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140号 SPRING 目次を見る

Technical Report

酒田市から全国へと波及する日吉歯科のチャレンジ!それをバックアップする院内ネットワークシステム“DOOR”の力歯肉色陶材(Tissue)を用いた築盛方法

株式会社カロス 増田 長次郎

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目 次

熊谷 崇 院長熊谷 崇 理事長・院長
最上川の河口右岸は日本指折りの穀倉地帯。その豊穣な庄内平野に根を張るかのように人口約11万人を擁する酒田市がある。秀峰・鳥海山を望む昔ながらの港町に日吉歯科診療所が立ち上がったのは1980(昭和55)年10月。以来30余年、MTM(メディカルトリートメントモデル)の実践、酒田市民の口腔内の健康状態を世界一にすることを理念に掲げ、今や総勢40名のスペシャリストが活躍する日本屈指のオーラルヘルスセンターは、地域歯科医療に多大な貢献を果たされている。その診療インフラとして、すべての診療室にリンクした院内ネットワークシステム“DOOR”、さらに昨年新たに導入されたSOAP記録方式によるカルテ情報の管理が支援する、シームレスで効率的な情報共有環境を実現。常にエビデンスとメンテナンスをベースに、専門性が高く世界に通用する歯科医療にチャレンジされている日吉歯科診療所。熊谷 崇院長に洋々たる歯科診療の未来を大いに語っていただいた。

  • 昔ながらの風情が残る屋敷町で30余年、日吉歯科診療所のメンテナンス主体の診療は地域医療の改善・向上に多大な成果を残している。左は昨秋増設した専門病棟。
    昔ながらの風情が残る屋敷町で30余年、日吉歯科診療所のメンテナンス主体の診療は地域医療の改善・向上に多大な成果を残している。左は昨秋増設した専門病棟。
  • 日本屈指のオーラルヘルスセンターの土台を支えているのは、歯科医師、歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士、受付の総勢40名のスタッフたちの総合力だ。
    日本屈指のオーラルヘルスセンターの土台を支えているのは、歯科医師、歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士、受付の総勢40名のスタッフたちの総合力だ。

酒田市民の口腔健康を世界一に!
その崇高な目標をサポートする院内ネットワークシステム“DOOR”。

―永年にわたって、どのようなポリシーとスタイルで診療に取り組んでこられましたか。
ひと言で言えば、長期にわたる継続的なメンテナンス主体の歯科診療です。12歳時の永久歯に1本のう蝕歯もないカリエスフリー率90%以上も、20年以上メンテナンスしている75歳の残存歯数平均18本もすでに達成しました。初期のリスク評価から予防プログラムの立案、最小侵襲治療、定期的なメンテナンスまでを管理するMTMが、私たちの診療を貫く基本思想です。
私たちの目標は、市民の口腔内の健康状態を世界一にすること。長期的には5歳児・12歳児のカリエスフリー率90%以上、20歳成人のカリエスフリー率90%以上と歯周病のない状態の実現、新たなう蝕・歯周病の発症の抑制、70歳の平均欠損歯数5歯以下の達成。中期的にはメンテナンス率50%の達成。短期的には日々のメンテナンス率の向上です。モリタの院内ネットワークシステムは、これらの高い目標を達成するための欠かせないツールになっています。

