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135号 WINTER 目次を見る

CLINICAL REPORT

2波長のレーザーを利用した 光学的なカリエス治療の実際

篠木 毅/津久井 明

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■目 次

■はじめに

う蝕治療は歯科医にとってあまりにも日常のことで、いくら虫歯の数が減ったとはいえ、この治療をしていない日はないかもしれない。
ご存知のように、う蝕は無機質の脱灰により有機質が崩壊する現象で、今の考え方は脱灰と再石灰化を流動的に繰り返す現象といわれている。つまり細菌の酸による脱灰と唾液のカルシウムの沈着によりう蝕はつくられ自己修復されている。しかしこのあたりまえすぎる現象がかえって私たちを混乱させている。
かつて、う蝕は早期発見、早期治療が主流だったが、MIというコンセプトが出てからは闇雲に削ればいいというわけではなく、またどこまでを病巣とするのかが非常に難しくなってきた。その診断、治療法、そして修復材料も変化してきた。とくにここ数年の接着を応用した技術は目覚しいものがあり、う蝕治療の大部分を担っている。しかし診断にはX‑ray、歯牙の切削にはタービンやエンジンなどの回転切削器具を使用している。それぞれの器材の精度は確実に上がり進歩しているが、基本的には変わっていない。
今回、う蝕診断用に用いるダイアグノデント ペン、歯牙の切削に用いるアーウィン アドベールは、これまでのう蝕治療を光学的に処置する革新的な器材であると思う。

■う蝕診断

う窩があればそれがう蝕であることは誰の目にも明らかで、その歯を削ることをためらう必要はない。問題はう窩がない、または確認ができない場合であるが、その際には、視診と触診をおこないあたりをつけX‑ray像からう蝕を確認する。しかしそれらの診査をかいくぐってしまうう蝕も存在する。
それが顕著に現れるのが隣接面(コンタクト直下)のう蝕であると思う。患者の主訴もなくたまたま撮ったX‑rayに透過像が出ていることも結構ある。
特に隣接面のう蝕は、進行するとほとんどが歯冠高径の少ない日本人にとって歯肉縁下う蝕となり、それが処置を難しくしてしまう。
また予防においては、経過観察が主軸となり、視診で問題がなれば不要なレントゲンはとらなくなってしまうこともある。それは決して手を抜いているのではなく、不必要な被曝から患者を守ろうとする、歯科医の優しさからくるものであると思う。しかし、ときとしてその優しさが仇となることもある(図1~5)。

  • 診察時の写真
    図1 患者の主訴は奥歯が変な感じがするということで、冷水、温水、打診痛もなかった。
  • 隣接面の着色の写真
    図2 これを視診だけでどこがう蝕であるのかを判断することは難しい。小窩裂溝、舌側、隣接面の着色はう蝕と診断していいものか。Dental X‑rayを撮るにもどの歯に主軸を合わせるべきか考えてしまう。
  • ダイアグノデント ペンを使用し咬合面の数値を計測する写真
    図3 ダイアグノデント ペンを使用し咬合面の数値を計測すると、臼歯部は12~17で切削処置は必要なしと判断できた。
  • 隣接面を測定する写真
    図4 隣接面を測定すると第一大臼歯遠心部で40という測定値が計測された。
  • 第一大臼歯に主軸を合わせたレントゲン写真
    図5 第一大臼歯に主軸を合わせレントゲン撮影すると遠心部に透過像を見ることができる。このような大きなう蝕を視診のみの診断では見逃してしまうこともある。ダイアグノデント ペンを使用することにより、どの部位が患部であるのかのあたりをつけることが可能だ。

