149号 目次を見る
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2005年の春、東雲キャナルコートCODAN4街区にソウデンタルオフィスを主人(写真中央)とともに開業しました。東京医科歯科大学客員臨床教授で、補綴治療が専門のオールラウンドプレーヤーである主人に支えられ、私は主にマイクロスコープを使用した保存治療を行ってきました。
私の師匠であり、当院の顧問である小林千尋先生(写真右)の勧めに従い、2012年の5月にコーンビームCT装置(CBCT)とデジタルパノラマX線装置の複合機であるベラビューエポックス3Dfを導入してから私の臨床は劇的に変化しました。
開業当初から、マイクロスコープ視野下で根管治療を行ってきましたが、私はコンベンショナルな根管治療に自信を持つことができずにいました。
マイクロスコープを使えば何でも見えるわけではなく、歯根の外形はもちろん、狭窄根管の入り口、湾曲根管の根尖部、イスムスの形態とその陰になっている根尖側の死角等、根の中の一番見たいところはなかなか見えません。折れ込まれたファイルの頭部やパーフォレーション部、破折線、側枝などを目で確認できることもありますが、たとえ見えたとしても、それが本当に感染源なのかを知ることはできません。つまり、感染源が見えにくいことと感染源かどうかわからないことにより、自分の診断に確信を持てないまま、勘と手探りの治療を進めなければならないために、常に不安を拭いきれずにいたのです。
CBCTを撮像するようになってそのことがはっきりしました。CBCT画像はデンタルX線写真ではとらえきれないたくさんの情報を与えてくれます。
根管が閉塞していても歯根の外形から根管の走行を類推することができますし、狭窄根管の根管口の位置もわかります。パーフォレーションを起こす危険を避け、安全にイスムスの除去を試みることも可能です。湾曲根管の根尖部に骨の透過像があれば、その根管が感染源であると診断できます。また逆に、骨欠損の広がり方から側枝あるいは未処置の根管、パーフォレーション、クラックの存在と位置を推測することができます。
このようにCBCTを撮像すれば、マイクロスコープとデンタルX線写真だけでは得ることのできなかった、根管と根周囲組織の3Dの情報が得られるため、より正確な診断が可能となり、治療の予知性と確実性も高まります。
歯は再生しないから、歯科治療に治癒はない。
恩師の中林宣男先生の言葉は強く心に残っていて、感染源のみを除去し、歯質はできるだけ保存して病気の進行を止め、再発を防ぐ治療を私は常に心がけてきました。根管治療においては、感染源が見にくく、どうしても自分の治療に自信を持てずにいました。治療により、感染源を見つけ出して除去し、再発を防ぐために確実な封鎖を目指す。それはCBCTとマイクロスコープがあって、初めて実現可能となりました。そして、治療により、根尖周囲の骨が再生し、患者さんの自己治癒力が働くように歯を整えることができていると実感できたとき、私は今まで以上に自分の仕事に自信と誇りを持てるようになりました。
症例
<症例1>は矯正用インプラントアンカー埋入のために撮像した際にみつかった根尖病変です。
患者さんは前歯部に歯列不正のある女の子です。11歳の時に、右上の6番に大きなカリエスができてしまい、露髄しましたが、水酸化カルシウムを用いて歯髄保存処置を行いました。翌年から矯正を開始しましたが、開始してから2年8ヵ月で、右上6番に痛みがでました。歯髄保存処置後4年が経過しようとしていました。デンタル(図1)では口蓋根の歯根膜腔が拡大しているようにみえました。咬合調整すると痛みが消失したので、経過をみることにしました。その5ヵ月後に、矯正で右上の4番と6番の間にインプラントアンカーをうつ必要がでたためCBCTを撮像しました(図2)。そして画像を見て非常に驚きました。5ヵ月前のデンタルでも矯正の術中に撮影したパントモ(今回は示していない)でもこんなくっきり透過像はみえなかったからです(図2A、B)。残念ながら歯髄保存はうまくいかなかったようです。このケースは根管治療のために撮像していないので、被曝量を抑える目的で管電流は3mAにしました。そのため、画像のシャープさは足りませんが、それでも根管治療にも充分役に立ちました。
