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137号 SUMMER 目次を見る

Clinical Report

スリムスクレーパーの使用経験

福井大学医学部歯科口腔外科 准教授 植野 高章

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■目次

■はじめに

近年、歯科インプラント治療や歯周外科治療において骨の造成を行う症例が増加している。骨の造成を行う場合の材料としては、自家骨、人工骨などが主流である。自家骨には、骨成長因子が含まれるし、またベニア移植などでは歯槽骨に近い三次元的形態を作りやすいなどの利点がある。その一方で骨採取部位の手術による侵襲や感染、採取量の制限などが問題となる。
一方、人工骨は、骨採取に伴う生体侵襲や量的な制限はないものの、骨造成部位での骨誘導能には乏しく、歯槽骨欠損部位などの三次元的な形態を必要とされる部位では経験を要する。
最近では、骨誘導能を持つ人工材料としてBMPなどの成長因子を用いた骨再生が高い関心をもたれている。しかしながら、日本では未認可であり臨床使用については問題がある。
インプラント治療において、診療の成功率を高め、手技の効率化を図ることは臨床医として誰もが思うことである。インプラント埋入において、骨欠損部への骨形成を効率化するために採取自家骨を人工骨などに複合して骨補塡材として使用することは、効率的な骨形成においては有効な手法と考えられているが、あらゆる症例に自家骨移植を行えればよいが、腸骨や下顎骨からのブロック骨採取には、リスクを伴う。自家骨採取部位の侵襲を最小に抑えることは術後の患者の負担も少なく、感染、神経麻痺などの合併症を最小に抑え安全な医療につながる。
インプラント外科や歯周外科において、骨造成を必要とする場合(腸骨移植や下顎枝などからブロック骨で骨採取を必要としないような、日常臨床で多く遭遇する場面)での、スクレーパーなどを用いて採取した少量自家骨を骨欠損部に使用することは、比較的多いのではないだろうか。
また、少数歯欠損におけるサイナスリフトなど垂直的・水平的骨増量術への人工骨と少量自家骨の複合移植では、スクレーパーで採取された自家骨を複合した方が、人工骨単独使用に比較して、操作性が向上し、歯槽骨欠損部位への補塡が容易になるなど、スクレーパーの使用は術式の効率化の点でも大きな利点を持つと思う。

■スリムスクレーパーの臨床応用例

今回発売された、スリムスクレーパー(株式会社モリタ)は、従来のボーンスクレーパーに比べて、スクレーパー全体のサイズが小さく、口腔内での使用に最適な形状に思われる(図12)。
今回、このスリムスクレーパーを、いくつかの歯科インプラント手術に使用したので紹介する。

  • 図1A スクレーパー全体写真。約17cm。
    図1A スクレーパー全体写真。約17cm。
  • 下方からみたところ。金具の部分に骨採取の刃がついている。
    図1B 下方からみたところ。金具の部分に骨採取の刃がついている。
  • 上方からみたところ。背中の部分のグリップが人差し指に合わせられる。
    図1C:上方からみたところ。背中の部分のグリップが人差し指に合わせられる。
  • スリムスクレーパーを把持したところ。人差し指に背部のグリップがしっかり保持される。ペンシルのように掴みやすい。
    図2A スリムスクレーパーを把持したところ。人差し指に背部のグリップがしっかり保持される。ペンシルのように掴みやすい。
  • 採取骨を取り出すチャンバーを開けたところ。人差し指の操作で間単に開けられる。
    図2B 採取骨を取り出すチャンバーを開けたところ。人差し指の操作で間単に開けられる。
  • チャンバーを閉じたところ。
    図2C チャンバーを閉じたところ。
  • チャンバーを開けて採取骨を移植する際には、両横の隙間から運び出しやすい。
    図2D チャンバーを開けて採取骨を移植する際には、両横の隙間から運び出しやすい。

