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148号 SPRING 目次を見る

Clinical Report

GRF(血小板濃縮フィブリン)の臨床的応用 ~インプラント埋入部位における周囲組織治癒の有効性について~

岩手県盛岡市 守口歯科クリニック 守口 和

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■目 次

■はじめに

近年の歯科用インプラント治療は、欠損補綴の第一選択として行われている。しかしインプラントの事故がとりざたされたために、患者のインプラント治療に対する不信感があることも事実である。我々歯科医師は、このことを真摯に受け止め、再び患者の信頼を獲得し安全で長期的に機能するインプラント治療を全力で提供すべきである。そのためには、患者の心身や生体を常に気遣い、治療の知識・技術を磨き、危険をできるだけ回避し負担の少ない治療を提供することが必須である。そのための一つに多種多様な機材・器具・材料を自ら選び、使いこなさなければならない。
今回の症例では、GRF-血小板濃縮フィブリンの臨床的応用とサージカルガイドを用いて行った。

■症例の提示

患者は30歳代女性、右下6番の違和感と左下がうまく咬めないことを主訴として来院された(図1)。患者さんはインプラント治療を選択された。
右下6番は抜歯即時埋入とともに、GBRを行い、GRFメンブレンを使用する。左下6番はフラップレスで埋入を行った症例を提示する。
インプラントの植立手術にあたってはサージカルガイドを使用した。
サージカルガイドの作成方法は様々あるが、当医院では下記の手順にてサージカルガイドを作成し、精度の検証を行っている。
まずCT撮影を行い、硬組織データを得るとともに、セレックACにより軟組織のデータを得る。この情報から、硬組織と軟組織の位置関係およびカスタムアバットメントと最終補綴の位置関係のシミュレーションを行う。これにより、理想的なインプラントサイズ・埋入位置・方向・軟組織と最終補綴物との位置・術式等の考察を行うことができる1)
このシミュレーションデータをもとにサージカルガイドを製作する。
サージカルガイドの精度を保証するために、インプラント植立手術前にサージカルガイドを患者の口腔内にセットし、あらためてCT撮影を行う。CT画像に写るサージカルガイドとシミュレーションデータのサージカルガイドをソフト上で重ね合わせることにより、術前にサージカルガイドの精度の検証を行っている2)
次に、手術に移る。両側の6番に浸潤麻酔を行い、右下6番を抜歯する(図2)。抜歯窩をよく掻爬した(図3)。さらにサージカルガイドをしっかりと歯牙に圧接した状態を保ち、インスペクションウインドウから歯牙にサージカルガイドが適合していること確認しながらドリリングを行った(図4)。インプラント窩が形成された後、ガイド用のマウントが装着された状態のインプラント体をガイドスリーブをとおして左右均等に埋入した。
患者の上腕静脈より18Gの注射針と採血管(10mL)2本を用いて20mLの静脈血を採取した。採取した静脈血を遠心分離機416Gにセットし、直ちに遠心分離を始めた。上層に血小板を含むフィブリンゲルが得られ、赤血球は下層に分離される。上層のゲルを切り出し清潔なガーゼで絞る(図56)。
右側6番のインプラント埋入後の抜歯窩にGBRを行い(図7)、事前に圧迫して製作したGRF膜を固定し、さらに減張した歯肉にてしっかりと縫合した(図810)。
術後に撮影したCT画像と術前にCT撮影しインプラントプランニングしたCT画像を同部位に合わせてみると、ほぼプランニングどおりの位置にインプラント体が植立されていることを確認できた(図1118)。
2ヵ月後、左右インプラント植立部の歯肉治癒を比べてみる(図19)。抜歯即時埋入、GBR、GRF膜で行った右側6番は、フラップレスで植立された左下6番と見比べてみると、若干歯肉のリセッションが起きてはいるが、不動歯肉に覆われ炎症や感染は見られなかった。3ヵ月後、印象採得を行った(図2023)。この時点で歯肉の状態に左右の違いは見られなかった。
オステルISQアナライザにてインプラント骨組織に対する安定度をみる。インプラント体にスマートペグマウントを用いて手指にてインプラント体にスマートペグを装着した。プローブをスマートペグの先端に近づけて近心、遠心、頰側、舌側を計測した。
結果、右下6番の最高値は67、左下6番の最高値は78であった(図2425)。ISQ値からインプラント体の骨組織に対する安定度が確認されたため、印象採得を行った3、4)
シミュレーションソフト上でプランニングしたデータより、カスタムアバットメントとスーパーストラクチャーを製作して、患者口腔内へ装着した(図26図27)。
現在、一年半経過しているが経過は良好である。

