DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

CLINICAL REPORT
「歯科漂白材ピレーネ」の臨床活用の実際
鶴田歯科医院(長崎県諌早市) 鶴田博文

■目 次

■はじめに


当院の歯科衛生士。日本歯科審美学会認定のホワイトニングコーディネーターを取得している。患者さんへホワイトニングに関しての必要な知識をわかりやすく伝えることができる存在である。
2006年5月に厚生労働省から薬事認可を受け、オフィスホワイトニング材として開発された「ピレーネ」。三菱ガス化学株式会社が研究開発し、2006年12月より、株式会社モリタから発売されています。
発売から、約2年4ヵ月が経過し、実際に使用してみての感想や、若干の知見が得られましたので、具体的な臨床術式と症例を報告させていただきます。

■「ピレーネ」の特長

従来品でのオフィスホワイトニングは確実に短時間に漂白できるという利点があるものの、処置に際して厳重な歯肉保護が必要であること、処置中、処置後に疼痛があり、また知覚過敏症状が出現することなど、患者さんにとっての負担が大きく、臨床の現場に取り入れるにはハードルが高かったように思えます。
しかし、この「ピレーネ」においては、その心配はありません。知覚過敏などの不快な症状はほとんど出現せず、高い漂白効果が得られることを実感しました。この漂白効果は“すりガラス様”ではなく、歯本来の自然な色調が表現できるものです。「ピレーネ」においてのキーワードは“高い安全性”と“自然な白さの実現”ということが言えます。

■「ピレーネ」のメカニズム

従来のオフィスホワイトニングでは、高濃度の過酸化水素を主体とする漂白材が用いられてきました。しかし、「ピレーネ」は低濃度過酸化水素と二酸化チタンの混合液に特定の波長の光を照射することで、過酸化水素と光触媒との反応により発生した活性酸素が汚染された色素成分を分解し、漂白効果を発揮するものです。
この低濃度過酸化水素はわずか3.5%、従来品の1/10の濃度であるために極めて安全であることがもっとも良い特長です。この濃度は消毒用の過酸化水素と同程度であるので、「ピレーネ」が歯肉に付着しても問題はないと考えます。また、光触媒機能を有する二酸化チタンにおいても、食品添加物や歯磨き粉にも使用されている安全・無害な物質です。
これらの特長により、「ピレーネ」では、処置中や処置後の疼痛や知覚過敏がみられず、患者さんの負担を大幅に低減することができます。また、「ピレーネ」はpH6.0と中性に近く、その結果エナメル質をほとんど傷めずに漂白できることから、歯そのものの“自然な白さ”に漂白が可能です。治験の報告書では、1週間ごと3回繰り返し漂白を行うことを推奨し、最終漂白後24週間の観察では後戻りはほとんどないといわれています。

■光照射についての注意点

「ピレーネ」を使用する際に、必要不可欠なものがあります。それは380~420nmの波長域をもった可視光線照射器です。この波長域以外では触媒である二酸化チタンが十分な漂白作用を発揮できません。光照射器であればなんでも使えるというわけではありません。この波長域で十分な光量を持つ製品は、ハロゲン光源の「ハイパーライテル」(図1)、「JETライト3000」(図2)と、LED光源の「ルマクール」(図3)等があげられます。「ピレーネ」の効果を最大限に発揮するためには、必ずこの三つの照射器のいずれかの使用をお奨めいたします。「ハイパーライテル」は現在のところ発売が中止されていますが、新たにLEDを使用した「ルマクール」(販売元:株式会社モリタ)が登場しました。
私も実際にこの「ルマクール」を使用してみたのですが、漂白中は手でずっと持って照射するハンディタイプの「ハイパーライテル」よりも利便性が高いことは言うまでもありません(図13)。そして、「ルマクール」はLEDを光源としているためにハロゲン光源と違い熱がほとんど出ないことも大きな利点です。もちろん波長は380nm以上の可視光を含んでいますので、「ピレーネ」には効果的に作用します。
もし、「ハイパーライテル」または「JETライト3000」をお持ちであれば、すぐに「ピレーネ」によるホワイトニングを始めることが可能です。しかし、「ハイパーライテル」は連続使用すると、クーリングのために一時照射できなくなります。そのため2台活用しないとチェアタイムが著しく長くなってしまいます。このことが「ピレーネ」をこれまで導入されなかったという理由であったという方もおられるのではないでしょうか。マウスピースタイプの「ルマクール」の登場は、その使用の簡便さと漂白効果の高さより、一気に「ピレーネ」のユーザー数を増加させる予感がします。

