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142号 AUTUMN 目次を見る

Technical Hint

「i-TFCシステム 光ファイバーポスト」を用いたレジン支台築造 ~臨床家から聞こえた疑問とその対策 及び 応用例を紹介する~

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目 次

1. はじめに

ファイバーポストを併用したレジン支台築造はその有用性の高さから広く臨床に用いられるようになってきている。本学においても臨床への応用と並行して実験的研究も進められている。
現在では国内外のメーカー10社が薬事認可を受けファイバーポストを発売しているが、2007年6月に発売された「i‑TFCシステム」<サンメディカル(株)>と2010年1月に発売された「i‑TFC光ファイバーポスト」<サンメディカル(株)>は他のメーカーにはない特長を有するファイバーポストシステムとして評価されている。
すでに筆者が、本誌2008, Autumn(vol.126)で「i‑TFCシステム」についてその特長と技工術式について紹介した。また、本誌2010, Summer(vol.133)では「i‑TFC 光ファイバーポスト」の優れた光透過性と光硬化性について技工術式とともに紹介をしてあるので詳細を参考にされたい(図13)。
日常の臨床技工を進めている中で、「i‑TFC 光ファイバーポスト」を用いている術者から様々な質問をいただくことがある。今回は、質問の多い作業行程に的を絞ってその解決策と技工上の要点を解説する。
また、レジン支台築造に、より高い機械的強度が求められる症例への対応策として、「光ファイバーポスト」を複数本配置した応用例を紹介する。さらに、方向の異なるポストを有する症例に光ファイバーポストを用いて分割支台築造を製作した応用例も紹介する。
「i‑TFC 光ファイバーポスト」については、以下、「光ファイバーポスト」と略す。

  • 「i‑TFCシステム 光ファイバーポスト」のセットには3種類の太さで長さ90mmサイズの光ファイバーポストがある。必要量に応じて切断して使えるため経済的である。
    図1 「i‑TFCシステム 光ファイバーポスト」のセットには3種類の太さで長さ90mmサイズの光ファイバーポストがある。必要量に応じて切断して使えるため経済的である。
  • 「光ファイバーポスト」は光透過性に優れ照射光がむらなく拡散する(左:サンメディカル社提供)。右:上からワイヤー入りファイバーポスト、光ファイバーポスト、スリーブ。
    図2 「光ファイバーポスト」は光透過性に優れ照射光がむらなく拡散する(左:サンメディカル社提供)。右:上からワイヤー入りファイバーポスト、光ファイバーポスト、スリーブ。
  • 高さ15mm、直径5mmの円筒枠中央部に光ファイバーポストを固定し光照射後、硬化状態を確認した。右:診療室用ハロゲン40秒。 左:技工室用ハロゲン180秒。
    図3 高さ15mm、直径5mmの円筒枠中央部に光ファイバーポストを固定し光照射後、硬化状態を確認した。右:診療室用ハロゲン40秒。 左:技工室用ハロゲン180秒。

2. 光ファイバーポストを用いる際に生じた疑問とその解決策

1)光ファイバーポストの被着面処理はどうすればよい…?

レジン支台築造の製作にあたっては、常に被着面を清浄に保ち接着処理を進めることが最も重要となる。
光ファイバーポストの選択は、作業用模型のポスト孔内壁に薄く一層のワックスリリーフを施した状態で行う。その際、油脂分が光ファイバーポスト及びスリーブに付着するため、必ずスチーム洗浄またはアルコールによる清拭が必要となる。
編み込み繊維束でできている光ファイバーポスト及びスリーブにはポストレジンとの接着に有効なMMAレジンが含浸されているため、洗浄のみで高い接着力を得ることができる。
一方、光ファイバーポスト先端部にテーパーなどの修正を加えた場合には、エッチング処理(表面処理剤レッド / サンメディカル)後、シランカップリング処理(ポーセレンライナーM / サンメディカル)を施す必要がある(図45)。

2)築造体ポスト部に気泡が入るのですが…?