  • 図1 来院時の口腔内写真。
    図1 来院時の口腔内写真。
  • 図2 抜歯された右下6番。
    図2 抜歯された右下6番。
  • 図3 抜歯後念入りに掻爬を行った。
    図3 抜歯後念入りに掻爬を行った。
  • 図4 ガイドドリルにてインプラント窩形成
    図4 ガイドドリルにてインプラント窩形成
  • 図5 遠心分離機416G
    図5 遠心分離機416G。
  • 図6 抽出されたGRFジェリー。
    図6 抽出されたGRFジェリー。
  • 図7 インプラント埋入後、GBRを行う。
    図7 インプラント埋入後、GBRを行う。
  • 図8 製作したGRF膜をトリミングする
    図8 製作したGRF膜をトリミングする。
  • 図9 GRF膜を固定する。
    図9 GRF膜を固定する。
  • 図10 縫合
    図10 縫合。
  • 図11 右下6番 術前シミュレーション画像(矢状断)
    図11 右下6番 術前シミュレーション画像(矢状断)
  • 図12 右下6番 インプラント埋入後(矢状断)。
    図12 右下6番 インプラント埋入後(矢状断)。
  • 図13 右下6番 術前シミュレーション画像(冠状断)。
    図13 右下6番 術前シミュレーション画像(冠状断)。
  • 図14 右下6番 インプラント埋入後(冠状断)
    図14 右下6番 インプラント埋入後(冠状断)
  • 図15 左下6番 術前シミュレーション(矢状断)。
    図15 左下6番 術前シミュレーション(矢状断)。
  • 図16 左下6番 インプラント埋入後(矢状断)。
    図16 左下6番 インプラント埋入後(矢状断)。
  • 図17 左下6番 術前シミュレーション(冠状断)
    図17 左下6番 術前シミュレーション(冠状断)
  • 図18 左下6番 インプラント埋入後(冠状断)。
    図18 左下6番 インプラント埋入後(冠状断)。
  • 図19 2ヵ月後の歯肉治癒
    図19 2ヵ月後の歯肉治癒。
  • 図20 3ヵ月後の印象採得
    図20 3ヵ月後の印象採得。
  • 図21 ミリングマシンにてカスタムアバットメントを製作。
    図21 ミリングマシンにてカスタムアバットメントを製作。
  • 図22 ミリングマシンにて最終補綴物を製作。
    図22 ミリングマシンにて最終補綴物を製作。
  • 図23 アバットメントと最終補綴物装着前の口腔内
    図23 アバットメントと最終補綴物装着前の口腔内。
  • 図24 右下6番 オステルISQアナライザにてインプラント安定性を測定。
    図24 右下6番 オステルISQアナライザにてインプラント安定性を測定。
  • 図25 左下6番 オステルISQアナライザにてインプラント安定性を測定。
    図25 左下6番 オステルISQアナライザにてインプラント安定性を測定。
  • 図26 ジルコニアアバットメント装着
    図26 ジルコニアアバットメント装着。
  • 図26 ジルコニアアバットメント装着
    図27 最終補綴物装着。

■GRF抽出のための遠心分離方法の注意点

興味深い事実として、GRF抽出反応はプラスチックチューブではあまり起きない。ガラスチューブ、あるいはガラスコーティングプラスチックチューブを使わなければならない。なぜならば、シリカが血小板との接触で血餅活性者として作用するからである。
GRF抽出のための遠心分離機は特定機種や製造会社により大きく異なることはないが、既存のcPRP機種でGRFを抽出することは非常に困難である。なぜならば、適切な大きさのガラスチューブ、主に10mL程度のガラスチューブを装着でき、そして、Swing-outRotor type で、RPM表示だけではなく、RCF(x g)とRPMの交換設定が可能な機種が良い。高速で回転するので、騒音、振動、安全性等は必ず考慮されている必要はあるが、それら以外に分離する検体の温度も考慮する。31℃未満にすることが大切である。温度がそれ以上になると、グロースファクターが死滅するおそれがある。遠心分離機に検体を置く場合、バランスをとる必要があるために対称となるチューブ間には必ず同体積の血液、もしくは水を装着する。

