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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Clinical Report
フロアブルタイプの低重合収縮型充填裏層材「バルクベース」について
千葉県市川市 中村歯科医院 中村 光夫
千葉県八千代市 マイ歯科医院 大木 志朗

■目 次

■はじめに

一般的に、歯科用コンポジットレジンは重合性モノマー、重合開始剤およびフィラーから構成される。重合性モノマーとしては、生体内における安全性、硬化物の機械的強度および審美性などの観点から、ラジカル重合が可能な多官能性メタクリレートが主に用いられている。
多官能性メタクリレートとしては、Bis-GMAやUDMAが多く使用され、特にBis-GMAは、1962年にBowenが初めて歯科材料へ応用して以来、安全性への懸念が指摘されながらも、現在まで多くの歯科用コンポジットレジンの重合性モノマーとして使用されてきた1、2)
しかし、臨床現場からは、強度、吸水および着色、重合収縮など、改良の余地が大きいとの指摘もある。特に、重合収縮は、歯の接着面から生じるコントラクションギャップの発生を招き、二次う蝕、歯髄刺激、修復物脱落などの原因となるため、可能な限り低減することが望まれている。そこで、審美性とX線造影性付与のために多用されているフィラーの充填量を向上することで、重合収縮を低減させることも提案されているが、既存モノマーの収縮率が大きく、その効果には限界があった。
三井化学の新規ウレタン化合物を含有するLPS重合性モノマー(Low Polymerization Shrinkage)は、硬化物の機械的強度、審美性、安全性に加えて、特に硬化時の重合収縮率が小さく、充填用および裏層用コンポジットレジンに適した素材である。このLPSモノマーを使用したコンポジットレジンなどの歯科修復材料は、重合収縮が小さいため、歯の接着面との間にコントラクションギャップが発生しにくく、二次う蝕、歯髄刺激、修復物の脱落といった懸念が低減される。また、操作面では、一般的に困難とされていた深い窩洞への一括充填を可能にした3)

■低重合収縮型 充填裏層材「バルクベース」の技術背景

流動性が特長のフロアブルレジンは、フィラーの充填量を多くできないため、重合収縮率を低減させることが困難であった。バルクベースでは、三井化学によって新規に開発されたウレタン化合物を含有するLPSモノマーを主成分として使用することで、従来品と同等の高い流動性を維持しつつ、低い重合収縮性のフロアブルレジンを実現した(図1)。
用途は、主に臼歯の深い窩洞において一括充填できる、歯髄保護を兼ねた、充填・裏層用(ライナー・ベース)の低収縮性フロアブルコンポジットレジンで、独自の界面重合タイプの接着システムとの併用が必履となる。

  • 図1 バルクベースセット構成品
    図1 バルクベースセット構成品

■修復後のリスク軽減のための方策

1.ボンディング材に求められる性能
う蝕の進行した症例では、う蝕影響象牙質の完全除去が困難なことから、ボンディング材には以下の性能が求められる。
  • ・湿潤した変性コラーゲンを含むう蝕影響象牙質に確実に浸透重合し、良質な樹脂含浸象牙質が形成できること
  • ・歯質の接着界面から確実に重合、硬化(界面重合型)ができること
  • ・歯髄に近い象牙質に使用するため、生体親和性が高いこと
2.裏層材に求められる性能
う蝕の進行した症例では、窩洞形成後の歯質が菲薄となり、歯髄との距離も近くなるため、歯質に対しストレスのかかり難い材料が求められる。
  • ・歯質(歯髄)へのダメージおよびコントラクションギャップが少ないこと=低重合収縮性(収縮による歯質へのストレスを低減)
  • ・簡便に操作できること =1ペースト化(光重合)
  • ・照射熱による歯髄へのダメージが少ないこと=高い光硬化性(照射回数の削減)
3.低重合収縮型充填裏層材「バルクベース」の有用性図2
う蝕の進行した症例では、窩洞形成後の歯質が菲薄となり、歯髄との距離も近くなるため、歯質に対しストレスのかかり難い材料が求められる。
  • ・低い重合収縮性により、重合時の歯質にかかる応力を低減できる
  • ・深さ4mmまで一括充填できる高い重合硬化性を確保
  • ・低収縮による、歯質と自然に馴染む窩洞追従性の獲得
  • ・ボンディング材(界面重合)との組み合わせによる修復後リスクの軽減
  • 図2 バルクベースの特長と有用性
    図2 バルクベースの特長と有用性