全診療室(27室)にDOC‑5とi‑VIEWを配置
“DOOR”システムが提供するシームレスで効率的な情報共有環境。

―日吉歯科診療所にとって、DOC‑5とi‑VIEWを全診療室に配置した“DOOR”システム構築のメリットは何でしょうか。
1982年にDOC-5Zを導入して以来、機能がバージョンアップするに伴ってレセプト作成機能だけではなく、患者さんへの情報提供ソフトがプラスされて、ドクターや歯科衛生士にとっても使い勝手がよくなってきました。しかし、これがレセプト作成機能だけなら各部屋に置く必要もなく、長足の進化や成長はなかったはずです。
“DOOR”システムは、いつでも、どこでも、誰でも、患者さんの口腔内の状況や、診療の流れに沿った必要情報を、画像やデータで検索・活用・共有できることが最大の構築メリットと言えます。日吉歯科では全ての診療室にDOC-5とi-VIEWを置き、チェアサイドでリアルタイムに適切な情報提供、検索ができます。誰でも、患者さんの口腔内の状態、写真やレントゲンやデータを共有できるのです。
患者さんは、メンテナンスに行く等、様々な部屋を移動するので、その度にデータを持って移動するのは大変です。患者さんのために、システムを導入することがまず一番重要でした。
また、私たちにとっても、診療に必要なデータをある決まった部屋まで移動して検索するのは大変なムダです。画像などのクリニカルデータや、患者説明ソフトがチェアサイドでスピーディに活用できることが大きなメリットです。現在DOC-5とi-VIEWは38台になりましたが、拡張性に優れ、全診療室でフル稼働しています。ただし構築には導入コストがかかっていますので、経営的には長期的な視点で見るスタンスが大切でしょう。

―“DOOR”によるシームレスな接続環境が効率的かつ効果的な情報共有を実現しましたが、診療にどのような波及効果が生まれていますか。
まず、業務の効率化は見逃せません。ドクターも歯科衛生士も治療後に治療内容をその場で入力し、次回のアポイントもチェアサイドで取ってしまいますから、時間的なロスがありません。受付はその入力結果を見てすぐに会計業務に入れます。チェアサイドでチェックすると同時に窓口会計に直結しますので、明朗会計の実行、レセプト請求の公正化や健全な経営基盤づくりにもつながります。
また、例えば30分や1時間単位で10人の患者さんが一時に来院、治療を終えて診療室から出てこられた場合を想像してください。次回アポイントや歯ブラシ、ガムなどのグッズ購入で受付に業務が集中し、治療が終わった患者さんをお待たせすることになります。診療後の待ち時間を最少化すれば、今回の治療内容や次回のアポイントの意義もよく理解し、満足して帰っていただけます。
DOC-5 PROCYONなら同時に10台以上が稼働していても、チェアサイドですべてのアポイントが成立し、業務が一気に進められるのが強みでしょう。ちなみに、日吉歯科ではキャンセル率は約4%台とかなり低く抑えられています。そのアポイントは、よくある「◯日の◯時から」ではなく、「◯日の◯時から◯時まで(あなたのために時間を確保しています)」という方法です。患者さんに画面を見せながらドクターや歯科衛生士が直接約束することで、患者さんに医療を受ける権利と同時に責任の感覚が芽生え、低キャンセル率の維持につながっています。

  • 全診療室に、DOC‑5(PROCYON)、i‑VIEWを完備し、適切な情報提供を瞬時に行うことが可能。次回アポイントもチェアサイドで完結。
    全診療室に、DOC‑5(PROCYON)、i‑VIEWを完備し、適切な情報提供を瞬時に行うことが可能。次回アポイントもチェアサイドで完結。

患者さんとの信頼関係をさらに深め、ドクターと歯科衛生士の連携をより強化するSOAP記録方式によるカルテ情報管理。

―この度、“DOOR”に新たに導入された「SOAP記録方式」によるカルテ情報管理の目的や効果については、どのようにお考えですか。
症状も治療経過の状況も、個々の患者さんで異なりますので、正しい診断・評価・治療に導くためには、カルテ情報の正確性が必須になりますし、患者さんによく理解してもらうための手順が大切です。SOAP記録方式なら、主訴・客観的な所見・診断(評価)・治療計画まで、カルテ作成のプロセスが標準化されていますから、患者さんはコンピュータ画面を見ながら、ドクターの詳しい説明を受け、治療にいたる過程を正確に理解でき、診療への不信感を抱くこともありません。ドクターが話した内容がカルテにそのまま記載されているので、患者さんが聞かなかった、知らなかったという事態は起こり得ないからです。このように患者さんの知る権利を保障し、診療情報の共有化を図り、隠しごとが何もないという信頼感も浸透します。
また、ドクターサイドから見た場合、たとえ医療行為にミスはなくても、ドクターの説明不足は過失と認められ医療過誤となり得ますので、医療訴訟に備えるリスクマネジメントの一環としても、カルテ開示と、それを支えるSOAP記録方式によるカルテ情報管理は欠かせません。さらに、標準化したカルテ情報の共有化によって、ドクターと歯科衛生士のパートナーシップを強める効果や、チーム医療や他科との連携をスムーズに行えるメリットも生まれます。