■文献考察

抽出されたPRFジェリーの場合、時間が過ぎると少しずつ収縮が起きて周囲へ液体状の滲出液が放出されるのがみられる。PRF内のグロースファクターも徐々に放出される。グロースファクターのライフタイムは約3分間で半減期を迎えるため、SU, C.Y5)らはPRF抽出後に即刻使用することを推奨している。圧迫してPRF膜の形成時に出てくる液体内にも多量のグロースファクターが存在し、チューブ内の上層部無細胞血漿層にも低い濃度のグロースファクターが存在していることを発見した。この液体も回収して骨移植材と混合して使用することも推奨している。
Simonpieri、A6、7)らはPRFの臨床的な評価を通じて、第一に、PRFが骨移植材と共に使用される場合、ある程度骨移植材の安定を維持しながら、骨移植材の間を連結する生物学的連結子または生物学的接合剤として作用するとしている。
第二に、骨移植材間の連結を通じて細胞移動を促進する通路として、すなわち治癒基質として作用すると言った。
第三に、フィブリン基質がゆっくり吸収されると同時に、血小板サイトカインの持続的な放出が起きることにより、組織の治癒とリモデリングを誘導する能力があるとしている。
第四に、白血球のサイトカインも徐々に放出することにより、感染と炎症を自ら調整する能力があるとしている。
これらのことから、自己由来であり免疫反応はおこらず感染のリスクもきわめて低いことがわかる。

■おわりに

私たち歯科臨床医とは、患者のライフサイクルの流れの一つとして健康な口腔、顎機能を維持することが患者の健康に貢献できる。最小限で最大の治療効果を誠心誠意心がけることが患者との信頼関係となる。
その信頼関係の中でインプラント治療が選択された時、GRFやインプラントシミュレーションソフト、サージカルガイド、多種多様な機材・器具・材料を自ら選び、使いこなすことがその基礎となり、さらなる患者さんの信頼を得る一助となることは間違いなく、インプラント治療の信頼獲得にもつながる。
歯科臨床の未来は明るい。

参考文献
  • 1) Ritter et al., Clin. Oral Impl. Res. 2012 Apr ; 23 (4) : 447-52.
  • 2) Timo Dreiseidler, Jo ̈rg Neugebauer, Lutz Ritter, Thea Lingohr,Daniel Rothamel, Robert A. Mischkowski, Joachim E.Zoller Department for Craniomaxillofacial and Plastic Surgery,University of Cologne, Cologne, Germany.
  • 3) Baltayan, Serge ; Mardirosian, Martin ; EI-Ghaareeb,Moustafa; Aghaloo, Tara; Pi-Anfruns, Joan;Moy, Peter AAIDPoster 2011.
  • 4) Daniel Rodrigo, Luis Aracil, Conchita Martin, Mariano Sanzclin. Oral Impl. Res. 21, 2010 ; 255-261.
  • 5) Su, C.Y., et al., In vitro release of growth factors fromplatelet-rich fibrin (PRF) : a proposal to optimize the clinicalapplications of PRF. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol.Endod, 2009. 108 (1) : p.56-61.
  • 6) Simonpieri, A., et al., The relevance of choukroun’s plateletrichfibrin and metronidazole during complex maxillary rehabilitationsusing bone allograft. Part 1:a newgrafting protocol.Implant Dent, 2009. 18(2) : p.102-11.
  • 7) Simonpieri, A., et al., The relevance of choukroun’s plateletrichfibrin and metronidazole during complex maxillary rehabilitationusing bone allograft. Part 2 : implant surgery,prosthodontics, and survival. Implant Dent, 2009. 18(3) : p.220-9.

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