i‑TFCシステムに用いる専用のポストレジンは光硬化性に富み、流動性が良好でファイバーポストの繊維束になじみやすい特性をもつ。しかし、その流動性に依存し過ぎると気泡の混入を招く場合がある。
ポスト孔内へ「ポストレジン」を注入する際には、ニードルチップをポスト孔最深部まで一旦届かせた後、注入しながら引き上げれば気泡を内部に閉じ込めることがない。
スリーブに光ファイバーポストを一気に挿入するとポストレジンを押し出す結果となり、両者の界面へのなじみが悪く、気泡を巻き込む懸念がある。
ポストレジンは操作時間にゆとりのある光重合方式が採用されているため、ポストレジンを薄くコーティングした光ファイバーポストをポストレジンの満たしたスリーブにゆっくりと回転挿入するのがより確実である(図67)。

3)ポストレジンが溢れても大丈夫か…?

ポストレジンは象牙質に近い弾性係数を有する特性があり、「コアレジン」とは弾性係数及び機械的強度が異なる材質である。したがって、その材質の違いから、溢れ出たポストレジンが築造体部(コアレジン)に露出することは避けるべきである。
一体化した光ファイバーポストとスリーブをポスト孔内へ納めてゆく際に、ポスト孔開口部の外へポストレジンが大量に溢れ出ないようにする必要がある。ポスト孔内へのポストレジン注入量の目安は、ポスト長の3分の2程度に止める。光ファイバーポストとスリーブが定位置に固定された時、ポストレジンはポスト孔開口部とほぼ同一レベルが望ましい(図8)。

4)築造体部にスリーブの露出や気泡の混入が…?

コアレジンは他社の築造用レジンとは異なり、前装用硬質レジンと類似した硬さをもつ。経験の多い術者ならばインスツルメントで光ファイバーポストに直接築盛することも可能であろうが、築盛時に圧が加わりにくく光ファイバーポストとコアレジンの界面に気泡を巻き込む場合がある。
スリーブを露出させず、かつコアレジンをファイバーポストに確実に圧着するためには、シリコーンコアにコアレジンを盛り付けた後、圧接して成形する術式を推奨したい。
シリコーンコアを採得して製作する本術式は、光ファイバーポストとスリーブを計画的に築造体部の中心部に位置させることができるため、築造体部外表面にスリーブが露出することもない(図911)。

  • 光ファイバーポストの選択と位置決定後、スチーム洗浄を行い清浄を図ることが良好な接着に重要である。
    図4 光ファイバーポストの選択と位置決定後、スチーム洗浄を行い清浄を図ることが良好な接着に重要である。
  • 光ファイバーポストに修正を加えた場合は、エッチング処理後シランカップリング処理を行う。
    図5 光ファイバーポストに修正を加えた場合は、エッチング処理後シランカップリング処理を行う。
  • ポスト孔先端までニードルチップを挿入しレジンを注入しながら引き上げると気泡の混入がない。
    図6 ポスト孔先端までニードルチップを挿入しレジンを注入しながら引き上げると気泡の混入がない。
  • スリーブにポストレジンを注入後、光ファイバーポストをゆっくりと回転挿入する。
    図7 スリーブにポストレジンを注入後、光ファイバーポストをゆっくりと回転挿入する。
  • 光ファイバーポストの長軸方向から光照射を行う。ポスト先端部や唇側のブラインドとなっている部分も確実に重合硬化する。
    図8 光ファイバーポストの長軸方向から光照射を行う。ポスト先端部や唇側のブラインドとなっている部分も確実に重合硬化する。
  • コアレジンを盛り付けておいたシリコーンコアを作業用模型に適合させ、溢れ出たコアレジンで光ファイバーポストを被覆し舌面形態を付与すれば気泡の混入もない。
    図9 コアレジンを盛り付けておいたシリコーンコアを作業用模型に適合させ、溢れ出たコアレジンで光ファイバーポストを被覆し舌面形態を付与すれば気泡の混入もない。
  • 歯面処理後、築造体ポスト部にはエッチング処理とシラン処理(ポーセレンライナーM)を行い、スーパーボンドを用いて接着した後、再形成を行った。
    図10 歯面処理後、築造体ポスト部にはエッチング処理とシラン処理(ポーセレンライナーM)を行い、スーパーボンドを用いて接着した後、再形成を行った。
  • 装着されたオールセラミッククラウン。光ファイバーポスト併用レジン支台築造の明るい色調により口腔内で調和し患者の高い満足が得られた。
    図11 装着されたオールセラミッククラウン。光ファイバーポスト併用レジン支台築造の明るい色調により口腔内で調和し患者の高い満足が得られた。

