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143号 WINTER 目次を見る

Clinical Report

歯周外科用根面バーの活用法

医療法人福和会 横田塾 横田 誠

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■目次

■はじめに

なぜ「歯周外科用根面バー」の開発に至ったかについて書いてみる。1965年にLöe、TheiladeとJensenは健康な歯肉がプラークの蓄積によって炎症を起こすことを示したことにより、歯と歯肉にとってプラークの存在は最も重要な歯周病の病因だと考えられるようになった。
プラークが蓄積し成熟するにつれ細菌叢はグラム陽性(90~100%)からグラム陰性へとシフトして、約40%まで増加するとエンドトキシンを放出するようになる。その結果、このエンドトキシンはプラーク、歯石、唾液、歯肉溝浸出液、歯肉溝上皮とセメント質から検出されるようになる。
歯周治療の基本は根面に付着したプラーク、歯周病細菌、それらの産生物である内毒素などを根面から取り除くことである。従来より、根面処理する器具として種々の手用スケーラーが使われてきた。その他、効率化を図るために、超音波スケーラーや音波スケーラー、タービン用バーなども開発されてきた。また、近年ではレーザーの利用も考えられている。しかし、これらの器具は危険であったり、効率が悪かったり、確実性が低かったり、何よりも高価である。そこで、もっと安価で、かつ、危険性が少なく歯周外科処置において歯根表面に付着している感染物質の除去や歯槽骨表面の肉芽組織を効率的に除去できる器具の開発が必要であると考えていた。
そもそも歯周治療の目的は、原因除去療法を主体とし、根面の感染セメント質を完璧に除去してスムーズな根面を再現することにある。しかし、歯周外科中に、手用スケーラーを“常によく切れる状態”に維持することは、結構難しく、術中にシャープニングが必要になり、必要以上に時間を取られることもしばしばである。
また、歯周外科では手用スケーラ-の直視直達が求められるが、骨形態や根面形態などにより充分に適合しなかったり、到達しない部位も多く、歯周外科の時間が必要以上に伸びることが大きな障害となっている。
さらに問題は、ハンドスケーラーによるSRPによる歯石除去率を、歯周病専門医とGPと比較した場合の研究では、4mm以上の歯周ポケットではGPの方が技術が劣っていることが明らかにされており、特にFo時にその差が大きい(図1)。
そこで、GPでもSRPを効率的に、しかも、短時間で行える器具があれば、歯周外科をMI(小さな侵襲)に行えるはずである。
従来より、私は、マイクロエンジン用ラウンドバーやフィッシャーバーを便宜的に用いて根面処理や骨縁下ポケットの肉芽組織除去に用いてきた。しかし、骨縁下ポケットや大きなアタッチメントロスの見られる症例では、バーが短く、術野に届く前にコントラヘッドが歯冠にぶつかり、あるいは、コントラヘッドで術野が隠れてしまい、実際にはうまくゆかないことが多かった。
歯にコントラヘッドがぶつからず、術野が確保されるような外科用バーがあればいいと長い間考えていた。そこで、個人的にスティール製の外科バーを製作して重宝していた。しかし、オートクレーブで錆が出るために一般使用には適さなかった。さらに、すぐ市販しなかった理由は、従来、エンドトキシンは根面のわずか約10μmの表層にしか侵入していないと報告されていたことから、このような器具の開発を躊躇していた。
ところが、教室のNoma2007年による最近の研究で、歯への繰返し応力の負荷により歯根表面のセメント質に微細なマイクロクラックが形成され、それは時間とともに広がることが明らかになった(図2)。
このようなセメント質のマイクロクラックの中に侵入したエンドトキシンを手用スケーラーで除去することは難しい場合が多い。また咬合力の蓄積によるセメント質のマイクロクラックが歯周組織破壊の引き金となるのではないかと考えるようになってきた。
それを表すような、中年期以降の患者では、最後臼歯や7番の遠心に突然咬合の負担によると思われるアタッチメントロスが生じる場合が多い。これを7番問題と呼ぶ(図3)。
これまでにも咬合力が関与していると考えられる仮説として、DCS(dental compression syndrome)やNCL(Non caries lesion)のエナメル質の欠損との関係はシミュレーションモデルで指摘されている。
Nomaの研究は、咬合力によって天然歯のセメント質にマイクロクラックが生じる可能性を明らかにしたものである。
このような明らかな咬合負担が関与している症例や高齢者の歯などでは、CEJ直下や、その周囲の根面にセメント質のマイクロクラックが発生している可能性が大きい。そこで、そこに侵入した歯石やエンドトキシンをしっかり取り除かなければならない。
しかし、破壊されたセメント質は厚みがあり(図2)、歯周外科中にこれを除去するには通常の手用スケーラーでは時間がかかり効率が悪い。さらに、術中には、直視直達による根面の処理が求められるが、歯槽骨欠損状態や歯根形態や根面形態などにより手用スケーラーが十分に適合、到達しない部位が多く、いたずらに手術時間が延長する場合もしばしばである。
このような問題点を改善するために、セメントマイクロクラックの中に侵入したセメント質を効果的に除去することや根面の滑沢化が容易で、誰でも使用が簡単な、マイクロエンジン用の4種類の歯周外科用根面バーを開発した。
歯周外科用根面バーは通常のバーより1cm長く、ロングシャンクより6mm長い(図45)。4種類の歯周外科用根面バーは手術中のアタッチメントロスが大きい症例や、深い骨縁下ポケットにおいてもコントラヘッドが歯冠に邪魔されることなく、SRPや肉芽の除去が可能である状態を示す。
歯周外科用根面バーはコントラヘッドが歯冠にぶつかった状態でも、通常バーでは届かないような深い骨縁下欠損内に到達できることが分かる(図6)。
図7は、それぞれの歯周外科用根面バーの使用部位を示す。