<症例1>(図3
症例1は、64歳女性への右側下顎臼歯部へのインプラント埋入症例である。この症例では下歯槽神経までの距離が短いために、やや浅目の安全な位置でインプラント体埋入を余儀なくされた。そのため、頰側にインプラント体のスレッドの一部が露出してしまい、一部露出したインプラント体スレッド部分をスリムスクレーパーで採取した自家骨と吸収性膜で骨造成を行った症例である。
インプラント体埋入部位より遠心部に骨採取部位を設定した。骨面にスクレーパーを直角にあて、やや下方への力を加え、手前に数回引きながら使用した。ここでは骨採取のための追加切開や粘膜骨膜弁の剥離などを行うことなく小さな術野から、骨造成に必要な骨を十分に採取できた。術後も腫脹などは、ほとんどなく経過も良好であった。

  • 歯槽骨からスリムスクレーパーを用いて骨採取を行っている。コンパクトな形態が操作を助ける。
    図3A 歯槽骨からスリムスクレーパーを用いて骨採取を行っている。コンパクトな形態が操作を助ける。
  • 採取された骨を生理食塩水を浸したガーゼで包み使用まで準備。
    図3B 採取された骨を生理食塩水を浸したガーゼで包み使用まで準備。
  • 採取骨を骨移植部位に運ぶ。
    図3C 採取骨を骨移植部位に運ぶ。
  • インプラント周囲に移植された骨。
    図3D インプラント周囲に移植された骨。
  • 移植骨の上に吸収性膜を使用。
    図3E 移植骨の上に吸収性膜を使用。

<症例2>(図4
症例2は、37歳男性の下顎の抜歯部へのインプラント体即時埋入の際にスリムスクレーパーを使用した症例である。
下顎前歯部の歯周病により残存歯の抜歯を行い、抜歯部位へのインプラント体を埋入し、その際にスリムスクレーパーを使用して採取した自家骨を骨補塡に用いた。抜歯後の歯槽骨にインプラント体を埋入する場合は、周囲の残存歯槽骨の温存に注意が必要であるが、鋭縁を残すと縫合閉鎖後の粘膜の壊死や感染の原因となる。また抜歯窩と埋入されたインプラント体との間に生じる隙間への対応も必要となる。こうした時に、残存歯槽骨の骨を温存しつつ、埋入された骨とインプラント隙間に骨移植を行うことがある。
今回は、抜歯窩の歯槽骨鋭縁をインプラント体を埋入しやすいように、最小限の骨削除を行い骨整形を行った。その後に整形された歯槽骨にインプラント体の埋入を行った。いずれのインプラント体も良好な初期固定が得られ、右側下顎犬歯部に埋入されたインプラント体と抜歯窩との隙間にスリムスクレーパーで採取した自家骨を移植した。粘膜骨膜弁を縫合閉鎖、前歯部のインプラントを利用して臼歯部のインプラント体と連結して上部構造の即日装着を行った。骨移植部、採取部の治癒は良好であった。

  • 下顎前歯部の抜歯後の歯槽骨。
    図4A 下顎前歯部の抜歯後の歯槽骨。
  • 歯槽骨の整形をスリムスクレーパーで行った。
    図4B 歯槽骨の整形をスリムスクレーパーで行った。
  • 採取された自家骨。
    図4C 採取された自家骨。
  • インプラントが埋入された。右側犬歯部にはインプラント体と歯槽骨に隙間がみられる。
    図4D インプラントが埋入された。右側犬歯部にはインプラント体と歯槽骨に隙間がみられる。
  • スリムスクレーパーで採取した自家骨を移植。
    図4E スリムスクレーパーで採取した自家骨を移植。
  • 縫合して骨移植部は閉鎖した。
    図4F 縫合して骨移植部は閉鎖した。
  • 臼歯部のインプラントと上部構造を結合して即時荷重。
    図4G 臼歯部のインプラントと上部構造を結合して即時荷重。
  • 手術後3ヵ月の形成骨(矢印)。
    図4H 手術後3ヵ月の形成骨(矢印)。

