スマートフォン版サイト

DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Trend
新規セルフアドヒーシブセメント「SA セメント プラス オートミックス」について
クラレノリタケデンタル株式会社マーケティング・営業本部 企画開発部 雛元 愛

■目 次

■はじめに

近年の歯科臨床においては、CAD/CAM技術の進歩や患者の審美的治療への要求の高まりから、金属を使用しない「メタルフリー修復」が普及しつつあり、歯冠修復物の材質としても、セラミックスやレジン系材料が選択されるケースが増えてきている。こうした審美修復において、接着性レジンセメントは欠くことのできない材料であり、「メタルフリー修復」の潮流とともに進化を遂げてきた。中でも、プライマーやボンディング材による歯質への前処理を必要としないセルフアドヒーシブ型のレジンセメントは、多様化する補綴修復材料(例えば、ジルコニア、金属合金など)に対しても、基本的には専用の表面処理材を使用することもなく、チェアタイムの短縮、術者のテクニックによる影響が少ないといった特性を持つことから、臨床に広く浸透してきている1、2)
当社では、リン酸エステル系接着性モノマー「MDP」を導入したレジンセメント「パナビア® EX」を1983年に発売して以来、レジンセメントの開発を続けてきた。そして、2003年には「パナビア® F 2.0」、2007年には「クリアフィル® エステティック セメント キット」を発売した。両製品はセルフエッチングプライマーである「EDプライマーⅡ」を歯面処理に用いて高い歯質接着性を発現するレジンセメントである。
また、セルフアドヒーシブ型のレジンセメントとしては、2008年に「クリアフィル® SA ルーティング」を、2010年にはオートミックスタイプの「クリアフィル® SA セメント オートミックス®」を発売した。両製品は、レジンセメントの優れた理工学的物性を踏襲しながら、スピーディかつ簡便に接着でき、余剰セメントの除去性にも優れることから、操作性を追求した製品として市場に受け入れられてきた。一方で歯科医師の先生方より、さらなる接着性、硬化特性、審美性の向上、室温保管への対応、操作性の改善などが要望として寄せられていた。
これらの要望に可能な限り応えるべく、セルフアドヒーシブセメントの「使いやすさ」と「わかりやすさ」を維持しながら、接着性や硬化性などの基本性能およびその安定性の向上を目指し、「SA セメント プラス オートミックス®」を開発した(図1)。

  • SA セメント プラス オートミックス®
    図1 SA セメント プラス オートミックス®

■『SA セメント プラス オートミックス®』を支える技術とその特長

「SA セメント プラス オートミックス®」は、従来品の「クリアフィル® SA セメント オートミックス®」から、以下の点について改良を図った製品である。

  • ・接着性の向上
  • ・硬化特性の向上
  • ・保存安定性の向上(室温保管:25℃)
  • ・操作性の改善(エンド用ミキシングチップの採用)
  • ・シェードの追加(3色:ユニバーサル、ホワイト、トランスルーセント)

本稿では、これらを達成するために導入した技術を中心に紹介する。

1)接着性および硬化特性の向上
●接着性モノマー「MDP」
「SA セメント プラス オートミックス®」は、従来品と同様にペースト中に当社開発の接着性モノマー「MDP」を配合している(図2)。MDPは、歯質中のハイドロキシアパタイトだけでなく、金属や、ジルコニアなどの金属酸化物系セラミックスにも強固に結合することが知られている3、4)。そのため、プライマー等による前処理がなくとも幅広い被着体に対して高い接着強さを得ることができる。

  • リン酸エステル系モノマー「MDP」の分子構造
    図2 リン酸エステル系モノマー「MDP」の分子構造

●親水性重合促進剤
本品では、従来の重合触媒システムに変えて新しい触媒システムを採用している。その一つである当社独自の親水性の化学重合促進剤は、歯質中に含まれる水分と接触すると、より活性化するという特性を有するため、歯質との接着界面から効率的に重合が開始される。よって接着界面での封鎖性が良好となり、術後刺激の低減に寄与することが期待される(図3)。

  • 親水性重合促進剤のイメージ
    図3 親水性重合促進剤のイメージ

●ラジカル増幅剤
本品は、光重合触媒システムにも改良を加え、新規のラジカル増幅剤が導入されている。これにより光硬化性が向上し、これまで20秒間必要であった光照射時間を10秒に短縮することに成功した(LED照射器を使用した場合)。

