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Clinical Report

知覚過敏抑制材料「MSコート F」新登場 -MSコートONEにフッ化物が入ってパワーアップ-

木下歯科医院 奧 麻衣子 / 木下 亨
第一生命 日比谷診療所 深川 優子

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■目次

■はじめに

1998年10月のMSコートの登場によって、歯科界では改めて象牙質知覚過敏症がクローズアップされるようになりました。MSポリマーは、メタクリル酸メチルパラスチレンスルホン酸のグラフト共重合体を水に分散させたものであり、従来の無機セメントやレジンセメントでもなくまたコンポジットレジンのボンディング材でもない世界に類を見ない新しいタイプの歯科材料です。
今回は、知覚過敏抑制材として発売以来、その操作の簡便性と抑制効果に定評のある「MSコート ONE」に、新たにフッ化物(フッ化ナトリウム)を配合した「MSコート F」(図1)が発売されましたので、ご紹介いたします。


  • 図1 象牙質知覚過敏抑制材(MSコート F:サンメディカル)。

■知覚過敏とは?

もうおなじみの「むし歯でないのに歯がしみる」というフレーズ。テレビのCMや雑誌でみる機会が多くなりました。そのせいか「知覚過敏だと思うのだが診てほしい」という方は年々増加しており、その名はかなり一般社会の中にも浸透していると実感しています。
象牙質知覚過敏症とは、「温度、乾燥、擦過、浸透圧、化学物質などの刺激によって生じる短く鋭い痛みを特徴とし、歯質の実質欠損など他の病変では説明できないもの」と定義されています。
何らかの原因でエナメル質・セメント質が損傷すると、象牙質が露出します。そして表面の象牙細管が開口しているため、細管内液の移動により、歯髄神経を刺激し痛みを発現するというメカニズムです。
原因は様々で、主に歯周病や乱暴なブラッシングによる歯肉退縮、歯軋りによるアブフラクションのような物理的な力により露出した歯根部の象牙細管が大きく開口し、そこに唾液や空気、飲食などによる温度変化等の刺激をうけて発症します。また医原性の知覚過敏症もあり、クリーニングや過度のルートプレーニング、歯周外科後の歯肉退縮、修復処置における窩洞形成や矯正治療により露出した歯根などにおこる場合もあります。

■知覚過敏への対応

多くの知覚過敏抑制材が市販されていますが、私達は天然歯に優しい侵襲性の低いものから選択しています。中でも、シュウ酸とナノサイズのMSポリマーを成分とする「MSコート」は、侵襲性が低く、光照射器等の準備の必要もなく、親水性ポリマーを水に分散させているため、湿潤した口腔内での操作が簡単で治療効果が高いので、発売当初から長期に渡って愛用してきました。
2009年には、「MSコート ONE」(図2)が発売され、2液性から1液性に改良されたことで、2液を混和する手間が省け、忙しい日常臨床には必要不可欠なアイテムになったといえます。当医院では、MSコート ONEで症状が改善しない場合は、露出した象牙細管を光重合型の接着性レジンでコーティングする方法を採用しています。セカンドチョイスは、歯科用シーリング・コーティング材として開発された知覚過敏抑制効果の高い「ハイブリッドコートⅡ」(図3)を使用します。MSコート塗布によって効果の得られない場合に、MSポリマー被膜の上から直ちに使用できます。また歯質の実質欠損を伴う場合には、引き続きコンポジットレジン充塡も可能です。
歯磨きやその後のうがい、食事の度にしみるというのは大変不快なことです。知覚過敏があるとしみるのが辛いために、十分な歯磨きができなかったり、食事制限をせざるを得なくなります。痛みの迅速な除去は、医療従事者としての使命であるばかりか、患者さんとの信頼関係を構築する上で極めて重要です。知覚過敏による痛みの緩解にはMSコートやハイブリッドコートⅡの症状に合わせた選択がお奨めです。

  • 象牙質知覚過敏抑制材(MSコート ONE:サンメディカル)。
    図2 象牙質知覚過敏抑制材(MSコート ONE:サンメディカル)。
  • 歯科用シーリング・コーティング材(ハイブリッドコートⅡ:サンメディカル)。
    図3 歯科用シーリング・コーティング材(ハイブリッドコートⅡ:サンメディカル)。

