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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Clinical Report
POs.Ca+Fガムの力
大阪歯科大学 口腔衛生学講座 教授 神原 正樹

■目 次

■1.はじめ

2011年8月に「歯科口腔保健法」が公布され、さらに現在20の県で「口腔保健条例」が制定されるなど、歯科疾患構造の変化に伴った口腔保健の獲得を目指したPublicOriented Dentistryの対応が新たな局面を迎えている。12歳児の一人平均齲歯数が1.3本(健康日本21最終報告)であることに代表されるように、日本人の口腔保健状態は、とくに若年者において、健全な口腔を保有する人が増加している現状であり、これまでの歯科疾患予防から、健康な口腔を維持する口腔保健の管理への転換が必要であることを示唆している1)。この転換の意味は、疾患対象の予防から、健康そのものをベースにして口腔保健を考える発想への転換が必要であり、さらにCommunity‑Oriented Dentistryの重要性を認識するところにある。
また、歯科疾患がNCD(Non Communicable Disease;非伝達性疾患)の一つに加えられ、2011年9月のNY・国連サミットで議論されたことも、これからの口腔保健において重要である。NCDは、生活習慣病やライフスタイル病ともいわれ、歯科疾患が加えられたのは、4大NCD疾患のガン、糖尿病、心血管系疾患、呼吸器系疾患とリスク因子が共通しているためである。全身の健康と口腔の健康との関連性や歯科医療職務の拡大、さらには今後の歯科医療を考える意味で、重要な事柄である。
歯科疾患が生活習慣病であるとの立場に立つと、健康な生活習慣・ライフスタイルを送ることが口腔の健康を維持するために必要になる。日常生活健康行動の中で、とくに健全な食生活を送る食行動を確立することが全身の健康のみならず口腔の健康に重要であることは言うまでもない。普段の食生活において、とくに意識することなく食品を摂取することで口腔の健康を獲得することが、LOOHAS(Lifestyle of OralHealth and Susceptibility;口腔の健康と持続可能性のある生活スタイル)を実践することになる2)

■2.シュガーレスガムの効用

日常生活の中で、口に入れリラックス効果を得る意味で、これまでガムが咀嚼されてきた。一般的なガムの効用は、ガムを噛むことによる効果として、①消化を助ける、②唾液の分泌促進、③歯ぐきと顎骨の向上、④脳の活性化 などがあげられる。さらに、ガムに機能性成分を添加したもの、たとえば、ビタミンや栄養補助剤の飲用促進、薬用成分添加による服薬効果、スローリリース効果、消臭効果などがあり、最近では、禁煙支援やう蝕予防、歯周病予防効果を狙ったものも見受けられる。
これらガムの口腔保健への効果のエビデンスのあるものとしては、初期う蝕への再石灰化促進を狙ったCCP‑ACPやPOs‑Ca添加のシュガーレスガムがある。健全歯が増加してきている口腔保健状態において、とくに、う蝕予防では、再石灰化の促進(図1)が重要である。初期う蝕とは、表層エナメル質が表面に維持され、その表層下に脱灰がある状態で、可逆的、すなわちこの段階であれば元の健全状態に戻りうる初期のう蝕である。エナメル質表層は、日常的にこのような脱灰―再石灰化現象が繰り返し行われており、歯の表面に接する唾液や食品の状態により、初期う蝕は実質欠損の方向や再石灰化の方向に進んでいくことになる。このことをう蝕の活動性といい、進行性(active)、回復性(recovery)、停滞性(arrest)に分類できる3、4)。このような、目に見えない変化を診断法によって可視化・細分化し、将来予測、初期う蝕の活動性を評価することが、健全歯が多くなってきている将来の歯科医療に求められている。
初期う蝕の再石灰化は、歯を被う外部環境液に歯の主成分であるリン酸とカルシウムが過飽和に存在することにより起こり、フッ化物イオンはこの反応を促進する。外部環境液は、口腔内では唾液であり、歯に対するカルシウムやリン酸イオンを含んだ飽和溶液である。もし、これらイオンを含まない精製水に歯を浸漬すると歯が溶解することからも、唾液が飽和溶液であることは認識できる。POs‑Ca成分(リン酸化オリゴ糖カルシウム)は、ジャガイモ由来の高水溶性Ca製剤であり、唾液をよりカルシウム・リッチにし、再石灰化を促進することを目的に開発されたものである。通常の刺激唾液に比べ約3倍以上のカルシウム濃度に上昇させることで、歯のハイドロキシアパタイト結晶のカルシウム/リン酸のモル濃度比である1.67に近づける(通常唾液は0.4程度)ことで再石灰化を促進させることができた5)。この江崎グリコ(株)のPOs‑Ca配合ガムは、臨床試験でその効果が検証されており6)、特定保健用食品としての許可も取得している。