―今後も、カルテデータやエビデンスがますます重要になるとお考えですか。
たとえば、当院の場合、歯科衛生士はデータの重みというものを充分認識していますから、個々のデータをすべて把握したうえで分析・評価・判断し、メンテナンスを実行します。それらが生きたエビデンスとして蓄積・活用され、膨大な価値ある診療資産が形成されます。そのデータをさらに効率よく活用できるように再構築・運用しているのが“DOOR”のシステム力なのです。
データやエビデンスがなければ医療人としての責任を果たせませんし、治療の結果を知らなければ最善のアドバイスもできません。信頼できるデータやエビデンスを活用するためには、メンテナンスや治療を効率化する“DOOR”のような先進の診療環境を構築しつつ、歯科衛生士の能力も高め、医療の専門性を深めるために、歯科医師たちを欧米へ研修に行かせなければなりません。本来ならエビデンスの質によって歯科医院に格差が生じ、選択肢がふえ、最善な治療を実現するのがふさわしい自由競争の姿と思います。

  • DOORシステムによるシームレスな接続環境でクリニカルデータを活用し、インフォームド・コンセントもスムーズに運ぶ。
    DOORシステムによるシームレスな接続環境でクリニカルデータを活用し、インフォームド・コンセントもスムーズに運ぶ。
  • 患者さんの理解と共感を得るとともに、診療の履歴を残すために提供されている「健康ノート」や「健康ファイル」も、エビデンスの宝庫だ。
    患者さんの理解と共感を得るとともに、診療の履歴を残すために提供されている「健康ノート」や「健康ファイル」も、エビデンスの宝庫だ。

セキュリティ性が高いクリニカルデータを守り、将来の経営基盤の強化に役立つ“DOOR Link”サービスに寄せる期待と信頼。

―今年1月から運用を開始された“DOOR Link”サービスについて、どのように評価されていますか。
クリニカルデータは個人情報の中でも、きわめてセキュリティ性が高い情報であることは周知の事実です。治療記録や口腔内画像も個人を特定する重要な情報ですので、院内だけに保存・管理していると、漏洩したり、改ざんされたり、火災や地震などの自然災害で損傷・消滅したりする致命的なリスクが常につきまといます。当院でも常に神経を使って管理してきましたが、まだ十分とは言えない状況でした。
そんな中、クラウドシステムによる「データバックアップサービス」は、リスクマネジメントとしてセキュリティ保全の最善策と判断し、モリタが昨秋から提供している“DOORLink”サービスを導入して、活用することにしました。
現在、利用しているサービスは、DOORアップデート(DoUP)、ウィルス対策(F-secure)、メール配信です。今後さらにサービスが拡充され、将来の経営基盤の強化に役立つと大いに期待しています。また、このような新しい取組みに投入されたコストや時間や付加価値を患者さんに理解していただく努力も必要です。システムの先進性は欧米ならよく理解され、患者さんの意識も変わりますが、日本ではなかなか理解されません。しかし、患者さんに、なぜ日吉歯科でメンテナンスや治療を受けているのか、その意義や価値をしっかりと認識していただくことが重要です。“DOOR Link”の導入はさらに高い品質の歯科医療を将来にわたって提供できることに繋がると信じています。

  • DOOR Linkサービスの概念図
    DOOR Linkサービスの概念図
  • 防犯・防災対策万全の大収納量を誇るカルテ庫。30余年の地道で誠実なメンテナンス主体の診療の足跡を物語る。内部は理路整然と分類・体系化されている。
    防犯・防災対策万全の大収納量を誇るカルテ庫。30余年の地道で誠実なメンテナンス主体の診療の足跡を物語る。内部は理路整然と分類・体系化されている。
  • DOORシステムは、患者さんを待たせない、ストレスを与えない、低キャンセル率を維持する「約束の診療」をかなえている。
    DOORシステムは、患者さんを待たせない、ストレスを与えない、低キャンセル率を維持する「約束の診療」をかなえている。

