厚生労働省の平成23年歯科疾患実態調査によれば、何らかの歯周疾患の所見があるものの割合は、35~69歳の年齢層で依然として約80%と高いままになっています。また、平成23年患者調査をみても、歯周病の総患者数は増加傾向にあります(図1)。
歯周病は、
などの特徴があります。特に中等度以上に進行した歯周病では完全な治癒は難しく、容易に再発しやすいため、患者さんのセルフケアと歯科医師・歯科衛生士のプロケアによる継続的な維持管理が必要です。
図2のチャートに示すように、理想的に歯周治療が進めば、歯周基本治療や歯周外科治療を経て治癒、そして、メインテナンスへと移行します。しかし、中等度以上に進行したケースでは、数ヵ所の深い歯周ポケットや根分岐部病変の残存など完全な治癒に至らず、長期経過症例では同部位が急性化し悪化することを経験します。この悪循環を断ち切るために導入された治療法が「SPT」です。
SPTは、1989年にアメリカ歯周病学会で取り上げられた治療で、日本では「歯周病安定期治療」と訳されています。日本歯周病学会は、「歯周基本治療、歯周外科治療、修復・補綴治療により病状安定となった歯周組織を維持するための治療」と定義し、2007年編纂のガイドラインに収載するとともに、学会として歯周病の治療に取り入れることを推奨しています。また、2008年には保険適用も認められ、行政の後押しも得て、急速に理解が広まっています。
このSPTは、歯科医院での治療、つまりプロケアが中心になりますが、3〜4ヵ月おきに行うプロケア間の口腔状態の維持・改善の観点から、セルフケアも重要な役割を担っています(図3)。なぜなら、歯周治療によって歯肉の状態が改善されても歯周病原細菌が口腔内から消滅するわけではなく、浅く引き締まった歯肉と宿主の免疫応答によって再発を免れているのであって、舌や口腔粘膜、歯肉の表面に多くの細菌が存在します1)(図4)。
図5の症例は、初診が2005年と古い症例ですが、28歳女性で典型的な骨吸収像を認めたため、侵襲性歯周炎を疑って唾液の細菌検査を行いました。SPT期の約2年6ヵ月後に再度細菌検査を行い、結果を比較すると、総菌数は減っていますが、依然P.gingivalis菌やA.actinomycetemcomitans菌などの歯周病原細菌が存在していました。歯周病が良好に治癒したとしても、細菌をもコントロールするという意味では不十分であったと考えます。
近年、口腔内のバイオフィルムをコントロールするという視点から、セルフケアでのブラッシングと、プロケアでのスケーリング、ルートプレーニングやプロフェッショナルメカニカルトゥースクリーニング(以下、PMTC)などの機械的アプローチに加え、化学的アプローチとして、バイオフィルムに浸透し殺菌する薬剤が配合された歯磨剤やデンタルリンスを併用することで、より効果的なプラークコントロールが可能となりました2)(図6)。
この程、歯周治療後の口腔内状態を良好に維持することを目的としたSPT期用のケア製品「Systema SPTシリーズ」<ライオン歯科材(株)>が発売されました。この「Systema SP-T シリーズ」を当院のSPT期の患者さんにセルフケアで使用してもらい、また、一部はチェアサイドでのプロケアへの応用も試みたところ、良好な結果が得られましたので紹介いたします。
「Systema SP-T シリーズ」には、「Systema SP-Tジェル」、「Systema SP-T 歯ブラシ」、「Systema SPTメディカルガーグル」の3品があります。これらは、SPT期のケアのために「原因菌を確実に殺菌・除去し、歯肉を傷めずに歯肉を健康にする」シリーズとして開発されました(図7)。
以下、それぞれの特長を紹介します。
図10 Systema SP-T 歯ブラシ
図11 Systema SP-T 歯ブラシ設計の考え方
前述のようにSP-T ジェルとSP-T ガーグルは、それぞれの特長を活かした相乗効果が期待できます。つまり、SP-T ジェルのIPMPが、粘性ジェルとして歯面に付着し、バイオフィルムへ浸透・殺菌力を発揮する一方、SP-T ガーグルのCPCは、水溶液として舌、歯肉や口腔粘膜に付着する浮遊菌への殺菌力を発揮します。そのため、私は、歯磨剤で磨いた後にリンス剤で洗口すれば口腔内の隅々まで殺菌消毒する効果が期待できると考えております。
そこで簡単ですがSP-T ガーグルによる洗口の効果を評価してみました。
<評価方法>
<結果>
測定して得られた菌数データを対数変換して解析しました。その結果、SP-T ガーグル使用群で、洗口前後の菌数が統計的有意差(p<0.01)をもって減少しましたが、水使用群では有意差はありませんでした(図16)。
<考察>
図17に代表例として4例をピックアップしてみました。年齢や清掃状態に差があるものの、リンス剤を使用した場合は明らかに細菌数が減少し、水で洗口すると変化がないことから、SP-T ガーグルに殺菌効果があることが分かります。また、認知症であまり上手に洗口できない患者さんであっても細菌数は減少することから、リンス剤で洗口をすることは、歯ブラシのみの清掃では不十分だった、舌や口腔粘膜、歯肉に付着した細菌をコントロールするのに有効だと考えます。
Systema SP-T シリーズの実際の臨床活用法を図18に示します。
ラタイチャークの教本1)によると、歯肉縁下に適用する殺菌消毒剤は、2%CHXジェル、0.2%CHX洗口液、0.5%ポビドンヨード(以下、PI)、3%過酸化水素水などであり、比較的高濃度の殺菌消毒剤を用いることが効果的であると述べています。しかし、国内ではアナフィラキシーの問題から、CHX濃度は希釈前で0.05%と低濃度であり、期待される殺菌効果は得られません。また、P Iには殺菌効果はあるものの、着色に問題があります(図14)。Systema SP-T シリーズ製剤は、低濃度から殺菌作用があり、かつ透明で着色しないなど、私どもが抱える問題点を改善している点が魅力的であり、従来の歯磨剤、デンタルリンスの既成概念に囚われない臨床活用が期待できます。
歯周治療は、患者さんと歯科医師・歯科衛生士の二人三脚の治療であり、一人一人の患者さんに合わせた、オーダーメードの口腔ケアが必要です。しかも、長期的に継続した関わりが必要で「患者と寄り添うホームドクター」としての医院づくりが求められています4)。このケア発想の歯周治療=SPTの効果的な運用は、歯科医院の健全経営の基盤を固めることにもつながり、強いては、ホームドクターとして患者さんから愛される大きな要素になると考えます。
今回ご紹介した「Systema SP-T シリーズ」は、SPT期のケアのために「原因菌を確実に殺菌・除去し、歯肉を傷めずに歯肉を健康にする」シリーズとして開発され、SPT期の患者さんへ「歯みがき処方」として自信を持ってお渡しでき、また、セルフケアからプロケアまで活用できる非常に魅力的な製品です。今後さらに補助的にケアができる用具やジェル剤など、一層のシリーズ製品拡大を期待しております。