3. 応用例その1 ~積極的な補強効果を求める場合~

二次う蝕などが原因で築造体を再製作するような場合、歯質の再形成により根管周囲の歯質が著しく失われ漏斗状の形態を呈することが多い。漏斗状となった根管の歯質は薄く破折しやすいことから、より高い機械的強度のレジン支台築造が求められる。本学クラウンブリッジ補綴学講座の研究では、複数本のファイバーポストを組み合わせて一体化した場合やファイバーポストとスリーブを二重構造としたレジン支台築造は1本のファイバーポストを用いたレジン支台築造と比較して、高い曲げ強さと破折強度を示すことが明らかとなっている。
本稿で示す積極的な補強例は、歯質の再形成による漏斗状の根管開口部を呈しており、かつ強いクレンチング癖をもつ症例である。担当医の設計指示により、支台築造の中心にファイバーポストとスリーブを組み合わせたものを設定し、漏斗状に広がった根管開口部の舌側スペースにファイバーポストを複数本配置し機械的強度の向上を目指した。
作業用模型から取り外したレジン支台築造のポスト部には光ファイバーポストとスリーブが透過性の優れたポストレジンにより内部の状態を確認することができる。漏斗状となった根管には積極的に補強用としてのファイバーポストを配置して機械的強度の向上を図ることが望ましい(図1219)。

  • クレンチングにより犬歯に強大な咬合力の加わる症例。舌側基底結節相当部に直径0.9mmの光ファイバーポストを複数本設定し機械的強度の向上を図った。
    図12 クレンチングにより犬歯に強大な咬合力の加わる症例。舌側基底結節相当部に直径0.9mmの光ファイバーポストを複数本設定し機械的強度の向上を図った。
  • 光ファイバーポストは、診療室用光重合器ではLED照射器30秒で15mmの硬化深度があり、技工用光重合器ではキセノンタイプ180秒で12mmの硬化深度がある。
    図13 光ファイバーポストは、診療室用光重合器ではLED照射器30秒で15mmの硬化深度があり、技工用光重合器ではキセノンタイプ180秒で12mmの硬化深度がある。
  • 光ファイバーポストとスリーブ表面にポストレジンを薄く一層コーティングする。優れた流動性により重なり合った細部にも確実にコーティングできる。
    図14 光ファイバーポストとスリーブ表面にポストレジンを薄く一層コーティングする。優れた流動性により重なり合った細部にも確実にコーティングできる。
  • 光ファイバーポストの光透過性とポストレジンの半透明の色調により、ポスト先端部まで確実に重合硬化する。
    図15 光ファイバーポストの光透過性とポストレジンの半透明の色調により、ポスト先端部まで確実に重合硬化する。
  • プライムセップを一層塗布しておくことで、高い分離効果が得られる。
    図16 プライムセップを一層塗布しておくことで、高い分離効果が得られる。
  • 完成した光ファイバーポスト併用レジン支台築造。
    図17 完成した光ファイバーポスト併用レジン支台築造。
  • ポスト中央にはスリーブ併用、漏斗状になった根管孔部分には0.9mmファイバーポストが位置しているのが確認できる。
    図18 ポスト中央にはスリーブ併用、漏斗状になった根管孔部分には0.9mmファイバーポストが位置しているのが確認できる。
  • 歯面処理後、スーパーボンドを用いて接着した。隣接歯の根管孔も漏斗状を呈しているため同様の術式によりクレンチングに耐えうるよう補強予定である(ミラー図)。
    図19 歯面処理後、スーパーボンドを用いて接着した。隣接歯の根管孔も漏斗状を呈しているため同様の術式によりクレンチングに耐えうるよう補強予定である(ミラー図)。

