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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Clinical Report
Professional Dentistry とは
奈良県生駒市 木原歯科医院 木原 敏裕

■目 次

■はじめに

社会の中で仕事をしている人はみんなその道のプロである。アマチュアで趣味が高じてやっている、ボランティアで社会のためにやっているということはそこには経済の動きはないが、プロでやっている以上はそこに経済活動が必ず発生する。お金を支払った人が「出して良かった」とならなければその後の継続はないはずである。プロの定義として、私は4つの項目が必要であると考える。
・結果がすべて
・言い訳をしない
・成績に報酬がついてくる
・人に感動を与える
日常的に歯科の仕事をしていてみなさんは本当にプロとしての仕事をしているであろうか?
保険診療、自費診療にかかわらず仕事としてしっかりと結果を出し、その過程に言い訳をせずに、出した結果に報酬がついてきて、最終的に患者も自分もスタッフ達も感動を覚えるような仕事になっていなければ虚しさが残るだけになってしまう。
残念ながら保険診療を数多くやっていると
・結果は関係ない
・保険だから
・成績とは関係ない
・やらなければよかった
というようになってはいないだろうか?
マージンが適合していようがいまいが、これは保険だから、時間をかけてやっても同じ点数だから、結果的にはやらない方がよかったのかな!?などと思いながら仕事をしてはいないだろうか?

■大きく進化した現在の歯科治療

筆者が歯科大学を卒業した30年前はまだインプラントもなく、オールセラミックスもなかった。そのころの歯科治療と言えば、
・噛める歯列をつくる・・・・・補綴
・歯を失わない・・・・・・・・ローリング法
・失ったところは元に戻す・・・義歯
・戻ったところはそれを保つ・・治療終わり
という感じでとにかく補綴治療をするのが歯科治療である。という認識でしかなかったような気がする。
しかし、30年が過ぎ現在では様々な治療オプションや材料が増え、術者側さえしっかりやれば歯科治療で見違えるような状態を作り出すことが可能となった。
現在では、
・噛める歯列をつくる・・・・・矯正
・歯を失わない・・・・・・・・予防
・失ったところは元に戻す・・・インプラント
・戻ったところはそれを保つ・・メインテナンス
であり、歯を削って点数や収入の多くを得る時代はすでに終わっているにもかかわらずまだまだ補綴物を入れないといけない、と思っている歯科医師が多いのではないだろうか。

■保険と自費に対する考え方

「安くできる」ということと「ちゃんとできる」、ということは違う。一番良いのは費用が安く、最良の治療ができる、ということであろう。1950年代に作られた保険制度は国民全員に行き渡る医療制度として最低限の命の保証をしてきたが、“ QOL を上げる”ことを考えた制度ではなかった。しかし、現在、そしてこれからは“長生きをして元気にQOLを保った状態で生活をしていける”ように考えるというコンセプトが必要である。
日本の保険医療制度は世界に類をみないよくできた制度である。しかし、それは“保険で今存在する最高のものを施す”というものではなく“決められた枠の中で最善をつくしましょう”という制度である。
そこを勘違いしないようにしなければ、患者側も“保険で最良のものが得られる”と勘違いしてしまうのも無理のないこととなる。だからこそ術者側であるわれわれ歯科医師が保険でやるべきこととやるべきでないことを整理し、患者にとって何がベストなのか、ということをしっかりと伝えるべきである。

■これからの歯科医療で考えるべきこと

これからの歯科医療で考えるべきことは、
「患者に与えるべき適正な歯科医療とは」
・長期的安定のための歯列の保全
・欠損による崩壊を防ぐための咬合安定
・天然歯の代わりとしての審美性
「適正な歯科医療を行うために必要なこととは」
・歯列保全のための矯正
・欠損に対するインプラント
・補綴物としての審美性
さらに、保険診療で到達できるところとは
・歯列に対して
矯正はできないのでポジションの悪い歯を抜いてブリッジにする

・欠損に対して
ブリッジもしくはパーシャルデンチャーにする

・補綴物に対して
前装冠もしくはパラのクラウンにする


患者は果たしてこれで満足するであろうか?
保険診療でなくても本来は矯正治療が必要なケースにおいて矯正は嫌だから、という理由だけで位置の悪い歯を抜いて隣在歯を削りブリッジを装着しているケースをよく見かける。しかし、歯の永続性と患者の将来を考えれば矯正治療を行って環境の改善をはかるのが最善の方法であると考える。また、通常の欠損に対してもやはり隣在歯を削りブリッジにするか、遊離端欠損の場合ではパーシャルデンチャーしか修復できないということになれば、やはり残存歯に負担をかけてしまう。そして保険で許されている補綴材料はパラジウムか銀合金であることを考えると、結果的には本来持っていた白い歯を長期的に得ることは難しいこととなる。
現在の歯科医療として到達できるところとは
・歯列に対して
矯正治療をして天然歯を保護する

・欠損に対して
インプラントを用いて天然歯を保護する

・補綴物に対して
様々な材料を用いて天然歯を模倣する
→患者が得られるものとは?

