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125号 SUMMER 目次を見る

CLINICAL REPORT

クリアフィルマジェスティの臨床

猪越 重久

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■目 次

■1. クリアフィルマジェスティとは図16

コンポジットレジンは天然歯のような色調をしている。理想を言えば、エナメル質のような光沢と透明感、そして強度があればよい。しかしながら、最も強度の高い充填用コンポジットレジンでも、曲げにくさの尺度である曲げ弾性率で見ると15GPa程度であり、ほぼ象牙質の弾性率に近く、エナメル質の65GPaには遠く及ばない。
このような製品では、強度を高めるために大きさの異なるフィラーを高密度に配合しており、光沢が持続するコンポジットレジンを実現することは難しい。では、研磨性を向上させようとすると、光の波長である0.4~0.7μmよりも小さなフィラーを主成分として使用することになり、フィラー充填率を高めることが困難なため強度が犠牲となる。研磨性と強度を同時に実現するのは、非常に難しい。
クリアフィルマジェスティ(以下、マジェスティと略す)は、できるだけ少ないシェードで色合わせができるように、光拡散性を高めたコンポジットレジンである。それと同時に、前歯部に使用できる研磨性を維持しながら、臼歯部の小窩洞に充填できる強度とX線造影性を確保している。単に強度面から見れば、クリアフィルAP-Xにはかなわないが、審美性では格段に優れている。前製品のクリアフィルSTは、研磨性は良好であったが、X線造影性が無く、強度も臼歯部に使用できるものではなかった。また、クリアフィルAP-Xと同様に光拡散性を高めることができず、色合わせにも課題が残っていた。
光拡散性を高めるためには、光の波長より大きなフィラーが必要だが、無機フィラーを使用すれば研磨性が損なわれ、有機複合フィラーを使用すれば強度が犠牲になりうる。それだけではなく、コンポジットレジンには適度な透明性を与える必要があるため、フィラー粒径やマトリックスレジンとフィラーの屈折率を調整しなければならず、様々な因子が絡み合うなかで光拡散性を実現するのは容易ではない。マジェスティは、光拡散性を高め、しかも研磨性を維持しながらも強度とX線造影性を確保するという難しい問題に、クラレメディカルが10数年かけて出した答えである。
ここでは、マジェスティを使用した臨床例を紹介する。

  • 接着性コンポジットレジン充填のための製品群の写真
    図1 接着性コンポジットレジン充填のための製品群。クリアフィルマジェスティ、マジェスティLV、クリアフィルSTオペーカー(US)、Kエッチャント、アロイプライマー、セラミックプライマー、メガボンドFA。
  • マジェスティ研磨面のSEM像
    図2 マジェスティ研磨面のSEM像。数十μmの大きな有機複合フィラー(灰色)の間には、X線造影性を有する微粉砕ガラスフィラーが密に充填されている。この有機複合フィラーが光拡散性を実現している。
  • 光拡散性とはの図
    図3 光拡散性とは。硬化体を透過した光は、直進する正透過光と、フィラー・マトリックスレジン界面での多重屈折反射によって広がった拡散透過光からなる。光拡散性を高めるためには、光の波長より大きなフィラーが必要である。
  • 光拡散性の違いの図
    図4 光拡散性の違い。光拡散性の高いマジェスティでは透過光が丸く広がり(左側)、光拡散性の低いクリアフィルSTでは鋭いピークを持つ(右側)。光拡散性が高い製品は、背景色を散らして色調適合性を高めると考えられる。
  • 光拡散性の違いと見え方の関係図
    図5 光拡散性の違いと見え方の関係。薄い硬化体(厚さ:0.3mm)を印刷物上に置くと、いずれの製品でも文字が見えるが(上段)、紙面から少し離すと、拡散性の低いクリアフィルST(右)では文字が見えるが、拡散性の高いマジェスティ(左)では文字が見えない(下段)。
  • マジェスティのシェード構成と透明性の図
    図6 マジェスティのシェード構成と透明性。今回使用したシェードを赤枠で示した。

■2. 臨床例

症例1 48歳女性。スポーツクラブでトレーニング中、バーベルが顔に当たり、左右中切歯の切縁部を破折。友人の歯科医師に紹介されて来院した。自発痛はなく、露髄もしていなかった。無麻酔下で破折面をブラシコーンで清掃し、唇面にベベルを付与し、エナメル質のリン酸エッチングを10秒間行い、メガボンドを使用してマジェスティ(A2)で修復を行った。

