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135号 WINTER 目次を見る

CLINICAL REPORT

ハイブリッドコートⅡの臨床術式 および効果的な使い方

安田 登

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目 次

はじめに-ハイブリッドコートは人工エナメル質!?

私たちの体は全て外胚葉由来の上皮によって中の組織が守られている。この上皮が外来刺激で損なわれ結合組織が露出すると創傷となる。しかし、この傷はやがて上皮が再生され生体の内部環境が外部環境から遮断されると治癒へと導かれる。
さて、同じ創傷と考えてもよい象牙質う蝕の場合はどうであろうか? 周知のように歯は再生しないため、治癒に導くためには歯科医師自らが、う蝕処置の後に皮膚や粘膜と同じ上皮性の物質を象牙質表面に生成してやらなければならない。人工上皮、あるいは「人工エナメル質」と呼ばれるものである。
この目的のために開発されたのがハイブリッドコート(サンメディカル株式会社)である。これは世界初の歯科用シーリング・コーティング材として認可され、う蝕、あるいは支台歯形成によって露出した象牙質を被覆し、象牙質内に生成される樹脂含浸層と、強固な被膜によって外来刺激を遮断し歯を守っている。つまりハイブリッドコートによって人工上皮、「人工エナメル質」が誕生したのである。「人工エナメル質」は、外来刺激を遮断して痛みの少ない治療が行え、また耐酸性を有しているため二次う蝕防止にも役立つ。
以来、歯科臨床において象牙質表面を被覆するコーティング法が定着するようになったといっても過言ではない。

リニューアルされたハイブリッドコートⅡ図1の概要

ハイブリッドコートⅡの組成を表1に示す。基本的には前のハイブリッドコート同様、1液性ボンディング材の発展形である。リニューアルによって以下に示す3つの点で改良がなされている。

1)物性の向上
シリコーン印象材との相性が格段に改善され、印象材が硬化しない、面荒れが起こるなどの問題が解消された。また、従来の硬くて薄い被膜に対して、さらにしなやかさが付加され、より一層機械的性質が向上した(図2)。

2)操作性の向上
親水性重合開始剤を含有したコートスポンジの他に、コートブラシを追加したのが特徴である。極細タイプなので、スポンジでは操作が難しかった小さな窩洞・根管などでも容易に使用することが可能になった。

3)用途の拡大
今回のリニューアルの目玉の一つが用途の拡大である。ハイブリッドコートユーザーの中にはボンディング材や知覚過敏抑制材としての効果が高いと声が多かったが、ハイブリッドコートⅡではボンディング材や知覚過敏抑制材としても薬事認可を取得した。

  • ハイブリッドコートⅡの写真
    図1 平成22年1月にリニューアル発売されたハイブリッドコートⅡ。
  • ハイブリッドコートⅡの組成の表
    表1 ハイブリッドコートⅡの組成
  • ハイブリッドコートⅡのしなやかさテストの写真
    図2 ハイブリッドコートⅡの硬化体は優れた表面硬度としなやかさを併せ持つ。

