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145号 SUMMER 目次を見る

Clinical Report

「ジーニー」を用いた前歯部審美症例と部分床義歯症例

大阪SJCD 会長 松川 敏久

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■目次

■はじめに

近年、インプラント治療は日々進歩してきており、その需要と患者の満足度は上昇してきている。インプラント治療は臼歯部の機能的回復だけでなく前歯部審美症例でも多く用いられてきている。しかし、その一方でトラブルも存在している。また、せっかくうまくインプラントを埋入できたとしても歯周組織と調和した補綴物を装着するためには再現性の高い精密印象採得が必要不可欠となってくる。そのためには、湿潤状態である口腔内でも使用できる親水性シリコーン印象材を用いることは重要であり、「ジーニー」<サルタン>はその要件を満たしている優れた歯科材料である。
そこで、今回インプラントを用いた前歯部審美症例を通して、インプラント治療における精密印象採得に対する筆者の考え方とその実践方法を紹介したい。
もう一つの症例は、インプラント治療は患者の希望により、拒否されたが少しでも口腔内の残存組織を保全するためにスウィングロックアタッチメントによるパーシャルデンチャーを装着した症例である。
この症例の精密印象にジーニーを用いた。

■症例1

患者年齢および性別:48歳、男性
初診日:2011年5月
主訴:前歯部審美障害

現症:左上顎中切歯のレジン前装がはがれてきており、左右上顎中切歯には着色も多くみとめられ(図1)、患者は見た目を特に気にしていた。全身的既往歴はなかった。
治療計画:左上顎中切歯、右上顎側切歯ともに生活歯のため歯軸方向などの変更は難しく、ブリッジでは現在と同じようになり、清掃性も改善できないと考え、インプラント治療を含めた単独歯での最終補綴を計画した。本症例では歯肉は薄く、歯頸部ラインの不揃い、右上顎中切歯と側切歯の間のシザースバイトと様々な問題があるが、患者が矯正治療を拒否したため現在の状態よりも悪化しないように心掛けた。
治療方法:まずは初期治療を行い口腔内の炎症を取り除き、不良補綴物である前歯部のブリッジを除去し(図2)、プロビジョナルレストレーションを装着した。初期治療終了後、最終補綴物を想定した位置にインプラントを埋入できるようにシミュレーションを行い、インプラントを埋入(1次手術)した(図34)。約半年後、2次手術を行い(図5)、歯肉の治癒を待って、ジーニーにてインプラントレベルの印象採得を行った。このときはクローズドの印象用コーピングを用いたが、印象用コーピングの印象面への戻りも良く、ガム模型製作にも問題はなかった。印象後のトレーの撤去時も問題なく撤去できた。印象材硬化後に非常に硬くなってしまうシリコーン印象材はアンダーカットを寒天印象材などでブロックアウトしていても撤去時に患者の負担が大きいことがある。その印象材を用いてジルコニアアバットメントを製作し装着した(図6)。その時もサブジンジバルカウントゥアーの調整はほとんどなく装着できた。これらのことからもジーニーはインプラントレベルの印象採得にも問題なく使用できることが分かった。
ジルコニアアバットメント装着後、最終補綴と同じような補綴設計でプロビジョナルレストレーションを装着し、痛みやプロビジョナルレストレーションの脱離、歯周組織の状態を経過観察し、問題がないことを確認し最終補綴へと進むこととした。また、このときブリッジから単独歯のプロビジョナルレストレーションに変わったため(図7)、患者自身が日々の清掃にも問題がないか、その清掃性にも注意して経過観察した。
最終補綴の印象採得もジーニーを用いて行った。支台歯は二重圧排をしたあとに印象採得を行った。マージン部も明瞭に印象採得されているのがわかる。また、全く同じ条件下にて、筆者がその精度の高さから使用していた他社のシリコーン印象材で印象採得を行い比較した(図89)。お互いに超硬石膏を流し込み作業用模型を作製した(図10)。両者を比較しても変わらぬ高い精度が得られ、最終補綴物も問題なく装着できた(図1112


  • 図1 初診時口腔内写真およびデンタルX線写真
    左上中切歯唇側の硬質レジンがはがれておりパラファンクションも疑われる。歯頸部の清掃性は悪い

  • 図2 ブリッジ除去時

  • 図3 シミュレーションとインプラント術中、インプラント埋入後のX線CT画像
    シミュレーション通りにインプラントが埋入されている

  • 図4 インプラント埋入直後

  • 図5 2次手術時

  • 図6 ジルコニアアバットメント装着時

  • 図7 セカンダリープロビジョナルレストレーション(連冠)→ファイナルプロビジョナルレストレーション(単冠)