<症例3>(図5
症例3は、上顎の進行性歯周炎により両側中切歯を抜歯後に歯科インプラント埋入手術を行った症例である。
両側中切歯を抜歯後に歯槽骨鋭縁をスリムスクレーパーで削除した。その後、上顎にインプラント体を埋入し、臼歯部のインプラント体埋入部に歯槽骨の垂直的骨不足が認められたために、上顎洞側壁を歯科用ラウンドバーで開窓、上顎洞粘膜挙上を行い、作成されたスペースにインプラント体埋入と骨増量を行った。スリムスクレーパーで採取した骨と混和された人工骨は、骨不足部への補塡時に操作性も良く、短時間で骨増量術を行うことができた。術後も骨採取部の炎症などは残存せず、良好な治癒過程をたどった。
今回の3症例で使用したスリムスクレーパーは、ペンシルタイプで、形態が指先にフィットし、口腔内という狭い術野で非常に使用しやすく、効率的に必要量の自家骨が採取できた。
また骨採取後に骨欠損部へ運び込む際にも、片手でチャンバーを操作することができる。
そして骨欠損部位への採取骨や混和した人工骨を補塡する際にも、両側に設けられたスクレーパーの隙間から容易に補塡できるので、非常に使いやすい印象を受けた。
破骨鉗子などにより骨削除を行った後に削除骨を使用する方法も考えられるが、小欠損部への骨移植のため骨片の整形に時間を要することもある。従来型のスクレーパーが使用される場合もあるが、スクレーパーの形態が比較的大きなために、追加の粘膜骨膜切開を行わねばならないこともある。スリムスクレーパーはこうしたインプラント埋入時の際の追加骨採取に大きな粘膜切開を必要とせず、術者、患者の負担軽減に役立つと思われる。
ただ、骨表面が正確に明示されていない場合、つまり骨膜や周囲軟組織が骨表面に残存しているような状態での使用は、骨欠損部への軟組織迷入からの骨形成の失敗や、採取時の血管損傷による思わぬ出血などが想起されるので適切な使用が不可欠である。さらに、少量とはいえ、骨移植手術である。術野の感染や術後の感染予防は適切になされないと感染源の運び込みになるで十分な注意が必要なことは言うまでもない。
注意点として、骨表面が乾燥した状態では骨採取しにくかった。骨表面が乾燥している場合は生食などで適宜ウエットな状態にするなどの使用が好ましいと思われる。

  • 上顎前歯部を抜歯。
    図5A 上顎前歯部を抜歯。
  • 歯槽骨の鋭縁部をスリムスクレーパーで整形し骨を採取。
    図5B 歯槽骨の鋭縁部をスリムスクレーパーで整形し骨を採取。
  • 採取された自家骨。
    図5C 採取された自家骨。
  • 採取骨と人工骨。
    図5D 採取骨と人工骨。
  • インプラントを埋入した部位に採取骨を移植。
    図5E インプラントを埋入した部位に採取骨を移植。

■おわりに

インプラント手術だけでなく、口腔外科、形成外科、整形外科においては、口唇口蓋裂、腸骨や腓骨再建、人工関節置換術などでの骨結合部の隙間の骨補塡などに、骨を効率的に採取することができるボーンスクレーパーの使用場面は少なくないと考えられる。
自家骨を併用することで、多くの骨形成関連細胞を骨造成部に誘導することが可能になり、人工骨単独使用と比較して高い臨床効果が期待できる。ラット動物実験では、骨欠損部への骨形成では人工骨単独使用よりも、少量の自家骨や骨髄を複合移植した方が、有意に骨を形成することが報告されている。
今回、使用したスリムスクレーパーは、歯科でのインプラント外科、歯周外科などの骨造成症例での診療の効率化の一助になると思われる。

参考文献
  • 1) Triplett RG, Nevins M, Marx RE, et al. : Pivotal, randomized, parallel evaluation of recombinant human bone morphogenetic protein‑2/absorbable collagen sponge and autogeneous bone graft for maxillary sinus floor augmentation. J Oral Maxillofacial Surgery. 2009 67(9):1947‑1960
  • 2) Ueno T, Sakata T, Kagawa T. : The evaluation of bone formation of the whole tissue periosteum transplantation in combination with beta‑tricalcium phosphate (TCP). Annals of Plastic Surgery. 2007;59: 707‑712.
  • 3) 本多浩三, 植野高章, 坂田吉朗:Beta‑TCP (Tricalcium phosphate)を用いた顎骨増量術のインプラント治療への臨床的検討. 岡山歯学会 雑誌. 2006; 25: 37‑41.

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