■「MSコート F」について

①「MSコート F」の特長
従来のMSコートONEは、MSポリマーを水に分散させた液にシュウ酸を溶かしてあります。そのメカニズムは、歯面に塗布することにより各々が歯質中のカルシウムと反応して開口した象牙細管を封鎖するというものです(図4)。その細管封鎖率は、90~100%と高い値であり(サンメディカル社調べ)、シュウ酸カルシウム結晶を含んだMSポリマー被膜が知覚を鈍磨し、加えて外界からの刺激を遮断することで知覚過敏を抑制します。さらにこのポリマー被膜は,酸と接触しても溶けにくく、塗布後は歯質の脱灰も抑制できるという大きな特長があります。
今回ご紹介する「MSコートF」は、従来のMSコートONEの細管封鎖率、知覚鈍磨作用は維持しながら、さらに歯質の耐酸性向上を期待できるフッ化物が配合されました。3,000ppmという高濃度のフッ化物が配合された知覚過敏抑制材は初めてであり、大変画期的な材料といえます。フッ化物を配合したことにより、歯質の耐酸性を向上させるだけでなく、MSポリマー被膜の防汚性も向上し、歯質再石灰化の促進効果も期待できます。
また、サンメディカル社の調べでは、MSコートONEのMSポリマー被膜と比較して3倍の脱灰抑制能があることがわかりました(図5)。
さらにMSポリマー被膜には、ミュータンス菌の初期付着の抑制効果も報告されており3)、う蝕予防の助けとなります。知覚過敏が生じる部位は露出した根面に多く、象牙質が露出しているため遮蔽性・防汚性・耐酸性の相乗効果により根面う触予防も可能となります。歯頸部、歯間部の初期う蝕にも応急的に塗布し、予防することもできるでしょう。クリーニングの際には、露出根面部等に塗布することで知覚過敏ばかりでなく、う蝕予防効果も期待できます。室温保管が可能なため、ケアルームにフッ化物ジェル等と一緒に常備しておく
と日々の衛生士の仕事にも大いに役立ちます(図6

  • MSコート Fの象牙質知覚過敏抑制のメカニズムと象牙細管封鎖写真。
    図4 MSコート Fの象牙質知覚過敏抑制のメカニズムと象牙細管封鎖写真。
  • 乳酸浸漬による脱灰抑制グラフ。
    図5 乳酸浸漬による脱灰抑制グラフ。
  • ケアルームにフッ化物ジェルと常備する。
    図6 ケアルームにフッ化物ジェルと常備する。

②操作法
実際の操作方法について症例写真を交えながら説明します。
まず歯面のプラークを除去し、付属のフェルトチップにMSコートFの液を含ませ、歯面にこすりながら塗布します。歯肉縁下や隣接面にはフェルトチップをそのまま使用し(図7)、広範囲の場合はフェルトチップの先端を少し潰してから液を含ませ塗布することをおすすめします(図8)。
5~30秒間表面が濡れるのを確認し、こすり塗りします。また、綿球に液を含ませてこすり塗りすることも有効です(図9)。根分岐部等には液を十分に浸した綿球を、90~120秒ほど静置します(図10)。隣接部は同様に頰舌側に綿球をおいたのち、アンワックスフロスを数回通すようにして塗布したり、歯間空隙に綿球を入れ込んで静置することもあります(図1112)。
その後、緩やかなエアブローにて5~10秒間乾燥させます。症状が改善しない場合にはこすり塗りを2~3回繰り返します。その後十分に洗口して操作完了です。
通常、1~2回の処置で十分に知覚過敏抑制効果は得られますが、症状が重い場合は数回来院していただき処置を重ねることでさらなる効果が期待できます。
本製品はボンディング材などのように重合硬化する材料と異なり、もともと高分子である状態の材料を水に分散させてあるので、水分の影響に神経質にならなくても良く、防湿が十分にできない場合にも使用することができます。また歯肉に付着しても疼痛がなく、光重合反応で硬化する他の知覚過敏抑制材と比較して歯肉白化が少ないことから、生体に優しい材料であることも大きな特長といえます。
また、露出した歯根部にプラークが付着し、かつ重篤な知覚過敏のためにクリーニングするのが困難な場合にも、MSコートFは、その性能を遺憾なく発揮します。まず綿球でそっと可能な範囲でプラークを除去し(図13)、MSコートFをたっぷり塗布します(図14)。これを1~2回ほど繰り返し、知覚過敏がある程度抑制できたら、次はいつものようにブラシ等でプラークを除去し(図15)、水洗してから再度MSコートFを塗布します(図16)。MSコートFの知覚過敏抑制効果によって超音波でのスケーリングも可能となります(図17)。このような使い方もMSコートFとMSコートONEならではであり、他のコーティング材料ではできない特長といえます。
さらに特筆すべきは、ホワイトニング前後の知覚過敏の予防や抑制にも高い効果を発揮するということです。通常ホワイトニング前にはフッ化物を含まないペーストで研磨することが推奨されていますので、ここでMSコートFの使用を躊躇される方もいらっしゃると思います。しかし、MSコートFを塗布後にオフィスホワイトニングを行ったところ、フッ化物を含まないMSコートONEを塗布した場合と比べ、遜色ない仕上がりになりました。