■う蝕処置図6~12

エナメル質を破壊したう蝕はED境に沿って3次元的に拡大する。Dental X‑rayは2次元の像なので本当の意味でのう蝕の広がりを確認することは難しい。
ダイアグノデント ペンを使用することにより、ある程度う蝕の方向と広がりを知ることができる。3次元的な方向性がわかれば、どこから歯牙を切削すればいいのかがわかり効率の良いう蝕除去ができるとともに、不必要な切削を避け健全歯質を残すこともできる。特にコンタクトポイント下に存在するう蝕を咬合面からアクセスしてしまうと必要以上の歯質の削除をしなければいけない。
こんなときに便利なのがEr:YAGレーザーだ。Er:YAGレーザーの波長は2.94μmで硬組織を蒸散できる波長を持っている。
また、通常の回転切削とは異なるため、歯肉付近のカリエスに対しても出血を伴わない非観血的な治療をすることができる。そして大部分の処置を無麻酔下で行うことができる。また、出力(mj)とパルス(PPS)の調整により歯質を無用に削りすぎることはない。
う蝕の病理を考えると多菌層、寡菌層、先駆菌層、混濁層、透明層、生活反応層が存在することを遠い昔に習ったような気がする。それに加え可逆性の歯髄の炎症も存在するが、どこまでをう蝕と呼ぶかは、未だにわかっていないらしい。
しかしこれは細菌学的なことで、臨床上、細菌の進入してはいない部位では歯髄からの栄養補給を受けた象牙芽細胞がせっせと象牙質を作ってくれるので、う蝕検知液に反応していない部位、つまり象牙質の第二層は生活反応があるので削りすぎないように注意しなければいけない。
また、この部位では象牙細管が開いているので患者の痛覚が存在する。つまり患者の痛覚を頼りにう蝕を除去すれば無痛的にう蝕除去ができることになる。インレー形成のように窩底を平らにするという行為そのものが、歯質を削りすぎてしまう行為にもなる。
しかし、患者の痛覚は千差万別で検知液に染まっていても痛みを訴える時がしばしばある。これはう蝕の病巣には健全部と感染部が混在し、さらに象牙細管の開口している部位と閉口している部位が混在しているため、また、回転切削器具やエキスカなどではある程度圧力をかけた処置が必要となるのでどうしても痛みが出てしまう。また、ある程度は健全な歯質を除去しなければ感染歯質をとることができないため、ある程度の健全部の削除をしなければならない。このときにどうしても痛みが出てしまう。
MIを行うことは並大抵の覚悟ではできないと思う。MIをMission Impossibleと皮肉った表現をしてみたくもなる。感染部の除去を確実に行うためには、どうしても健全部を取り除かなければアクセスできないような場所もある。特に臼歯部の隣接面では咬合面からアクセスをしなければいけないような場合が多くある。

  • 第一小臼歯隣接面の写真
    図6 患者:18歳 女性。第一小臼歯隣接面に変色を見ることができる。
  • 測定する写真
    図7 方向を変えながら測定。
  • ダイアグノデント ペンの数値と、Dental X‑Rayによる測定
    図8 ダイアグノデント ペンの数値と、Dental X‑Rayにより、う蝕の広がりを3次元的に知ることができる。
  • 局部X‑Rayの写真
    図9 局部X‑Ray。第一小臼歯遠心部に透過像が見られる。
  • トンネリング窩洞を形成し充塡する写真
    図10 Er:YAGを用いトンネリング窩洞を形成し充塡。このようにすることで、不必要な健全歯質の切削を防ぐことができる。
  • 辺縁部を保護する写真
    図11 辺縁部を保護できる。
  • レジン充塡後の写真
    図12 レジン充塡後。

■修復処置

多くの場合、欠損部が小さければ修復材としてコンポジットレジンを用いる。コンポジットレジン修復は歯科修復の主流となっている。実質欠損の状態がどのような形であれ、たいていの場合は、この充塡処置で修復することができる。
コンポジットインレーは金属色もなく審美的で、また接着により修復するため、窩洞の形態にとらわれることがなく、MIをコンセプトとした治療に向いている。しかし接着面が少なかったり、咬合力の大きい部位ではある程度のレジンの厚みがなければ脱落をしてしまうこともある。歯質を極力温存することがレジンの脱落を防ぐことにもなる(図13~19)。

  • 第二小臼歯遠心と大臼歯遠心の写真
    図13 第二小臼歯遠心と大臼歯遠心に反応。
  • 小臼歯と大臼歯のレントゲン写真
    図14 主軸を小臼歯と大臼歯に合わせて撮影。
  • 軟化象牙質を除去した写真
    図15 深いう蝕は出力を5pps 50mjで軟化象牙質を除去。
  • 咬合面を残し形成した写真
    図16 大臼歯遠心は咬合面を残し形成。CF600を使用。
  • 窩洞の写真
    図17 大臼歯遠心部を回転切削器具でこのような窩洞を形成することは難しい。
  • 形成後の写真
    図18 レーザーを使用する利点は回転切削器具では難しい軟組織にダメージを与えないような形成ができる。
  • 咬合面の写真
    図19 咬合面にレジンがないため修復材のダメージも避けることができる。

