近年、歯冠修復の分野ではジルコニアコーピングを用いたクラウンブリッジ、インプラント修復の分野でも、その中間構造としてジルコニアアバットメントが応用されている。これらジルコニア素材は、従来のオールセラミックスに比べてはるかに高い機械的強度を示すとともに、高い審美性を有する優れた素材である。
現在、各社ジルコニアシステムに相応したレイヤリングポーセレンが開発され、それぞれ特色をもった色調再現がおこなえるよう、工夫されている。ただし、メタルセラミックスとほぼ同様の工程で作業が進められるため、いわゆるセラミストに製作が委ねられる現状がある。折りしも歯科技工士数が激減するなか、卓越した築盛技術を駆使するまでもなく、基本的なワックスアップ技術さえ持ち合わせていれば安定したクオリティを維持できるプレストゥジルコニアシステムが、ノリタケデンタルサプライより発売された。
本システムは、手技あるいはCAD/CAMにより得られたジルコニアコーピング等に合った熱膨張係数をもち、かつ40色からなるインゴットを核とするプレスシステムである(図1)。周知のとおり、ノリタケシェードは20色であるが、インゴットに各シェードごとのハイトランス・インゴット(インゴットH)とロートランス・インゴット(インゴットL)が用意されるため、使用方法(用途)は大きく2つに分かれる。
まずインゴットHであるが、通常は表面ステインで着色して仕上げるステイン法として用いる。システムとしては、ジルコニアコーピングのベース色を調整する「シェードベースステイン」、埋没に使用する専用「フォーマー」、および「リング」、インゴットをプレスするための「ディスポプランジャー」、プレス成形されたものに着色するための「CZRプレスLF エクスターナルステイン」、そして着色後に全体をコーティングする「CZRプレスLF グレーズ」である(図2)。
次にインゴットLであるが、こちらはレイアリング法に用いる。システムとしては、ジルコニアコーピングのベース色を調整する「シェードベースステイン」、「フォーマー」、「リング」、「ディスポプランジャー」、そしてプレス成形されたものの上にレイアリングするための「CZRプレスLF ポーセレン」、および「CZRプレスLF インターナルステイン」である。もちろん、「CZRプレスLF エクスターナルステイン」も併用できる(図3)。
インゴットHは、その色調再現のほとんどを表面ステインにたよるため、色調自体は従来のCZRポーセレンより彩度が低く透明度が高い。インゴットLは、セラミストが築盛する外形回復からカットバックされたデンチンの色と形を表現するため、色調自体は従来のCZRポーセレンとほぼ同等か、やや透明度が高い程度である。
どちらにしても、基本的なワックスアップは最低限の条件になるが、レイアリング法を採用するに至っては、むしろセラミストが築盛するポーセレンワークに比べて気泡の混入が少ない、安定した補綴物になり得る。
本稿では、CZR プレスシステムの基本的な使用方法を紹介する。
ジルコニア(イットリアを添加した部分安定化ジルコニア)の特性として、温度が高いと強度が著しく低下することがあげられる(表1)。すなわち、コーピングを削除調整する際にはメーカー保証の最低限の厚みを保持する必要がある。もし、それ以上に薄く調整してしまうと、プレス圧によってコーピングが割れてしまうおそれがある。また、コーピングのマージンに鋸歯状の凹凸があっても、割れの原因を助長することになる。
以上の点に注意してプレステクニックを応用してほしい。
前述したように、基本的にはステインにて色調の調整をおこなう方法である。
以下、アトラス方式にてステップを紹介する。
次に、インゴットLを使用したプレスクラウンの製作について述べる。
基本的には、求めるクラウンの基調色およびポジションの決定はプレステクニックを応用し、微妙な透明層やコントラストはCZRプレスLFのエナメル、トランス(ラスター)ポーセレンをレイヤリングして回復する。
以下、アトラス方式にてステップを紹介する。
図34は、インゴットHを使用したクラウン(図22)をシェードチェックしているところである。
CZRプレスLF エクスターナルステイン「A+」を使うことで、ほぼ所望するシェードがえられた。
図35は、インゴットLを使用したクラウン(図33)をシェードチェックしているところである。
ここでは、クラウン内面にレジンで製作した仮想の支台を入れてある。セメントスペース分には、クラレメディカル社のエステティックセメント・トライインペーストクリアを用いた。
とくに、カタナジルコニアとプレスセラミックとのコンビネーションにおいては、クラウン単体では光の透過がおこるため、最終的なシェードの確認はこのような操作も必要に応じておこなうとよい。
以上、CZRプレスシステムの使用法について解説した。プレスシステム自体は目新しいものではないが、ジルコニアという素材をポーセレンで完全に覆うことができ、加えてマージンは全周にわたって気泡のないポーセレンであり、審美性と親和性においては、これまでにも増して有意と考えられる。また、歯周軟組織を成熟させて審美修復に移行するプロビジョナルクラウンの重要性が唱えられる現在、その形状を陶材築盛法ではなくワックス(や場合によってはレジン)で成型できることは、形状再現性の正確さの点からも意義が大きい。ただし、チェアサイドでの歯頸部マージンの形成は十分な幅を要すること、ラボサイドではインゴットおよびプレスファーネスの準備が必要となる。