●ペーストの親水化
本品では、親水性の高い歯質、特に象牙質に対する親和性の向上を目的に、モノマーの種類および配合量を最適化してペーストの親水化を図った。ペーストの親水性を高くすると歯質接着性が向上することは以前より認識していたが、機械的強度の低下や吸水・溶解量の増加等、硬化後のセメントの物性に課題があったため、これまで採用することはできなかった。一方、本品では、上述の新しい親水性重合促進剤やラジカル増幅剤の導入により硬化性を大幅に向上させているため、硬化後のセメントの物性を高いレベルで維持しながら、ペーストを親水化することに成功した。図4に練和開始からのセメント硬化物の強度の経時変化を示した。新旧の重合触媒システムそれぞれを配合したペーストを練和、硬化させた後、圧縮強度を測定した。新しい重合触媒システムを配合したペーストはより速く強度が向上し、化学硬化性が高いことがうかがえる。
接着性モノマー「MDP」の配合、親水性重合促進剤、ラジカル増幅剤、ペーストの親水化という4つの技術の導入により、本品は優れた歯質接着性能を得ることに成功した。図5に歯質に対するせん断接着強さを示した。本品はエナメル質、象牙質のいずれに対しても優れた接着強さを示し、サーマルサイクル3,000回後においても、37℃水中1日後と同等の高い接着強さを維持していることがわかる。また、本品と象牙質の接着界面のTEM像において、約200nmの樹脂含浸層の形成が観察された(図6)。
さらに、各種補綴修復物に対しても良好な接着強さおよび接着耐久性を示している。特に、ジルコニアに代表される金属酸化物系セラミックスおよび金銀パラジウム合金等の金属に対しては、専用の前処理材を使用せずとも高い接着性を示す。一方、陶材、二ケイ酸リチウム等のガラスセラミックスに対しては、シランカップリング剤が必要であり、シラン処理を施すことにより、優れた接着性を得ることができる(図7)。

  • 点荷重負荷時の圧縮強度の経時変化
    図4 点荷重負荷時の圧縮強度の経時変化
  • 人歯に対するせん断接着強さ(37℃水中1日後およびサーマルサイクル3,000回後)
    図5 人歯に対するせん断接着強さ(37℃水中1日後およびサーマルサイクル3,000回後)
  • 象牙質接着界面のTEM像
    図6 象牙質接着界面のTEM像
  • 各種補綴修復物に対するせん断接着強さ(37℃水中1日後およびサーマルサイクル3,000回後)
    図7 各種補綴修復物に対するせん断接着強さ
    (37℃水中1日後およびサーマルサイクル3,000回後)

2)保存安定性の向上(室温保管)
●安定な化学重合開始剤
「SA セメント プラス オートミックス®」では、新しい触媒システムを採用したことにより、室温(25℃)に保管しても製造直後の高い性能を維持することに成功した。中でも、化学重合開始剤として新規に導入した過酸化物は、従来使用していた過酸化物(BPO:ベンゾイルパーオキサイド)と比べ、熱に対して非常に安定であることがわかっている(図8)。高温条件下に保管し、意図的に劣化させた製品の機械的強度の測定結果を図9に示した。本品は25℃で約3年の保管に相当する劣化をさせた場合においても、製造直後と変わらない優れた機械的強度を示すことがわかる。

  • 溶剤中の熱分解速度(計算値)
    図8 溶剤中の熱分解速度(計算値)
  • 製造直後と25℃3年保管相当劣化品の曲げ強さ
    図9 製造直後と25℃3年保管相当劣化品の曲げ強さ

3)操作性の改善(ペースト性状、余剰セメント除去性)
●微粒子フィラーの表面処理技術の改良
「SA セメント プラス オートミックス®」は、セルフアドヒーシブセメントの特長である「使いやすさ」をさらに追求し、押し出しやすく、かつ、垂れにくいペースト性状を達成した。本品には、無機フィラーとして、マイクロフィラーに加え、より粒子径の小さい微粒子フィラーを配合している。独自の表面処理技術により微粒子フィラーの表面処理状態をコントロールし、フィラー表面の親水/疎水のバランスを整えることでモノマー成分とのなじみを向上させ、機械的強度を維持しながら、押し出しやすくも垂れにくいペースト性状を達成するに至った(図1011)。
図12に示した通り、従来品と比べ、ペーストの押し出しに要する力が半減されたため、エンド用のミキシングチップを使用しての根管内への直接填入も容易に行えるようになった。
さらに、ペーストに力をかけた時のフロー性も改良されているため、軽い力でも合着に適した被膜厚さが得られる(図13)。