  • 図1 初期う蝕(表層化脱灰)のin vitro再石灰化像
    図1 初期う蝕(表層化脱灰)のin vitro再石灰化像

■3.POs‑Caガムの効果

POs‑Ca配合ガムについて、in vitroでの人工初期う蝕への再石灰化実験での再石灰化効果に続いて、我々の講座で、小学校児童への臨床研究を実施した(大阪歯科大学倫理委員会:大歯医倫号060716)。10数年間、我々の講座で唾液の活動性試験、口腔内診査を含む小学校(DMFT≒1.0)の学校歯科保健管理を行ってきた某小学校で、5年前から昼食後にPOs‑Ca配合チューイングガムの咀嚼を行っていただいた。評価は、歯の診査、唾液緩衝能および唾液S. mutansレベル、さらに初期う蝕のQuantitative Light‑Induced Fluorescence(QLF)診査により行った。
POs‑Ca配合ガムのチューイングでまず明確な変化が出てきたのは、唾液中の緩衝能が高くなったことである(図2)。ガムを噛む以前の対照群の緩衝能では各学年とも変化が見られなかったのに対し、各学年において1年後有意に緩衝能は高い値を示した。唾液緩衝能は唾液量と比例することが明らかであることから、ガムを噛むことにより唾液流出量が増加するようになったといえる。また、高い緩衝能の値は、その後継続して維持されることが明らかになった(図3)。しかし、唾液中のSMレベル(S. mutansの評価)には、有意な差は認められなかった(図4)。また、永久歯う蝕の増加数は、3年生の2、3年間のガムチューイングで有意に減少した(図5)。さらに、学年別の第一大臼歯咬合面の初期う蝕の活動性では、1、2年生では進行性が多く、60%以上を示したのに対し、3、4、5年生では回復性の初期う蝕が多く、進行性は40%程度であった(図6)。このように、POs‑Caガムは、う蝕抑制や口腔内環境の改善に効果のあることを臨床研究により明らかにすることができた。

  • 図2 POs‑Ca配合ガム咀嚼群と対照群の1年間の唾液緩衝能の比較
    図2 POs‑Ca配合ガム咀嚼群と対照群の1年間の唾液緩衝能の比較
  • 図3 小学校1、2年生のPOs‑Caガム咀嚼4年間の唾液緩衝能のベースラインからの推移
    図3 小学校1、2年生のPOs‑Caガム咀嚼4年間の唾液緩衝能のベースラインからの推移
  • 図4 小学校1、2年生のPOs‑Caガム咀嚼4年間の唾液SMレベルのベースラインからの推移
    図4 小学校1、2年生のPOs‑Caガム咀嚼4年間の唾液SMレベルのベースラインからの推移
  • 図5 POs‑Ca配合ガム咀嚼群と対照群の3年間の永久歯う蝕増加歯数の比較
    図5 POs‑Ca配合ガム咀嚼群と対照群の3年間の永久歯う蝕増加歯数の比較
  • 図6 学年別1年間のPOs‑Caガム咀嚼後の初期う蝕活動性の評価結果
    図6 学年別1年間のPOs‑Caガム咀嚼後の初期う蝕活動性の評価結果