  1. ①ラウンド大:平滑面、大きい根面溝、骨形態の修正、骨縁下欠損部の根面処理と肉芽除去(図89)。
  2. ②ラウンド小:小さい根面溝、歯間部、分岐部入口、歯根陥凹部、肉芽組織除去(図1011)。
  3. ③シリンダー:もっとも使用頻度が高い。根平滑面、骨縁部の肉芽組織の除去、骨辺縁、大きい骨縁下欠損、骨形態修正(図1215)。
  4. ④フレーム:根平滑面、根面溝、分岐部、滑沢化仕上げ、分岐部の平滑面と分岐部骨縁下根面、Plastic surgeryなど頰側面(図1618)。

7番遠心の7mmのポケットにシリンダー、フレーム、ラウンド大、ラウンド小を使用(図19

  • 術者による歯石除去率の差、4mm以上では専門医と一般開業医の歯石の除去率に差が出ている。特にFo時の差が大きい。
    図1 術者による歯石除去率の差、4mm以上では専門医と一般開業医の歯石の除去率に差が出ている。特にFo時の差が大きい。
  • 電子顕微鏡像(×90)剥離面。中年期の歯に5kgの100万回繰り返し荷重を加えたのちに、セメント質マイクロクラックが生じて、セメントの剥離も生じている所見が認められる。
    図2 電子顕微鏡像(×90)剥離面。中年期の歯に5kgの100万回繰り返し荷重を加えたのちに、セメント質マイクロクラックが生じて、セメントの剥離も生じている所見が認められる。
  • 7番の遠心面にセメント質のマイクロクラックによる、アタッチメントロスが生じている。
    図3 7番の遠心面にセメント質のマイクロクラックによる、アタッチメントロスが生じている。
  • 歯周外科用根面バーは通常のバーより1cm長く、ロングシャンクより6mm長いので、深い骨縁下ポケットにおいても、コントラヘッドが歯冠に邪魔されることなく根面や骨面にアクセスできる。
    図4 歯周外科用根面バーは通常のバーより1cm長く、ロングシャンクより6mm長いので、深い骨縁下ポケットにおいても、コントラヘッドが歯冠に邪魔されることなく根面や骨面にアクセスできる。
  • 歯周外科用根面バー ①ラウンド大、②ラウンド小、③シリンダー、④フレーム(マニー株式会社)。
    図5 歯周外科用根面バー ①ラウンド大、②ラウンド小、③シリンダー、④フレーム(マニー株式会社)。
  • 白い線が通常のバーの長さ。骨面まで到達しないことが分かる。
    図6 白い線が通常のバーの長さ。骨面まで到達しないことが分かる。
  • 歯周外科用根面バーの種類と使用部位。①ラウンド大:平滑面、大きい根面溝、骨形態の修正、骨縁下欠損部の根面処理と肉芽除去、②ラウンド小:小さい根面溝、歯間部、分岐部入口、歯根陥凹部、肉芽組織除去、③シリンダー:歯根表面、CEJの直下、骨縁部の肉芽組織除去、感染セメント質除去、④フレーム:前歯部のデブライトメント・歯間部、根面溝、分岐部。
    図7 歯周外科用根面バーの種類と使用部位。①ラウンド大:平滑面、大きい根面溝、骨形態の修正、骨縁下欠損部の根面処理と肉芽除去、②ラウンド小:小さい根面溝、歯間部、分岐部入口、歯根陥凹部、肉芽組織除去、③シリンダー:歯根表面、CEJの直下、骨縁部の肉芽組織除去、感染セメント質除去、④フレーム:前歯部のデブライトメント・歯間部、根面溝、分岐部。
  • ラウンドバー大:大きい根面溝、骨形態の修正。
    図8 ラウンドバー大:大きい根面溝、骨形態の修正。
  • ラウンドバー大:骨形態の修正、骨縁下欠損部。
    図9 ラウンドバー大:骨形態の修正、骨縁下欠損部。
  • ラウンドバー小:分岐部のデブライトメント。
    図10 ラウンドバー小:分岐部のデブライトメント。
  • ラウンドバー小:分岐部のデブライトメント・小さい根面溝、歯根陥凹部のデブライトメント。
    図11 ラウンドバー小:分岐部のデブライトメント・小さい根面溝、歯根陥凹部のデブライトメント。
  • シリンダー:骨辺縁、平滑面。
    図12 シリンダー:骨辺縁、平滑面。
  • シリンダー:骨辺縁。
    図13 シリンダー:骨辺縁。
  • シリンダー:大きい骨縁下欠損。
    図14 シリンダー:大きい骨縁下欠損。
  • フレーム分岐部の平滑面と分岐部。
    図15 フレーム分岐部の平滑面と分岐部。
  • フレーム:滑沢化仕上げ。
    図16 フレーム:滑沢化仕上げ。
  • フレーム:分岐部。
    図17 フレーム:分岐部。
  • フレーム:骨縁下。
    図18 フレーム:骨縁下。
  • シリンダー、フレーム、ラウンド大、ラウンド小:7番遠心に7mmのポケットの存在。
    図19 シリンダー、フレーム、ラウンド大、ラウンド小:7番遠心に7mmのポケットの存在。

