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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

CLINICAL REPORT
エアーソルフィー舌苔チップを用いた舌ケアの臨床
安細敏弘

■目 次

■はじめに

舌苔とは主として舌背部に付着する汚れであり、バイオフィルムのひとつとされている。舌苔の構成成分は細菌、唾液成分、ならびに食べ物のカスなどとされ、口腔細菌のリザーバー(貯蔵庫)としての役割をしていることがわかってきた。舌苔は口臭の原因となるだけでなく、う蝕や歯周病の病態とも関連性が高いことが示唆されている。また、日常生活動作(ADL)が低下した高齢者では口腔清掃が不十分なことが多く、舌苔の付着も多いことがしばしばである。
これまで舌苔除去を目的としたツールとしては、すでに市販されている手用の舌ブラシがあるが、必ずしも効率的とはいえず、むしろ不適切な使用方法により舌粘膜を傷つけてしまい舌痛や舌の不快感などを訴え歯科医院を受診するケースが増加する傾向にある。我々は、こうした経験を踏まえプロフェッショナルケアとしてのツールの必要性を感じてきた。
そこで数年前から株式会社モリタ製作所と共同で、診療室ベースで簡便に用いることのできる舌ケアシステムを開発してきた(特許第4079745号)。
本システムは、エアースケーラー用の舌苔除去システムとしては世界初となる。本稿では、本システムを紹介するとともに特長について概説する。

■1.舌苔の正常と異常

正常な舌苔は、舌背後部にうすく付着し、その色は歯肉縁上プラークと同様な白色~うす黄色である(図1)。
一般の方がよく誤解している点として舌苔がないのが正常と考えていることである。全く舌苔がみられないのは無苔といい異常所見の一つである。典型的な例は平滑舌といわれる所見である(図2)。
また舌苔の色が茶色や黒色に変化する場合は異常所見である(図3)。こうした変化は長期的な薬剤服用や抵抗力低下が背景にあり口腔内細菌叢のバランスがくずれたときに起こるとされる。

  • 図1 舌苔の例
    図1 舌苔の例
    一般に舌苔は舌背後部にうすく付着し、その色は白色ないし薄黄色である。舌苔がついているとすべて異常と誤解している患者も多い。
  • 図2 無苔の例
    図2 無苔の例
    舌苔が全く付着していない、いわゆる平滑舌の例。高齢者に多い。舌の厚みも薄くなり舌乳頭が消失している。舌のヒリヒリ感や味覚異常を有することもしばしばである。
  • 図3 黒毛舌の例
    図3 黒毛舌の例
    舌苔の色が茶色であるケース。こうした変化は長期にわたる抗生剤服用や抵抗力減弱が背景にあることが多い。

■2.舌苔はどうして付着するのか

表1に舌苔付着に影響する因子を示す。大別すると口腔内因子と全身的因子である。
口腔内因子として唾液の流れや咀嚼機能や舌運動機能が重要である。唾液には本来、自浄作用と湿潤作用を有しており、舌や頰を適度に動かすことにより唾液分泌の促進ならびに機械的な舌苔除去につながっている。舌運動機能が低下し、口から食べない、あるいは義歯の不適合などで機械的刺激が低下すると乳頭の落屑と再生の均衡がくずれ糸状乳頭の伸長がみられると考えられている。このように舌乳頭の変化と舌苔の異常は深く関連している。
全身的因子として、唾液分泌が低下するシェーグレン症候群や長期的かつ多剤の薬剤服用ならびに免疫機能の低下があげられる。
服薬が多い患者では口腔乾燥や唾液分泌低下を併発したり、舌や口腔周囲筋の機能低下も有していることも多い。喫煙も一時的な口腔乾燥を惹起するので因子のひとつと考えられる。上部消化管の吸収障害があると糸状乳頭の角質化が亢進し舌乳頭が伸長するため舌苔が付着しやすくなるといわれている。
しかし、症状が慢性化し長期化すると逆に舌粘膜上皮の栄養不良のため舌乳頭の萎縮がおき舌苔の付着は減る(例えば、無苔の状態)。このように舌苔を診ることにより口腔と全身状態の把握の一助となるわけで、いわば健康度を知るマーカーという見方ができる。図4に舌苔の付着が及ぼす影響ならびに舌苔付着の背景となる要因のまとめを示す。

  • 表1 舌苔の付着に影響する因子
    表1 舌苔の付着に影響する因子
  • 図4 舌苔は口腔と全身状態のマーカー
    図4 舌苔は口腔と全身状態のマーカー
    舌苔付着が異常な場合その背景となる原因が存在する。いわば口腔と全身状態を把握するマーカーとも考えることができる。

■3.舌ケアシステム

舌苔をコントロールすることは口腔細菌叢のバランス改善になるため口腔内環境の保持に役立つ。そこで我々は舌苔除去を含めた舌粘膜のケアを総称して“舌ケア”と呼ぶことにする。

