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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

TRENDS
酵素系洗浄剤「ウルトラ・クレンザイム」の臨床
大西正和

■目 次

■はじめに

2007年4月の改正医療法の施行により、これまで有床病院に義務付けられていた医療安全管理が、歯科医院を含めたすべての医療機関にも拡大された1、2)。この改正では、本稿のテーマに係る院内感染対策について、「指針の策定」、「対策委員会の設置」、「従業員研修の実施」などを謳っており、院内感染対策の整備は、歯科界が避けて通ることができない直近の課題となった。
一方、昨年2月に端を発する新型インフルエンザのパンデミックにより、わが国における感染についての認識はこれまでにない高まりを見せている。今後、この新型インフルエンザが一定の収束を迎えた後、清潔さに対する国民の見識は歯科医療にも向けられ、これまでに比べて遥かに高い清浄性が臨床の現場に求められるだろう。

  • 図1 酵素系洗浄剤「ウルトラ・クレンザイム」
    図1 酵素系洗浄剤「ウルトラ・クレンザイム」

■歯科界の現状

歯科領域では、「抜歯」、「小手術」、「エンド・ぺリオに伴う外科的処置」、などの観血処置が日常的に行われており、また、タービンハンドピースや超音波スケーラーは、口腔由来の微生物汚染を広範囲に飛散させている可能性がある。
わが国におけるB型肝炎、C型肝炎、HIV感染症等の血中ウイルスキャリア数は約450万人に及び3)、これは国民の約30人に1人に相当する。しかし、歯科受診者は、そのほとんどが外来患者であることから、全てに対して事前スクリーニングを行うことは事実上ほぼ不可能である。
このような歯科の特殊性とそれを取り巻く現況を踏まえると、歯科受診者と歯科医療関係者は絶えず交差感染の危険に曝されていると言っても過言ではない4)

■事前洗浄の意義

通常、医療機関において使用する器具類は、ディスポ化されているクリティカル器具の一部や衛生材料を除いて再使用が行われている。このため、臨床使用後の器具は速やかにそれぞれの感染リスクに応じた適正な消毒・滅菌処理を行う必要がある。
ところが、それらの器具には、血液、浸出液、微細組織片などの蛋白質が付着しており、この中に病原微生物が混入している可能性がある。もし、この蛋白質の除去が不十分なまま消毒や滅菌を行うと次のような弊害が生じる。
① 微生物の絶対数が多いため、消毒・滅菌効率が低下する。
② 付着した蛋白質層が消毒・滅菌の障害となる。
③ 蛋白質は、塩素系消毒薬や電解水の殺菌力を減弱させる5、6)
④ グルタールアルデヒドや高圧蒸気滅菌は、蛋白質を器具の表面に凝着させ、「刃物の鈍化」、「ヒンジの作動不良」、「夾雑物の残存」などを引き起こす7)
したがって、確実な消毒・滅菌を行うには、事前の洗浄により対象物から確実に蛋白質を除去する必要がある。

■事前洗浄を効果的に行うには

従来から、使用済み器具の事前洗浄には、用手洗浄(ブラシやスポンジを用いた水洗)が行われてきた。しかし、この作業には、汚染された鋭利な器具類により作業者が手指に刺傷を負う危険性があり、また、ブラシ洗浄による「水跳ね」は、作業者や周辺環境を汚染する可能性がある。B型肝炎ウイルスは乾燥した環境表面で1週間以上、生存することなどから8)、飛散した汚染は長時間にわたり危険性を維持していると考えられる。このような器具洗浄時のリスクを回避するには、「給排水機能付き超音波洗浄機」や「ウォッシャーディスインフェクター(熱水噴射式洗浄機)」による物理的洗浄が有効である。しかし、これらの導入にはイニシャルコストを要する上、一般的な歯科医院では消毒エリアや水周りが手狭であり、設置が困難な場合が多い。
使用器具の事前洗浄には、その他にアルカリ性洗浄剤や酵素系洗浄剤による化学的洗浄方法がある。しかし、アルカリ性洗浄剤には「軟性器具やアルミ製器具などに対する悪影響」や「廃液処理の手数」などの難点がある。他方、酵素系洗浄剤は、生物由来であるためこのような難点が少なく、医療界や産業界で広く活用されている。

