根管形成によりキレイにした根管内に再び細菌感染が起きないように根管系を緊密に封鎖することが根管充填の目的の一つである。一方、根管形成では根管内を完全に無菌化できるわけではない。根管形成でファイルがあたる部分は根管系の80%程度にしか過ぎないと言う報告もある1)。根管側枝や根尖分岐に入りこんだ細菌は化学的洗浄を併用して無菌化をはかるわけであるが、完全に取り除けない細菌も存在する。完全に取り除くことができなかった細菌が悪さをしないように、側枝や細管内に封じ込める(entomb)というのも根管充填のもう一つの目的である。
従来の根管充填では、ガッタパーチャとシーラーを用いた根管充填法が広く行われている。ガッタパーチャだけでは根管壁との封鎖性を確立できないため、ガッタパーチャと根管壁との間にはシーラーが必須である。様々なシーラーが開発されているが、昨今の歯科材料学を考えれば、接着性レジン系シーラーが今後は主流になっていくと思われ、根管内で複雑なステップを必要としない接着性レジン系シーラーが望ましい2)。
どの根管充填法を選択したとしても、臨床成績に差はでない3)。大学で学生にまず教える側方加圧根管充填でも、多くの症例で良好な予後が得られる。しかし、内部吸収や樋状根管などの症例に側方加圧根管充填を行うと、内部吸収窩や樋状根管のイスムス部分はシーラーで満たされることになる。シーラーは前述のようにガッタパーチャと根管壁の間の封鎖性を得るために使用するものであり、ガッタパーチャの代わりに根管内を充填するものではない。つまり、このような症例では根管内でガッタパーチャを加熱軟化し、できるだけガッタパーチャの占める容積が大きくなるような根管充填法を選択する必要がある、ということになる(図1、2)。
加熱軟化ガッタパーチャ根管充填法は、内部吸収窩やイスムスにガッタパーチャを送り込むことができるというメリットがある一方、根管充填の深さをコントロールするのが難しいというデメリットがある。加熱軟化ガッタパーチャ根管充填法のいくつかは、根管充填が極端にアンダーになったり、根管充填材を根尖孔外に溢出させてしまうことがあり、その根管充填法をマスターすることは容易ではない。
今回紹介するダイアペンとダイアガンを用いた根管充填法は、加熱軟化ガッタパーチャ根管充填法のメリットを活かしながら、デメリットである根管充填材の溢出などを未然に防ぐことができる根管充填法として、世界中の歯内療法専門医が行っている根管充填法の一つである。
ダイアペンの赤いボタンを押すとチップの先端が設定温度まで急速に上昇し、赤いボタンを離すと先端の温度は速やかに下降する(図4)。根管内に試適したガッタパーチャポイントに、このダイアペンのチップを熱しながら、作業長の数ミリ手前まで挿入する。熱せられたガッタパーチャは根管内の隅々にまで行き渡り、緊密な根管充填が可能となる。
ダイアペンのチップには、XF、F、FM、M、MLと5種類の太さがあり、根管の太さによってチップを選択する(図5)。チップのサイズは表1のようになっているが、筆者はもっぱらFを愛用している。
ダイアペンの先端温度は、3段階で設定が可能である。Lowは170度、Mediumは200度、Highは220度の設定となる。使用するガッタパーチャにもよるが、エンドウエーブ用ガッタパーチャ(図6)を使用するなら、Lowの設定で十分と思われる(図7)。
また、ダイアペンのチップは60度ずつ回転させて差し込むことができる(図8)。上顎と下顎、右側と左側というふうに、患歯の位置によりチップ先端の角度を変えることにより、術者が無理な姿勢を取る必要がなくなる。
ダイアガンはコードレスタイプで、とてもコンパクトな設計となっており使い勝手がよい。下顎臼歯部の根管充填の際に、ダイアガンを持ち替えたときにもコードが邪魔をすることがない。
複根管歯の根管充填など、ダイアペンとダイアガンを頻繁に持ち替えることがある。そのような場合、ダイアガンはいちいち充電器に戻さなくても自立してくれるので、どこにでも置くことができる。充電器がすぐ手の届くところにあるわけではないので、独り立ちしてくれることにより、チップの先端が折れたり、汚染したりする心配がなく非常に便利である。
ダイアガンの温度も160度、180度、200度の3段階で設定することが可能である(図10)。また、スイッチを入れると設定温度まで速やかに上昇する。従来の器械だと設定温度まで上昇するのを待つ時間にイライラしたものだが、このダイアガンでは20秒程度で設定温度まで上がってくれるので、使用する際に電源を入れ忘れていたり、スタッフが気を利かせて早めに電源を入れていたために自動オフとなってしまっていたとしても、術者にはほとんどストレスがかからず設定温度まで上昇してくれる。細かいことかもしれないが、嬉しい配慮の一つである。
従来の器械では、大臼歯の根管充填を行う際に、熱くなったネックの部分(図11)が患者の口唇に触れて「熱い!」と言われることがあった。ダイアガンはこの部分の温度が高温にならないため、第二大臼歯の根管充填でも無用な心配をすることがなくなった。これも臨床医にとっては嬉しい機能である。
また先端の向きを360度自由に変えることが可能である(図12)。大臼歯の頰側根管と口蓋根管を充填する際に、術者の腕を無理な方向に上げたりすることなく、先端の向きを変更することで根管充填が可能である。
このようにダイアガンは従来の機器の問題点を解決した新しいタイプの根管充填器として多くのメリットを持ち合わせている。
ここでは筆者が行っているダイアペンとダイアガンを用いた根管充填法を紹介する。
ダイアペンとダイアガンを用いた根管充填を行うことにより、複雑な根管系にガッタパーチャをより緊密に充填することが可能となる(図19)。また従来の加熱軟化ガッタパーチャ根管充填法に比べると、根管充填材の到達度のコントロールも容易になる。
根管充填法により成績に差はでないと報告されているが、より確実な根管充填を従来の側方加圧根管充填法と同様もしくは短い時間で行え、しかも側方加圧根管充填でカバーできない根管にも充填することが可能となるのであれば、この方法をマスターするべきだと考えるのは筆者だけではないだろう。