145号 SUMMER 目次を見る
人工股関節からスペースシャトルの断熱保護材、高級外車やF1カーのブレーキまで、産業の多分野で利用されているジルコニアは、歯科材料にも臨床応用され、インプラントフィクスチャー、アバットメント、補綴装置など各分野で用いられるようになってきました。特にクラウン・ブリッジの分野ではメタルフリーの中心材料として今最も注目されている素材であり、金属価格の高騰の中、代替できる審美修復材料として、メタルフリーのオールセラミック治療のグローバル・スタンダードになりつつあります。
このようにジルコニアの普及が加速した背景には、CAD/CAMの技術の向上が大きいと思います。CADソフトの進歩に伴い、歯冠形態の正確な設計が可能となり、切削加工するCAM工程においては、切削バーも改良が加えられ、開発当初と比べ咬合面形態の付与もより正確に再現できるようになってきました。その恩恵を受け咬合面までジルコニアで加工する、いわゆる「フルジルコニア」の製作が可能になり、高強度、高靱性の歯冠色補綴物を患者さんに提供できるようになってきました。
フルジルコニアの咬合調整で留意することは、マイロクラック発生のリスクを軽減することです。もちろん、クラックの有無は肉眼では確認できませんが、不用意にクラックが入ると術後の破折リスクが高まるので、発熱を抑えるために可能な限りの注水、断続的な切削を厳守すべきと考えます。従来の築盛陶材と比較しジルコニアは高強度ゆえ切削しにくいので、ダイヤモンド粒子の粗いものを選択して作業効率を上げようとしがちですが、最終研磨後は滑沢な研磨面でないと対合歯への影響もあるため粗造な咬合面フィニッシュは好ましくありません。よって、ジルコニアの咬合調整バーは、「高強度なジルコニアを、マイクロクラック発生のリスクを抑えて効率よく切削でき、かつ容易に滑沢な面が得られるような粒子の細かいもの」が理想的でしょう。
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図1 初診時頰側面観。他医院にてオールセラミックスクラウンを装着したが歯頸部に破折を認める。割れない高強度の歯冠色補綴物を希望して来院された。
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図2 初診時咬合面観。舌側遠心咬頭にも破折があり支台歯の状態を見ると適切なショルダー形態が付与されておらず形成量不足が考えられる。
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図3 最終補綴物正面観、咬合面観。患者さんとのコンサルの結果、高強度セラミックを希望しており、フルジルコニアクラウンを製作した。
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図4 ジルコニアの咬合調整は、マイクロクラックが入るリスクがあるため、注水下で行うことが推奨される。ダイヤモンド粒子間に注水スペースを確保して電着されているので、冷却効率の向上も期待できる。
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図5 調整量が多い場合には、切削効率の高いK369を使用する。
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図6 細かい微調整はK379Lを使用し、オクルーザルコンタクトをエリアからポイントになるように削合していく。
今回、フルジルコニアクラウンの咬合調整に、ジルコニア切削用ダイヤモンドバーのZ-カットダイヤを使いました。このバーの特長は、ダイヤモンド電着技術を駆使したダイヤモンド微粒子の切削力と耐久性という点に集約されるでしょう。Z-カットダイヤは、ダイヤモンド微粒子が高密度にかつ等間隔に電着され、バー表面の切削面がとても多いので、高強度なジルコニアに対しても均一で効率の良いカッティングが可能です。しかも、ダイヤモンド粒子間に注水スペースを確保して電着されており、作業部位が十分に冷却されマイクロクラックのリスクを減らすとともに、切削粉が滞留しにくいので調整作業がスピーディに進められるのが特長です。
用途に合わせて7種類の形状、ファイン(50μm)、スーパーファイン(20μm)の2種の粒度があり、図5のように咬合面のコンタクトポイントの調整量が多いケースには、切削効率の高いK369を使用し、図6のようにコンタクトポイントにより細かい微調整が必要なケースには、K379Lを使用しています。ジルコニアは結晶構造が陶材より緊密で、咬合紙が印記されにくいので、最終的な咬合状態のチェックはバイト材を用いて確認しています。また、チェアタイム短縮のため正確な印象操作やワックスパターンの試適、高精度な模型調整などの前処置も咬合調整量を少なくするための重要なポイントでしょう。
仕上げ研磨については、対合歯の摩耗を緩和するためにも、図9、図10のように、ジルコニアに対応したシリコン系研磨材を使って、滑沢な研磨面に仕上げることが肝要です。
今回のフルジルコニアの症例は、審美性の課題はやや残したものの、患者さんの満足度という点ではベターなケースだったと判断していますが、長期的な予後の経過観察は欠かせないでしょう。これからも、需要がますます高まるジルコニアクラウンの咬合調整に、Z-カットダイヤは大いに活躍してくれるものと期待しています。
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図7 バイト材による咬合チェック(上段:咬合調整前、下段:咬合調整後)。ジルコニアは結晶構造が築盛陶材より均一で密なため咬合紙が付きにくく、バイト材による確認も重要である。
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図8 「Z-カットダイヤ」による咬合調整終了時。この後仕上げ研磨になる。
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図9 仕上げ研磨用ポイントスターグロス CA(エデンタ社)。天然ダイヤモンドの粒子含有の仕上げ用ポイントで、コース、ミディアム、ファインの3ステップで滑沢な研磨面が得られ、研磨ペーストを使用せずに艶を出すことができる。
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図10 仕上げ研磨後の咬合面観。フルジルコニアは高強度なため対合歯の影響も考慮し、より滑沢に仕上げる。チェアサイドで研磨が難しい環境ならば、ラボへ戻し仕上げてもらうことも考慮する。
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図11 最終補綴物装着時頰側面観。従来の焼付け陶材と比較すると審美的には劣るが、高強度の歯冠色補綴物という意味では患者さんの満足を得られた。
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図12 最終補綴物装着時咬合面観。フルジルコニアは長期的な予後がないため、今後対合歯の状態も含めて注意深く経過を観察する必要性があるだろう。
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