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TRENDS

ダイアグノデント ペンを活かす

愛知学院大学歯学部 保存修復学講座 教授千田 彰/准教授 冨士谷盛興

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■目次

■ダイアグノデント ペンと開発の背景

歯科医療は「ムシ歯洪水時代」の混乱を経て、現在の発展に至っている。この経過の中で、私たちは、いわゆる対症療法、すなわち「う窩をみつけ、削ってつめる」や「(う窩の)早期発見・早期(修復)治療」に奔走してきたことは事実である。しかしながら、これら「削ってつめるだけの治療」では、もはや社会の理解を受けることができず、FDI宣言のとおり、患者や患歯を管理しなが
ら、疾患を予防し、進行を抑制してその健康を保ち、増進する歯科医療を目指すことが望まれている。
このような歯科医療を取り巻く時代の趨勢の中、歯のう蝕治療も、初期(表層下脱灰している状態)であれば、再石灰化を図って治癒させることも可能であり(図1a, b)、また、う窩の象牙質も一部は環境を整えることによって再石灰化させて歯髄の温存を図ることも可能であることが実証されてきている(IPC : Indirect PulpCapping、暫間的間接覆髄、A‑IPCとして保険収載もさ
れている)(図2a, b)。しかし初期う蝕、う窩象牙質を如何に非侵襲的に診断するか(見分けて判断するか)については、歯科界にとっては永らくの課題でもあった。
そのような中、1999年にドイツのHibstがレーザーの蛍光強度を測定することによって、歯を削ったりすることなく、う蝕歯質と健康歯質を判定できることを発表し1)、KaVoからダイアグノデント(DIAGONOdent)という診断器が発売された(図3)。同時にスイスのLussiらがヨーロッパ各地の研究機関において、この機器の臨床評価を行って、従来の視診、インピーダンス測定法などとも比較し、感度(疾患を見出す精度)と特異度(疾患ではないと判断する精度)の両面で優れた機器であることを報告している2)
このダイアグノデントは、日本にも紹介され、一定の普及をみたが、当時は隣接面用のチップがなく隣接面う蝕の検査に不都合であることや、当時の日本では、まだう蝕に対して「対症的な対応」が一般的で、患者・患歯管理型の体制が十分とられていなかったことから、期待されたような普及をみなかった。

  • う蝕は、歯面の最表層ではなく、表層下10から20μmの部分の脱灰から始まる(表層下脱灰)。
    図1a う蝕は、歯面の最表層ではなく、表層下10から20μmの部分の脱灰から始まる(表層下脱灰)。
  • 表層下脱灰は、適切なプラークコントロールやフッ化物塗布などで確実に再石灰化して行く。
    図1b 表層下脱灰は、適切なプラークコントロールやフッ化物塗布などで確実に再石灰化して行く。
  • 深く、多量の感染象牙質をもつう窩で、抜髄を考えるような場合でも、一定の条件があれば、無麻酔下で完全に崩壊した象牙質取り除き、水酸化カルシウム剤を置いて数ヵ月の暫間的な修復を行ってみる。
    図2a 深く、多量の感染象牙質をもつう窩で、抜髄を考えるような場合でも、一定の条件があれば、無麻酔下で完全に崩壊した象牙質取り除き、水酸化カルシウム剤を置いて数ヵ月の暫間的な修復を行ってみる。
  • 経過観察し、3~6ヵ月後、麻酔下で再開拡し、窩底の象牙質を通法で除去して行くと、最石灰化して硬化した象牙質が得られる(これらをIPC法と称し、健康保険ではA‑IPC法として収載している)。
    図2b 経過観察し、3~6ヵ月後、麻酔下で再開拡し、窩底の象牙質を通法で除去して行くと、最石灰化して硬化した象牙質が得られる(これらをIPC法と称し、健康保険ではA‑IPC法として収載している)。
  • 従来のダイアグノデント(DIAGNOdent)と咬合面用プローブ。隣接面用プローブの登場が待望されて久しかった。
    図3 従来のダイアグノデント(DIAGNOdent)と咬合面用プローブ。隣接面用プローブの登場が待望されて久しかった。