1)舌ケアシステムの概要
エアーソルフィーは、空気圧により毎分6000回の振動を発生し、チップに伝達することにより歯石・歯垢・舌苔の除去などを行うことができるエアースケーラーである。図5に振動の原理を示す。
ユニバーサルチップや、ルートプレーニングチップ、歯間部を清掃する、ブラシチップ等が準備されている(図6)。またエアタービン用のチューブにワンタッチで接続することができ、全体をオートクレーブ滅菌することも可能である。
舌苔チップは、舌苔除去専用に開発したリング状のブラシ部とチップ部からなり、注水を出しながらソフトタッチで効率よく短時間で舌苔を除去することが可能である。またブラシ部は簡単に交換することができる(図7)。

2)舌ケアの効能・効果
舌ケアの効果を表2に示す。口臭の軽減や誤嚥性肺炎の予防に加えて、舌痛の原因の一つとされる口腔カンジダ症の予防に効果がある。とくに溝状舌(図8)のような場合カンジダ菌が粘膜深くに入り込みやすく本システムが効果的と考えられる。
さらに舌ケアは味覚の改善に効果がある。味覚異常の原因として口腔乾燥や唾液分泌低下(ないしは舌粘膜の保湿度低下)によるものが多いが、そうしたケースでは舌苔が重度に付着していることが多い。味覚センサーである味蕾は有郭乳頭や茸状乳頭などの舌乳頭に組み込まれているが、舌苔が多く付着していると唾液分泌の低下により味覚物質の溶解度が低下し味覚感度が低下すると考えられる。こうした症例では本システムによる舌ケアは有効である。
このように適用症例は、歯周病や定期的な口腔のメンテナンス時、口腔乾燥症、舌痛症、口腔カンジダ症、味覚異常、口臭症である。
また喫煙者では舌苔が付着しやすいので適用症例に加える。ただし、無苔の患者や赤みの強い舌、平滑舌などの異常な舌における積極的な舌ケアは避ける方がよい。

3)操作方法・使用方法
1.器材の準備:(図9
①舌苔チップをエアーソルフィーに、チップ締付工具にて装着する。
②舌苔チップにブラシを挿入し、チップ締付工具で締め付ける。
2.ケア時のポジション
①通常は水平位(12時)で行う(図10)。
②高齢者や腰に不安をかかえる患者、えずく患者等では30度前後に傾けて立位で行うとよい(図1112)。
③バキュームテクニック
ツーハンドの場合(図13)、フォーハンドの場合(図14
バキュームは通常のバキュームで問題はない。ただし、舌に力が入りやすい患者では注水中に口(口角部)から水が漏れることがあるので十分留意する。
3.操作のポイント
①グリップと舌苔チップの圧(図15
舌苔チップを用いる際には力を入れすぎないこと。十分な注水下で軽くなでる程度で十分除去できる。デジタルフォースゲージによる測定では10~20gfであった。ちなみに手用舌ブラシを用いた場合では60~70gf、歯ブラシを使用した場合は100~130gfとかなりの圧が舌粘膜にかかっていることがわかった。
②パワーボリューム(図15
パワー調整は基本的に『大』のパワーを用いる。
③動作方向(図16
舌苔チップの動作方向は舌背の後方から前方が基本。ただし、えずきやすい患者や緊張しやすい患者、舌を前方に出しにくい患者などでは舌前方から舌後部に向けて様子をみながらゆっくり進めた方が有効な場合もある。
④適用範囲(図17
一般に舌苔チップを挿入する範囲としては舌背後部を起点としておおよそ舌背1/3までである。ただし、有郭乳頭あたりに付着する舌苔は生理的なものであるので舌根部に舌苔が付着していても100パーセント除去しようとしない。
⑤注水の量
注水の量は患者の反応をみながら適宜調整する。とくに舌に力が入りやすい患者では注意が必要である。

4)症例からみた舌ケアの実際
1.症例1(図18
60歳男性、口臭を主訴として来院。高血圧症治療薬を服用中。喫煙習慣はない。初診時のVSC値は硫化水素が0.68ng/10mL、メチルメルカプタンが0.75ng/10mLとやや高いVSC値を示した。安静時の唾液流出量が0.02mL/分と低く、舌運動機能の低下が舌苔付着に影響していると思われた症例である。
舌苔チップを用いて舌ケアを行ったところ、15秒ほどでほぼ除去可能であった(図19)。
2週間に1回の来院毎に舌苔チップを使用したところ舌苔付着が軽減し、VSC値の低下が認められた。
2.症例2(図20
68歳女性、口臭を主訴として来院。健康状態は良好。上顎を中心に補綴物が多く清掃不良ならびにBOP箇所が多くみられた。
初診時のVSC値は硫化水素が1.91ng/10mL、メチルメルカプタンが1.68ng/10mLと認知閾値より高いVSC値を示した。
舌苔チップによる舌ケアを行ったところ、20秒ほどでほぼ除去可能であった(図21)。
現在フォロー中であるが家族からの口臭の指摘はなくなったという。
3.使用感や感想など:舌ケアを済ませたあとに感想を聞くと、舌ケアの間口腔内で扱われているという感覚はほとんど感じないとのことであり、ケア後には口の中がすっきりした、ネバネバ感がなくなった、などのプラスの感想が得られた。

