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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

CLINICAL REPORT
インプラント治療におけるEr:YAGレーザーの活用 (レーザーパンチング法)
高道麻臣

■目次

■はじめに

歯牙の欠損補綴においてインプラントによる欠損補綴が選択されることが多くなり、咬合の再構築はもちろんのこと、残存骨の少ないところなどに対する、いわゆる難症例や、前歯部においては審美的要素が重要視されるようになって久しい。
より早く、より正確に、長期に咬合を支持することが求められている中、日々新しい埋入方法や新しい器具が開発され、臨床においても使用されることが多くなってきているが、ことレーザーに関しては、あまり論議される機会が少ないように思える。
今回、Er:YAGレーザー・アーウィン アドベール(株式会社モリタ製作所)をインプラント治療に使用した症例を報告させて頂く。

■インプラント治療にレーザーを用いるに当たって

利点
1. 殺菌効果
2. 創傷治癒の早さ
3. 歯肉に対する形態付与の安易性
4. 出血の少なさ=血液による感染予防
注意事項
1. インプラント体に対する熱的影響
2. インプラント周囲組織への熱的影響
3. インプラント体への機械的影響(傷)

■何故にEr:YAGレーザーを使用するのか

インプラント治療にレーザーを使用するにおいて、もっとも考慮しなければいけないのは、インプラント体に熱的エネルギーが加わることにより、周囲の骨組織が40℃以上になると骨芽細胞が死滅することに起因し、骨とのインテグレーションが破壊されインプラントロスに繋がる危険性が高くなることではなかろうか。
Er:YAGレーザーは組織表面吸収型のレーザーであり、その波長特性からほとんどのエネルギーは水(水酸基)に吸収されるため、同じ組織表面吸収型レーザーであるCO2レーザーと比べて約10倍の水分吸収性をもつ。
このことは、インプラント体およびインプラント周囲の骨や軟組織に対する熱的損傷が少なくて済むことを意味する。
図1に示されるように、ウシの肝臓を各種レーザーにて切開したときに見られる蛋白変性凝固層は、Er:YAGレーザーにおいてはわずかである。
また、インプラント体にCO2レーザーを3Wにて照射した直後(図2)とEr.YAGレーザーを25pps・30mJにて照射した直後(図3)を比べてみると、CO2レーザーではインプラント体の一部では50℃を超えているようにみえるが、Er:YAGレーザーにおいては40℃を超えることは無い。
このことからも、同じ表面吸収型のレーザーであるCO2レーザーとEr:YAGレーザーを比べてもインプラント治療に使用するにはEr:YAGレーザーの方がより安全であると思われる。

  • レバー切開4波長
    図1 レバー切開4波長
  • CO2-3W(照射終了直後)の写真n
    図2 CO2-3W(照射終了直後)
  • Er:YAG 25pps‑30mJ(照射終了直後)の写真
    図3 Er:YAG 25pps‑30mJ(照射終了直後)

■症例での比較

症例にてEr:YAGレーザーとCO2レーザーを比べてみよう。
それぞれ出力はCO2レーザー(4.0W)、Er:YAGレーザー(20pps、40mJ)である。
図4左側がCO2レーザー、右側がEr:YAGレーザーを用いてレーザーパンチング法にてインプラントの二次手術を行った症例である。
左側の方では炭化層が見えるが出血はほとんどない。右側の方では出血は見られるが、炭化層は見られない。
術後3日後(図5)を見てみると、左側には取りきれなかった炭化層が残っており、歯肉辺縁には蛋白変性層を認める。右側では左側に比べ内縁上皮が綺麗に見える。
術後1週間後(図6)では、両方ともインプラントの周りの歯肉は綺麗に治癒している。歯肉の厚みも違うし術者の技術にもよるとは思うが、CO2レーザーに比べてEr:YAGレーザーの方が治癒が早く感じられる。

  • 左 CO2、右 Er:YAGの写真
    図4 左 CO2、右 Er:YAG
  • 術後3日後の写真
    図5 術後3日後
  • 術後1週間後の写真
    図6 術後1週間後

