DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

CLINICAL REPORT
プロテアーゼを用いた口臭ケア・舌苔ケアのアプローチ
濃野 要 / 宮崎 秀夫 / 山賀孝之

■目 次

■はじめに

口臭の原因物質は主として硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドなどの揮発性硫黄化合物(volatile sulphur compounds:以下VSCとする)である。いわゆる口臭症は表1に示すように分類されるが、このうち生理的口臭症のみならず歯周病由来の病的口臭症も、その産生は主に舌苔で行われるため、舌苔除去は口臭予防・治療に不可欠である。
舌苔は口腔疾患の有無や年齢・性別に関わりなく誰にでも存在するものである。その除去には舌ブラシなど機械的清掃によるセルフコントロールが効果的であり、基本となる。一方、機械的舌清掃は、清掃用具の不適切な使用で舌に過度の刺激を与えてしまう危険性が指摘されている。特に、要介護者の場合、舌苔が多量であったり、あるいは口腔乾燥により舌に強固に付着する乾燥した舌苔であることが多く、これに対し、機械的清掃のみでの除去は困難である。介護の現場では、舌苔除去が「におい環境」を整えることに加え、細菌リザーバーとしての誤嚥性肺炎リスク低下に寄与していることも念頭におく必要がある。
舌苔は脱落上皮細胞、連鎖球菌、ブドウ球菌、白血球などのたんぱく質を含む成分からなる(表2)ため、システインプロテアーゼによる舌苔の生物化学的分解・除去が有効であり、現在、臨床に応用されてきている。

  • 口臭の分類の表
    表1 口臭の分類
  • 舌苔の構成成分(口臭診療マニュアル)の表
    表2 舌苔の構成成分(口臭診療マニュアル)

■口臭外来での利用

患者が口臭を主訴に来院した場合、まずは口腔内の気体(以下、口気)中のVSC濃度を測定することで、真性口臭症か仮性口臭症であるかを判定する。
新潟大学医歯学総合病院口臭外来ではガスクロマトグラフィ(島津製作所)(図1)を用い、口気中のVSC濃度を定量している。ガスクロマトグラフィの測定時は図2に示すようにP T F E(テフロン®)チューブをくわえて1分間鼻呼吸のまま保持し、その後口気を吸引して行う。結果はクロマトパック(島津製作所)によって出力される(図3)。
簡易型口臭測定器のオーラルクロマ®(アビメディカル)(図4)もVSCの定量に有用である。オーラルクロマの場合は図5に示すようにシリンジをくわえて、同様に1分間保持後、内筒を引き吸引する。その後、シリンジ中の口気を本体に注入し分析を行う。解析結果はコンピュータ上に出力され(図6)、患者の視覚に訴えやすいものになっている。
この口気中のVSC濃度と歯・歯周検査結果や既往歴などの問診結果(図7)を基に診断を行う。
口臭症の診断分類ごとの治療手順は別の機会に譲るが、舌苔除去は口臭予防の基本であり、患者本人のセルフコントロールに依存するため、舌清掃指導は不可欠である。
口臭主訴の患者の中で口臭問題が深刻な患者ほど、徹底的に除去しようと強圧かつ頻回の舌清掃を行う傾向があるので注意を要する。過度の刺激は舌粘膜を傷つけることとなり、味覚の変化をきたすこともある。そのような患者には、舌ブラシによる機械的清掃の代わりにプロテアーゼ含有タブレットを使用させる。
プロテアーゼタブレットの特長は
①なめるだけで舌苔の除去効果がある。
②使用場所を選ばない。
③携行性に優れている。
④入手が容易である(市販されている)。
という4点が挙げられる。
図8および図9に、タブレット2錠(1錠は1g。プロテアーゼ3%含有)をなめた前後の舌苔と口気中のVSC濃度の変化を示す。
タブレットが作用していた部分の舌苔が除去され、使用前には見えなかった舌背固有の色が確認できる。嗅覚閾値以上の値が検出されたVSC濃度はタブレット摂取後、閾値以下に下がっているのがわかる。
ここで注意したいのはプロテアーゼが舌苔に直接作用するために、また、タブレット剤形による機械的清掃効果を期待するために、舌中央で転がすように指導することである(図10)。飴玉をなめるときのように左右の頬粘膜部に移動させながら溶かすのでは、ほとんど効果が期待できない。一般的な経口薬とは異なり、プロテアーゼを体内に入れることが目的ではなく、舌の上に作用させることが重要であることを説明すると理解されやすい。あらかじめ、舌苔が多量に付着している部位を、鏡で確認してもらっておくとよい。
自宅外で舌のブラッシングは行いづらい。外出時にどうしても気になる人にとっては、携行性に優れているタブレット(図11)は使用しやすい。