■歯周外科用根面バーと手用スケーラーの効果の比較

歯周外科手術に要する時間の短縮と侵襲の低減を目的として開発した回転式切削器具である歯周外科用根面バーと手用スケーラーの効果を比較した。
被験者は九州歯科大学歯周病制御再建学講座医局員8名である。
模型上で 1 に5×5mmの面積で、簡単には取れにくい油性マジックインキで根面を着色させた。この着色面が完全に除去できるまでの時間を測定した。
削合量は規格化したレジン資料片に、グレーシーキュレットの5/6番と歯周外科用根面バーが試験片に100gfの荷重が加わるように装着して、レジン資料片を長さ10mmに渡りスケーリングを行った。

<結果>

SRPに要する時間は,手用スケーラーでは、平均317.6秒、歯周外科用根面バーは、平均159.0秒であり、手用スケーラーの半分でありこれは有意(P<0.05)であった(図20)。表面粗さも研磨した手用スケーラーと同等であった(図21)。削除量はラウンドバーが一番少ない(図22)。
手用スケーラー使用時と歯周外科用根面バー使用時の作業時間の差は、臨床年数が短いほど大きくなる傾向にあった。これは臨床年数と共に手用スケーラーの使用に熟達していくため、手用スケーラーを用いたデブライドメントの時間が短縮するためだと考えられる。逆に歯周外科用根面バーの使用に熟達すれば、さらに大きな時間差が生ずるものと推察される。

<結論>

  1. 1. ラウンド型バーは最も切削量が多い。
  2. 2. フレーム型バーは切削量が最も少なく、個人差も少なかった。
  3. 3. シリンダー型バーは研磨済みキュレットと同等である。
  4. 4. 歯周外科用根面バーはキュレットと同等の切削能力がある。
  5. 5. 未研磨キュレットの削除量は最も小さかった。
  • 実験結果(デブライトメント時間):手用スケーラーと比較して半分の時間である。*P<0.05 ウィルコクソン符号付順位和検定
    図20 実験結果(デブライトメント時間):手用スケーラーと比較して半分の時間である。*P<0.05 ウィルコクソン符号付順位和検定
  • 実験結果(表面粗さ):手用スケーラーと同等である<ウィルコクソン符号付順位和検定において統計学的有意差は認められなかった>。
    図21 実験結果(表面粗さ):手用スケーラーと同等である<ウィルコクソン符号付順位和検定において統計学的有意差は認められなかった>。
  • 実験結果(切削深さ):ラウンドバーが一番大きく、フレームが手用キュレットと同等である。
    図22 実験結果(切削深さ):ラウンドバーが一番大きく、フレームが手用キュレットと同等である。

■まとめ

歯周外科処置に歯周外科用根面バーを導入し、根面のデブライドメントに要する時間を大幅に短縮できることは、術者・患者にとって福音である。
図23は、手用スケーラ-ではアクセスの難しい4壁性の9mmのポケット内を歯周外科用根面バーにて肉芽組織を取り去り再生療法を施したところである。術後8ヵ月目でポケットが2.5mmに改善している。

  • 9mmのポケット囲業尭性の骨欠損内を歯周外科用根面バーにて根面の処理と肉芽組織を取り去ったところ。ポケットが2.5mmに改善している。
    図23 9mmのポケット囲業尭性の骨欠損内を歯周外科用根面バーにて根面の処理と肉芽組織を取り去ったところ。ポケットが2.5mmに改善している。

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