  • 図1 「ハイパーライテル」(発売:クラレメディカル株式会社)。高出力ハロゲンランプによる照射器。残念ながら現在では生産していません。
    図1 「ハイパーライテル」(発売:クラレメディカル株式会社)。高出力ハロゲンランプによる照射器。残念ながら現在では生産していません。
  • 図2 「JETライト3000」(販売:株式会社モリタ)。
    図2 「JETライト3000」(販売:株式会社モリタ)。
  • 図3 「ルマクール」(販売:株式会社モリタ)。ホワイトニング専用のLEDを使用した光照射器。照射時発熱がほとんど無いことが特長です。
    図3 「ルマクール」(販売:株式会社モリタ)。ホワイトニング専用のLEDを使用した光照射器。照射時発熱がほとんど無いことが特長です。

■「ピレーネ」を実際に使用する

使用方法は、非常に簡単です。「ピレーネ」を注文するとその箱の中に写真入りの説明書が添付されていますが、私は独自の使用法に改良していますので、参考までに報告いたします(図414)。
私は、水溶性の「ピレーネ」が歯面から流れないように、不織布を利用しています(図671012)。そして、歯肉保護はまったく行わないで「ピレーネ」を日常的に使用しています。この歯肉防護の必要性がないことは、術者に対して、かなりのストレス軽減につながります。
「ハイパーライテル」を使用する場合は、1回のアポイントで6歯程度を行っています。1歯面に30秒間ずつ順次光照射を行っていき、着色の程度により最大8クールまで行っています。合計すると1歯につき4分間の照射時間となりますが、連続照射は発熱するため、やめたほうが良いでしょう。また、照射中、照射後でも不織布(図67)に浸透した「ピレーネ」が照射による発熱により乾燥しないように、常に「ピレーネ」で湿潤させておくことが大切です。
これまでのところ、ホワイトニング中、「ピレーネ」が歯肉に付着しても歯肉に糜爛や発赤を生じたという症例はありません。しかし歯肉に若干の違和感があった方は少数ですがおられました。おそらく「ハイパーライテル」の光照射時の発熱によるものではないかと思います。
それに比較して、「ルマクール」は、固定式のLED光照射器です。モリタ社が取り扱いを始めて日が浅いのですが、早速使用してみたところ、光量が思っていたよりも強いにもかかわらず、ほとんど発熱がないことに驚きました。利点として上下顎同時に使用することができ、固定式のため術者が必要でないということです。ただ、漂白効果は「ハイパーライテル」を使用したほうが若干ですが高いと感じます。
私の場合、「ルマクール」では1回のアポイントで10分照射を3クールずつ照射しています。なるべく歯面に光源を接近させることがいい漂白効果を生むように思えます。照射が終了したあとは歯牙と歯肉を軽く水洗し、測色計(図14)やシェードガイドを用いて漂白効果を確認します。患者さんと一緒に漂白効果を確認して終了とします。
チェアタイムとしては「ハイパーライテル」を用いて6歯ホワイトニングした場合は60~80分程度、「ルマクール」(上下12前歯)を使用した場合は45~60分程度で完了できます。一週間ごとにアポイントをとり「ハイパーライテル」使用時は6回のアポイント、「ルマクール」を使用した場合は3~4回程度のアポイントで終了します(図1524)。また、当院ではホワイトニングの効果をより引き立たせるためにホームホワイトニングも同時に行っています。しかし、「ピレーネ」でオフィスホワイトニングを行ってから24時間はホームホワイトニングを行わないように患者さんに指示しています。