症例1 歯冠破折修復症例(上顎左右中切歯)。本文参照。
  • 術前の写真
    術前
  • 窩洞形成後の写真
    窩洞形成後
  • 充填後の写真
    充填後

症例2 25歳女性。健診を希望して来院。X線診査では臼歯部にはう蝕はなかったが、視診で右側側切歯遠心隣接面に象牙質う蝕が見られた。自覚症状はなく、患者自身も気づいていなかった。MIダイヤバー(MI-53F、MI-61F)を用い無麻酔下で唇面よりう窩を開拡し、う蝕検知液をガイドにMIステンレスバー(#2)で感染象牙質を削除したのち、メガボンドFA、マジェスティLV(XL)とマジェスティ(A3)で修復を行った。

症例2 隣接面う蝕修復症例(上顎右側側切歯遠心)。本文参照。
  • 術前の写真
    術前
  • 窩洞形成後の写真
    窩洞形成後
  • 充填後の写真
    充填後

症例3 41歳女性。上顎中切歯隣接面の変色の改善を希望。上顎右側側切歯近心隣接面、右側中切歯遠心隣接面、ならびに左側中切歯近心隣接面にコンポジットレジン充填があり、これらが茶褐色に変色していた。これらを小さな球形ダイヤモンドバーで削除し、メガボンドとマジェスティ(A3)で修復を行った。このような、舌側と交通していない小窩洞では、シェード選択に悩む必要はなく、標準的なA3もしくは少し明るめのA2で対応すればよい。

症例3 隣接面変色充填物再修復症例(上顎右側側切歯、左右中切歯)。本文参照。
  • 術前の写真
    術前
  • 窩洞形成後の写真
    窩洞形成後
  • 充填後の写真
    充填後

症例4 38歳女性。上顎左側側切歯歯頸部の凹みと着色の改善を希望。歯頸部にくさび状欠損があり、象牙質の着色が強かった。冷水痛や擦過痛はなかった。無麻酔下で着色象牙質を削除した。濃い着色部を削除していくと、窩底部の色調は写真のように飴色になったが、十分に硬く、う蝕検知液でも染色されなかったので、ここで削除完了とし、メガボンドとマジェスティ(OA3)で充填した。この症例のように、窩底部の色調が濃く、周囲歯質の色調が明るい場合には、標準シェードの透明性では窩底部の色調が透けて、暗く仕上がってしまう。このような場合には、不透明度の高いオペークシェードを使用する。

症例4 歯頸部欠損修復症例(上顎左側側切歯)。本文参照。
  • 術前の写真
    術前
  • 窩洞形成後の写真
    窩洞形成後
  • 充填後の写真
    充填後

症例5 38歳女性。上顎右側側切歯の色調改善を希望。失活歯であり、歯冠全体が茶褐色に変色し、特に唇側歯頸部の変色が強かった。このような強い変色は、ウォーキングブリーチである程度脱色してから、コンポジットレジンでマスキングを行うのが良いが、頻回の通院が不可能なため、このまま修復を行った。唇面から歯頸部にかけての豊隆が強いため、同部のエナメル質を削除した。近心隣接面の古いコンポジットレジン充填も除去した。エナメル質のリン酸エッチングを10秒間行い、メガボンドを使用した。ボンドレジンの光硬化後、唇側歯頸部の濃い変色部は、クリアフィルSTオペーカー(US)を塗布して被覆した。近心隣接面部には、周囲歯質に近い色調としてマジェスティ(C3)を充填し、光硬化後、唇面全体にマジェスティ(OA2)を充填した。

症例5 変色失活歯修復症例(上顎右側側切歯)。本文参照。
  • 術前の写真
    術前
  • 窩洞形成後の写真
    窩洞形成後
  • オペーカー塗布・近心窩洞充填後の写真
    オペーカー塗布・近心窩洞充填後
  • 充填後の写真
    充填後

症例6 41歳男性。下顎左側第一大臼歯遠心隣接面の修復を希望。食事中に小さな金属片が取れてきたという話から、おそらく小さなアマルガム充填が外れたものと思われた。窩洞を整形し、マトリックスを装着。窩底部の黒色の変色部は非常に硬いのでこのまま保存した。メガボンドとマジェスティ(XL)で修復を行った。臼歯部咬合面であれば、シェードはA2、XL、OC(この順に明度が高くなる)のいずれかで対応できると思う。

