末瀬最近、歯科界における脱金属とCAD/CAMという流れの中で、ジルコニアによるメタルフリーレストレーションが注目されていますが、これまでのジルコニアは強度が高く研磨により滑沢な面が出せる一方、透光性という意味では改良が進まず、主にフレーム材料として使われてきました。また、ジルコニアフレームに築盛したポーセレンのチッピングが一時話題になっていましたが、最近ではポーセレンの物性の改良や、フレーム形態の見直しにより、改善されつつあります。しかしその一方で、ジルコニアに透光性を与え、レイヤリングすることなく単体で使えないかということも考えられてきました。
今回、国内で代表的なCAD/CAMシステムである「ノリタケカタナ(KATANA)ジルコニア」(クラレノリタケデンタル株式会社)に、新たに透光性を追求した「HT(ハイトランス)」と、透光性に審美性をプラスした「ML(マルチレイヤード)」が開発されました。
坂弊社では、ジルコニアの使用頻度が高くなるにしたがって、フレーム材としてだけではなく、クラウン全体をジルコニアで作ろうという気運が高まってきました。そのときに求められるのは透光性と審美性それから強度です。各社から市販されているジルコニア製品も透光性をいかに上げるかにフォーカスした結果、含有するアルミナ量を減らすことで透光性を上げることには成功しているようですが、モノクリ(ニック)という単斜晶に転移しやすく、耐久性に問題があるのではないかと思われます。しかし、「HT」「ML」では、モノクリへの転移量を抑えながら世界トップレベルの透光性を目指して開発されています。弊社ではジルコニアパウダーやディスクも自社で製造していますから、もっとも歯冠の色調が出しやすいように4層の色調からなる「ML」ディスクを開発しました。ディスクの一番下底辺部分はボディ(デンティン)層で、上辺部分にはエナメル層、その間には中間層が2層にわたってあります。このディスクを用いて製作されたフルジルコニアクラウンを形態修正・研磨すれば、ほとんど色調修正の必要がない色に仕上がるようになっています。
末瀬従来のジルコニアの場合単色であったことから天然歯のような色調再現が困難でしたが、4層になれば色境の目立たない自然なグラデーションがあるフルジルコニアクラウンの製作ができるのではないかと思います。「ML」の色調バリエーションは何種類ですか?
坂A Light、A Dark、B Lightの3種類です(図1)。
末瀬3種類あれば幅広い色調再現ができると思いますね。クラレノリタケデンタルでは従来、単色でいろいろなカラーを出されていましたが、それと比べて透光性はいかがですか?
坂もちろん全体的には上がっています。「HT」はモノカラー(単色)で白色だけでなく、HT12、HT13含めA1、A2、A3のような主要なVITAシェードにも対応できるようになります。
末瀬従来のカタナブロックにはフレーム用カラーも9種類ありましたよね。例えばA2の色を出す場合、この色調のジルコニアを使って、さらにその上にポーセレンをレイヤリングするというのが基本でしたが、今回の「HT」はフレーム用で「ML」は単体でクラウン用に使うというのが基本なのですね。
坂そうです。基本的には「ML」は焼成すると色がでてきます。例えばA LightはA1.5〜A2といった目安があるので、着色工程が不要になるなど、できるだけ製作する手間を省くようにつくってあります。
末瀬私も「ML」を使ってみて、とてもきれいなフルジルコニアクラウンができましたし、歯科技工士さんに聞きますと「非常に色が良い」と言っていました(図2、3)。
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「ジルコニアは修復物として 金属に代わる良い材料だと思っています。」 大阪歯科大学 客員教授、大阪歯科大学歯科技工士専門学校 校長 末瀬一彦 先生 |
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「透光性測定の結果、「HT」「ML」は 他社製品と比較して高い透光性を示しています。」 愛知学院大学歯学部 歯科理工学講座 伴 清治 先生 |
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「より安全なものを今から製品化しておくことは 大事なことだと思っています。」 クラレノリタケデンタル株式会社 坂 清子 顧問 |
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末瀬現在、メタルやコンポジットレジンへの接着技術はほぼ完全に近い状況までなりましたが、ジルコニアの接着技術や手法はまだまだ臨床家には理解されていないと思います。
伴そうですね。私は通常のシランカップリング処理はまず適用できないと思っています。それから、従来はいろんなセラミックに接着性モノマー等を塗布する前に、洗浄とプライミングを兼ねて、フッ酸処理とか、リン酸処理等の酸処理の必要性が言われていましたが、ジルコニア表面には必要ありません。実験では、リン酸エステル系のモノマー含有のセメントで十分な接着強度が得られています。
末瀬リン酸エステル系モノマーというと「MDP」含有のセメントがクラレノリタケデンタルにはありますよね。
坂「クリアフィル エステティックセメント」や「クリアフィル SAセメント」などがありますので、ジルコニアの接着にはそれらを使っていただくと良いです。
末瀬ジルコニアは当初は全く透光性のない、まさに「白い金属」というイメージでしたが、臨床で使っていくなかで、より使いやすく、より審美性の高いものへと進化してきました。将来的にジルコニア臨床に期待することはありますか。
坂現在ではフルジルコニアクラウンのケースは臼歯に限定されて、前歯はガラスセラミックスやジルコニア焼付けポーセレンがほとんどです。今後さらに透光性の高いものができれば前歯でも応用できるのではないかということと、もっと強度のあるものが出てくれば、接着性ブリッジやラミネートにも応用できるかもしれません。現在、変色歯を隠すためにラミネートで皆さん苦労されていますが、今後はジルコニアをうまく使って変色歯を隠して審美性を出すといった用途にも使えるなど、臨床の応用範囲は拡大していくと期待しています。
末瀬今後、テレスコープ等にも応用できるのではないでしょうか。そして審美性を考慮したキーアンドキーウェイなども考えられます。もちろん、摩耗等の関係があって、ジルコニアでどこまで対応できるかはこれからの課題だと思います。しかし、従来からインプラントのアバットメントには使われていますし、審美性を追求する意味では大きな価値があることだと思っています。
坂フルジルコニアクラウンでエナメル質に対してどうかという問題は、これから追求していかないといけないテーマですね。弊社製品をアラバマ大学でテストした結果では、充分に研磨すれば、ジルコニアは最も天然歯を摩耗させにくいという結果が出ていますが、今後も先生方に経過を追っていただきたいと思っています。
伴現在、ジルコニアは切削加工して焼成するという使用方法しかないわけですが、他の加工方法の出現も期待しています。また、CAD/CAM法は、どんな素材にも使えていろいろな組み合わせや形態も工夫次第で自由自在にでき、新しい歯科応用の可能性が広がります。実験的にクラスプに使っている人がいるし、デンチャーまでつくっている人もいます。これからまだまだ楽しみな分野だと思います。
末瀬私自身、ジルコニアは修復物として金属に代わる一番良い材料だと思っています。今回、高透光性、高強度のカタナジルコニア「HT」、そこに天然歯に近似した色調を加味した「ML」が誕生し、これを応用することで、フルジルコニアを中心に臨床応用がさらに普及していく時代になるでしょう。
これまでの金属の問題点をクリアして、口腔内での新しい修復材料として我々も大事に育てたいと思います。本日はありがとうございました。