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134号 AUTUMN 目次を見る

CLINICAL REPORT

共振型音波歯ブラシ DENT.EX systema ビブラートケアの慢性歯周炎に対する効果

明海大学歯学部 口腔生物再生医工学講座 歯周病学分野 助教大塚秀春/准教授 林 丈一朗/教授 申 基喆

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■目次

■はじめに

近年、電動歯ブラシは、家電量販店やドラッグストアなどでも容易に入手できるようになり、一般的な口腔清掃用具として認知されるようになってきた。なかでも音波発振を応用したものは、プラーク除去効果が高い1)ことが知られ、広い年齢層に受け入れられている。
今回、共振型音波歯ブラシに高度テーパード毛ブラシを組み合わせた「DENT.EX systema ビブラートケア:以下 システマ ビブラートケア」(ライオン歯科材株式会社)(図1)が、発売された。共振を応用した電動歯ブラシは低い振動数でも効果的なプラーク除去ができる2)ことが示されており、歯周ポケット内のプラーク除去効果が高いとされる高度テーパード毛ブラシ3)との組み合わせにより、歯周病患者への適用が期待されている。
本稿では、「共振型音波歯ブラシ」の特徴について概説し、「システマ ビブラートケア」を用いてプラークコントロールを行い、臨床的および細菌学的に評価を行った慢性歯周炎の症例を提示する。

  • DENT.EX systema ビブラートケアと充電器のセット
    図1 DENT.EX systema ビブラートケアと充電器のセット

■共振型音波歯ブラシ

共振(きょうしん)とは、物理的刺激により起こる物の固有振動を意味する。共振の特性を表す単位にはQ値が用いられる。Q値が大きいほどエネルギーの分散が小さく、狭い振動数の帯域で共振が起こる。地震の際の橋や建物の崩壊は、建造物の固有振動が地震の振動と共振する際に起こりやすいと考えられている。
「システマ ビブラートケア」は、ネック部に内蔵された偏心分銅の振動によって固有の振動振幅を発生する機構が取り入れられている。共振型音波歯ブラシは、歯ブラシ本体の共振を利用することによって、歯ブラシの毛先に効率良く力を伝導することを可能にする。
2008年に歯磨工業会が行った10~60歳代の2,110名を対象にした歯磨き習慣についての調査によると、男性の50.7%、女性の71.0%に昼食後に歯を磨く習慣があった(日本歯科新聞 2008年5月27日)。
「システマ ビブラートケア」は、従来の音波歯ブラシに比べて、筐体全体の軽量化が図られているため、会社や学校での「お昼磨き」にも適している。

■歯周病ケアのできる人に優しい音波歯ブラシ

強すぎるブラッシング圧によって、歯周組織に偶発症があらわれることは古くから知られている。歯肉退縮(図2)、くさび状欠損(図3)、およびそれらの実質欠損から象牙質知覚過敏症が併発することもある。
電動歯ブラシは出力や振幅が規格化されており、患者はブラシを歯面に当てるだけですむため、このような偶発症が起こりにくいものと考えられている。
両角らによる共振型音波歯ブラシのプラーク除去効果をみた研究では300gfのブラッシング圧では、高速、中速、低速の順に除去効果が高かったのに対して、100gfのブラッシング圧では、高速、低速、中速の順で、低速の方が中速よりも優位であった2)。「共振領域」を使うことによって、200gfに満たない「添える」程度の力でプラークコントロールができることは、特に歯周病患者への応用に適していることが示唆される。
高度テーパード毛は、歯肉軟組織に対するストレスが小さいと言われている。有限要素法による歯肉溝モデルでの解析(図4)では、テーパード毛の歯肉に対する最大応力が1,800 g/cm2 であったのに対して、高度テーパード毛は300 g/cm2 で、歯肉に与えるストレスは1/6であった4)
われわれの診療室でも歯肉の炎症の強い患者や歯周外科処置の術後の患者などにはDENT EX. systema 44Mや軟毛の歯ブラシを勧めることが多い。
「システマ ビブラートケア」は、健康な人の歯周病予防から重度の歯周炎患者の治療のためのプラークコントロールにまで適用できる、人に優しい音波歯ブラシであると考えられる。