  • 図4 「ピレーネ」の本材です。①液と②液をよく混和させて使用します。
    図4 「ピレーネ」の本材です。①液と②液をよく混和させて使用します。
  • 図5 ①液と②液を混ぜあわせ、1分間よく攪拌します。
    図5 ①液と②液を混ぜあわせ、1分間よく攪拌します。
  • 図6 不織布は株式会社ニチエイより製品化されています。
    図6 不織布は株式会社ニチエイより製品化されています。
  • 図7 歯面の大きさになるように小さく切ります
    図7 歯面の大きさになるように小さく切ります。
  • 図8 フッ化物を配合していない歯面研磨材で歯面研磨を行います。
    図8 フッ化物を配合していない歯面研磨材で歯面研磨を行います。
  • 図9 付属のダッペンに混合液を入れ、小綿球を用い歯面に塗布します。タップリと綿球に浸すことがコツです。
    図9 付属のダッペンに混合液を入れ、小綿球を用い歯面に塗布します。タップリと綿球に浸すことがコツです。
  • 図10 歯面に塗布します。「ピレーネ」は前述したように3.5%の低濃度過酸化水素(消毒用過酸化水素とほぼ同じ濃度)を用いているために、歯肉保護は行っていません。
    図10 歯面に塗布します。「ピレーネ」は前述したように3.5%の低濃度過酸化水素(消毒用過酸化水素とほぼ同じ濃度)を用いているために、歯肉保護は行っていません。
  • 図11 「ピレーネ」を不織布にしっかりと浸し、照射器の先端はしっかりと歯面につけてください。先端のレンズは汚れないように定期的にガーゼなどで清掃し、チェッカーで光量がダウンしていないかチェックしてください。
    図11 「ピレーネ」を不織布にしっかりと浸し、照射器の先端はしっかりと歯面につけてください。先端のレンズは汚れないように定期的にガーゼなどで清掃し、チェッカーで光量がダウンしていないかチェックしてください。
  • 図12 不織布の応用:中切歯の先端をこれ以上漂白したくない場合は不織布を切縁には置かないようにすると、漂白のコントロールが容易にできます。
    図12 不織布の応用:中切歯の先端をこれ以上漂白したくない場合は不織布を切縁には置かないようにすると、漂白のコントロールが容易にできます。
  • 図13 「ルマクール」の使用方法:10分照射を3クールとします。途中「ピレーネ」が乾燥しないように追加塗布する必要があります。不織布も同様に使用しています。
    図13 「ルマクール」の使用方法:10分照射を3クールとします。途中「ピレーネ」が乾燥しないように追加塗布する必要があります。不織布も同様に使用しています。
  • 図14 測色計を用いた場合、客観的な数値によって表わされるため漂白効果が実感できます。
    図14 測色計を用いた場合、客観的な数値によって表わされるため漂白効果が実感できます。
  • 図15 (症例1:43歳女性。歯が黄色くなっている)
    図15 (症例1:43歳女性。歯が黄色くなっている)においては歯冠中央部に白帯、2歯冠中央に白斑が存在している。はA 3.5、 A 3.0(測色計による)。
  • 図16 (症例1)ホームホワイトニング上顎3週間。
    図16 (症例1)ホームホワイトニング上顎3週間。「ピレーネ」におけるオフィスホワイトニングは上顎3回行った。「ハイパーライテル」使用。すべてA1まで漂白(測色計による)。なお、白帯・白斑は「ピレーネ」によるオフィスホワイトニングでほとんど消失している。白帯・白斑が目立ちにくくなることも「ピレーネ」の特長である。その後にはCR充填を行っている。
  • 図17 (症例2:20歳女性。歯の色が気になる)
    図17 (症例2:20歳女性。歯の色が気になる)上顎のホームホワイトニングを数回行ったがトレーによる嘔吐反射が強く、途中で中断してしまった。下顎前歯のシェードはD4。上顎は2週間のホームホワイトニングが完了したところで撮影。
  • 図18 (症例2)「ピレーネ」によるオフィスホワイトニングを行い、シェードは上下顎前歯部はすべてA1まで漂白することができた。「ピレーネ」によるホワイトニング中は、ほとんど症状は出現していない。特に下顎前歯は光沢感が得られた。「ピレーネ」によるオフィスホワイトニングのみ、LED照射(「ルマクール」使用)を4回行った。
    図18 (症例2)「ピレーネ」によるオフィスホワイトニングを行い、シェードは上下顎前歯部はすべてA1まで漂白することができた。「ピレーネ」によるホワイトニング中は、ほとんど症状は出現していない。特に下顎前歯は光沢感が得られた。「ピレーネ」によるオフィスホワイトニングのみ、LED照射(「ルマクール」使用)を4回行った。
  • 図19 (症例3:36歳女性。歯の色が黄色い)
    図19 (症例3:36歳女性。歯の色が黄色い)はシェードA3.5、はA3(測色計による)。
  • 図20 (症例3)上下顎ホームホワイトニング3週間と「ピレーネ」によるオフィスホワイトニングを上下顎4回ずつ行った。「ハイパーライテル」使用。
    図20 (症例3)上下顎ホームホワイトニング3週間と「ピレーネ」によるオフィスホワイトニングを上下顎4回ずつ行った。「ハイパーライテル」使用。6前歯はすべてA1まで漂白できた(測色計による)。患者は効果に大変満足している。
  • 図21 (症例4:34歳女性。1の変色が気になる)全顎的に黄色く変色していたために「ピレーネ」によるオフィスホワイトニングを実施。
    図21 (症例4:34歳女性。1の変色が気になる)全顎的に黄色く変色していたために「ピレーネ」によるオフィスホワイトニングを実施。
  • 図22 (症例4)上下顎ホームホワイトニング3週間と「ピレーネ」によるオフィスホワイトニングを上下顎3回ずつ行った。「ハイパーライテル」使用。1 はオールセラミックにて補綴処置を行ったが、ホワイトニング後のシェードテイキングは比較的容易であった。
    図22 (症例4)上下顎ホームホワイトニング3週間と「ピレーネ」によるオフィスホワイトニングを上下顎3回ずつ行った。「ハイパーライテル」使用。1 はオールセラミックにて補綴処置を行ったが、ホワイトニング後のシェードテイキングは比較的容易であった。
  • 図23 (症例5:35歳男性。テトラサイクリン着色が認められた)
    図23 (症例5:35歳男性。テトラサイクリン着色が認められた)は補綴物。3 C4、2 C3、2 D3、3C3、3 C3、3 C3(測色計による)。
  • 図24 (症例5)上下顎それぞれ3週間のホームホワイトニングと4回の「ピレーネ」によるオフィスホワイトニングを行った。
    図24 (症例5)上下顎それぞれ3週間のホームホワイトニングと4回の「ピレーネ」によるオフィスホワイトニングを行った。3 D3、2 C1、2 C1、3 D2、3 C1、3 C1(測色計による)と良好に変化した。の最終補綴物はセラミックを装着した。患者満足度は高い。テトラサイクリン歯における漂白が有効なことから「ピレーネ」は象牙質に対する漂白効果も実感できた症例である。