■4.POs‑Ca+F配合ガムの効果

前項 3. で示したように、POs‑Ca配合ガムの初期う蝕に対する効果が、1、2年生では3、4、5年生に比べ顕著ではなかった。この結果は、今回初期う蝕の評価を行った対象が第一大臼歯であったため、1、2年生では萌出直後であり、う蝕罹患性傾向が高いことによると考えている。そのため、1、2年生に対し、より積極的な介入の必要性を感じ、う蝕予防効果が高いフッ化物を添加したガムの活用を企画し、お茶由来のフッ化物を添加することになった。フッ化物を添加するに当たり、カルシウムとフッ化物イオンの結合に配慮し、唾液中に遊離したフッ化物イオンの活性を維持したガムが適している。そこで、1、2年生を対象に、POs‑Ca由来のカルシウムとお茶由来フッ化物配合のガム(POs‑Ca+F配合ガム)を咀嚼していただいた。唾液中のフッ素濃度として、0.5~1ppm程度に近づけるようにガムを設計した。とくにお茶中のカテキン等のポリフェノールは、カルシウムやフッ素のイオン化を阻害するため、除去した抽出物を調製した。
図7は、POs‑CaおよびPOs‑Ca+F配合ガム咀嚼1年後の唾液緩衝能および唾液SMレベルを示した結果である。コントロール群に比べ、両ガム群ともに有意に緩衝能は高くなり、SMレベルにも改善が見られた。POs‑Ca群で図3に示すように緩衝能が高い値を示したように、POs‑Ca+F群でも同様に高い緩衝能を示したが、POs‑Ca+F群でSMレベルに有意に改善が見られたのは、コントロール群のそれぞれのベースラインに対して規格化を行い、コントロールに対する割合、すなわち変化量で見てみたところ有意に改善が認められた。また、初期う蝕の活動性では、POs‑Ca配合ガムに比べ、POs‑Ca+F配合ガムで有意に進行性が減少し、回復性が増加した(図8)。
図9に、第一大臼歯の咬合面中央小窩の初期う蝕が、1年後には健全状態を呈しているQLF画像の一例を示す。エナメル質を覆う唾液の飽和カルシウムに加え、数ppmのフッ化物の効果を明確に可視化することができた。
フッ化物のう蝕抑制メカニズムは、長年エナメル質の耐酸性向上によると考えられてきたが、完全なフルオロアパタイト<Ca10(PO46F2>でできているサメの歯であっても口腔内に置くとう蝕ができたことから、耐酸性よりも再石灰化の促進が主流であるとの考え方に移行してきている。
そのため、口腔内に数ppmのフッ化物でも維持することがう蝕予防に重要であることから、フッ化物配合歯磨剤に加え、POs‑Ca+Fのようなガムの形で唾液中にカルシウムとフッ化物を供給できることは、口腔保健のためには意味のあることである。

  • 図7 POs‑Ca, POs‑Ca+Fガム咀嚼1年後の唾液SMレベル、唾液緩衝能の変化状況の比較(小学校1年生時~2年生時の変化)
    図7 POs‑Ca, POs‑Ca+Fガム咀嚼1年後の唾液SMレベル、唾液緩衝能の変化状況の比較(小学校1年生時~2年生時の変化)
  • 図8 POs‑Ca, POs‑Ca+Fガム咀嚼による1年間の初期う蝕活動性の変化
    図8 POs‑Ca, POs‑Ca+Fガム咀嚼による1年間の初期う蝕活動性の変化
  • 図9 POs‑Ca+F配合ガム咀嚼1年間の第一大臼歯咬合面の一例 初期う蝕の再石灰化の QLF(光誘導蛍光定量法)画像
    図9 POs‑Ca+F配合ガム咀嚼1年間の第一大臼歯咬合面の一例初期う蝕の再石灰化の QLF(光誘導蛍光定量法)画像

