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139号 WINTER 目次を見る

特集2

フッ化物配合歯磨剤によるう蝕予防効果をさらに高めるために

神奈川歯科大学 健康科学講座 口腔保健学分野 荒川 浩久 / 宗 文群 / 何 大唯 / 大澤 多恵子 / 大澤 一雄 / 川村 和章

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■目 次

■1.フッ化物配合歯磨剤によるう蝕予防効果のレビュー

コクランライブラリーにおいて各種フッ化物応用のう蝕予防効果がレビューされている。Marinhoらによる2003年のレビュー1)によれば、D(M)FSの予防率は24%(95%信頼区間は21~28%、p<0.0001)であり、「フッ化物配合歯磨剤の恩恵は、50年間にわたる研究によって支持され明確に確立されている。フッ化物配合歯磨剤における介入研究は、比較的質が高く、フッ化物配合歯磨剤がう蝕予防に有効であるという明確な根拠が示された」と結論づけられている。
フッ化物配合歯磨剤の有効性は、1940年代からの“質の高い研究”によって証明され続けている。それはフッ化物配合歯磨剤を使用する実験群と使用しない対照群とが無作為に割り付けられ、対照群の被験者にはプラセボ歯磨剤(フッ化物が配合されているかどうか見分けられない歯磨剤)を使用させた“二重盲検法”にて、一定期間後にう蝕予防効果を判定するというRCT(RandomizedControlled Trial;無作為化比較臨床試験)が採用されている研究が多いからである。さらにレビューでは「フッ化物配合歯磨剤を利用している5歳から16歳までの子どもの3年間の研究期間において、う蝕経験が減少することが示された」とした。
最近の2010年のコクランレビュー2)の結論では、「本レビューは、子どもと青少年におけるフッ化物配合歯磨剤使用によるプラセボと比較したう蝕予防効果の利益を確実にした。
しかし、有意性はフッ化物濃度1,000ppm以上の歯磨剤に限ったものであり、高いフッ化物濃度の領域では、歯磨剤中フッ化物濃度の上昇にともなってう蝕予防効果が増加した。6歳未満児が用いるフッ化物配合歯磨剤のフッ化物レベルの決定はフッ素症リスクとのバランスをとるべきである」とされた。
これらのレビュー結果と日本の現状とを踏まえて考えるに、薬用歯磨き類製造(輸入)承認基準3)でフッ化物配合歯磨剤のフッ化物濃度は90~1,000ppm Fに規定されていることから、できるだけ1,000ppm Fに近いフッ化物濃度の歯磨剤を選択する、そしてう蝕リスクが中等度から低度の6歳未満児には、500ppm Fの歯磨剤を考慮するという結論になろう。

■2.フッ化物配合歯磨剤によるう蝕予防効果を高めるための今までの努力

2001年のRugg‑Guunの報告4)によれば、世界では15億人がフッ化物配合歯磨剤を使用していると見積もられている。このようなことから、1970年代から世界規模でみられているう蝕減少において、フッ化物配合歯磨剤の貢献度が最大級であると評価されている。
しかしながら、Chestersら5)による研究によって驚くべき事実が示された。平均年齢12.5歳の約3,000名の子どもに、3年間フッ化物配合歯磨剤を使用させて追跡したところ、歯磨き後に大きめのコップを用いて十分に洗口する習慣のある子どもより、手ですくって洗口したり、蛇口の下に口を近づけて洗口したりする子どものう蝕発生が有意に少なかったというのである。
一方、フッ化物配合歯磨剤を使用している平均年齢25歳の47名の成人を対象に、う蝕の多いグループ(1人平均う歯数18.9)とう蝕の少ないグループ(1人平均う歯数4.8)の歯磨き習慣を比較した研究では、う蝕の多いグループのほうが、統計的有意に洗口の回数と水量が多く、歯磨き後の唾液中フッ化物保持が有意に低いことが示されたのである6)
これらの研究によって、フッ化物配合歯磨剤であっても使用方法によってう蝕予防効果が左右されることが示された。つまり、フッ化物配合歯磨剤使用後の洗口回数が多かったり、洗口に使用する水量が多かったりする被験者ほどう蝕が多く発生するということである。
そこで、日本人の歯磨剤使用の習慣を調査したところ、少量の歯磨剤を使用し、かつブラッシング終了後の洗口回数が多いという、フッ化物配合歯磨剤のう蝕予防効果を低下させる習慣にあることがわかった。
そこで、当教室ではフッ化物配合歯磨剤の適切な使用方法を基準化することを目的に、種々な実験を行い、日本人がフッ化物配合歯磨剤を成人が使用する場合について、表1のような使用方法を提示した。これらについては日本歯科医師会雑誌に詳細を述べているので、それを参照されたい7)