■ダイアグノデント ペンの登場

ダイアグノデントの開発、普及を受け継いで、ダイアグノデント ペン(DIAGNOdent Pen)が欧米で紹介され、いよいよ日本国内でも(株)モリタから販売されることとなった。
使用法なども含め、その詳細はすでに本誌前回号(中川孝男先生)に紹介されている。前回号で紹介されているように、従来のダイアグノデントとは、かなり大幅なモデルチェンジがされた(図4a, b)。
一言で言えば、コンパクトになった、使いやすくなったということであるが、形だけのことではなく、従来の咬合面用プローブと同様に使用できる裂溝/平滑面用プローブ(図5a)と隣接面部検査用のプローブ(図5b)が装備されたことも含め、操作機能面でのグレードアップも進んだ。また、測定値による臨床的な対応も示している。その後、改編され表1となった。
著者らは、国内への紹介に先立ち、このダイアグノデント ペンに関し、いくつかの基礎的な研究を行った(第131回日本歯科保存学会にて、青山らが発表)。
まずダイアグノデント ペンの隣接面用プローブと、従来のダイアグノデント咬合面用プローブによる測定値の整合性を検討した。図に示すようなう蝕(エナメル、象牙質う蝕)をもつ抜去歯10歯を従来型のダイアグノデント(咬合面用プローブ)とダイアグノデント ペン(隣接面用プローブ)を各々使用して計測した(図6)。
その結果、これらのエナメル、象牙質う蝕に対する各々の測定値間には強い相関が見られ、すなわち従来から信頼されているダイアグノデントによるう蝕診断の信頼性は、新しいダイアグノデント ペンに対しても同様であると判断できた(図7)。
つぎに隣接面の検査を行うにあたり、隣在歯が存在しないような状態と、実際の歯列上で検査するような状況で各々エナメルと象牙質う蝕を10歯ずつ測定して、各測定値の間の相関をみた。すなわち実験室での隣接面部のエナメル、象牙質う蝕の測定と、臨床での測定が同様なのか否かを検証した(図8)。
その結果、エナメル質、象牙質う蝕とも、直接プローブを当てて測定した場合と、歯列上で測定した場合の間には、かなり強い相関がみられ、ダイアグノデント ペンは、隣接面用プローブを用い、歯の隣接面う蝕に対して有効であることが確認された(図9)。
以上の著者らの実験結果からも、ダイアグノデントペンは、その精度が高く評価されているダイアグノデントと同じ精度をもち、かつ新装備された隣接面用プローブを用いることにより、臨床での歯列上にある隣接面う蝕検査に効果的に使用できることが判明した。

  • ダイアグノデント ペンとディスプレイ部(ディスプレイ部とは分けて使用できる)
    図4a ダイアグノデント ペンとディスプレイ部(ディスプレイ部とは分けて使用できる)
  • ❶ライトプローブ ❷リングカフ ❸ON OFFスイッチ ❹セーブボタン ❺±ボタン ❻MENUボタン ❼ディスプレイ
    図4b ❶ライトプローブ ❷リングカフ ❸ON OFFスイッチ ❹セーブボタン ❺±ボタン ❻MENUボタン ❼ディスプレイ
  • ダイアグノデント ペンには、隣接面用プローブ(プリズムによりレーザー光を100°偏光)が標準装備されていて、咬合面用プローブと簡単に交換して使用できる。
    図5a,b ダイアグノデント ペンには、隣接面用プローブ(プリズムによりレーザー光を100°偏光)が標準装備されていて、咬合面用プローブと簡単に交換して使用できる。

  • 表1 DIAGNOdent Penの測定値と臨床の対応
    Dr. Lussi, University of Bern, Switzerland(カボ社提供)
  • エナメル質う蝕をもつ歯(上)、象牙質う蝕をもつ歯(下)を各々従来のダイアグノデント(咬合面プローブで)とダイアグノデント ペン(隣接面プローブで)測定した。
    図6 エナメル質う蝕をもつ歯(上)、象牙質う蝕をもつ歯(下)を各々従来のダイアグノデント(咬合面プローブで)とダイアグノデント ペン(隣接面プローブで)測定した。
  • 実験結果:エナメルう蝕(左)、象牙質う蝕(右)を各々10歯ずつ測定した結果。いずれもダイアグノデント咬合面用プローブとペンの隣接面用プローブで測定した値には強い相関がみられた。
    図7 実験結果:エナメルう蝕(左)、象牙質う蝕(右)を各々10歯ずつ測定した結果。いずれもダイアグノデント咬合面用プローブとペンの隣接面用プローブで測定した値には強い相関がみられた。
  • 隣在歯のない状態でプローブをう蝕に直接当てて測定した場合(上)と臨床を想定して歯列上にある歯の隣接面う蝕を測定した場合(下)の測定値を比較してみた。
    図8 隣在歯のない状態でプローブをう蝕に直接当てて測定した場合(上)と臨床を想定して歯列上にある歯の隣接面う蝕を測定した場合(下)の測定値を比較してみた。
  • 実験結果:エナメルう蝕(左)、象牙質う蝕(右)を各々隣在歯がない状態、ある状態で10歯ずつ測定した結果。いずれも隣在歯の存否に関わらず、ほぼ同じ測定値が得られた。
    図9 実験結果:エナメルう蝕(左)、象牙質う蝕(右)を各々隣在歯がない状態、ある状態で10歯ずつ測定した結果。いずれも隣在歯の存否に関わらず、ほぼ同じ測定値が得られた。

■ダイアグノデント ペンをどのように使うのか、活かすのか

冒頭でも述べた通り、う蝕の結果である「う窩」を探索し、その修復に終始する修復偏重のう蝕治療の考え方は、FDIのMI(Minimal Intervention : 最小限の侵襲)宣言にもある通り、これからの歯科医療ではもはや通用しないと考えなければならない。したがって、ダイアグノデント ペン(従来のダイアグノデントも含め)が精度の高いう蝕検査機器であっても、使用する目的がMIの考え方に沿わない場合は、臨床で活用できないどころか、無用となり、治療室の片隅で「ほこりをかぶる」ことになりかねない。
では、どのような使い方ができるのか?