現在では矯正治療もかなり認識されてきたし、インプラントという言葉も多くの人が知っている。オールセラミックスを使って補綴物を作成すれば元々もっていた自然に近い歯の状態を得ることもできる。そのような現在の技術でできることを患者にできるだけ説明し「あなたにとって何が最善か」ということをしっかりと理解してもらうことが重要である。
・崩壊をいかに止めるか・・・MI コンセプトベニア、インプラント、コンポジット
・崩壊してしまったものをいかに再建するか
機能回復、フルマウス


これらの結果、何が変わってくるであろうか
「保険制度のもとでは」
・点数が決まっているので時間をかければ収入は減る
・点数のない処置をしても収入はゼロ
・収入にならないのならその処置はやめようと考える
「現在の歯科医療では」
・最終的に良い状態にするためには適切な処置をする
・患者に何が必要かを説明する
・結果を出すことによって報酬が生まれる

保険制度が良い、悪い、という話ではなく、われわれ歯科医師が患者に与えるべきものとは
「現在の歯科医療でできることを与えるべきである」
・携帯電話がなかった時は家庭電話か公衆電話しかなかった
・インプラントやオールセラミックスがなかった時代はどこの歯科医院も大した差はなかった(患者にとって)「歳をとってもちゃんと噛みたい、綺麗でいたい、という患者はそれを与えてくれる医院に行く」
したがって与えるべきものを持っていない医院には患者は来ない(必要性を感じていない患者は来る)
時代は加速度的に移り変わっていく。一般の人達の求めている状況は高齢になっても元気で美味しく食事ができて快適に生活ができる、ということであろう。われわれ歯科医師はそういったことに対して大きな貢献ができるはずであるが、その手前のところで止まってしまってはいないだろうか。1本の歯を治療することはもちろんであるが、その結果得られるものはもっと大きなことがあるはずである。

  • MIコンセプト(ベニア、インプラント、ボンディッドレストレーション)
    20歳女性、2 矮小歯、2 先欠、1切端破折、が認められる。2 にクラウン、2 にインプラント、1 はラミネートベニアにて対応した。最初の治療で最大の効果が得られたと思われる
    20歳女性、2矮小歯、2先欠、1切端破折、が認められる。2にクラウン、2にインプラント、1はラミネートベニアにて対応した。最初の治療で最大の効果が得られたと思われる。
  • 機能回復
    18本の歯が存在するがほとんど噛めない状況である。下顎に6本のインプラントを用い、上顎は総義歯とした。天然歯は1本も存在しないが咀嚼が充分できる状況となった。
    18本の歯が存在するがほとんど噛めない状況である。下顎に6本のインプラントを用い、上顎は総義歯とした。
    天然歯は1本も存在しないが咀嚼が充分できる状況となった。

■これからの歯科医療に必要なもの

現在の、そしてこれからの歯科医療に必要なものとは、以下の3つであると考える。
・矯正
・インプラント
・審美修復
この3つがなければ現在の歯科治療は満足のできる状況にならない。矯正治療により環境の改善をおこない、インプラントにより欠損をしっかりと補い、オールセラミックスにより自然な歯に近い状態を得ることにより将来に渡る歯列の崩壊を未然に防ぐことができるようになる。
ほとんどの日本人の平均寿命がますます延びていくことを考えると高齢になった時にごく普通に食事ができ、それによって健康な体を持っている、ということが本当に重要な意味を持つことになると考える。

  • 矯正
    矯正治療を行うことにより環境の改善が可能となる。
    矯正治療を行うことにより環境の改善が可能となる。
  • インプラント
    先天性欠損9本があり欠損部5本となっている。5本のインプラントを用い隣在歯を削ることなく処置ができた。
    先天性欠損9本があり欠損部5本となっている。5本のインプラントを用い隣在歯を削ることなく処置ができた。
  • 審美修復
    の形態、色に対してラミネートベニアを用い審美性の回復が可能となった。
    の形態、色に対してラミネートベニアを用い審美性の回復が可能となった。
  • 矯正、インプラント、審美修復をおこなうことにより全体のバランスを取ることが重要である。
    矯正、インプラント、審美修復をおこなうことにより全体のバランスを取ることが重要である。

■歯科医師における“本当のプロ”とは?

一般的には、冒頭で示した4つの項目がそろってはじめてプロと言える。日本の歯科医師が本当の意味でプロとして社会に貢献できるようにならなければ将来の道は開けない!
われわれ歯科医師は国民の口腔内の健康を守る義務がある。しかし、現実に来院する患者の口腔内を見ていると、治療が必要な歯のほとんどが以前に治療を受けた部分であることが多い。
保険や自費といった問題ではなく、本当に患者にとって必要なことは何か、ということを考えながら治療を進めていくようになれば治療後にまた再治療が必要になることはそれほどないはずである。

■おわりに

今から3年前、上記のようなことを考えてまとめてみたものが『Professional Dentistry』である。大学卒業直後のドクターが何から学べばいいのか、1本ずつの歯に対してある程度の処置ができるようになれば次は何をすべきなのか、そしてフルマウスの治療を行うようになればどういったことに気をつけなければいけないのか、ということを具体的に示し、最後には歯科治療を通じて患者や我々が得られるものとはどういうことなのか、ということを5巻にわたってまとめてみた。
今までコンポジットやエンド、ペリオ、補綴インプラントなど各々の治療オプションに対する成書は数多くあったが初心者のドクターがステップアップしていくための教科書的なものはなかったように思われる。
この『Professional Dentistry』を通じて多くの歯科医師が患者に対して適切な治療を施せるようになれば幸いである。

  • プロフェッショナルデンティストリー1〜3巻(5巻まで出版予定)
    プロフェッショナルデンティストリー1〜3巻
    (5巻まで出版予定)

デンタルマガジン 148号 SPRING