■Er:YAGレーザーとメスとの比較

Er:YAGレーザーにてレーザーパンチング法で二次手術を行った直後(図7‑1)とパンチングメスにて二次手術を行った直後(図8‑1)の比較である。
筆者の技術の無さからかもしれないがパンチングメスを使用すると若干ずれることがある。この症例でもわずかに遠心方向にずれている。
レーザーを用いた二次手術では、インプラントの位置を確認しながら行えるので、ずれる心配は少なくて済む。このことにより、的確な位置に適切な形態を付与することができるという利点もある。
次ページ図9は1日後の治癒の比較である。
ここで注目していただきたいのは歯肉の退縮量の違いである。
Er:YAGレーザーの症例はヒーリングキャップの形態にある程度あわせて歯肉整形をした後にヒーリングキャップを閉めているが、パンチングメスでは歯肉整形ができないので、理想的な補綴形態を得るために歯肉を圧迫した状態でヒーリングキャップを閉めこんでいることにより歯肉の退縮量は増加する。
レーザーによる切開(蒸散)とメスによる切開を細胞レベルで比べてみると、レーザーによる切開(蒸散)の場合は切開面に上皮の貫入が無いので治癒は早くなる。
また、Er:YAGレーザーにおいては切開面に変性層ができづらいため、CO2レーザーによる蒸散と比べると治癒が早いと考えられる(図10)。

  • Er:YAG 直後の写真
    図7‑1 Er:YAG 直後
  • Er:YAG 1日後の写真
    図7‑2 Er:YAG 1日後
  • Er:YAG 1W後の写真
    図7‑3 Er:YAG 1W後
  • パンチングメス直後の写真
    図8‑1 パンチングメス直後
  • パンチングメス1日後の写真
    図8‑2 パンチングメス1日後
  • パンチングメス1W後の写真
    図8‑3 パンチングメス1W後
  • 術後1日の写真
    図9 術後1日
  • レーザーによる歯肉切除ビーグル犬 左上前臼歯220pps×70mJ、非注水の写真
    図10 レーザーによる歯肉切除ビーグル犬 左上前臼歯220pps×70mJ、非注水
  • Er:YAG、CO2、メスの比較
    図11‑1 Er:YAG、CO2、メスの比較
  • Er:YAG、CO2、メスの比較
    図11‑2 Er:YAG、CO2、メスの比較
  • インプラント治療でのレーザー活用
    図11‑3 インプラント治療でのレーザー活用

■レーザーパンチング法

利点
1. 出血が少ないもしくは出血が無いことにより、インプラント内を血液により汚染する可能性が少なくなる。
2. レーザーパンチングの方が位置の調整が可能である。
3. 歯肉に対して切開線が無く、術後の感染の可能性が少なくて済む。
4. CO2レーザーに比べて切開線が綺麗であり、蛋白変性層も少ないので術後の治癒が早い。
欠点
1. 使用法によってはインプラント体にレーザー光が当たることで、インプラント体がヒーティングを起こすことにより、インプラントをロスすることにつながる可能性がある。
2. パンチング法の場合、ヒーリングキャップを締めこむ時に歯肉を巻き込む可能性があり、感染の可能性が高くなる。
3. 基本的には、インプラント周囲に充分な角化歯肉が存在する症例が適応症である。

■レーザーパンチング法術式

埋入時に使用したシーネを用いインプラント埋入部位にマーキングをする。20pps、40mJにてS600チップ使用(図1213)。
マーキング位置よりカバースクリューのセンターが見えるまで徐々に拡大し、カバースクリューを緩め、インプラント体より浮かせる(図14)。
カバースクリューの外形に沿って歯肉を切除する(図15)。
カバースクリューを外し、インプラント体を確認する。使用するヒーリングキャップの外形に合わせ歯肉をトリミングする(図16)。このときインプラント体に直接レーザー光が当たらないように再度カバースクリューをつける。
ヒーリングキャップを規定トルク値によりしっかりと締める。
なるべく歯肉の退縮を防ぐためにヒーリングキャップ周囲の歯肉が鬱血しないようにする(図17)。
その後インプラント体とヒーリングキャップに隙間が無いかX‑RAYにて確認する(図18)。


  • 図12

  • 図13

  • 図14

  • 図15

  • 図16

  • 図17

  • 図18

■おわりに

レーザーというと、一時期は「怪しい器具」「魔法の光」などと揶揄されることもあり、使用することを躊躇されがちな器具ではあったが、それはレーザーに関する知識の無さや、エビデンスの少なさ、目に見えないレーザー効果のみがもてはやされてきたからではないだろうか?
メス、電気メス、超音波機器などと同じ器具として正しい知識と理論を踏まえながら、己の技術を日々研鑽し基礎的なエビデンスを積み重ねることにより、Er:YAGレーザーは、患者さんはもちろん術者にとっても優しい器具となりえると思う。
筆者のつたない症例が少しでも日常の臨床のヒントになれば幸いである。

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