  • 歯肉退縮
    図2 歯肉退縮
  • くさび状欠損
    図3 くさび状欠損
  • 有限要素法による歯肉溝モデルでの毛先侵入の際の応力の解析 a:高度テーパードブラシ、b:テーパードブラシ 高度テーパードブラシの応力は、テーパードブラシの約1/6であった。
    図4 有限要素法による歯肉溝モデルでの毛先侵入の際の応力の解析 a:高度テーパードブラシ、b:テーパードブラシ 高度テーパードブラシの応力は、テーパードブラシの約1/6であった。

■症例

1. 症例の概要
被験者は、歯肉の腫脹を主訴に来院した69歳の女性、現在歯は23歯であった。歯周検査およびエックス線検査の結果から、慢性歯周炎と診断した。
初診時のプラークコントロールレコードは、58.7%で、過去に電動歯ブラシを使った経験はなかった。患者には特記する全身疾患はなく、過去、6か月の間に抗菌剤の服用はなかった。
インフォームドコンセントを得た後、バス法によるブラッシング指導を行った。実験期間中には、超音波スケーラーおよび手用スケーラーによるスケーリングは行わなかった。

2. ブラッシングの条件
左側を実験側として「システマ ビブラートケア」の試作品Sブラシ(図5)とし、高速側の共振モード(スウィングモード)を使用した。
対照側の右側には手用歯ブラシ DENT EX. systema 44M(図6)を用いた。ブラッシング方法はバス法として、1日に2~3回、左右側それぞれ3分間ずつ磨くように指示した。
実験期間は2週間で、実験歯は上顎左側第二小臼歯、対照歯は上顎右側第二小臼歯とした。

3. 臨床的診査項目
診査は、ベースライン時(BL)、1週後(1W)、および2週後(2W)の3回行った。
診査項目は、① Pℓ(I plaque index)、② Pℓ(I BP:頰側口蓋側)、③ PℓI(MD:近遠心側)、④ BOP(%)、⑤ GI(Gingival index)、⑥ GCF(歯肉溝浸出液量、ぺリオトロン値)、およびPPD(Probing Pocket Depth)を用いた。

4. 歯周病原細菌の検査
実験歯に限って、遠心頰側の歯周ポケット(PPD 5mm)を対象として細菌検査を1Wおきに行い、ポケット内の細菌の動態を検査した。
ペーパーポイントで採取したプラークサンプルはリアルタイムPCR法(株式会社ビー・エム・エル)により分析し、① 総細菌のコピー数および② 歯周病原細菌(Actinobacillus actinomycetemcomitans, Porphyromonas gingivalis, Prevotella intermedia, Tannerella forsythia, Toreponema denticola, Fusobacterium nucreatum)のコピー数を算出した。

  • システマ ビブラートケアの試作品のブラシ
    図5 システマ ビブラートケアの試作品のブラシ
  • DENT EX. systema 44Mのブラシ
    図6 DENT EX. systema 44Mのブラシ

■結果

ベースライン時と2W時の口腔内写真(図78)の比較では、2W時の歯肉の方が、腫脹や発赤が軽減しているように見えた。
また、実験側(図9)および対照側(図10)の歯肉は、ともに経時的に辺縁歯肉の腫脹および発赤が軽減していく傾向が認められ、臨床的パラメーター(表1)からも、両群ともに2W時の方が、BOPおよびGCFに改善する傾向が見られた。
PℓIによるプラーク除去の評価では、両群ともにPℓI(BP)は0に改善したが、2W時のPℓI(MD)では、実験群が0.5であったのに対して、対照群は1.0であった。
実験側の歯周病原細菌の検査(表2)では、総細菌数がベースライン時から1W時で約1/3、さらに1W時から2W時で約1/3のコピー数に低下した。
また、歯周病原細菌についても同様に減少する傾向が認められた。