■蛋白分解酵素の作用機序

蛋白質は、鎖状に結合した複数のアミノ酸から構成される。使用済み器具に付着している血液や組織片などの生体性蛋白質は、結合するアミノ酸の数が多い高分子蛋白質である。蛋白質は、高分子であるほど疎水性を示すため、器具に付着した蛋白質を水洗のみで除去することは容易でない。
このため、医療の現場においては、各種の物理的洗浄方法や化学的洗浄方法による事前洗浄が行われているが、簡便で有効な方法のひとつが蛋白分解酵素(プロテアーゼ)の応用である。
酵素は、それ自体が生物由来の蛋白質を主体とした高分子化合物であり、生体内のいろいろな化学反応に対して触媒としての役割を果たしている。この酵素のひとつが蛋白分解酵素であり、これを高分子蛋白質である生体性蛋白質に作用させると、アミノ酸同士の結合の腕を所々で切断し、低分子蛋白質に分解する。高分子蛋白質が疎水性を示すのに対して、低分子蛋白質は水溶性を示すため、水洗による除去が容易になる(図2)。
このように、酵素を用いた事前洗浄によって使用後器具から蛋白質を除去すれば、その後の消毒・滅菌において、「消毒薬の量」、「作用時間」、「作業者や被消毒物に対する影響」等を最小限に止めることができる。また、有機物に弱い塩素系消毒薬や蛋白変性を引き起こす消毒薬の使用も可能となる(図3)。

  • 図2 蛋白分解酵素の作用機序
    図2 蛋白分解酵素の作用機序
    生体性蛋白質は、多くのアミノ酸が結合した高分子蛋白質であり、疎水性を示す。蛋白分解酵素は、高分子蛋白質を水溶性の低分子蛋白質に分解し、水洗による除去を容易にする。
  • 図3 汚染器具からの蛋白質除去の効果
    図3 汚染器具からの蛋白質除去の効果
    酵素系洗浄剤により、使用後の器具に付着している蛋白質を除去すると、微生物を保護するバリアが消失するとともに微生物の絶対量が減少し、その後の消毒・滅菌の効果が向上する。

