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138号 AUTUMN 目次を見る

Clinical Report

プロビスタスーパークイック液材を使用した臨床応用

兵庫県尼崎市開業 オパールデンタルクリニック 下田 徹

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■目次

■はじめに

2009年2月に発売された「プロビスタ」(サンメディカル株式会社)は、 優れた研磨性、耐摩耗性、耐変色性を有し、金属色を遮蔽するオペーク色など多彩な色調ラインナップで審美的要求が高いプロビジョナルレストレーションにも対応できる汎用常温重合レジンである(図1)。
本商品は粉液のなじみが非常に良く、比較的ゆとりのある硬化時間は、シリコンコア法で多数歯の暫間補綴物を作製する用途などで技工サイドからも高い評価を得ている。
しかし、チェアサイドではテンポラリークラウンの作成や筆積法によるテンポラリークラウンのマージンの修正やリペアの作業において、「もう少し硬化時間が短ければ…」という要望が多く寄せられた。
そのチェアサイドからの要望に応え、2011年8月に硬化時間を早めた「スーパークイック液材」が発売された(図2)。
本稿では、「プロビスタ スーパークイック液材」を使った臨床例を呈示したい。

  • 高い審美性が要求されるプロビジョナルレストレーションにも十分対応できる高い物性と審美性を兼ね備えている。
    図1 高い審美性が要求されるプロビジョナルレストレーションにも十分対応できる高い物性と審美性を兼ね備えている。
  • この度発売された、スーパークイック液材。粉材は従来のプロビスタ粉材を共通で使用できる。
    図2 この度発売された、スーパークイック液材。粉材は従来のプロビスタ粉材を共通で使用できる。

■1. スーパークイック液材の特長

「プロビスタ スーパークイック液材」は、従来あった即時重合レジンのクイックタイプとは一線を画した特長を持っている。
国内メーカーでは初めて粉材を共通で使用し、液材を変えることによって硬化時間の短縮を実現している(図3)。つまり、使用する粉材は1種類で、早く硬化させたいリペアやリマージンには「スーパークイック液材」で速く硬化させ、十分な作業時間が欲しいロングスパンの暫間補綴物作製時などは従来タイプの「液材」でゆとりのある操作時間を得ることができる。
また、「液材」で作製した暫間補綴物を「スーパークイック液材」でリペア・リマージンすることが可能で、粉材の共有化により色調の統一がしやすく色ムラも出にくいというメリットがある。
医院経営の観点からも粉材の共用化で、購入・管理する粉材が1種類で済むことは嬉しい改良点である。

  • スーパークイック液材はチェアサイドでのリペア・リマージン作業やTEKの作製に最適化したバランスの良い硬化時間を実現している。*粉材/所定の液材=1.5g/1mL~2g/1mL
    図3 スーパークイック液材はチェアサイドでのリペア・リマージン作業やTEKの作製に最適化したバランスの良い硬化時間を実現している。*粉材/所定の液材=1.5g/1mL~2g/1mL

■2. プロビスタの物性を継承することによる臨床的メリット

元々、プロビスタには下記のような優れた特性がある。

  1. ①抜群の粉液親和性(色ムラ・気泡が極めて少ない)
  2. ②バランスの良い操作性(筆積も混和も操作が自由自在)
  3. ③高い耐摩耗性と曲げ強さ(硬いのにしなやか)
  4. ④優れた研磨性と滑沢性(軽快な切削感と容易な艶だし)
  5. ⑤オペーク色を含む多彩なカラーバリエーション(高い審美性と色調再現性)

