近年の歯科医療技術の発達には目を見張るものがあり、これから新規に開業される先生方にとって、“CT・CAD/CAM・マイクロスコープ”は『三種の神器』と言われている。それぞれ実際の臨床において使用する状況は異なるが、『三種の神器』と言われるように三種をおり交えて使用することにより、それぞれが持つ「神器と言われる所以」を実体験することが可能となる。
まさに『三種』をミックスして活用することで、その効果は『何種』にでもなると言っても過言ではない。そしてその中核をなすのがマイクロスコープであると考えている。
実際の診察・治療において我々歯科医療従事者はついつい専門用語を使用してしまいがちだが、専門用語は患者さんにとって聞き慣れない言葉であり、患者さんのもつ不安(自身の状態・治療方法の選択・治療結果など)を解消し、治療に対する理解を得るには適さないものである。説明に多大な時間的・人的経費を投入し、患者さんの理解が得られたと思いきや、全くの方向違いであったという経験はどの先生方もおありのことと思う。当院も試行錯誤しながら、いろいろなことを考案、実行してきた。
その第一が『3DX』(図1)の導入である。映し出される3D CGは、我々歯科医師には今までの日常診療を打ち破る莫大な情報を提供してくれるとともに、患者さんの興味を引くには十分なインパクトがあった。
しかし、3D CGで得られた情報の提供・共有をめざすものの、日常臨床では歯科医師→患者さんの一方通行になりがちで、患者さんに自分の状況を自発的に考え理解していただくという次元までは、あと一歩届かなかった。患者さんは歯科に対して素人であるから当然のことである。
そこで、どうにかして「患者さんと情報の共有をしたい」と試行錯誤を経て行ったのが『ペンスコープ』を私の目の代わりとして用いるという方法だった(図2)。『3DX』のCT画面と併用することで患者さんには好評を得た。
そして、さらなる情報共有を追求し、より鮮明に簡単に撮影できるマイクロスコープの導入を決意したわけである。
マイクロスコープの購入に際して最も優先したのは、使い勝手と高い光学性能である。言い換えればコストパフォーマンスを機種選定の最優先にしたわけである。
すなわち「患者~医院全体で最も効果的に情報を共有することが可能な機種はどれか?」ということになる。
一般的に術中写真記録には一眼レフカメラ等の別途追加と接続が必要であるし、術中映像の記録においても別途器材が必要である。当然それに伴い操作性の複雑化という問題が浮上する。機械が苦手な女性には嫌厭され、せっかくの器材投資も医院全体で考えれば「ややこしい仕事が増えた」となりがちである。
その点、「ライカM320‑D」は付属ケーブル類も全てフレーム内に収納され、その外見はマイクロスコープ特有の威圧感も感じさせないシンプルなデザインで、まさに最先端である(図5)。
操作面においても無駄なスイッチ類やパネル等もなく、操作インターフェイスは全てカメラ部分の左側におさめられており、アシスタントはモニターを見ながら歯科医師の指示により倍率や光量、照射範囲のコントロールをダイヤル式で直感的に行うことができ、アシスタントの熟練度に左右されない。
また、付属のリモコンを使用してチェアサイドで患者さん向けにスタッフがプレゼンできるのも大きな特徴である(図6)。
主訴:左側頰のしびれと左半分の頰が腫れている。
数年前に某歯科にて前歯を4本セラミック(MB)で補綴した。ここ数ヵ月間左鼻翼部~頰にかけての腫脹と麻痺感に悩まされ再度歯科を受診したところ抜歯しか道がないと言われた(図7、8)。
通法にしたがい補綴物の除去を行った。超音波装置により合着セメントを粉砕したところ再補綴時のメタルコアは容易に除去できた。初回治療時のメタルコアに関しては通常の根管治療用の超音波チップとダイヤモンドコーティングされた超音波チップを使用し除去を行った(図9~13)。
アポクロマートレンズによる色収束のなさと深い被写界深度、ハイパワーダブルLEDビームとストレスフリーの180°可動式鏡筒。さらにダブル絞りの装着により根管全域に近い深い被写界深度、エルゴオプティークにより顕微鏡を左右に傾けてもレンズ角を一定に保つことにより根管治療や拡大視野下の支台歯形成を容易にする「ライカM320‑D」。根管治療や支台歯形成に常用している。日常診療においてそのレスポンスの良さがスタッフ全員に支持されている。
食辺圧入を主訴に来院された患者さんである(図14)。反対側も同様にCR修復が施術されており、自覚他覚症状も無くCRでの再修復を希望されていた。
機能咬頭の咬耗と辺縁隆線の破折が認められCRでの再修復は予後不良となる可能性が高いことを口腔内写真にて口頭で説明したが難色を示した。また、可能な限りメタル修復は避けたいとの訴えもあった。患者さんとの信頼関係が完成されるまでの初期の段階に多々あることである。
当院では患者さんに歯の価値観を共有してもらうためマイクロスコープを用いている。マイクロスコープは歯科医師・患者さん両方にとって見えないところまで見える(我々にとっては説明段階において痒いところまで手が届くといった感じ)確かなコミュニケーションツールであると言えよう。
今日メモリーカードも200円前後で入手できる時代である。図15、16の右上にタイマーが表示されているのが分かってもらえると思うが、術中をメモリーカードに簡単に保存できチェアサイドで、あるいはパソコン上で簡単に患者さんと情報共有できる。
「ライカM320‑D」はヘッド部にハイビジョンレコーダーが内蔵されておりメモリーカードを用意するだけといった最小限の投資と誰でも簡単に操作可能という魅力がある。患者さんに現状をよく把握して頂くのにはマイクロスコープをコミュニケーションツールとして使用する方法が最短の方法ではないかと筆者は強く感じている。
当院では必ず術中の映像を患者さんに共有してもらうようにしている(図17~19)。今回の症例では接着性修復による歯質の強化と最小限の切削量に抑えるという患者さんの希望により『CEREC』即日修復となった(図20)。
主訴:歯石が気になるので、歯石をとって欲しい。
このような主訴に関しても患者さんのモチベーションアップにマイクロスコープは非常に有効であると実感している。歯肉退縮に伴う合着セメントの漏洩と二次カリエスが予測される(図21、22)。
こういった状況をチェアサイドで即座に患者さんに提供できるのも「ライカM320‑D」の特徴。歯科衛生士の評判もすこぶる良い(図23)。
主訴:左上#26に虫歯がある。できるだけメタルフリーで治療したい。
患者さんは歯科医療従事者の経験者である。できるだけ歯質の保存を希望して来院された(図24、25)。
ミラーテクニック下で感染歯質を慎重に除去していく。ピンスポットではあるが深部に及ぶカリエスである。しかし、患者さんの管理が良いためエナメル質のう蝕検知液に対する染色はみられない。そのままフロアブルレジンを用いてデンチンシーリングを行った。さらに、接着力による歯質強化を求めてセレックによる直接法修復で接着修復を完了した(図26)。
術後良好に経過しており、歯質の強度に大きく関与する辺縁隆線・口頭隆線の保存に成功し、患者さんの希望にこたえられた。『CEREC』と「ライカM320‑D」のコンビネーション治療であった(図27)。