  • ガスクロマトグラフィ(島津製作所)の写真
    図1 ガスクロマトグラフィ(島津製作所)。
  • ガスクロマトグラフィによる口臭測定の写真
    図2 口臭外来でのガスクロマトグラフィによる口臭測定。
  • ガスクロマトグラフィによる測定結果の出力図
    図3 ガスクロマトグラフィによる測定結果の出力。
  • 簡易型口臭測定器。オーラルクロマ(アビメディカル)の写真
    図4 簡易型口臭測定器。オーラルクロマ(アビメディカル)。
  • オーラルクロマでのサンプル採取を行う写真
    図5 オーラルクロマでのサンプル採取。
  • オーラルクロマでの測定結果の出力(生理的口臭の例)
    図6 オーラルクロマでの測定結果の出力(生理的口臭の例)。
  • 当科診療室で用いている診査票(項目のみ表記)
    図7 当科診療室で用いている診査票(項目のみ表記)。口臭についてだけでなく歯周疾患や全身疾患などについても評価を行い、診断の一助とする。
  • タブレット使用前後の舌苔の比較
    図8 タブレット使用前後の舌苔の比較。タブレットのあたっていたところの舌苔が効果的に落ちている。有郭乳頭付近までは効果が及ばない。しかしながら舌への刺激は少ない。
  • タブレット使用前後の口臭測定結果(ガスクロマトグラフィ)の比較
    図9 タブレット使用前後の口臭測定結果(ガスクロマトグラフィ)の比較。硫化水素濃度が閾値以下に減少している。
  • ホームケアのひとつとしてのプロテアーゼ含有タブレットの利用
    図10 ホームケアのひとつとしてのプロテアーゼ含有タブレットの利用。舌の上で転がすようになめる。頬側で溶かしても効果は少ない。
  • タブレットの写真
    図11 タブレットは携行性に優れ、かつ使用も簡便であるため日常生活中に用いやすい。使用している患者には非常に好評である。