  • 表1 フッ化物配合歯磨剤によるう蝕予防効果を高めるために提示した一般的な使用方法の奨め
    表1 フッ化物配合歯磨剤によるう蝕予防効果を高めるために提示した一般的な使用方法の奨め
    上記以外にも年齢に応じた使用方法を提示している。

■3.フッ化物配合歯磨剤によるう蝕予防作用

フッ化物によるう蝕予防メカニズムは多数考えられている。フッ化物配合歯磨剤は局所応用のなかでは比較的フッ化物濃度が低く、多数回応用されるため、低濃度多数回応用(low dose high frequency)に分類される。この種のフッ化物製剤によるう蝕予防作用は、表2のように考えられている。フッ化物配合歯磨剤使用後に、できるだけ長時間再石灰化促進を期待するには、歯表面と周囲の口腔環境中(とくに唾液)に再石灰化を促進するために必要な濃度のフッ化物が長時間保持される必要がある。Featherstoneら8)は、pHサイクルを用いた実験によって、石灰化液中に0.05~0.1ppmの濃度のフッ化物が存在すれば再石灰化を促進するのに十分であると結論した。また、フッ化物配合歯磨剤使用後の口腔環境中フッ化物の保持時間に対する洗口の影響に関する実験的研究も多数実施された。

  • 表2 低濃度多数回フッ化物局所応用によるう蝕予防作用
    表2 低濃度多数回フッ化物局所応用によるう蝕予防作用
    *:フッ化物製剤中のフッ化物は歯磨きによって除去しきれなかった歯垢中に浸透し、たんぱくやカルシウムなどと結合して濃縮貯蔵される。
    歯垢中で酸が産生される(つまり、う蝕の危険が高まる)とフッ化物がイオン化して、歯質の脱灰抑制と再石灰化促進に寄与し、う蝕を予防する。

■4.一般消費者に対するフッ化物配合歯磨剤の使用方法の提示

先に説明したフッ化物配合歯磨剤によるう蝕予防作用が発揮されるまでの流れを図1に示す。
また、この流れの中で、フッ化物によるう蝕予防効果に影響する諸因子を表3に示す。これら以外にも、唾液流出量などの因子もあるが、表3は個人の努力によって改善できるものに限定した。
これらの中でフッ化物の効果を低下させる因子をできるだけ少なくするには、歯科医師や歯科衛生士からの患者へのアドバイスが有効で必要不可欠である。
さらに歯磨剤メーカーにおいては、できるだけフッ化物濃度を高めたり、歯磨き終了後の洗口回数ができるだけ少なくてすむように、歯磨剤を低香味化したり低発泡化させたりするなどの努力が要求されるのである。
このようなコンセプトのもとに誕生したのがフッ化物を配合する“Check‑Up歯磨剤シリーズ<ライオン歯科材(株)>”である。
これらにはソフトペースト、ジェル、フォーム(泡)のタイプがあり、低発泡性、低香味性、低研磨性(フォームとジェルには研磨剤が配合されていない)という特徴がある。
しかも、患者指導用の“Check‑Up File”(図2)や少量洗口用の小さめのコップ(図3)などもノベルティとして制作した。

  • 図1 フッ化物配合歯磨剤によるう蝕予防作用
    図1 フッ化物配合歯磨剤によるう蝕予防作用
    *:唾液中のフッ化物は嚥下とともに消失するが、粘膜上のフッ化物が唾液に移行して補っていく。
    **:歯の表面に存在するフッ化物が0.05ppm 以上であれば、これらの作用が続く。通常はフッ化物配合歯磨剤使用後1〜2時間まで継続するが、夜寝る前にフッ化物配合歯磨剤で歯磨きすれば翌朝の起床時まで続く。
  • 表3 フッ化物配合歯磨剤のう蝕予防効果に影響する歯磨きの諸因子
    表3 フッ化物配合歯磨剤のう蝕予防効果に影響する歯磨きの諸因子
    *:ない、または少ない場合には、う蝕予防効果が低下する。
    **:ある、または多い場合には、う蝕予防効果が低下する。
  • 図2 患者指導用“Check‑Up File”
    図2 患者指導用“Check‑Up File”
  • 図3 少量洗口用コップ
    図3 少量洗口用コップ