症例6 臼歯部隣接面修復症例(下顎左側第一大臼歯)。本文参照。
  • 術前の写真
    術前
  • 窩洞形成後の写真
    窩洞形成後
  • 充填後の写真
    充填後

症例7 39歳女性。上顎左側奥の食片圧入が主訴。左側第二小臼歯遠心隣接面と第一大臼歯遠心小窩にう窩が見られた。自発痛やう窩の擦過痛はなかった。無麻酔下にMIダイヤバー(MI-61F)でう窩を開拡し、ステンレスバー(#2、#4)でう蝕検知液をガイドに感染象牙質を削除した。第二小臼歯には隔壁としてコンポジタイトシルバープラスを使用した。メガボンドFA、マジェスティLV(XL)、マジェスティ(A2)を使用した。

症例7 隣接面、咬合面う蝕修復症例(上顎左側第二小臼歯遠心隣接面と第一大臼歯咬合面)本文参照。
  • 術前の写真
    術前
  • 窩洞形成後の写真
    窩洞形成後
  • 充填後の写真
    充填後

症例8 41歳女性。上顎左側前歯部ブリッジの破損部を修復してほしいと希望。上顎左側は側切歯が欠損し、中切歯と犬歯間にメタルボンドブリッジが装着してあったが、中切歯切縁部のポーセレンが破折していた。朝、起きてみたら破損していたとのことで、歯軋りによるものかと疑ったが、本人にその自覚はなく、残存歯に異常な咬耗は見られなかった。唇面の前装部に広めのベベルを付与し、サンドブラスト後、リン酸でクリーニングを行った。ポーセレンボンドアクチベーターとメガボンド、マジェスティ(C3)で修復した。

症例8 ポーセレン前装部修復症例(上顎左側中切歯)。本文参照。
  • 術前の写真
    術前
  • 窩洞形成後の写真
    窩洞形成後
  • 充填後の写真
    充填後

症例9 50歳男性。右側側切歯歯冠破折の修復を希望。食事中に歯冠部が折れてしまい、翌日学会で発表なので急遽修復して欲しいと来院された。根管治療には問題なかった。感染歯質を削除し、歯根を取り囲むように透明マトリックスを装着し、クサビで固定した。メガボンドを使用し、ボンドレジンの光照射は倍の20秒間行い、クリアフィルDCコアを注入してADポストをたてた。支台形成してTEKを入れる時間が無かったので、マジェスティ(A3)をそのまま充填した。

症例9 歯冠破折修復(上顎右側側切歯)。本文参照。
  • 術前の写真
    術前
  • 窩洞形成・ボンディング後の写真
    窩洞形成・ボンディング後
  • 充填後の写真
    充填後

■3. まとめ

マジェスティが市販されてから早二カ年が経過した。その間に、メガボンドFA、1液タイプのセラミックプライマー、そしてフロアブルコンポジットレジンのマジェスティLVが発売された。ここに提示した症例はメガボンドやポーセレンボンドアクチベーターを使用したものがあるが、私の医院では今はメガボンドFAと1液タイプのセラミックプライマーに代えた。
充填修復は口腔内で填塞・付形を行うため、実質欠損が大きくなるほど難しくなる。充填しやすい時期のう蝕は、患者自身が気づいていないことが多いため、定期的な健診で歯科医師が発見しなければならない。
コンポジットレジンと接着性材料を使うことで、患者さんに大きな負担や苦痛をかけることなくいろいろな患者さんの悩みを解決することができる。このようなことを実践することで、患者さんが健診のために来院しやすい環境を整える一助になるのではないかと考えている。


  • 「コンポジタイトシルバープラスシステム」立体的な湾曲カーブを持つマトリックスバンドと維持力に優れたリテーナー、ウェッジにより、レジン充填の修復が容易に行えるシステムである。
参考文献
  • 1) 猪越重久:各種市販コンポジットレジンの透過光線の空間分布とヘイズ。歯科の色彩、2(1): 24-32、1995.
  • 2) 猪越重久:歯冠色充填材料の色合わせを追求する。歯界展望、88(4): 785-821、1996.
  • 3) 猪越重久:猪越重久のMI臨床。デンタルダイヤモンド、東京、2005.
  • 4) 中島正俊、田上順次:直接法によるレジンコアとダイレクトクラウン。歯界展望、104 : 493-500、2004.

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