  • 細くて適度な硬さのフェルトチップは、歯肉縁下にも適応する。
    図7 細くて適度な硬さのフェルトチップは、歯肉縁下にも適応する。
  • フェルトチップの先端をつぶすように広げると液なじみも良く広範囲の塗布に有効。
    図8 フェルトチップの先端をつぶすように広げると液なじみも良く広範囲の塗布に有効。
  • 綿球には液をたっぷり含ませてこすり塗りする。
    図9 綿球には液をたっぷり含ませてこすり塗りする。
  • 綿球を歯面に置く場合は,少し大きめの綿球の方が患部を十分に覆うことができる。
    図10 綿球を歯面に置く場合は,少し大きめの綿球の方が患部を十分に覆うことができる。
  • 隣接面にはアンワックスフロスの併用も有効。
    図11 隣接面にはアンワックスフロスの併用も有効。
  • 歯間空隙に液を含ませた綿球を入れて静置する。
    図12 歯間空隙に液を含ませた綿球を入れて静置する。
  • 乾いた綿球で疼痛を与えないよう可能な範囲でのプラークを除去する。
    図13 乾いた綿球で疼痛を与えないよう可能な範囲でのプラークを除去する。
  • 綿球等でMSコート Fを多めに塗布する。
    図14 綿球等でMSコート Fを多めに塗布する。
  • ワンタフトブラシまたはブラシコーンでプラークを除去。先にMSコート Fを塗布しているため痛みが和らいでいる場合が多い。
    図15 ワンタフトブラシまたはブラシコーンでプラークを除去。先にMSコート Fを塗布しているため痛みが和らいでいる場合が多い。
  • 通常のように細部までMSコート Fをしっかり塗布する。
    図16 通常のように細部までMSコート Fをしっかり塗布する。
  • Sコート F塗布により知覚過敏は完全に消退し、超音波スケーラによる歯石除去も可能となった。
    図17 MSコート F塗布により知覚過敏は完全に消退し、超音波スケーラによる歯石除去も可能となった。
  • ※MSコート F適用後に接着操作を行う場合については、添付文書に以下の記載がございますのでご確認ください。
    MSコート Fを使用した部位に接着材を適用すると接着力が低下します。接着材に「スーパーボンド」或いは「ボンドフィルSB」を使用する場合は、「表面処理材グリーン」で10秒間こすりながら歯面処理をしてください。

■おわりに

MSコートFは、以前からも信頼性の高い知覚過敏抑制材MSコート ONEに、今回さらにフッ素化合物が配合されて、私たちの臨床に登場しました。刺激の遮断効果や知覚鈍磨作用が高いばかりか、操作性もよく、しかも歯質予防効果という新しい機能も期待できるようになりました。このような多くの付加価値を備えた知覚過敏抑制材はこれまでにはない製品と言えるのではないでしょうか?今後も、いろいろな機能を備えた知覚過敏抑制材は増えると思いますが、それらの機能をしっかり見極め上手に選択、活用していくことが大切であると考えています。
一昔前なら、「知覚過敏」などというと、歯がしみる程度の不定愁訴の1つに過ぎなかったようですが、近年はメディアの力もあり1つの疾患として扱われるようになりました。それは、単に知覚過敏で困っている人が増えたということを意味するだけではなく、穿った見方をすれば、歯の寿命そのものが延びた証だと考えても良いのではないでしょうか?「知覚過敏」それ自体は決して歓迎されるべきものではありません。しかし、歯科医師、歯科衛生士の熱意と、歯科材料メーカーの惜しみない努力が実を結んで、「歯と口の健康」は着実に守られてきたのだということも実感しています。

参考文献
  • 1) 中林宣男、安田 登:なるほど納得、むし歯の治療知って、よかった接着歯学. クインテッセンス出版,2004:40‑47.
  • 2) 深川優子、安田 登:チームで取り組む象牙質知覚過敏症~しみる!痛い!にどう対応?~.クインテッセンス出版,2006:13‑14,48,83‑86.
  • 3) 小西法文、太田泰寛、高橋朋将、鳥井医康弘、井上 清:象牙質知覚過敏抑制剤で処理した象牙質に対する口腔レンサ球菌の初期付着性について.日歯保存誌,2000:43(2),540-546.

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