1)う蝕の進行状況を判断する:
いわゆる「う蝕/う窩発見器」ということではなく、ダイアグノデント ペンの測定結果を、う蝕あるいはう窩の治療方針を決定するための一つの指針とし、他の検査結果や状況と併せ、表1に示した対応をする(図10a,b,c図11a,b)。

2)う蝕の進行を観察し、予防的な(非修復的な)対応を評価する:
上記1)で予防的な対応や再石灰化治療をし、経過を観察している患歯を定期的に検査し、測定値の変化をみて、その間にとった処置の効果を評価する(図12a,b)。

3)う窩の感染象牙質の除去の基準とする:
う窩の感染(病的な)象牙質を除去する際、除去の判断基準については多くの臨床家が悩むところである。う蝕検知液による判断が、現状では唯一の根拠とされているが、現実的には、万全なものとは言い難い。
著者らの基礎的な研究や臨床的な経験では、ダイアグノデントの測定値が10以下になれば、検知液の「薄いピンク染」に染まる歯質にほぼ一致すると考えていて、ダイアグノデント ペンの一つの活用方法になると考えている(図13a,b,c)。
ダイアグノデント、ダイアグノデント ペンの活用法は、以上にまとめることができよう。これらの中で、ダイアグノデントに比べ、ペンはよりハンディーであり、隣接面プローブが装備されたので、活用の範囲と「しやすさ」が広がり、高まったと言える。また在宅診療や集団の検診などにも応用しやすくなった。

  • 10a 測定値28
  • 10b
  • 10c
  • 図10a,b,c 隣接面のう窩形成を疑い、またその進行状態を知るため咬合面用プローブであるが使用し、ダイアグノデントで検査したところ”28”を示した(a)。他の状況も判断し開拡したところ軟化が著しい感染象牙質をもつう窩が存在した(b)。レジンによって修復した(c)。
  • 11a
  • 11b 測定値09
  • 図11a,b 初診の患者で、上顎小臼歯の歯間に視診でもう窩の存在を疑い、確認できたが(a)、患者の年齢や自覚・他覚症状、X線検査、その他の状況も考慮してダイアグノデント ペンによって検査して治療方針を決めることにした(b)。その結果は“09”であったので、フッ化物塗布、プラークコントロールを含めて管理していくことにした。
  • 12a 測定値09 測定値64
  • 12b 測定値09
  • 図12a,b かなり深いう窩を持つ患歯で、う窩はダイアグノデントの値で”99”を示したので、検知液を用いて順次感染象牙質を取り除いていき、”64”のところでIPCを行うこととし、暫間修復した(a)。その後数ヵ月後に再開拡して、同じく検知液を用いて感染象牙質を取り除いていき”10”を示したところで除去を終え(b)、修復治療を行った。(写真提供:須崎明先生)
  • 13a 測定値99
  • 13b
  • 13c 測定値09
  • 図13a,b,c う窩を開拡し、ダイアグノデントで測定したところ、”99”を示した(a)。検知液を用い通法に従って順次除去を行い(b)、除去を終え、ダイアグノデントで測定したところ”09”を示した(c)。(写真提供:須崎 明先生)

■ダイアグノデント ペンを活用できる臨床、診療室つくりを目指して

いま歯科界が求められているのは、単に削ってつめる、抜いて入れ歯を入れる、痛みを止めるだけの一方通行の治療をすることではなく、患者一人ひとりの健康と豊かな生活に貢献できるような口腔保健に積極的に関与して行くことであろう。すなわちFDI宣言にもあるMIデンティストリー、高品質という意味での審美的な治療、アンチエイジングを目指した診療室づくりが求められている。
前項では「ダイアグノデント ペンをどのように活用するか?」を述べたが、ダイアグノデント ペンを活かすのではなく、逆に「ダイアグノデント ペンを活用できる診療室」をつくり、患者・患歯管理型の、そして患者から信頼される現代型、将来型の歯科医療を目指したい。

参考文献
  • 1) Hibst R:Optische mesmethoden zur Kariesdianose, ZWR, 108, 55–55, 1999.
  • 2) Lussi A:新しい咬合面齲蝕検出法, 歯界展望, 95(6), 1285–1295,2000.

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