■5.さらにフッ化物配合歯磨剤によるう蝕予防効果を高めるために最近提示された刷掃法

フッ化物配合歯磨剤の有効性をさらに高めるために、「う蝕予防のためのフッ化物配合歯磨剤応用マニュアル9)」においてスウェーデンのイエテボリ大学で考案したイエテボリ・テクニックが紹介されている(表4)。
この刷掃法は、できるだけ口腔に供給するフッ化物量を多くし、洗口などによる口腔内からの消失を防ぐことが意図されている。
さらに、“改良型フッ化物配合歯磨剤刷掃法”が推奨されている10)。具体的には、表5に示すように、歯磨剤を2cm使用する、2分間刷掃する、活発に頰、唇、舌を動かして歯列周辺に歯磨剤の懸濁液を勢いよくいきわたらせて、吐出するまでの約30秒間、隣接面部に懸濁液を通過させる、刷掃後は洗口せずに2時間飲食もしないとなっている。この方法は以前のSjögrenら11)のフッ化物配合歯磨剤改良刷掃法の歯磨剤量1cmを2cmに修正したものである(表5)。
この改良法を成人に1日に2回2年間応用させ、対照群には配合歯磨剤による自身の刷掃法でブラッシングさせた結果、新しい隣接面う蝕の発生歯面数は、対照群の3.37に対して実験群では1.15と約66%の抑制率(p<0.001)が示されたと報告されている。
以上のような世界の潮流を考慮すれば、わが国においても、さらにフッ化物配合歯磨剤によるう蝕予防効果を高めるために、歯磨き後の洗口回数や洗口量を少なくするための努力が必要になってくる。さらに、歯磨剤製品のフッ化物保持を高めるための配合成分の面での改良も期待される。

  • 表4 フッ化物配合歯磨剤のイエテボリ・テクニック
    表4 フッ化物配合歯磨剤のイエテボリ・テクニック
  • 表5 Sjögrenらによる改良歯磨剤テクニックの改良型
    表5 Sjögrenらによる改良歯磨剤テクニックの改良型
    Sjögrenr らによる改良歯磨剤テクニックを改良した。

■6.フッ化物配合歯磨剤の改良品と新しい刷掃法による唾液中フッ化物保持実験

ここで本誌の23頁に紹介されているフッ化物配合歯磨剤のコーティング剤として、ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド(カチオン化セルロース)を配合した新製品の少量洗口の有効性を検討するために実施した実験を紹介する。
被験者は7名の平均年齢41歳の成人(男3名、女4名)である。詳細については平成23年10月13日の第136回神奈川歯科大学学会例会で発表したが、新製品のNaF配合ペーストタイプ歯磨剤とNaF配合ジェルタイプ歯磨剤<950ppm F、ライオン歯科材(株)>(図4)0.5gを用いたブラッシング後に、異なる洗口方法と洗口水量で洗口し、応用150分後までの唾液中フッ化物濃度を評価したものである。

1)実験に使用した歯磨剤
いずれもライオン歯科材(株)の歯磨剤製品であり、新製品ペースト(Check‑Up standard, 950ppm F, NaF)、新製品ジェル(Check‑Up gel, 950ppm F, NaF)の2種類である。

2)刷掃方法
上記の歯磨剤0.5gにて、3分30秒ブラッシングし、終了直後、15分後、30分後、60分後、120分後、150分後の6回、5分間混合唾液を採取し、唾液中のフッ化物濃度を測定するという実験である。
歯磨剤と洗口方法の組合せは次のとおりである。すべて1回の洗口時間は4秒間とした。
実験①:新製品ペーストによる15mL水の1回洗口実験
実験②:新製品ペーストによる25mL水の2回洗口実験
実験③:新製品ペーストによる30mL水の4回洗口実験
実験④:新製品ジェルによる25mL水の1回洗口実験

