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145号 SUMMER 目次を見る

Clinical Report

新しいセルフエッチング接着性レジン系シーラー -メタシール Softの特徴と臨床応用-

川勝歯科医院(東京都杉並区) 田中 利典

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■目次

■1. はじめに

根管充填にはコアマテリアルとしてのガッタパーチャと、ガッタパーチャと根管壁との間を埋めるためのシーラーが用いられている。今回新しくサンメディカル株式会社より発売された接着性シーラーのメタシール Soft(図1)は、レジン系でありながら硬化後でもファイル等の器具にて簡単に除去できるという特異な性質を有する。
そこで、このメタシールSoftの特徴を、実際の臨床例と参考文献を交えながらご紹介していきたい。

  • 2013年2月に発売されたメタシール Soft。
    図1 2013年2月に発売されたメタシール Soft。

■2. 根管充填材の現状

根管充填の目的は、①歯冠側での細菌漏洩の遮断、②わずかながらも残存する細菌の埋入、③根尖側での浸出液侵入の遮断、である1、2)
これを確立するために根管充填材を用いるわけであるが、その要件として、Grossman3)が1978年に10項目を挙げている(表1)。しかしその求められる性質には、項目間で矛盾のような難しさが存在するのも事実である。また、各歯科材料自体に必ず長所と短所があるため、すべての要件を満たす理想的な根管充填材は存在しない。
現在使用されている根管充填材4)表2に示す。特にシーラーはいくつか種類が存在し、これらの性質を比較、評価する文献は、in vitro研究を中心に数多く報告されている5)
その中で、漏洩と封鎖性については、歯内療法の失敗の原因にもつながるため、色素浸透試験や細菌の侵入、液体の移動を評価する手法で様々な研究が行われている。他にも、シーラーの象牙細管への浸透性と接合性を走査型電子顕微鏡画像(SEM画像)で観察する手法もある。SEM画像でのシーラー浸透能は、シーラータグ(レジンタグ)として観察でき、根管壁との接合性は間隙(ギャップ)として観察できる。この間隙が広いと封鎖性能が低いことを意味する。
また、シーラーの厚みも漏洩に影響する6)。そのため、一般的には側方加圧充填法や垂直加圧充填法を用いて、シーラーが薄い層となるよう工夫する必要がある。

  • 理想的な根管充填材 3)
    表1 理想的な根管充填材3)
  • 根管充填材の種類 4)
    表2 根管充填材の種類4)

■3. メタシール Softの特性

今回発売のメタシール Softはレジン系に属するが、既に発売の他社レジン系シーラーと成分が異なり、日本で臨床評価の高い4‑METAとジメタクリレートを主成分としている。4‑METAとはスーパーボンドのモノマー液に含まれている接着性モノマーである。これによりモノマーの歯質内への拡散を促進させ、樹脂含浸象牙質の形成を確実に行うことができる。
接着性レジン系シーラーとしては同社にスーパーボンド根充シーラー/アクセル(以下SBシーラー)がすでに存在するが、こちらは次亜塩素酸ナトリウム等への還元中和処理と、スーパーボンドと同様のエッチング処理が必要である。
一方でメタシール Softはこれらのステップが不要で、接着性を確保しながら、SBシーラーよりも簡便な操作性を追求したものと言える。また、本製品は親水性化学重合触媒と光重合触媒を含有しているため、これらの特徴からデュアルキュア型接着性レジン系シーラーと表現できる。
接着性やレジンという表現から、「根管充填材として使用したら、二度と取れないのではないか」との心配や、レジンに特有な硬化時の重合収縮7)から、「シーラーと根管壁の界面で封鎖性が崩壊しやすいのではないか」との考えが思い浮かぶかもしれない。
しかしながらこのメタシール Softの理工学的特性として、①硬化体は柔軟性を持っていて、根管拡大形成器具によって削れるため、再根管治療での根尖への再アクセスが可能である、②親水性重合触媒により、重合は根管壁より開始して樹脂含浸象牙質を形成し、またガッタパーチャとも接着するため、両界面の封鎖性が十分確立される、といった特徴を持っている(図2)。なお、重合収縮は根管口付近のシーラーが凹むような形で補完される。

  • メタシールSoftの接着界面SEM写真 左:ガッタパーチャとの接着界面 右:根管象牙質との接着界面
    図2 メタシールSoftの接着界面SEM写真
    左:ガッタパーチャとの接着界面
    右:根管象牙質との接着界面

■4. 練和時の性状とエンドノズル

操作面において、根管内へのシーラー移送に用いる専用のエンドノズルが特徴的である。このノズルは先端外径0.6mmφの.03テーパーとなっており、練和したメタシール Softをノズル内に集め、セントリックス社製C‑Rシリンジにて根管内に送り込むことができる。また、エンドノズル先端には縦にスリットが入っており、シーラーの押出圧を分散する工夫がされている。
メタシール Softは、一般的な「糸を引くような」シーラーと異なり、ちょう度が低く、「ホイップクリームのような」性状となる。これを根尖近くまで運ぶために、エンドノズルを用いることでその操作が容易になる。なお、作業長が長くエンドノズルが根尖付近まで届かない場合は、届くところまでシーラーを送り込み、最後はマスターポイントのポンピング操作で根尖方向へと送り込む。
シーラーによる封鎖性が高いため、根管充填では単一ポイント充填法8)が可能となる。特にマスターポイントで良好なタグバックが得られる場合、極めて操作を簡略できる。