■介護現場での利用

要介護者、介護者双方のQOLを著しく低下させる要介護者の口臭抑制のみならず、要介護者の誤嚥性肺炎のリスク軽減のために、口腔ケアの重点項目の一つとして舌清掃を取り入れることが多くなってきている。
要介護者の舌苔は、唾液量の減少や口呼吸のために乾燥していることや口腔の活動量が低下していることで、多量に蓄積していることが多い。そこで、これらの舌苔の除去を容易にするためにプロテアーゼを用いる。
しかしながら、先に紹介したタブレットタイプは自身で舌上に保持している必要があるため、介護者によるケア時に利用するのは難しい。そこで介護者は、プロテアーゼ含有ゲル(図12)を綿棒などで舌に塗布して使用している(現在、試行中である)。
ゲルタイプは粘度が高く舌の上に停滞しやすいという利点を持つため、要介護者への利用が行われる。しかしながら、その粘性を持たせるための基剤にやや強い甘味がある。この甘味刺激が唾液の流出の促進や、嘔吐反射を惹起することがあり得るため、使用時には注意深い観察が必要である。
図13は多量で湿潤した舌苔である。繊毛が長く清掃は難しい。そこで、介護者は綿棒を用いて介護者の舌にゲルを塗布する(図14)。この際、誤嚥が起こらないように注意する必要がある。刺激により唾液が流出する場合もあるため、座位またはファーラ位で行う。
要介護者の状態にもよるが、最低1分程度作用させた後、介護者が舌ブラシで舌苔と共にプロテアーゼゲルを回収する(図15)。
すべて回収するために、ドーム付きの舌ブラシ使用が推奨される。舌背上から取りこぼさないこと、嘔吐反射防止のために、舌ブラシの操作は舌扁桃分界溝の前方で可及的後方部位を起点に、舌尖方向へ行うとよい。舌ブラシにはゲルと多量の舌苔が付着してくる(図16)ため、適宜舌ブラシを拭き取る。可能であれば流水やカップに入れた水で洗浄し、誤嚥を防ぐために水分を拭き取りながら舌清掃を行うとよい。
ゲルを併用した舌清掃は、この症例のような繊毛の長い舌であっても図17のような舌苔除去が可能である。
図18は経鼻経管栄養の患者の舌である。舌苔の量自体は少ないが、口呼吸になっているため硬く乾燥した舌苔となっている。このような場合は機械的清掃だけでは除去が難しく、無理に除去しようとすると舌粘膜を傷つける。この場合も先の例と同様に舌にゲルを塗布するが、最初のうちは作用時間を長くとるとより効果が高い(図19)。
図20は3分間作用させた後の舌苔である。この後、従来と同じように舌ブラシにて舌清掃・ゲルの回収を行うが、強い力で清掃する必要はない(図21)。
以上のようにプロテアーゼ含有ゲルは要介護者の舌苔清掃に有効であるが、現在は全て同じ粘度のゲルを用いている。今回紹介した2例をみても、舌背・舌苔の性状や介護の程度は個人によって大きく異なる。そのため、今後は基剤を調整することでゲルの粘度を変え、個人にあわせたゲルを選択使用できると、より安全に高い効果が得られると思われる。
例えば、図13の例のような長い繊毛にはもう少し流れの良いゲルの方が適している。一方、図18のように嚥下機能の低下が考えられる場合は、ゲルを確実に口腔に止めておくために粘度を高くするとより安全である。

  • ゲルタイプの写真
    図12 タブレットの保持が難しい患者には、ゲルタイプを用いる。
  • 要介護者の口腔内の写真
    図13 要介護者の口腔内。舌苔の量が多く、湿潤している。
  • 舌へのプロテアーゼ含有ゲルの塗布する写真
    図14 舌へのプロテアーゼ含有ゲルの塗布。座位またはファーラ位で行う。滅菌綿棒にて舌背全体に塗布。嘔吐反射には気をつける。
  • 1分間放置後、舌背を舌ブラシにて清掃する写真
    図15 1分間放置後、舌背を舌ブラシにて清掃。塗布したゲルはすべて回収する。
  • 舌ブラシの写真
    図16 舌ブラシには多量の舌苔が付着してくる。
  • 黄色く厚かった舌苔がなった写真
    図17 黄色く厚かった舌苔がなくなる。写真のように長い繊毛であっても流れやすいゲル状であるため十分な効果が得られる。
  • 経鼻経管栄養患者の口腔内の写真
    図18 経鼻経管栄養患者の口腔内。舌苔が乾燥して硬くなっている。機械的に無理にはがすと舌を傷つける恐れがある。
  • プロテアーゼ含有ゲルを塗布した写真
    図19 プロテアーゼ含有ゲルの塗布。硬い舌苔では、可能であれば作用時間を長くしたい。
  • 柔らかくなった舌苔の写真
    図20 柔らかくなった舌苔。
  • 除去後の写真
    図21 完全に舌苔を除去することはできないが、継続していくことで舌苔の付着は減少していくと思われる。

■さいごに

プロテアーゼは食品由来の成分であり、安全性は問題なく使用できる。タブレットタイプはなめるときの機械的清掃効果も期待でき、タブレット単体で舌苔除去効果があるため、口臭のセルフケアに有効である。一方、機械的清掃用具との併用を前提に開発が進められてきたゲルタイプは、要介護者の舌苔清掃に高い効果が期待できる。また、ゲルタイプは介護の場のみならず、歯磨き時における歯磨剤のような使い方でセルフケアの補助として使用することもできる。