ハイブリッドコートⅡの臨床上の注意点と効果的な使用法

1)インレー窩洞コーティング材として
① 窩洞形成
従来と全く変わらないが、最小限の侵襲(MinimalIntervention)による形成法が望まれる。
図35二次う蝕の術前、図4が窩洞形成後だがメタルインレー除去、う蝕象牙質除去の他はほとんど形成を行っていない。印象精度に影響を与えるアンダーカットのみをフロアブルレジン等で塡塞する。
② ハイブリッドコートⅡの塗布と重合
形成後の窩洞面をエアー乾燥した後、リキッド1~3滴に対してコートスポンジ1個の割合で撹拌し、塗布する(図5)。
塗布上の注意点はリキッドをたっぷりと塗布し、その湿潤状態を10~20秒間保つことである。こうすることによってpH2.5に調整されたリキッドがスミアー層の除去と脱灰を行うことができる。
塗布後のエアーブローには若干の工夫が必要である。1液性ボンディング材に含まれている溶剤と希釈剤を可能な限り除去しないと、そのいずれもが接着に影響を及ぼす。ハイブリッドコートⅡも同様で、まずは弱いエアーで残存する溶剤を飛ばし、次にエアーブローを強くしてスミアー層を含んだ水分を窩洞外に吹き飛ばす。この際、バキュームをできるだけ近づけ液材が口腔粘膜、並びに口腔外に飛び散らないよう注意する。
最後に薄い被膜が形成されたことを確認して光照射を行う(図6)。この操作を2度繰り返すとコーティング効果はさらに向上する。
③ 印象採得
印象採得を行う前に2つの処理を行うとよい。1つは窩洞のマージン部を大きめのラウンドバーで一層削除しエナメル質を露出させる(図7)。この処置により窩洞形態が明確になり印象が鮮明になること、またインレー装着時には露出したエナメル部分によって接着が安定するからである。
また、シリコーン印象材使用時には印象材との干渉を避けるため表面の未重合層を硬く絞ったアルコール綿球で拭い去る(図89)。
④ 仮封
仮封材にはインレー装着時の接着材の効果を妨げるユージノール系、コーティング面と結合してしまう恐れのあるレジン系材料は避ける。
仮封材除去を容易にするため、またコーティング面を保護するために水溶性分離剤(例えばマクロゴール軟膏:商品名ソルベース)を塗布するとよい(図1011)。
⑤ 装着
修復物に対しては各種材質に合った処理を行う。今回の症例はPGAインレーなので、アルミナのサンドブラスト後、V‑プライマーを塗布した(図1213)。セラミックインレーの場合には、シランカップリング処理をすることは言うまでもない。
歯面はリン酸処理を行う。辺縁部エナメル質のエッチングとコーティング面の清掃を兼ねている(図14)。その後スーパーボンドで装着する(図15)。

  • ゴールドインレーの下部の写真
    図3 5に装着されたゴールドインレーの下部、ならびに遠心部にう蝕が認められた。
  • インレーとう蝕部分を除去した写真
    図4 インレーとう蝕部分を除去。その他の窩洞形成はほとんど行わない。4遠心部にもう蝕が認められたので同時に治療することにした。
  • ハイブリッドコートⅡをコートスポンジに十分しみこませ、窩洞内に塗布する写真
    図5 ハイブリッドコートⅡをコートスポンジに十分しみこませ、窩洞内に10~20秒塗布する。この間にスミアー層の除去と脱灰が進行する。
  • 光照射の写真
    図6 エアーブロー後、光照射を5~10秒間行う。
  • 一層削除しエナメル質を露出させた写真
    図7 光重合後、窩洞辺縁部を大きめのラウンドバーで一層削除しエナメル質を露出させる。これにより窩洞形態を鮮明に、かつ装着時の接着強度向上を図る。
  • 硬く絞ったアルコール綿球でコーティング面の未重合層を除去する写真
    図8 硬く絞ったアルコール綿球でコーティング面の未重合層を除去する。印象面の荒れを防ぐために行う。
  • シリコーン印象面の写真
    図9 シリコーン印象面。ハイブリッドコートⅡはシリコーンとの相性が格段に向上し面荒れを起こさない。
  • コーティング面に水溶性分離剤(マクロゴール、商品名:ソルベース)を塗布する写真
    図10 仮封材除去を容易にするためコーティング面に水溶性分離剤(マクロゴール、商品名:ソルベース)を塗布する。これによりコーティング面の保護も期待できる。
  • 水硬性セメントで仮封を行った写真
    図11 水硬性セメントで仮封を行った。接着性レジンセメントの硬化を阻害したり、コーティング面に付着してしまう仮封材は避ける。
  • 製作されたPGAの写真
    図12 製作されたPGA インレー。内面はアルミナのサンドブラスト処理をしておく。
  • 内面にV‑プライマーを塗布する写真
    図13 試適、調整後、内面にV‑プライマーを塗布する。1滴滴下したらすぐにエアーブローするのがよい。塗りすぎはかえって接着強度を低下させるので注意をする。
  • リン酸エッチングを行う写真
    図14 歯面はリン酸エッチングを行う。露出させたエナメル質の脱灰とコーティング面の清掃を兼ねる。
  • PGAインレーをスーパーボンドC&Bセットで装着した写真
    図15 PGAインレーをスーパーボンドC&Bセットで装着した。使用した粉末はラジオペークである。