4. 応用例その2 ~方向の異なる根管への対応~

大臼歯は方向の異なる歯根を有しているため口腔内での根管形成が難しい。特に二次う蝕などで補綴物を撤去した後に、歯質を再形成すれば根管壁が薄くなる場合が多い。
また、咀嚼の中心であり常に咬合力の負担過重にさらされていることから積極的に光ファイバーポストを配置して歯根破折を防止する必要がある。鋳造による分割支台築造の対応も行われてきたが、鋳造ポストは根管先端部周辺まで歯根破折が広がりやすい。さらに、方向の異なる根管を可撤式とした光ファイバーポスト併用レジン分割支台築造は熟練者でなくとも比較的簡単に製作ができる利点がある。
製作にあたり、担当医と作業用模型上で光ファイバーポストの選択と可撤ポストの製作設計を検討する。口腔内接着時の作業を単純化するため、最も方向の異なる根管を選択して可撤ポストとした。可撤ポスト部位にワックスリリーフしたワイヤークラスプを固定し、ポストレジンで光ファイバーポストと共に光重合して固定する。次に、インスツルメントを用いてコアレジンを築盛し築造体部を成形する。
光重合後、ワイヤークラスプを撤去し、レジン築造体を作業用模型から取り外し、通法に従い形態修正を行う。分割ポスト用のポスト孔は口腔内接着時に用いるスーパーボンドの遁路も兼ねているため、バーでわずかに拡大し分割ポストが定位置まで挿入できるようにルーズフィットにしておく。完成したレジン支台築造の被着面は弱圧のアルミナサンドブラストを施し油脂分を除去しておく(図2024

  • 方向の異なる根管に光ファイバーポストを用いて積極的な築造体の補強を行った。口蓋根にはスリーブを併用し、頰側根には1.3mmの光ファイバーポストを選択した。
    図20 方向の異なる根管に光ファイバーポストを用いて積極的な築造体の補強を行った。口蓋根にはスリーブを併用し、頰側根には1.3mmの光ファイバーポストを選択した。
  • 大きく方向の異なる近心頰側根を分割する設計とし、ワイヤークラスプを挿入しポストレジンを注入して光重合した。
    図21 大きく方向の異なる近心頰側根を分割する設計とし、ワイヤークラスプを挿入しポストレジンを注入して光重合した。
  • コアレジンを築盛し光重合後、ワイヤーを引き抜き築造体を模型より取り外した。
    図22 コアレジンを築盛し光重合後、ワイヤーを引き抜き築造体を模型より取り外した。
  • 完成した分割ポストタイプの光ファイバーポスト併用レジン支台築造。
    図23 完成した分割ポストタイプの光ファイバーポスト併用レジン支台築造。
  • 方向の異なるポストを有する症例に有効な術式で、光の拡散による確実な重合が期待できる。
    図24 方向の異なるポストを有する症例に有効な術式で、光の拡散による確実な重合が期待できる。

5. おわりに

光ファイバーポストは光の拡散性に優れ、ポスト孔に注入したレジンがポスト先端部までしっかりと硬化することから未重合の不安を払拭できる材料である。間接法のみならず、術野の狭い口腔内での直接法による作業においてはブラインドになり易い深いポスト先端部まで安定した光硬化が期待できる。
また、スリーブと一体化して二重構造とすることで高い曲げ強度と破折強度を得ることができる新しいコンセプトに基づくシステムである。
優れた特長を有する「i‑TFC光ファイバーポスト」の利点を生かすためにも、被着面の清浄化や接着処理などの接着技法の基本術式を遵守して臨床への応用を試みていただければと思う。

参考文献
  • 1)邑田歳幸:テクニカルヒント「支台築造用ファイバーポスト・コア『i‑TFCシステム』を用いたレジン支台築造の製作術式と技工上の要点」, デンタルマガジン, 126 Autumn ,64‑66 , 2008.
  • 2)邑田歳幸:テクニカルヒント「高い光透過性を有する『i‑TFCファイバー 光ファイバーポスト』の特長と技工上の要点」.デンタルマガジン,133 Summer , 102‑105 , 2010.
  • 3) 佐々木圭太:漏斗状根管に対するファイバーポスト併用レジン支台築造の補強に関する研究. 補綴誌, 2010 ; 2 : 157‑166.

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