■予防と経過観察

う蝕予防はう蝕治療のGate keeperといえる。ここで重要となることは経過の観察ということになる。しかし、この経過観察というのが問題で、視診のみの判断に頼るしかない。外見上の変化があればDental X‑rayを撮るがそうでないときは、ほとんどの場合は術者の視覚で判断することが多くなる。これは経験値により判断が分かれてしまう。表面変化のないう蝕の進行状態をはかるのはかなり難しいことだ。
ダイアグノデント ペンを利用すればう蝕の管理を数値で記録することができる。このことは、経験や術者の技量に頼ることがないので確実な管理をすることができる。また、レジン修復後ダイアグノデント ペンで予後を観察するには蛍光材のないレジンを使用することが必要だ。
患者は小学生の男子。上顎左側の乳臼歯のう蝕処置を希望していた。通法の治療を行い経過を観察していたが、半年後に治療した付近に痛みが生じ来院した。このときは、私は彼に対し「もうすぐ抜けるから痛むのじゃないか」と話し一応X‑rayを撮り説明をした。このとき私の注意がもう少し後方の歯に向いていればもう少し違う結果が出ていたかもしれない。
X‑rayをよく見ると第一大臼歯に透過像らしきものが読み取れるが、初めの診断が頭の中を支配して後方の歯牙の像を読み取るこさえしなかったのかもしれない。しかも彼は3ヵ月に一度の定期検診をしていた。この症例は私を戒める結果となった(図20~23)。
現在では、ダイアグノデント ペンの数値をカルテに記載し数値の変化によりX‑rayを撮り確認をするようにしている。何よりも光学的な診断は時間もかからず、人体に為害作用がないので不必要な被曝から患者を守ることができる。これも立派なMIということになるのかもしれない。


  • 図20 見た目の変化はあまりなかったが。

  • 図21

  • 図22
  • う蝕が進行したレントゲン写真
    図23 半年の間にこうまでう蝕が進行しているとは予測もできなかった。もしダイアグノデント ペンを用いていればと思う。

■まとめ

現在う蝕を発見するには、視診・触診・画像診断等で行うしか方法がない。視診では術者の慣れが必要であり、隣接面う蝕などの直視できない部位の発見は難しい。触診においては、鋭い先端を持つ探針はエナメル質の破壊の恐れがある。画像診断においても、撮影条件によって歯牙が重なった場合う蝕の発見は難しく、被曝の問題もある。
初期のダイアグノデントはレーザー光でう蝕を非侵襲的に発見できるという画期的なものであったが、隣接面のう蝕の検知ができない、測定に唾液やプラークなどの影響をうける、さらにキャリブレーションに安定を欠き時間がかかる、そして本体も大きく、取り扱いが容易でなかったという多くの欠点があった。
そのために臨床や検診に使用しにくいことから、いつのまにか診療室の片隅に追いやられてしまったのは、果たして私だけだろうか?
今回発売されたダイアグノデント ペンは、今までの欠点がすべて改善されており、隣接面のう蝕検知も可能となった。キャリブレーションも容易でいつでもすぐに使用でき、測定値も安定し大きなパネルで見られるために、患者さんの高い理解度も得られるようになった。さらに、歯石の検知にも応用できるようだ。
そこでこの診断器を使用することにより、除去すべきう蝕が限局でき、Er:YAGレーザー(アドベール)を使用して最小侵襲での治療が可能となった。
今回ダイアグノデント ペンとEr:YAGレーザー(アドベール)の2種類のレーザーを使いう蝕治療を行ったが、ダイアグノデント ペンによってう蝕を非侵襲的に正確に特定できることにより、アドベールによるMIの理想的なう蝕除去が実現できた。
すなわち、診断からう蝕除去まで連続してレーザーを使用することにより治療時間が大幅に短縮され、患者さんにとってそして歯科医にとっても、“優しく正確なう蝕治療”が可能になった。う蝕への新しい治療法になる予感がする。

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