  • ベースライン時の口腔内写真
    図7 ベースライン時の口腔内写真
  • 2週後の口腔内写真
    図8 2週後の口腔内写真
  • 実験側の歯肉の経時的変化
    図9 実験側の歯肉の経時的変化
  • 対照側の歯肉の経時的変化
    図10 対照側の歯肉の経時的変化
下の表は横スクロールできます
  • 臨床所見の経時的変化 PℓI : Plaque index, BP: 頰側および口蓋側, MD: 近心および舌側, BOP: Bleeding on Probing, GI: Gingival Index, GCF: Gingival Crevicular Fluid , PPD: Probing Pocket Depth
    表1 臨床所見の経時的変化
    PℓI : Plaque index, BP: 頰側および口蓋側, MD: 近心および舌側, BOP: Bleeding on Probing, GI: Gingival Index, GCF: Gingival Crevicular Fluid , PPD: Probing Pocket Depth
  • 細菌検査の経時的変化(実験側)A.a: Actinobacillus actinomycetemcomitans, P.g: Porphyromonas gingivalis, P.i: Prevotella intermedia, T.f: Tannerella forsythia, T.d: Toreponema denticola, F.n: Fusobacterium nucreatum
    表2 細菌検査の経時的変化(実験側)
    A.a: Actinobacillus actinomycetemcomitans, P.g: Porphyromonas gingivalis, P.i: Prevotella intermedia, T.f: Tannerella forsythia, T.d: Toreponema denticola, F.n: Fusobacterium nucreatum

■考察とまとめ

本症例においては、「システマ ビブラートケア」は手用歯ブラシと比較してプラーク除去効果が高く、歯肉の炎症の軽減に有効であった。
細菌学的評価においても、歯肉縁下の総細菌数および歯周病原細菌数ともに著明に減少することが示された。今後、観察期間を長くし、さらに症例数を増やして検討を行う予定である。
われわれのグループで行った超音波歯ブラシの慢性歯周炎患者に対する効果をみた実験では、超音波歯ブラシは、隣接面のプラーク除去に優れ、GCFを低下させるという結果が得られている5,6)
しかしながら、超音波歯ブラシは、自発的な振幅が小さく、患者自身の力に頼らなければ有効なブラッシングが行えなかった。
それに対して、「システマ ビブラートケア」は歯肉に対するストレスを可及的に抑え歯面に添えるだけで、安全かつ効果的なブラッシングを可能にする。これまで、音波歯ブラシは出力が強く、歯肉の炎症の強い患者には向かないというイメージがあったが、「システマビブラートケア」は炎症症状のある患者への適用にも有用であると思われる。

参考文献
  • 1) 深谷千絵ら:音波歯ブラシと超音波歯ブラシのプラーク除去効果. 日歯保存誌. 48, 481‑487, 2005.
  • 2) 両角佑子ら:共振を応用した音波式電動歯ブラシのプラーク除去効果. 日歯周誌. 50, 97‑103, 2008.
  • 3) 藤川謙次ら:高度テーパード毛歯ブラシのプラーク除去効果に関する研究. 日歯周誌. 36, 206‑214, 1994.
  • 4) 伊藤 龍ら:非線形有限素法による歯ブラシ毛の挙動解析. 日歯周誌. 36, 188‑196, 1994.
  • 5) 大塚秀春ら:超音波歯ブラシの慢性歯周炎に対する臨床的効果. 日歯保存誌. 52, 199‑207, 2009.
  • 6) 谷田部一大ら:ルートプレーニング後の再感染に対する超音波歯ブラシの効果. 明海歯科医学. 36, 129‑134, 2007.

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