■5. メタシール Softの操作ステップ

①通法に従い根管の形成・清掃を行う
根管充填に先立ち、EDTAにてスミヤー層を除去する。これはスミヤー層内の細菌の除去とシーラーの封鎖性の点から推奨されていることではあるが9、10)、メタシール Softの場合はこれに加えてセルフエッチング効果そのものが高まる11)
EDTA使用後は次亜塩素酸ナトリウムで洗い流すことで、最終的な化学的清掃の効果を高める12)

②根管内を乾燥後、根管内をシーラーで満たす
根管をペーパーポイントなどで乾燥させた後、エンドノズルにて根尖近くまでメタシール Softを送り込む。その際はシリンジに徐々に力を加え、エンドノズルを歯冠方向にゆっくりと引きながら作業を行う。

③ガッタパーチャポイントを挿入する
先に述べたメタシール Softの特徴(両界面の封鎖性が高い)から、シーラーの量を減らすための根尖部付近の加圧根管充填法は理論上それほど重要ではなくなり、メタシール Softがガッタパーチャと根管壁との間を封鎖性高く埋めてくれる。
なお、タグバックがしっかり得られないケースや、極めて扁平な根管については、アクセサリーポイントの追加挿入を行う。これにより最後に根管口付近でガッタパーチャを焼き切る時にマスターポイントが浮き出ることを防いでくれる。

④ガッタパーチャを焼き切る
ヒートプラガーや熱したエキスカなどでガッタパーチャを焼き切る。
その後は、切断面を整えるために根管口付近をコンデンサーにて加圧する。必要に応じて最後にシーラーの重合促進のため根管上部より光照射を行い、光重合させる。

■6. メタシール Softの臨床例

メタシール Softの症例を供覧する。

・症例1:右下第一大臼歯(図310

  • 術前。カリエスに伴い近心舌側歯質が破損している。カリエス除去により露髄。根管治療に先立ち近心面はレジンにて隔壁を作製した。
    図3 術前。カリエスに伴い近心舌側歯質が破損している。カリエス除去により露髄。根管治療に先立ち近心面はレジンにて隔壁を作製した。
  • 根管充填の準備が整った状態。近心根の2根管は根尖付近で合流しており、遠心根は扁平な1根管である。
    図4 根管充填の準備が整った状態。近心根の2根管は根尖付近で合流しており、遠心根は扁平な1根管である。
  • エンドノズルにて根管内にメタシール Softを送り込む。
    図5 エンドノズルにて根管内にメタシール Softを送り込む。
  • 良好なタグバックの得られているマスターポイントを順に挿入していく。
    図6 良好なタグバックの得られているマスターポイントを順に挿入していく。
  • 根管口付近でガッタパーチャをヒートプラガーにて切断する。遠心根管は扁平でマスターポイントだけでは不安定であったため、アクセサリーポイントを追加している。
    図7 根管口付近でガッタパーチャをヒートプラガーにて切断する。遠心根管は扁平でマスターポイントだけでは不安定であったため、アクセサリーポイントを追加している。
  • 歯冠側のガッタパーチャをコンデンサーにて加圧する。
    図8 歯冠側のガッタパーチャをコンデンサーにて加圧する。
  • 根管充填終了。
    図9 根管充填終了。
  • 術前のX線像(左)と術後のX線像(右)。
    図10 術前のX線像(左)と術後のX線像(右)。

・症例2:右上側切歯(図1118

  • 術前。近心のカリエスより失活していた。
    図11 術前。近心のカリエスより失活していた。
  • 根管充填の準備が整った状態。
    図12 根管充填の準備が整った状態。
  • エンドノズルにてメタシール Softを送り込む。
    図13 エンドノズルにてメタシール Softを送り込む。
  • 良好なタグバックの得られるガッタパーチャを根管内に挿入。
    図14 良好なタグバックの得られるガッタパーチャを根管内に挿入。
  • ヒートプラガーにてガッタパーチャを焼き切る。
    図15 ヒートプラガーにてガッタパーチャを焼き切る。
  • コンデンサーにて歯冠側ガッタパーチャを加圧。この後光照射を行う。
    図16 コンデンサーにて歯冠側ガッタパーチャを加圧。この後光照射を行う。
  • 根管充填終了。
    図17 根管充填終了。
  • 術前のX線像(左)と術後のX線像(右)。
    図18 術前のX線像(左)と術後のX線像(右)。

