成を行いました。パントモ(図17)だけでは、この状態を把握することは困難だったと思われます。

2. 根尖病巣

前医で根管治療を受けていましたが膿瘍形成を繰り返すために来院されました。デンタル写真(図18)で見ると、左下7の近心根尖から分岐部にかけての透過像を認めます。良くすればへミセクションでもと思いましたが、遠心根分岐部面に一部病巣がかかっており、波及範囲確認のためにCTを撮りました。すると、近心根どころか遠心根尖から舌側にかけて骨はなく、遠心根尖の変形や近遠心根の頬側での癒合を認めました(図19)。実際抜歯してみると、全くCT画像の通りの状態でした。
この症例も、通常のレントゲン撮影のみで術前にこれだけの状態を把握することは非常に困難で、術中にのみ意外な形で判明したことだと思われます。

3. 歯牙破折

右上7の奥が常に匂うということで来院されました。歯周検査で遠心中央部のみに8mmのポケットがあり、動揺はほとんどなく、デンタル(図20)は遠心からの骨吸収を思わせました。しかし、どうもEPPとX線画像の状態が合わないと思われたのでCTを撮りました。すると明瞭な歯牙破折と根全周に及ぶ骨吸収、さらに口蓋側と上顎洞への穿孔・洞粘膜腫脹(図21)まで認められました。
抜歯をするとやはりCTで見られたとおりの状態でした。原因の十分な追及にも利用できることを示す一例と思われます。

4. インプラント埋入直後

術前審査で十分に状態を把握して(図22)埋入術に臨んでいますが、この症例では術中の最終ドリリング時にドリルの先端に痛みを訴えられました。位置や深さは予定通りで神経損傷はないはずでしたが、はずだけでは明確ではないので、術直後のX線撮影としてCTも合わせて撮りました(図23)。その場ですぐに、下歯槽管とは距離も十分にあることが確認でき、経過でも全く神経症状はありませんでした。このように術後も含めタイムリーにCT画像が撮れるのは、この上ありません。

  • [写真]術前検査としてのCT画像とCGSのシミュレーション画像
    図13 術前検査としてのCT画像とCGSのシミュレーション画像。
  • [写真]図13症例の手術後CT画像
    図14 図13症例の手術後CT画像。十分に予定術式が反映されているのが分かる。
  • レントゲン写真
    図15 左上6番相当部に板状の歯根片が残存しており、口蓋側歯槽骨が欠損していた。
  • [写真]術中の写真
    図16 骨欠損部の遠心部に張り付くような状態で歯根片を確認した。
  • レントゲン写真
    図17 CT撮影が決まる前に、通常のパントモとして撮影したものだが、これだけで当初より板状の歯根片の存在や口蓋側への骨欠損を認めるのは困難だと思われる。
  • レントゲン写真
    図18 左下7番近心根を中心にして病巣を認める。
  • レントゲン写真
    図19 図18と同部位でのCTでは、近心根周辺だけでなく遠心根、舌側骨縁までに及ぶ骨吸収があり、根尖の変形、さらに根頬側での癒合も認められる。抜去歯牙も全くCTと同じ状態であった。
  • レントゲン写真
    図20 歯牙遠心面に強い陥凹もあり遠心から感染が及んでいるようにも見える。
  • [写真]抜去歯牙とレントゲン写真
    図21 完全に歯牙破折であり、根周囲歯槽骨は吸収、さらに口蓋側・洞底部への穿孔、洞粘膜肥厚まで認める。抜去歯牙も示す。
  • [写真]CT、CGS
    図22 術前にCTやCGSで、下歯槽管やオトガイ孔、骨形態(幅・高さ)、対合関係などの把握をしている。
  • [写真]
    図23 術中の訴えにより、インプラント位置・神経関係位置を確認するためにCTを撮影したが、全く問題なく、以降神経症状も生じず経過良好であった。

■まとめ

このVE3Dは、今までの医科用CTや歯科用CT専用機3DXなどとは全く発想が異なるデジタルX線撮影機です。
個人医院としての設置制限がなく、コストパーフォーマンスに優れ、実際においても快適でストレスのない、しかも鮮明な画像を撮れます。したがって、精度の高い正確な診断を下すために、臨床では是非必要なデジタルX線撮影機だということができると思われます。

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