●優れた余剰セメントの除去性
本品はデュアルキュア型のセメントであるため、余剰セメントに短時間の光照射(タックキュア)を施して半硬化させることにより、簡単かつスピーディに余剰セメントを除去することができる。タックキュアの時間は、使用する光照射器の光量や照射する距離により影響を受けるが、補綴修復物装着後、わずか2〜5秒の光照射により余剰セメント除去が開始できるため、チェアタイムの大幅な短縮に貢献できるものと考えている。また、光硬化に加えて、化学硬化による余剰セメント除去方法も選択できるため、術者の診療スタイルや症例に応じて処置することが可能である(図14)。
図15には、ジルコニアクラウン合着のステップの一部を示した。上述した微粒子フィラーの表面処理技術を採用したことにより、垂れにくく賦形性の高いペーストとなったため、歯肉縁下などに広がりにくく、一塊で簡単に除去することができる。よって、チェアタイムの効率化だけでなく、余剰セメントの取り残しも少なくなることが期待される。

  • エンド用ミキシングチップを使用した根管内への填入(写真提供:山手通り歯科 森田 誠 先生)
    図10 エンド用ミキシングチップを使用した根管内への填入
    (写真提供:山手通り歯科 森田 誠 先生)
  • 口腔環境下でも垂れにくいペースト性状(写真提供:山手通り歯科 森田 誠 先生)
    図11 口腔環境下でも垂れにくいペースト性状
    (写真提供:山手通り歯科 森田 誠 先生)
  • ペースト押し出しに要する力
    図12 ペースト押し出しに要する力
  • 被膜厚さ(15kg荷重負荷時と1kg荷重負荷時)軽い力(1kg荷重負荷)においても適切な被膜厚さが得られる。
    図13 被膜厚さ(15kg荷重負荷時と1kg荷重負荷時)
    軽い力(1kg荷重負荷)においても適切な被膜厚さが得られる。
  • 余剰セメントの除去方法(光硬化と化学硬化)
    図14 余剰セメントの除去方法(光硬化と化学硬化)
  • タックキュアによる余剰セメント除去のステップ<br />(写真提供:高輪歯科DCC&DSS 加藤 正治 先生)
    図15 タックキュアによる余剰セメント除去のステップ
    (写真提供:高輪歯科DCC&DSS 加藤 正治 先生)

■製品構成

図16に「SA セメント プラス オートミックス®」の製品構成を示した。ダブルシリンジに充填されたペーストの他、付属品として、「ミキシングチップ(合着用)」、「ミキシングチップ(エンド用)」、および「ガイドチップ(エンド用極細)」がある。
「ミキシングチップ(合着用)」は、インレー、アンレーの合着やクラウンの合着等の症例で使用するのに適している。「ミキシングチップ(エンド用)」と「ガイドチップ(エンド用極細)」の組み合わせは、コア、ポストの合着等の症例において、根管内にペーストを直接填入する場合に適している。
ペーストのシェードは、補綴修復物の種類や症例に応じて使い分けできるように3色を設計した。歯質の色に近似し、マージン部分の色調適合が良好で幅広い症例に使用できる「ユニバーサル」、視認性が高く余剰セメントの確認が容易な「ホワイト」、透明性が高く審美的な用途に適した「トランスルーセント」がある。

  • 「SA セメント プラス オートミックス®」の製品構成
    図16 「SA セメント プラス オートミックス®」の製品構成

■まとめ

今回発売した「SA セメント プラス オートミックス®」は、従来品のセルフアドヒーシブセメントの優れた特性を維持しつつも、新規技術として、特に“新しい重合触媒システム”を導入したことで、接着性や硬化特性等の基本性能が向上し、また、その保存安定性が大幅に改善された製品である。
今後、臨床のあらゆる場面で使える接着性レジンセメントとしてお役立ていただければ幸甚である。

参考文献
  • 1) 大河貴久、川添堯彬 ほか, 口腔内での接着操作における金銀パラジウム合金に対するセルフアドヒーシブセメントの接着性能の評価, 53-60, 接着歯学, 28 (2), 2012.
  • 2) 歯科機器・用品年鑑2013年度版, 166-172, アール アンド ディー社, 2013.
  • 3) Yoshida Y, Van Meerbeek B. ほか, Comparative study on adhesive performance of functional monomers., 454-458, J. Dent Res, 83, 2004.
  • 4) Lehmann F, Kern M, Durability of resin bonding to zirconia ceramic using different primers., 479-483, J. Adhes. Dent, 11 (6), 2009.

デンタルマガジン 149号 SUMMER