■酵素系洗浄剤「ウルトラ・クレンザイム」の臨床応用

酵素系洗浄剤は、多くの製品が医療界や産業界に存在するが、その中で蛋白質の除去効果と安定性に優れた一製品をベースに、歯科の特性を踏まえて改良を加えたものが(株)モリタから2010年2月に発売された「ウルトラ・クレンザイム」(図1)である。
蛋白分解酵素と非イオン系界面活性剤を主成分とし、安定性を向上せるために除菌剤を添加している。本稿では、この「ウルトラ・クレンザイム」の評価と(図47)、これを用いた酵素系洗浄剤の臨床応用について述べる。
【酵素系洗浄剤の特長】
酵素は、生体内で触媒的作用を司る蛋白質であり、触媒と同様に、加熱すると酵素活性(反応速度)が向上するが、40℃~50℃付近でその上限に達し、それ以上の温度では不可逆的に失活する。一方、温度の下降に伴って酵素活性は低下するものの、元の温度に戻すことで復活する9)
したがって、酵素系洗浄剤の原液は冷暗所で保管することが望ましく、原液を希釈した実用液は40℃前後が最も効果的に働く。ただし、実用液は、経時と反復使用により酵素活性が減弱するため、適切なタイミングの交換を要する。
なお、「ウルトラ・クレンザイム」は、高い酵素活性に加えて、原液、実用液とも長期間にわたる安定性を特長としている。
【臨床応用例】
酵素系洗浄剤は、再生使用を要する「外科用器具」、「手用器具」、「切削・研磨器具(ダイヤモンドポイント、カーバイドバー)」、「根管治療器具(リーマー、ファイル)」、「印象体(シリコン、アルギン酸、寒天)」、「ユニフォーム(部分汚染)」等の事前洗浄に応用できる。
通常、酵素系洗浄剤の使用方法は「浸漬法」が一般的であるが、「ウルトラ・クレンザイム」については、泡で対象物を包み込む「泡埋(ほうまい)法」と、「超音波洗浄併用法」を併せて推奨する。
「浸漬法」(図8)は、原液を500倍希釈した実用液槽に対象物を浸漬し、水洗の後に消毒・滅菌処理を行う。
「泡埋法」(図911)は、専用の泡ボトルから作業毎に作り出す泡状洗浄剤よって対象物を包み込む方法であり、希釈濃度は50倍とする。洗浄剤を再使用しないため汚染が拡大しにくい特長を持つ。また、泡の消失が作用完了の目安となる。「
超音波洗浄併用法」(図12)は、物理的洗浄作用(キャビテーション効果)と化学洗浄作用の相乗効果が期待できる。使用濃度は浸漬法に準ずる。
【ウルトラ・クレンザイムの使用上の留意点】
① 浸漬法では、対象物投入の際などに洗浄剤の飛散に注意。
② 作業者は、一般の消毒作業同様に防護具の装着を要す。
③ 処理後には、流水により対象物から確実に洗浄剤を除去する。
④ 浸漬法の実用液は、原則として1日で廃棄。
⑤ 生分解するため下水への廃棄が可能であるが、シンク周りの汚染に注意。
⑥ 対象物、実用液、実用液槽などは汚染物としての扱いを要する。
⑦ 浸漬法と超音波洗浄併用法は、実用液の廃棄後に液槽の消毒を要する。

  • 図4ウルトラ・クレンザイムは、10分間で3層の皮膜(上層から黒、赤、黄)が分解し、白色の下地が露出。
    図4「ウルトラ・クレンザイム500倍希釈液()」、「A社製酵素系洗浄剤500倍希釈液()」、「水道水()」への浸漬による「白色試験紙面に黄、赤、黒の順でゼラチン(変性させた蛋白質)を積層した3層皮膜試験紙(※1)」の分解能力を比較。ウルトラ・クレンザイムは、10分間で3層の皮膜(上層から黒、赤、黄)が分解し、白色の下地が露出。【液温26℃】
    注:開始時の液の色は試験紙の色が写真撮影時に反射したもの。
  • 図5 泡埋法によるゼラチン皮膜の分離試験。ウルトラ・クレンザイム50倍希釈液による泡により泡埋。泡の消失とともに皮膜3層が分解し、白色の下地が露出。
    図5 泡埋法によるゼラチン皮膜の分離試験。ウルトラ・クレンザイム50倍希釈液による泡により泡埋。泡の消失とともに皮膜3層が分解し、白色の下地が露出。
  • 図6 ワッテに吸収され、凝固した人血をウルトラ・クレンザイム500倍希釈液に浸漬。5分以内に血液が溶出。
    図6 ワッテに吸収され、凝固した人血をウルトラ・クレンザイム500倍希釈液に浸漬。5分以内に血液が溶出。
  • 図7 ウルトラ・クレンザイムによる錆の発生状況をスチールバー、ブローチ、リーマーを用いて試験した。この結果、泡埋24時間放置後、全てに錆の発生は認められなかった。
    図7 ウルトラ・クレンザイムによる錆の発生状況をスチールバー、ブローチ、リーマーを用いて試験した。この結果、泡埋24時間放置後、全てに錆の発生は認められなかった。
  • 図8 器具類への浸漬法。
    図8 器具類への浸漬法。毎始業時、専用浸漬容器に調整した500倍希釈液に使用器具を約10分間浸漬(汚染が著しい場合は浸漬時間を適宜延長)。流水により洗浄剤を洗い流した後に滅菌。
  • 図9 本稿で推奨する器具類への泡埋法。
    図9 本稿で推奨する器具類への泡埋法。バスケットに使用後器具を投入し、あらかじめ泡ボトルに調整した50倍溶液で器具全体を泡埋。泡の消失後、流水により洗浄剤を洗い流した後に滅菌。
  • 図10 印象体への泡埋法。
    図10 印象体への泡埋法。印象体からの水洗による微生物の除去は困難であり、逆に汚染を拡大させる可能性がある10)。酵素系洗浄剤がアルギン酸印象体の寸法精度と表面性状に与える影響は少ない11)。蛋白質の除去後の消毒は、塩素系の印象材用固定除菌剤「インプロステリンプラス(太平化学産業㈱)」への浸漬や、「TBS錠(アグサジャパン(株)」による石膏練和などが有効に働く。
  • 図11 ユニフォームに血液付着が目視できる場合は、当該部分をウルトラ・クレンザイムで泡埋。泡の消失後、グローブ着用のうえ部分水洗いを行う。
    図11 ユニフォームに血液付着が目視できる場合は、当該部分をウルトラ・クレンザイムで泡埋。泡の消失後、グローブ着用のうえ部分水洗いを行う。
  • 図12 超音波洗浄器と酵素系洗浄剤の併用。希釈倍率等は浸漬法に準ずる。
    図12 超音波洗浄器と酵素系洗浄剤の併用。希釈倍率等は浸漬法に準ずる。