■「ピレーネ」を使用しての感想

私の個人的な所感ですが、これまでホームホワイトニングを単独で行った場合、十分な満足の得られる効果を実感したことは少なかったように思えます。その理由として、漂白を完了するまでに期間がかかることやトレー装着における患者さんの協力が必要になることなどが挙げられます。実際にはトレーの装着を毎日するということに煩わしさを感じる方も少なくありませんでした。
そこで、この「ピレーネ」の登場によりオフィスホワイトニングも併用して行うようにしたところ、驚くほど安全に、しかも短時間に、そして確実に歯牙漂白が可能となりました。この方法を始めだしてからというもの、私のみならず当院のスタッフも自信をもって患者さんにホワイトニングのコンサルテーションができるようになりました。歯の審美に興味を持っていただける方が増えることは、大変喜ばしいことだと思っています。
「ピレーネ」は二酸化チタンという光触媒を低濃度過酸化水素の技術応用により高次元にバランスのとれた歯牙漂白材であり、将来的には海外市場を視野にいれた普及、発展が大きく期待されるのではないでしょうか。

参考文献
  • 1)平林正道、岡田周策、鈴木二郎、西村知子、寺西敏夫、石橋卓郎、石橋浩造、古澤忠夫、近藤 治:可視光で反応するTiO2を含む漂白材(Pyrenees)による生活歯の漂白効果.日歯保存誌, 50:33-44、2007.
  • 2)加藤純二、五十嵐章浩、中澤妙衣子、明石 豪、守矢佳世子、部谷学、末森 豪、久木留伸享、関本智信、平井義人:「ピレーネ」の登場にみる歯牙漂白の新しい展開.歯界展望, 110:733-754、2007.
  • 3)日本歯科審美学会ホワイトニングコーディネーター講習会テキスト