3)実験の結果
実験結果は、ペースト歯磨剤の図5とジェル歯磨剤の図6に分けて示す。
図5のペースト歯磨剤において、使用直後の唾液中フッ化物濃度と各唾液中フッ化物濃度で描かれる曲線の下の面積(AUC)で有意差が示されたのは、実験①-②、実験①-③の2つの組み合わせであり、実験①の15mLの水で1回洗口する方法はフッ化物保持に効果的であることがわかった。
さらに、図6のジェル歯磨剤の結果であるが、実験④の25mLの水で1回洗口した場合の唾液中のフッ化物濃度は、ペースト歯磨剤を使用した実験①の15mLの水で1回洗口した時の値に近いことがわかった。
洗口方法と実験結果を対照させて考察すれば、洗口量と洗口回数が多くなるとフッ化物配合歯磨剤使用後の唾液中フッ化物保持は有意に低下し、う蝕予防作用も低下する可能性が高いということである。
とくに実験③の30mLの水で4回洗口するという多量洗口のフッ化物保持は極端に低く、このように多量洗口している患者さんには少量洗口のアドバイスが必要である。

  • 図4 新 DENT. Check‑Upシリーズ
    図4 新 DENT. Check‑Upシリーズ
  • 図5 ペースト歯磨剤使用後の唾液中フッ化物濃度の経時的変化
    図5 ペースト歯磨剤使用後の唾液中フッ化物濃度の経時的変化
  • 図6 ジェル歯磨剤使用後の唾液中フッ化物濃度の経時的変化
    図6 ジェル歯磨剤使用後の唾液中フッ化物濃度の経時的変化

■7.まとめ

以上の実験結果から、少量洗口と少数回洗口は口腔環境中フッ化物保持に促進的に働くことが明らかであり、フッ化物の歯面滞留性の向上を目指した新製品の効果も期待できそうである。
今や日本でも、フッ化物配合歯磨剤は一般的に使用されるようになった。世界的には1,000ppm F以上の濃度の歯磨剤を1日に2回以上使用し、使用後の洗口はできるだけ少量で回数少なく(というより洗口はしない)という方法が推奨されている。
一方、ISO(世界標準化機構)におけるフッ化物配合歯磨剤のフッ化物濃度の上限は1,500ppm Fであるが、わが国では1,000ppm Fである。この濃度差のハンディを埋めるためにも、患者さんに対し、フッ化物配合歯磨剤の使用の勧めだけでなく、少数回で少量の洗口などのアドバイスをお願いしたい。

参考文献
  • 1) Marinho, VCC, Higgins, JPT, Logan, S, Sheiham, A: Fluoride toothpastesfor preventing dental caries in children and adolescents. CochraneDatabase of Systematic Reviews 2003. http://www2.cochrane.org/reviews/en/ab002278.html, Access on Sep 2 2011.
  • 2) Walsh T, Worthington HV, Glenny A‑M, Appelbe P, Marinho VCC, ShiX: Fluoride toothpastes of different concentrations for preventing dentalcaries in children and adolescents. Cochrane Database of SystematicReviews 2010. http://www2.cochrane.org/reviews/en/ab007868.html,Access on Sep 2 2011.
  • 3) 薬用歯みがき類製造(輸入)承認基準等について:平成6年3月15日薬発,第241号,各都道府県知事あて厚生省薬務局長通知,http://dscyoffice.net/office/tuuti/010424.htm,平成23年9月2日アクセス.
  • 4) Rugg‑Gunn, A: Foundersʼand Benefactorsʼ lecture 2001. Preventingthe preventable—the enigma of dental caries, Br Dent J/ 191: 478‑482,485‑488, 2001.
  • 5) Chesters, R. K. et al.:Effect of oral care habits on caries in adolescents.Caries Res.,26:299~304,1992.
  • 6) Sjögren, K. et al.:Factors related to fluoride retention after toothbrushingand possible concentration to caries activity.Caries Res.,27:474~477,1993.
  • 7) 荒川浩久:フッ化物配合歯磨剤の現状と臨床応用,日本歯科医師会雑誌,60:218‑228,2007.
  • 8)  Featherstone, J.D.B et al.:Laboratory and human studies to elucidatethe mechanism of action of fluoride‑containing dentifrices,in Clinicaland Biological Aspects of Dentifrices,41~51,Oxford UniversityPress,New York,1992.
  • 9) フッ化物応用研究会 編:う蝕予防のためのフッ化物配合歯磨剤応用マニュアル,社会保険研究所,東京,pp62‑63,2006.
  • 10) Sonbul H, Birkhed D: The preventive effect of a modified fluoridetoothpaste technique on approximal caries in adults with high cariesprevalence. A 2‑year clinical trial, Swed Dent J 34: 9‑16, 2010.
  • 11) Sjogren K, Birkhed D, Rangmar B: Effect of a modified toothpastetechnique on apprpximal caries in preschool children, Caries Res, 29:435‑441, 1995.

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