酒田市民のメンテナンス率50%の達成、U20(20歳以下)のカリエスフリーの量産、メンテナンス率アップ、意識や診療スタイルの変革。

―では、熊谷先生が描かれている歯科医療の未来図は具体的にどのようなイメージなのでしょうか。
この31年間で酒田市民のメンテナンス率50%の達成は視野に入っています。メンテナンスを核とする診療は、患者さんのQOLの向上、歯科界の信頼性の獲得、医療費の抑制という「トライアングル・サティスファクション」に結実します。日々の実践は地道で小さいですが、社会に波及する効果や生み出す付加価値は絶大です。
今後、解決すべき課題は、U20(20歳以下)のカリエスフリーを量産すること、初診の患者さんのメンテナンス率を高めること、エビデンスを普及させ、先生方の意識や診療スタイルを変革することです。
私は院内・外で研修セミナーや講演活動を精力的に行っていますが、酒田市から山形県へ、全国へと広がれば状況は確実に変わります。そのためにマスコミで広報したり、政治システムも保険診療制度も歯科大学の教育システムも改革しなければなりません。
目標に近づいている手応えはありますが、混迷の時代にこそ、国のかたちを根本的に変えなければ何も変わりません。

―患者さんへの教育・啓蒙活動、“Oral Physician”の育成に尽きるということでしょうか。
やはり患者さんへの教育・啓蒙は重要でしょう。初期段階で介入し、リスクコントロールとメンテナンスを継続すれば、う蝕や歯周病は発症せず、歯牙を失うことはまずありません。すべての親が子や孫の教育者になって、次世代の健康の担い手たちを見守り、育て上げなければと痛感します。もちろん、ドクターの教育は必須です。患者さんの一生涯の口腔を管理する“Oral Physician”の教育を受けたドクターは、だれもがメンテナンス主体の診療に目覚めます。“OralPhysician”こそ、“DOOR”の意義を理解し、活用できるスペシャリストです。患者さんを総合的に管理するために指揮をとり、専門医、歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士を束ね、データやエビデンスの運用を図りつつ、“DOOR”を統括できる責任者が“Oral Physician”なのです。
ちなみに、アメリカの歯科界では、メンテナンス主体のハイレベルのクリニックを第三者に高く売却して、ドクターは売却益を退職金として受け取るので、後継者問題はありません。メンテナンスの質、データやエビデンスのクオリティ、診療の信頼性だけが、継承される経営資産のすべてですから、後継ぎはいらないのです。
いずれにしても、21世紀のデンティストリーの世界はバラ色で、明るいポテンシャリティに満ち満ちていますね。

ペリオから補綴、インプラントまで、専門性を求めるニーズに先駆けるために立ち上がった先進のチーム医療の最前線、「スペシャリストクリニック」。
熊谷直大 先生熊谷 直大 先生
昨年10月に専門診療棟を増設。熊谷直大先生を核に、ペリオ、補綴、インプラントの専門医たちがチーム医療を実践する「スペシャリストクリニック」への評価と期待が高まっている。
昨秋、専門病棟の増設に伴って、熊谷直大(なおた)先生を中心に、ペリオ、補綴、インプラントの専門医の経験とノウハウとスキルを集約、最先端のチーム医療を実践できる「スペシャリストクリニック」を立ち上げられた。
「これからの10年・20年・30年後、患者さんのQOL、生涯健康への潜在的な意識や欲求がますます強まってきますので、クオリティや付加価値の高い専門治療への診療ニーズが患者さんから求められてくるでしょう。これからはDOC‑5(PROCYON)を核とするデジタル診療の本領発揮と言ったところですね」。熊谷直大先生は、スペシャリストクリニックの貢献力や将来性に大きな期待を寄せられている。
昨年10月に専門診療棟を増設。熊谷直大先生を核に、ペリオ、補綴、インプラントの専門医たちがチーム医療を実践する「スペシャリストクリニック」への評価と期待が高まっている。

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