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133号 SUMMER 目次を見る

CLINICAL REPORT

ハッチリーマーキットの使用経験

佐藤淳一/矢田浩章

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目 次

はじめに

サイナスリフトを行うには側方からと歯槽頂からのアプローチに分類され論じられている。これらに共通した問題点としては、上顎洞粘膜の損傷、上顎洞底の骨不整が挙げられ、これらによって術式の適応を判断するポイントにもなっている。
また、歯槽頂からのアプローチは側方からのアプローチに比較して、術式が簡単で、手術侵襲が少ない利点があり、より好んで用いられる手法である1, 2)。しかし、歯槽頂よりのアプローチについては、オステオトームを使用する方法が一般的であるが、側方からのアプローチに比較して失敗症例が多いこと3 , 4)、ブラインドテクニックであること、槌打することによる頭部への侵襲などの欠点がある。
これらの点を改善する目的にて、内視鏡を使用し洞粘膜の損傷を確認する方法5)、洞粘膜の損傷が少ないピエゾサージェリーで行う方法6)などが紹介されている。
そこで今回、サイナスリフトの歯槽頂アプローチ用に開発された、上顎洞粘膜の損傷と手術侵襲が少ない、ハッチリーマーキット(サイナステック社製造<韓国>、(株)モリタ製造販売)を使用する経験を得たので、報告する。

ハッチリーマーの概要

ハッチリーマーキット(図1)は、Dr. Sang Hun‑Ahn(Baek Doo Dental Clinic 韓国)によって開発された、エンジン用のリーマーを使用して、上顎洞粘膜と上顎洞底を同時に挙上する、新しい歯槽頂よりアプローチするサイナスリフトの方法である(図2)。
ハッチリーマーの構造と特徴は先端部位にあり、骨削する方法が2種類あり、2重構造になっている点である(図3)。
その1つはカッティングアングルと呼ばれる部位で、先端が比較的鋭利になっており、この部位で最初にリーマー先端の骨を断面が三角形になるように削除する。
次に2つ目の水平になった刃の部位ではリーマーの長軸方向に対して直角に円柱状に骨削する。
この2種類の刃先が生み出す骨削量と高さの違いが、所謂「ハッチ」のように上顎洞内に骨窓を開窓することになる(図4)。
この骨削のシステムを応用すると、傾斜している上顎洞底部位の上顎洞粘膜も損傷することなく挙上可能となる(図5)。
リーマーの先端部位にはグルーヴが形成されており、骨削除片を集めることが可能になっている。また、青色のマークはリーマー先端より5、7、9、11、13mmを示している。このリーマー径は、2.5(白)、3.0(赤)、3.5(オレンジ)、4.0(黄)、4.5(緑)mmで、それぞれの太さに色分けされている(図6)。

  • ハッチリーマーキットの写真
    図1 ハッチリーマーキット

  • 図2

  • 図3

  • 図4

  • 図5

  • 図6

  • 図7

  • 図8

  • 図9

ハッチリーマーの基本操作

  • (1) ラウンドバーにてインプラント埋入部位に、深さ約1mm、直径2.3~3.5mmでマーキングをする(図7)。
  • (2) インプラントの初期固定を得るために、埋入するインプラントより1.0~1.5mm細い径のハッチリーマーを選択する。歯槽頂から上顎洞底までの距離よりも、1mm深くハッチリーマーで形成し、この深さに合わせてストッパーを選択する。リーマーの回転速度は無注水下では50rpm以下で行い、ハッチを形成する(図8)。
  • (3) デプスゲージの先端をインプラント形成窩の骨壁に沿って上顎洞底側に進め、先端が上顎洞底に達したところで、慎重に回転しつつ、上顎洞底に沿わせながら上顎洞粘膜の一部を剥離挙上する(図9)。
  • (4) 骨移植材をインプラント埋入窩形成部位に充塡後、ボーンコンデンサーを用いて無圧下に上顎洞粘膜側に押し上げる。歯槽頂から上顎洞底までの距離が2~6mmの場合には、この過程を2~3回繰り返し、ボーンコンデンサーに軽度の塡入圧がかかるまで行う(図10)。インプラントの先端が2mm以下上顎洞底より突出する程度であれば、骨移植材を塡入しないかあるいはテルプラグなどのコラーゲン製剤を使用するのみでも可能である(図11)。
  • (5) 5)ハッチを形成したリーマーより0.5mm細いリーマーで、ハッチ形成時よりさらに1mm深くドリリングする。この時は無注水下30rpmのスピードで行う(図12
  • (6) 埋入窩形成部位に骨移植材を充塡し、ボーンコンデンサーを用いて無圧下に上顎洞粘膜側に押し上げる。歯槽頂から上顎洞底までの距離が2~6mmの場合にはこの過程を2~3回繰り返し、ボーンコンデンサーに軽度の塡入圧がかかるまで行う(図13)。
  • (7) ハッチを形成したリーマーよりも0.5mm細い径を用いて、ハッチを形成時の深さよりさらに2~3mm(使用するインプラントの長さの1~2mm浅く)深くドリリングを行う。この時は無注水下30rpmのスピードで行う(図14)。
  • (8) 骨移植材をインプラント埋入窩に塡入し、インプラントを埋入する(図15)。