  • 図8 他社のシリコーン印象材との比較
    左写真がジーニー

  • 図9 他社品との比較
    左写真がジーニー(ヘビーボディ+ライトボディ)

  • 図10 超硬石膏作業模型
    左写真がジーニー

  • 図11 ファイナルレストレーション

  • 図12 ファイナルレストレーション

■症例2

患者年齢および性別:68歳、男性
初診日:2010年9月
主訴:食べ物が咬みにくい、食事がおいしくない。

現症:全顎的に辺縁性歯周炎が進行している状態である。咬合力を負担している臼歯部は補綴処置も施されており、歯冠部が破折している個所も認められた(図13)。全身的既往歴はなかった。
治療計画:全顎的に重度の辺縁性歯周炎のため、保存不可能な歯牙は抜歯とし、患者がインプラントを拒否したため、欠損部分はパーシャルデンチャーにて補綴することとした。しかし、抜歯後の残存歯も治療していない天然歯が多いため補綴前処置が困難なのと動揺歯も存在するため、今回の症例は上下顎ともにスウィングロックアタッチメントを用いることとした。
治療方法:初期治療終了後、保存不可能な歯牙は抜歯を行い、可及的に咬合支持が損なわれないように仮義歯を製作、装着した。上下顎にプロビジョナルパーシャルデンチャーを装着し抜歯窩の治癒を待つとともに咬合の安定を経過観察した(図14)。
その後、個人トレーとモデリングコンパウンドを用いて筋圧形成を行った後、上下顎歯牙部分の精密印象をジーニーにて採得した。その作業用模型にて咬合床付きのメタルフレームを製作し、それを用いてアルタードキャストテクニックにて再度粘膜面の印象採得を行った(図15)。そして咬合採得を行い、試適を経て上下顎にスウィングロックアタッチメントによるパーシャルデンチャーを装着した。印象採得された印象面を見ても均一できれいに歯牙と粘膜面の印象採得がされていた。また、パーシャルデンチャー装着後の調整もほとんどなく患者は快適に食事ができるようになったとのことである(図1617)。これはジーニーという寸法安定性に優れた材料を用いた結果であると考える。


  • 図13 初診時口腔内写真

  • 図14 プロビジョナルデンチャー装着時

  • 図15 機能印象時(アルタードキャストテクニック)
    エクストラライトボディを用いて粘膜面の印象採得

  • 図16 最終補綴時

  • 図17 スマイル時と最終補綴物

■ジーニーの特徴

1. 流動性の高さと親水性
流動性が高いので、エアーブローテクニックにも対応し、窩洞内部、歯間部、歯肉縁下マージンに至るまで印象材が入り込み精密な印象採得が得られる。また、親水性が高いので出血・浸出液の影響を受けることなく精密な印象採得が得られるうえ、石膏とのなじみも良い。

2. 豊富な10種類のラインナップ
5種類のフローとそれぞれ2種類の硬化速度により、さまざまな症例に対応できる。また、硬化時間は4分30秒のスタンダードと2分10秒のラピッドがあり、チェアタイムを短縮することができるので患者にも術者にも優しく、ストレスを軽減することができる。

3. 優れた操作性
コストパフォーマンスが高く、明るい色調なので口腔内でも見やすく、コントラストも良いので使用しやすい。

■まとめ

今回の症例1は、プロビジョナルレストレーションから最終補綴への誤差を少なくするために、最終補綴の印象採得が重要な部分であり、最終補綴物を装着してからは清掃性の向上と右側上顎中切歯、側切歯間のシザースバイトの部分が重要であったと考える。ブリッジにて補綴することは構造力学的に無理があるためインプラント治療を含んだ症例となった。そのためにプロビジョナルレストレーションにて経過観察し、理想的な最終補綴へと進むこととなった。
症例2では、重度の辺縁性歯周炎を持つ患者に対して、残存歯を保全しつつパーシャルデンチャーを装着しなければいけない症例であった。そのため歯牙に比べて被圧変異量の大きい粘膜面の精密印象が非常に重要であった。その点、ジーニーは硬組織(歯牙)でも軟組織(粘膜面)でも正確に印象採得ができる材料であると推薦したい。
最後に私が日々の臨床で常に意識していることではあるが、患者を中心として、歯科医療従事スタッフ、歯科技工士、歯科衛生士と歯科医師が連携して、理想的なゴールを目指すことが重要であり、全員の協力なしには達成できない。

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