■まとめ

消毒は「諸刃の剣」であり、「消毒効果」と「消毒負荷」が表裏一体の関係にある。消毒効果とは、「対象物から病原微生物を駆逐する能力」であり、消毒負荷とは、「対象物や作業者に対する弊害」や「経済的負担」である。効率的な消毒には、消毒効果を最大限に発揮させつつ、消毒負荷を最小限に止めることが求められる。
酵素系洗浄剤による事前洗浄は、これを具現化するひとつの有望な手段であり、「負荷の少ない消毒薬への転換」、「消毒作用時間の短縮」、「高圧蒸気滅菌の精度向上」などの成果が期待できる。
したがって、高い性能を有する酵素系洗浄剤「ウルトラ・クレンザイム」が大手歯科企業である(株)モリタから発売された意義は大きい。

参考文献
  • 1) 良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律.(平成18年法律第84号)平成18年6月21日.
  • 2) 医療法(昭和二十三年七月三十日法律第二百五号)第三章 第六条の十.
  • 3) 奥田克爾:最新口腔微生物学.2005.3.
  • 4) John TR,Joan B,Willam K, et al,:Patient‑Patient Transmission of Hepatit:is B virus Associated with Oral Surgery. J Infect Dis2007;195:1311‑1334.
  • 5) 白石 正,仲川義人:ジクロロイソシアヌル酸Na顆粒の有機物存在下における殺菌効果の検討.臨床微生物Vol.23 №1. 2006.
  • 6) 大久保 憲,大塚和久,河合浩樹:電解酸性水の新しい知見.感染と消毒Vol.No,2.1995.
  • 7) 伏見 了,花村 亮,中田清三ほか:一次消毒された汚染物の洗浄障害について.医器学73(6):281‑286.2003.
  • 8) Bond ww,Favero MS,Petersen NJ,Gravelle CR,Ebert JW,MaynardJE,Survival of hepatitis B virus after drying and storage for one week [Letter]lancet 1981.
  • 9) 伏見 了ほか:酵素洗剤中プロテアーゼ活性の保存安定性および洗浄時温度と洗浄力の関係に関する研究.医器学70(12):648‑651.2003
  • 10) 社団法人日本歯科補綴学会:補綴歯科治療過程における感染対策指針.2007.7.
  • 11) 佐藤晶子,大西正和:試作除菌システムが印象採得物の寸法変化に与える影響について.日本歯科技工学会雑誌Vol.27 №2. Dec.2006.