  • 図10

  • 図11

  • 図12

  • 図13

  • 図14

  • 図15

  • 図16

  • 図17

  • 図18

  • 図19

  • 図20

  • 図21

  • 図22

  • 図23

  • 図24

症例

患者:73歳、女性
主訴:右上顎臼歯部のインプラント治療
既往歴:甲状腺機能の低下があり、ビスフォスフォネートを服用していたが、インプラント治療を行うため、抜歯3ヵ月前より中止。
家族暦:特記事項なし
臨床経過:7 6 5 にブリッジが装着されていたが、5 が破折し抜歯され、インプラントの治療のため紹介来院。
インプラント埋入1ヵ月前に抜歯を行い、抜歯部位の粘膜上皮化を待った。抜歯後のオルソパントモ像とCT像より、歯槽頂より上顎洞底までの距離は5mmであった(図1617)。直径4.3mm長さ10mmのインプラントをソケットリフト法により3本埋入することにした。粘膜切開後骨膜を剥離すると、抜歯窩が認められた(図18)。通法に従いインプラント埋入窩をラウンドバーにて形成し、直径3.5mmのハッチリーマーに6mmのストッパーを取り付け、無注水下低速回転にしてハッチを形成した(図19)。デプスゲージで洞粘膜を一部剥離挙上し(図20)、インプラント埋入周囲よりボーンスクレイパーで骨採集し、採取骨をインプラント埋入窩に塡入後、ボーンコンデンサーにて上顎洞粘膜側に押し上げた(図21)。次に直径3.0mmのハッチリーマーに7.5mmのストッパーを取り付け、無注水下低速にてドリリングした。同様に自家骨を塡入後、同じリーマーに9.0mmのストッパーを取り付け、ドリリングを行い、自家骨を塡入後直径4.3mm長さ10mmのインプラントを埋入した(図22)。術後のオルソパントモ像とCT像であるが、インプラント周囲に骨様構造が確認され、上顎洞粘膜の穿孔などは認められなかった(図2324)。

まとめ

ハッチリーマーキットは、エンジンを使用して骨削を行いながらハッチを形成する、上顎洞底のウィンドウテクニックを行うことができる最初のシステムである。ソケットリフトの欠点として、上顎洞粘膜の挙上量が多くなると骨の新生が不良になり、インプラント先端の骨吸収が起こることが指摘されている。しかし上顎洞底には骨形成能があり7)、この上顎洞底のウィンドウテクニックを使用することで、開窓部の骨片からも骨形成が期待できると推測された。エンジンを低速回転で使用するため、手術侵襲も少なく、オステオトームのように槌打する必要もなく、骨質に無関係にアプローチできる点で汎用性の高いシステムと思われた。
またオステオトームで失敗が多いのは、傾斜している上顎洞底であるが、ハッチリーマーはこの傾斜している上顎洞底の挙上も可能となっており、今までにない有用性の高い、適応が広いサイナスリフトの歯槽頂アプローチ法と思われた。

参考文献
  • 1) 瀬戸晥一、佐藤淳一:インプラント歯学の実際、クインテッセンス. 2006. 東京.
  • 2) Kim SG、Mitsygi M、Kim SD:Simultaneous sinus lifting and alveolar distraction of the atrophic maxillary alveolus for implant placement : a preliminary report. Implant. Dent.14(4) : 344‑346, 2005.
  • 3) Jaccoti M:Simplified onlay grafting with a 3‑dimensional block technique : a technical note. Int. J. Oral and Maxillofac. Implants. 21(4) : 635‑639, 2006.
  • 4) 西多直規、室木俊美:ソケットリフト法を応用したインプラント埋入症例に関する臨床的検討. 日口腔インプラント誌. 18(3) : 415‑424, 2005.
  • 5) Nkenke E、Schlegel A、Schultze‑Mosgaus S、Neukam FW:Wilntfang J. The endoscopically controlled osteotome sinus floor elevation : a preliminary prospective study. Int. J. Oral Maxillofacial Implants.17 (4) 557‑566, 2002.
  • 6) Tomaso Vercellotti:ピエゾサージェリーのすべて、クインテッセンス. 2009. 東京.
  • 7) 日高豊彦、渡辺孝夫、佐藤淳一:骨補填材を用いた上顎洞底挙上術同時インプラント植立のイヌ前頭洞における実験的研究. 鶴見歯学31(1) : 65‑80, 2005.

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