■5.まとめ

今回の臨床研究では、第一大臼歯咬合面を研究対象にし、とくに萌出直後の歯へのPOs‑Ca+F配合ガムの初期う蝕に及ぼす影響について検討を加えたところ、初期う蝕回復性に効果のあることが明らかになった7~12)
初期う蝕を対象にした管理が、う蝕減少時代の対応策の重要事項である。切削充塡が必要な開放系のう蝕がほとんど無い時代、初期う蝕の状態を画像化数値化し、口腔保健管理を行うことが、今後の歯科医療の業務となる。日常の生活の中、とくにガムのような唾液の働きを引き出す食品から、口腔保健を維持することが、歯科疾患が生活習慣病の一つと認識されるポイントとなり、歯科医業の拡大につながる。
そのためには、ガムでの対応に限らず、新たな手段、材料、技術を、患者別、歯種別、年齢別、口腔内状態別に多様に保有する必要がある。なお、その他の歯種、歯面については、現在研究中である。

参考文献
  • 1) 神原正樹:口腔保健の転換.ヘルスサイエンス・ヘルスケア6, 14‑18(2006).
  • 2) 神原正樹:LOOHAS(ルーハス)のすすめ.ザ・クインテッセンス28, 47‑50(2009).
  • 3) 大塚秀人,三宅達郎,神原正樹:In VivoにおけるQLFによる早期う蝕診断に関する研究 - 初期う蝕病巣の1年間の追跡調査について -.歯科医学 67, 266-273(2004).
  • 4) NISHIJIMA N,UEMURA M,KAMBARA M.:Clinical efficacy offluoride dentifrice on remineralization of white spot lesions.Journal ofOsaka Dental University 41, 41‑49(2007).
  • 5) Kamasaka H, To‑o K, Nishimura T, Kimura T, Matsuzawa N andSakamoto R.:Studies on Mass Production and Application of phosphorylOligosaccharides from Potato Starch. J. Appl. Glycosci., 56, 47‑55(2009).
  • 6) Kitasako Y, Tanaka M, Sadr A, Hamba H, Ikeda M, Tagami J.:Effectsof a chewing gum containing phosphoryl oligosaccharides of calcium(POs‑Ca) and fluoride on remineralization and crystallization of enamelsubsurface lesions in situ. Journal of Dentistry, 39, 771‑779(2011).
  • 7) 上根昌子,土居貴士,三宅達郎,川崎弘二,神光一郎,大橋晶子,村田省三,神原正樹:小学校における給食後のチューインガム摂取が口腔内環境に及ぼす影響.口腔衛生学会雑誌 58, 347(2008).
  • 8) 上根昌子,三宅達郎,川崎弘二,村田省三,黒部 舞,神原正樹:小学校における給食後ショ糖非含有チューインガム摂取3年経過後の口腔内環境の変化.口腔衛生学会雑誌 59, 444(2009).
  • 9) 土居貴士,三宅達郎,上根昌子,大橋晶子,西田侑平,神原正樹:初期う蝕の1年間の変化に及ぼすチューインガム摂取の影響.口腔衛生学会雑誌 59, 471(2009).
  • 10) Doi T, Miyake T, Uene M, Jin K, Kawasaki K,Kambara M. :The effectsof chewing‑gum intake to early caries lesions.IADR Abstruct2010 ; #3238.
  • 11) 上根昌子,土居貴士,三宅達郎,村田省三,釜阪 寛,滝井 寛,田中智子,小林隆嗣,神原正樹:学童期給食後ガム摂取が口腔内環境に及ぼす影響.口腔衛生学会雑誌 61, 498(2011).
  • 12) 土居貴士,上根昌子,川崎弘二,神光一郎,大橋晶子,村田省三,釜阪 寛,滝井 寛,田中智子,小林隆嗣,神原正樹:フッ化物およびPOs‑Ca配合チューイングガムが学童期の口腔保健に及ぼす影響.口腔衛生学会雑誌 61, 433(2011).

デンタルマガジン 140号 SPRING