■バルクベースの性能比較

1.コントラクションギャップの測定
ジルコニア製セラミックチューブをセロハンの敷いたガラス板上に置き、内面にペーストを充填、180秒光照射を行う。反対面も光照射を行い、内部のペーストを硬化させる。
最初に光照射した面を臨床上の光照射面と仮定。試験片の先端から2.0mmのところで水平に割断し、切断面を鏡面研磨し10分間の超音波洗浄を行った。切断面をSEMにて対角線上に8ヵ所を観察し、ギャップ幅を測定した。

2.重合収縮率の測定
体積変化を求めるにあたって、重合前の充填材料と重合後の硬化体の密度を乾式密度計で測定し、その密度から重合収縮率を算出した。
計算式は重合収縮率 =
(重合後密度−重合前密度)/重合後密度×100
一般的にフロアブルタイプのコンポジットレジンは、重合時に3〜5%程度の重合収縮が生じるといわれている。
LPSモノマーは、モノマー自体の重合収縮率が2%(TRENDS P.42 参照)と既存の重合性モノマーに比べて極めて低い値を示す。
実際に、バルクベースペーストでの重合収縮率は2.6〜2.8%と3.0%以下の値を示し、これは従来品や各種バルク充填用フロアブルと比較して、最も低い結果となった。さらに、コントラクションギャップの測定においても、13.8μmと有意に低い値を示した(表1図3)。
  • 表1 各種バルク充填・裏層材との性能比較
    表1 各種バルク充填・裏層材との性能比較
    ※1.重合収縮率は、密度計を使用しての測定値 ※2.ジェットライト3000 を使用(20 秒)
  • 図3 コントラクションギャップと重合収縮率
    図3 コントラクションギャップと重合収縮率

■バルクベース接着システムの特長

象牙質の組成をVol%で換算すると、接着に有利とされる無機成分は半分以下となり、マイナス要因となる水を含む有機成分の割合が55%に達する。この水分と空気の存在下で重合をコントロールできるかが鍵となる(表2)。
バルクベース独自の接着システムは、水分と空気の存在する歯の接着界面から重合硬化することで、低重合収縮型ペーストとの組み合わせにより、コントラクションギャップの低減と術後リスクの軽減を計ることができる(図4)。
接着システムの選択は、バルクベースの特長である低重合収縮性、窩洞追従性を考慮すると、接着界面からの自己重合が可能な、スルフィン酸塩系ボンディング材(バルクベースライナー)との組み合わせが、性能比較では総合的に優れる4〜6)
術後疼痛、術後歯髄炎等のリスク軽減を主目的とする場合には、良質な接着層の形成が可能な、実績と信頼のTBB系ボンディング材(スーパーボンド Dライナーデュアル)を用いることを勧める(表347、8)

  • 図4 バルクベース接着システムの優れた特長
    図4 バルクベース接着システムの優れた特長
  • 表2 歯質成分と組成比
    表2 歯質成分と組成比
  • 表3 バルクベース接着システムの選択と性能比較
    表3 バルクベース接着システムの選択と性能比較
  • 表4 バルクベースと各種ボンディング材との接着性
    表4 バルクベースと各種ボンディング材との接着性

■バルクベース臨床例

上顎第一大臼歯口蓋側のう蝕。初診時の所見は、エナメル質に点状に開いた小さいう蝕と思えたが、X線所見から象牙質まで深く広がるう蝕と診断。症状は冷水痛があった。MIに沿った窩洞形成を行い、バルクベース付属のボンディング材バルクベースライナーを用いて20秒間セルフエッチング処理を行う。なお、症状が強く、術後疼痛等のリスク軽減を主目的とする場合には、良質な接着層の形成が可能な、TBB系ボンディング材( スーパーボンド Dライナーデュアルなど)を用いることを勧める。十分に乾燥後、バルクベースライナーの光重合硬化。続いて、バルクベースペーストを直接一括充填する。バルクベースペーストはフロー性によりハイフローとミディアムフローの2タイプがあり、用途に応じて使い分けが可能である。症例の場合は、上顎のため垂れにくいミディアムタイプを使用した。バルクベースペーストの光重合硬化。
低収縮型フロアブルレジン・バルクベースを用いた裏層の完了。最後に症状がないかを確認し、最終充填にはファンタジスタやメタフィルFloなどを充填し、咬合調整、仕上げ研磨を行う。充填後3ヵ月、冷水反応等の症状はない(図5-19)。