粉材を共有することでその物性・特性をそのまま継承しながら硬化時間を早められることは大きなメリットである(図4)。


  • 図4 スーパークイック液材は、従来タイプの液材との比較においてもさらに高い曲げ強さと耐摩耗性を示す。*アラバマ式摩耗試験後に摩耗した体積

■3. スーパークイック液材を使った症例

症例1:アルジネートコア法を使ったTEK作製とリマージン
日常臨床で多く遭遇する不適合FCKを除去し、暫間補綴物を装着するケースである(図5)。
FCK除去前にアルジネート印象材にてコアを採取し、コアの内面に一層プロビスタを築盛しレジンシェルを作製しておく(図6)。
プロビスタは粉液のなじみがよいので、筆先に採取する液材の量を調整することで、硬めのレジン玉も柔らかめのレジン玉も思い通りに筆積できるため(図7)、コア内面へのレジン築盛が容易である。
支台歯の概形成を行った後、レジンシェルの内面にレジンを追加築盛し(図8)、アルジネートコアを口腔内に戻して支台歯に圧接する。
1分後、一旦口腔内から取り出し、アルジネートコアからレジンシェルを取り出す。 
この時、レジンシェル外層のレジンは既に硬化しているので、変形することなく容易にコアから取り出すことができる(図9)。
レジンシェル内側のレジンは、まだゴム状であるため支台歯に戻すことができ、対合歯と咬合させることで、後の咬合調整を最小限にすることができる。
レジンの硬化をさらに1分待ち、マージンのトリミングを行う(図10)。
また、レジンの収縮による内面の当たりを除去するためと未重合層の除去(特に生活歯の場合、歯髄刺激を避けるためにも)のため、内面をごく薄く一層削除することは重要である。
「プロビスタ」は粉材にフィラーが配合されているためサクサクとした切削感があり、従来の常温重合レジンのようにバーにまとわりつくことがない。
また、滑沢性にも優れているため、形態修正や艶出しなどの研磨作業が容易かつ短時間で行うことができ、日常臨床において非常に使いやすいレジンである(図11)。

  • 形成前の咬合面。
    図5 形成前の咬合面。
  • FCK除去前にアルジネートで印象採得し、先に咬合面と軸面に、筆積で薄く築盛を行っておく。
    図6 FCK除去前にアルジネートで印象採得し、先に咬合面と軸面に、筆積で薄く築盛を行っておく。
  • 少量の液材でも容易にレジン玉が採取できる。垂れにくく固い玉を採りたい場合は液材を少なめに採取する。
    図7 少量の液材でも容易にレジン玉が採取できる。垂れにくく固い玉を採りたい場合は液材を少なめに採取する。
  • レジンを追加築盛し支台歯に圧接する。先に築盛した外層のレジンは既に硬化している。
    図8 レジンを追加築盛し支台歯に圧接する。先に築盛した外層のレジンは既に硬化している。
  • アルジネートコアから取り出す。レジンシェル外層は既に硬化しているので容易に取り出しが可能。
    図9 アルジネートコアから取り出す。レジンシェル外層は既に硬化しているので容易に取り出しが可能。
  • 内側はゴム状なので支台歯に圧接して対合歯と咬合できる。硬化を待ってトリミングを行う。反応性有機質複合フィラー配合により、軽快に切削・研磨が可能。
    図10 内側はゴム状なので支台歯に圧接して対合歯と咬合できる。硬化を待ってトリミングを行う。反応性有機質複合フィラー配合により、軽快に切削・研磨が可能。
  • 完成後の咬合面間。
    図11 完成後の咬合面間。

症例2:連結暫間補綴物破折時のリペアとリマージン
上顎ロングスパンブリッジの最終形成を行い(図12)、暫間補綴物のリマージンを行った。
プロビジョナルはポンティック部で破折を来しており、また、最終形成によりプロビジョナルのマージンにはギャップが生じている(図13)。
マージン部に少量のレジンを盛り、圧接した(図14)。
マージンのトリミングを行った後、暫間補綴物を口腔内に戻し(図15)、破折部分にレジンを筆積みにて連結した(図16)。
このようなリマージンやリペアにおいて、プロビスタの色ムラと気泡の少なさは審美的に大きなメリットがある。
また、「スーパークイック液材」を使うことで、作業時間を短くすることができ、チェアタイムの短縮にもつながる。