■7. 接着性シーラーの学術的評価

SBシーラーで必要な歯面処理がメタシール Softでは不要となっているが、Maiら11)はMetaSEAL(米国で発売されているHardタイプ)のセルフエッチング効果を評価している。その結果、特に臨床上問題ないことがinvitroにて確認された。また、EDTA によるスミヤー層の事前の除去が、その後のセルフアドヒーシブで樹脂含浸象牙質の形成に役立つことが確認された。
細胞毒性について、Garzaら13)はスーパーボンド、スーパーボンド根充シーラー、MetaSEAL、エポキシレジン系シーラーの4つで比較をしている。その結果、MetaSEALの細胞毒性は既存のエポキシレジン系シーラーと同程度であった。これは臨床上問題がないことを示唆している。
Ersevら14)は、4‑METAの性質を評価している。モノマーが歯質に拡散することで、接着界面が広くなる。これに単一ポイント充填法を用いると残存歯質と根管充填材が一塊となるため、根管治療歯を補強する可能性があるとしている。
学術的な研究論文としてはまだ数が少ないが、成分やコンセプトから、既存のシーラーよりもアドバンテージのある一面も存在すると言えるだろう。

■8. おわりに

根管充填材を評価するとき、理工学的特徴(漏洩、接着強さ)、生物学的特徴(細胞毒性)、操作性をみることになる。このメタシール Softは、デュアルキュア型接着性レジン系シーラーという理工学的な特徴を持つ。なお酸性モノマーである4‑METAと水を配合していることから、加水分解をさせないよう冷蔵庫保管を推奨していることにも注意したい。また、シーラーのちょう度が一般的なシーラーと比べて大きく異なり、ホイップクリームのような柔らかさ、専用エンドノズルによる流し込みという点も特徴である。
症例でご覧いただいたように、このメタシール Softは単一ポイント充填法に向いている。しかしそのためには、適切な作業長での機械的・化学的清掃、スミヤー層の除去、 マスターポイント試適時の良好なタグバック、の各ステップが必要不可欠である。
実際の臨床では、犬歯のような歯根の長い歯の場合、メタシールSoftの封鎖性が効果を発揮すると考えられる。歯根の長い歯での側方加圧充填や垂直加圧充填は、スプレッダーやプラガーが根尖部付近まで届かず、適切に加圧することが難しい。メタシールSoftのような封鎖性の高いシーラーが適切に根尖部付近まで運ばれれば、マスターポイントと根管壁とのスペースを、メタシール Softで埋めることができる。症例によっては技術的に困難な一面を、この材料の特性がまさに「埋めて」くれることで、治療がスムーズになることが期待できる。メタシール Softはそんな要素を持つシーラーと評価できるだろう。

参考文献
  • 1) Delivanis, P.D., G.D. Mattison, and R.W. Mendel, The survivability of F43 strain of Streptococcus sanguis in root canals filled with guttapercha and Procosol cement. J Endod, 1983. 9(10): p.407‑10.
  • 2) Sundqvist, G., Figdor D., Endodontic treatment of apical periodontitis.Ørstavik D, Pitt Ford TR, eds. Essential Endoontology, 1998.
  • 3) Grossman, L.I., Endodontic Practice, 1978.
  • 4) Dahl, J.E., Toxicity of endodontic filling materials. Endodontic Topics,2005. 12: p.39‑43.
  • 5) Wu, M.K. and P.R. Wesselink, Endodontic leakage studies reconsidered.Part I. Methodology, application and relevance. Int Endod J,1993. 26(1): p.37‑43.
  • 6) Kontakiotis, E.G., M.K. Wu, and P.R. Wesselink, Effect of sealer thickness on long‑term sealing ability: a 2‑year follow‑up study. Int Endod J, 1997. 30(5): p.307‑12.
  • 7) Tay, F.R., et al., Geometric factors affecting dentin bonding in root canals: a theoretical modeling approach. J Endod, 2005. 31(8): p.584‑9.
  • 8) Ingle, J.I., A standardized endodontic technique utilizing newly designed instruments and filling materials. Oral Surg Oral Med Oral Pathol, 1961. 14: p.83‑91.
  • 9) Gencoglu, N., S. Samani, and M. Gunday, Evaluation of sealing properties of Thermafil and Ultrafil techniques in the absence or presence of smear layer. J Endod, 1993. 19(12): p.599‑603.
  • 10) Taylor, J.K., B.G. Jeansonne, and R.R. Lemon, Coronal leakage:effects of smear layer, obturation technique, and sealer. J Endod,1997. 23(8): p.508‑12.
  • 11) Mai, S., et al., Evaluation of the true self‑etching potential of a fourth generation self‑adhesive methacrylate resin‑based sealer. J Endod, 2009. 35(6): p. 870‑4.
  • 12) Sen, B.H., P.R. Wesselink, and M. Turkun, The smear layer: a phenomenon in root canal therapy. Int Endod J,1995. 28(3): p.141‑8.
  • 13) Garza, E.G., et al., Cytotoxicity evaluation of methacrylate‑based resins for clinical endodontics in vitro. J Oral Sci, 2012. 54(3): p.213‑7.
  • 14) Ersev, H., et al., Resistance to vertical root fracture of endodontically treated teeth with MetaSEAL. J Endod, 2012. 38(5): p.653‑6.

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