  • 図5-1 上顎第一大臼歯う蝕
    図5-1 上顎第一大臼歯う蝕
  • 図5-2 X線写真 充填前
    図5-2 X線写真 充填前
  • 図5-3 窩洞形成
    図5-3 窩洞形成
  • 図5-4 バルクベースライナー処理
    図5-4 バルクベースライナー処理
  • 図5-5 バルクベースペースト充填
    図5-5 バルクベースペースト充填
  • 図5-6 バルクベースペースト光重合
    図5-6 バルクベースペースト光重合
  • 図5-7 ファンタジスタ最終充填
    図5-7 ファンタジスタ最終充填
  • 図5-8 X線写真 充填後
    図5-8 X線写真 充填後
  • 図5-9 充填後 3ヵ月
    図5-9 充填後 3ヵ月

■おわりに

1962年にBis-GMAが初めて歯科材料へ応用されて以来、現在まで多くの歯科用コンポジットレジンの重合性モノマーとして使用されてきた。しかし、臨床現場からは、硬化時の重合収縮によるコントラクションギャップが、二次う蝕や歯髄刺激などの原因となるため、改良の余地を残すと指摘されてきた。
Bis-GMAの応用から半世紀、これら既存の重合性モノマーの欠点を補う、新規ウレタン化合物含有のLPS重合性モノマーが三井化学によって開発された。このLPSモノマーは、硬化物の強度、審美性、安全性に加えて、特に硬化時の重合収縮率が小さく、充填用および裏層用コンポジットレジンに適した素材である。LPSモノマーを使用した歯科修復材料は、重合収縮が小さいため、歯の接着面との間にコントラクションギャップが発生しにくく、修復後の歯髄刺激といった懸念が低減される。また、操作面では、一般的に難しいとされていた深い窩洞への一括充填を可能にした。
この低収縮型モノマーを採用した「バルクベース」は、主に臼歯の深い窩洞において一括充填が可能な、歯髄保護を兼ねた裏層用フロアブルコンポジットレジンで、独自の接着システムの併用により、修復後のリスクの軽減が期待できる。今後、これらの低収縮型修復材料が広く臨床に応用され、リスクの少ない快適な食生活の獲得に繋がり、口腔の福祉と健康の増進に貢献することを願って、稿を閉じたい。

参考文献
  • 1)Bowen RL (1962). Dental filling material comprising vinylsilanetreated fused silica and a binder consisting of the reactionproduct of bisphenol and glycidyl methacrylate. USPatent 3 066 112.
  • 2)Bowen RL: Properties of a silica-reinforced polymer for dentalrestorations. J Am Dent Assoc,66,57-64,1963.
  • 3) Dental material, dental material composition, dentalrestorative material, and cured product (22-Nov-2012).Applicants:NARUSE, Hiroshi, TANABE, Yoshimitsu, KOHGO,Osamu, MIYASATO, Masataka, UEKI, Hideyuki, INAMI,Chidzuru, MIYATA, Shunsuke.Assignees: MITSUI CHEMICALS,INC, SHOFU INC., SUN MEDICAL CO., LTD. 61-65,2011.USPatent 20120296003.
  • 4) 中村光夫:コンポジットレジン用ボンディング材「AQボンド」について、日本歯科評論、696、5〜8、2000.
  • 5) 中村光夫:超審美極薄ボンディング材「AQボンドプラス」について、デンタルダイヤモンド、28(8)、129〜132、2003.
  • 6) 中村光夫:AQボンドプラス、デンタルダイヤモンド(別冊)、接着がゆく わたしの接着作法、76〜81、2006.
  • 7) 中村光夫、中林宣男:TBBを重合触媒に用いた4-META系ボンディング材(スーパーボンドDライナー)の象牙質への接着、接着歯学、10(4)、311〜317、1992.
  • 8) 中村光夫:スーパーボンドDライナーⅡを使用した症例、デンタルダイヤモンド、21(11)、54〜57、1996.

デンタルマガジン 147号 WINTER