症例3:インプラントプロビジョナルレストレーションのカントゥア調整
上顎左側側切歯の抜歯即時インプラント埋入を行い(図17)、暫間ポンティックを両隣在歯にスーパーボンドで固定した(図18)。
3ヵ月後、暫間ポンティックを除去し、粘膜をティッシューパンチで除去した後、プロビジョナルを装着し粘膜貫通部のスカルプティングを行った(図19)。
プロビジョナル粘膜貫通部はチタン製テンポラリーアバットメントの金属色を遮蔽するために、プロビスタのオペークアイボリー粉材を用い、粘膜貫通部のカントゥアはチェアサイドにてレジンを築盛し調整した(図20)。
この作業も「スーパークイック液材」を使用することで作業時間の大幅な短縮が図れた。
また、「プロビスタ」の優れた滑沢性によりプラークの付着は少なく、2ヵ月後の印象時の粘膜の炎症も極めて少ない。
プロビジョナルで作られた歯肉の形態を正確に印象するために、カスタムインプレッションコーピングを作製し(図21)、ジルコニア製カスタムアバットメントとオールセラミッククラウンにて上部構造を作製した(図2223)。

  • 上顎ロングスパンブリッジの最終形成。
    図12 上顎ロングスパンブリッジの最終形成。
  • 最終形成後のマージン部ギャップとポンティック破折部の状態。
    図13 最終形成後のマージン部ギャップとポンティック破折部の状態。
  • マージン部に少量のレジンを盛り、圧接してリマージンを行った。
    図14 マージン部に少量のレジンを盛り、圧接してリマージンを行った。
  • マージン部をトリミング。
    図15 マージン部をトリミング。
  • 連結冠を口腔内に戻し、プロビスタで破折部をリペアした。
    図16 連結冠を口腔内に戻し、プロビスタで破折部をリペアした。
  • 抜歯即時埋入。
    図17 抜歯即時埋入。
  • 暫間の審美回復として、スーパーボンドでアクリルレジン歯を両隣在歯に固定した。
    図18 暫間の審美回復として、スーパーボンドでアクリルレジン歯を両隣在歯に固定した。
  • プロビスタで作製したプロビジョナルレストレーションを装着。
    図19 プロビスタで作製したプロビジョナルレストレーションを装着。
  • オペークアイボリーにて金属色を遮蔽したプロビジョナルレストレーション。
    図20 オペークアイボリーにて金属色を遮蔽したプロビジョナルレストレーション。
  • 炎症なくスカルプティングされた歯肉の状態をカスタムインプレッションコーピングで正確に印象採得する。
    図21 炎症なくスカルプティングされた歯肉の状態をカスタムインプレッションコーピングで正確に印象採得する。
  • ジルコニア製カスタムアバットメント。
    図22 ジルコニア製カスタムアバットメント。
  • オールセラミッククラウンを装着。
    図23 オールセラミッククラウンを装着。

■まとめ

2009年に発売された「プロビスタ」は、その優れた物性により、ラボサイドではプロビジョナル用常温重合レジンとして高い評価を得ていた。
今回、硬化時間の短い「スーパークイック液材」が発売されたことにより、硬化時間は既存の常温重合レジンと同じ感覚となり、優れた物性をチェアサイドの日常臨床で幅広く応用することが可能となった。

参考文献
  • 1) 小濵忠一:前歯部審美修復インプラント編. クインテッセンス出版.2007.
  • 2) 日高豊彦:プロビジョナルレストレーションの概念, Ultimate Guide IMPLANTS. 278‑295, 医歯薬出版. 2004.
  • 3) 西野宇信、永富勝広:プロビスタを用いたプロビジョナルレストレーションの省力化. 日本歯科評論. 71(4)113‑119, 2011.
  • 4) 辰巳裕之、宮下英一郎:プロビスタ. 歯界展望. 114(6)1142‑1147,2009.

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