  • 図5 エアーソルフィー振動の原理
    図5 エアーソルフィー振動の原理
    振動子のノズルから噴出した圧縮空気により、振動体が振動しながら回転する。振動体の振動がチップに伝わることにより歯石、歯垢の除去等が可能。
  • 図6 エアーソルフィーシステム
    図6 エアーソルフィーシステム
    エアーソルフィーには、標準で①ユニバーサルチップ、②ブラシチップ、③チップ締付工具等が付属している。また④ルートプレーニングチップや今回開発した⑤舌苔チップはオプションで準備される。
  • 図7 舌苔チップ
    図7 舌苔チップ
    舌苔チップは、リング状のブラシ部とチップ部に分かれており、ブラシ部を患者毎に交換して使用する。
  • 表2 舌ケアの効果
    表2 舌ケアの効果
  • 図8 溝状舌の例
    図8 溝状舌の例
    溝状舌の例。舌を伸ばすと約5ミリ程度の溝が舌背中央部を中心に存在する。舌粘膜ならびに口唇・口角部の乾燥が顕著である。
  • 図9 器材の準備
    図9 器材の準備
    エアーソルフィーに付属のチップ締付工具でチップおよびブラシの装着が可能。締付工具により一定の力で締付が行えるので確実にチップ及びブラシの装着ができる。
  • 図10 ポジション 水平位の場合 フォーハンド
    図10 ポジション 水平位の場合 フォーハンド
    舌ケア時のポジションは水平位、12時の位置が基本。
  • 図11 ポジション 立位の場合 フォーハンド
    図11 ポジション 立位の場合 フォーハンド
    高齢者や腰に不安をかかえる患者ないし、えずきやすい患者、舌に力が入りやすい患者などではやや傾斜した位置の方がしやすいことがある。
  • 図12 ツーハンドの場合
    図12 ツーハンドの場合
    図11と同様に立位でツーハンドで行う場合のポジション。
  • 図13 バキューム(ツーハンド)
    図13 バキューム(ツーハンド)
    バキュームは舌苔チップの位置にあわせて適当に移動させる。慣れていない患者に対しては5秒したら5秒休むといったように無理せず少しづつ進めるとよい。とくに舌に力が入っているとエアーソルフィーからの水が口角部あたりから漏れることがあるので注意する。
  • 図14 バキューム(フォーハンド)
    図14 バキューム(フォーハンド)
    フォーハンドの場合。バキュームは舌背部に軽くのせ、舌苔チップの位置にあわせて適宜移動させる。患者さんの様子を見ながらゆっくり進める。術者との連携が大切となる。
  • 図15 グリップ
    図15 グリップ
    エアーソルフィーのパワーボリュームは通常“大”の位置で使用する。
  • 図16 動作方向
    図16 動作方向
    動作方向については舌背部後部から前方へという方向が基本である。ただし、えずきやすい患者や緊張しやすい患者、舌ケアに慣れていない患者などではいきなり舌背後部に舌苔チップを挿入すると抵抗感がある場合があるので、その場合は前方ないし中央部から徐々に奥へと進めるとよい。
  • 図17 舌チップの適用範囲
    図17 舌チップの適用範囲
    一般に適用範囲は舌背後部から舌背前方1/3までの範囲である。
  • 図18 症例1
    図18 症例1
    初診時の口腔内写真。最近家族から口臭を指摘されるようになったという。これまで舌苔についての認識がなく舌ブラシの使用経験もない。
  • 図19 症例1
    図19 症例1
    舌苔チップ10秒ほどの使用でほぼ除去された。
  • 図20 症例2
    図20 症例2
    初診時の口腔内写真。臼歯部に補綴物が多く辺縁部にプラーク残存が認められた。これまで舌ブラシの使用経験はない。
  • 図21 症例2
    図21 症例2
    舌の奥にふれるとえずきやすかったが、舌苔チップを20秒ほど使用することでほぼ除去された。

■おわりに

今回新たに開発した舌ケアシステムについて概略を説明した。本システムの目的は、先に述べたように舌苔を単に除去することではなく、口腔内科的視点から舌苔をとらえることを基本理念としている。舌苔のレベルが正常か異常かを見極め、その上で原因に対してアプローチすることがポイントであることを強調しておきたい。舌苔を診ることは口腔と全身状態のマーカーになるだけでなく、舌ケアは口腔内環境を良好に保つ上で不可欠であると思われる。
本システムは、歯・歯ぐき・舌(ないし口腔粘膜)の健康を維持増進する次世代型口腔ケアツールとなると考えている。今後、歯科医療者は国民に対して舌苔や舌ケアについての情報を発信していく努力が必要と思われる。将来的にホームケア用、訪問診療用のシステムの開発にも取り組んでいく予定である。

参考文献
  • 1) 安細敏弘、柿木保明 編著:今日からできる口腔乾燥症の臨床―この主訴にこのアプローチ、医歯薬出版、東京、2008.
  • 2) 柿木保明、西原達次 編著:歯科医師、歯科衛生士のための舌診入門―新しい歯科医療の展開、ヒョーロン・パブリッシャーズ、東京、2001.