2)支台歯コーティング材として
クラウンの支台歯形成後にコーティングを行う場合の効能・使用方法は基本的にインレーの場合と同じである(図16)。ただし外側性の場合は被膜厚さが薄い方がよいので、塗布後、液溜まりが生じないようにエアーブローを確実に行う。とくにショルダー部には注意を払い形成した面に沿って薄い被膜が生成できるようにする(図17)。
光重合後、辺縁部を研磨用ダイヤモンドポイントで一層削除する(図18)。この操作によってマージン部を露出し、形成限界の明瞭化と修復物装着時の接着強度確保を図る。
なお、コーティングは生活歯のみに用いると理解する人も多いが、むしろ失活歯の方がう蝕になりやすいので、失活歯でも耐酸性を有する人工エナメル質を生成するために、コーティングを行った方がよい。

  • ブリッジの支台歯として生活歯を形成した写真
    図16 ブリッジの支台歯として生活歯を形成。ハイブリッドコートⅡの使用法はインレー窩洞の場合とほとんど同じである。
  • エアーブローを強く当てる写真
    図17 ハイブリッドコートⅡが液溜まりを生じないようにエアーブローを強く当てる。その際、バキュームをできるだけ近づけて液が口腔内に飛び散らないようにする。
  • マージン部を研磨用ダイヤモンドポイントで一層削除する写真
    図18 光照射後、マージン部を研磨用ダイヤモンドポイントで一層削除する。形成限界の明瞭化と装着時の接着強度の向上を図る。

3)コンポジットレジンのボンディング材として
ハイブリッドコートⅡは1液性のボンディング材の発展型として開発されたことは前述したとおりである。したがって、当然のことながらボンディング材として使用することもでき、今回のリニューアルでは薬事認可も取得し用途の拡大が公に認められた。
使用法は通常の1液性ボンディング材と全く同じであるが、健全象牙質にも、またう蝕影響象牙質にも35MPa以上の微小引張り強さを示すことが報告されている(図1921)。

  • 咬合面から隣接面に至るう蝕の写真
    図19 4の咬合面から隣接面に至るう蝕。
  • ボンディング材としてハイブリッドコートⅡをコートブラシで塗布する写真
    図20 う蝕罹患象牙質除去後、ボンディング材としてハイブリッドコートⅡをコートブラシで塗布。
  • コンポジットレジン充塡、研磨の写真
    図21 コンポジットレジン充塡、研磨。

4)象牙質知覚過敏抑制材として
象牙質知覚過敏は近年注目を浴びている疾患であるが、その治療法はなるべく歯への侵襲が少ないものから選択すべきである。
その意味で開口した象牙細管を傷つけることなく確実に封鎖するハイブリッドコートⅡは効果的である(図2223)。

  • 歯頸部付近に知覚過敏を生じている例
    図22 3歯頸部付近に知覚過敏を生じている例。
  • ハイブリッドコートⅡを塗布する写真
    図23 ハイブリッドコートⅡを塗布。痛みはすぐに消失した。

おわりに

新たにリニューアルされたハイブリッドコートⅡは用途を拡大し、また信頼性を向上して登場した。露出した象牙質は傷口であり、外部環境から常に侵襲の危険性にさらされている。この傷を治すことなく修復する旧来の術式は多くの再発を惹起することから今や完全に否定されつつある。
ハイブリッドコートⅡによって傷口を治し、その上に修復する術式こそ患者の信頼を得る最良の方法ではないかと考えている。

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