矢状断と前頭断で、上顎洞底の骨は一部破壊されていますが(図2A、B)、軽い打診痛があるだけでした。 デンタルで歯根膜腔が拡大していた口蓋根ですが、根尖部に透過像はほとんどありません(図2C)。
近心頰側根の前頭断で観察された根管の分岐(図2B)は水平断を連続的に見ていった方が立体的な根管の走行の把握もできて、もっと分かりやすいのですが、紙媒体ではそれが伝えられず残念です。MB2は根管口が狭窄していたため、探索は困難でしたが、3D画像のおかげで無事に見つけられ、根管形成できました。
感染根管治療後、根管充填の評価のためCBCTを撮像しました(図3)。治療開始後1ヵ月で、根尖病変は縮小し、骨が再生してきていることが確認できました。探索の難しかったMB2も根尖まで緊密にMTAで根管充填されていることがわかりました(図3B)。
根管治療の予後の評価にCBCTを撮像することには色々な意見があるとは思いますが、治療効果をより正確に評価できるので、予知性の高い確実な治療を進めていくためには必要なこともあります。被曝のメリットとデメリットをきちんと説明し、患者さんが同意された場合にのみ、撮像するようにしています。
- <症例1>
図1 上顎右側第一大臼歯のデンタルX線写真。口蓋根に歯根膜腔の拡大が認められた。頰側2根の病変は明らかではない。歯髄保存処置後4年、矯正開始後2年8ヵ月。咬合調整により痛みは消失した。
図2A 矯正用インプラントアンカー埋入のため撮像した(管電流3mA)。軽度の打診痛以外の症状はなかった。矢状断(頰側根):頰側2根に病変が認められる。根尖病変により上顎洞底の骨が破壊されている。
図2B 同・前頭断(近心頰側根):根は根尖部で2根管に分岐している。
図2C 同・矢状断(口蓋根):歯根膜腔の拡大が認められる。
図3A 感染根管治療術後の画像(管電流8mA)。根治開始後1ヵ月。根尖病変は縮小し、骨が再生してきている。すべての根は根尖まで緊密にMTAで充填されている。矢状断(頰側根)。
図3B 同・前頭断(近心頰側根)。
図3C 同・矢状断(口蓋根)。
<症例2>は治療時に折れ込んでしまったファイルの除去を依頼された症例です。
左下7番の近心根にUファイルを折れ込んでしまったそうです。患者さんは30歳の女性で、自発痛で苦しんでいました。デンタルでは破折ファイルが2本重なっているように見えます(図4)。
歯は近心に傾斜し、歯根は遠心に湾曲しているので、マイクロスコープ下でもファイル頭部が見えなかったため、CBCTを撮像し、ファイルの位置の確認と近心根管壁の削除部位と削除量を確認しました(図5)。
軽度の嘔吐反射があり、恐怖心の非常に強い患者さんだったので、治療時の患者さんの頭の位置やミラーを置く位置などを試行錯誤しつつ、医院の雰囲気に慣れるまでかなりの時間を要し、3回目の治療でついに1本目を除去することに成功しました。近心根のエンド三角が除去され、根管がストレート化されたので、ファイルをマイクロエキスカでひきだすことができました(図6)。
2本目のファイルは今回折れ込んだのではなく、さらに前の治療時に折れ込まれていたもののようで、ファイルの周囲にはガッターパーチャや感染歯質や肉芽組織が残っていました。それらをマイクロエキスカで丹念に掻き出しては超音波吸引し、感染源を徹底的に除去することにより、動くようになったファイルをマイクロエキスカで引き上げることに成功しました(図7)。
患者さんはすっかり痛みがなくなり、顎も軽くなったようだと大変喜ばれ、満面の笑みをいただくことができました。
- <症例2>
図4 治療時に近心根に折れ込んでしまったファイルの除去を依頼された。下顎左下第二大臼歯の術前デンタルX線写真。近心根根尖部にファイルが2本重なってみえる。自発痛が続いていた。
図5A 歯の近心傾斜と根の湾曲により、マイクロスコープ下でもファイルの頭部が見えなかったため、撮像した。根管壁への穿孔を避け、必要最小限の切削を行うために有効。単根の近心根根尖部にあるファイルの位置も3次元的に確認できた。矢状断。
図5B 同・前頭断。
図6 かなりの時間を要し、1本目のファイルを除去した。除去後のデンタルX線写真。エンド三角が切削され、近心根管はストレート化されている。
図7 根尖部の感染歯質をマイクロエキスカで丹念に掻き出しては超音波吸引洗浄し、感染源を徹底的に除去するとともに、2本目のファイルも除去した。痛みは完全に消失した。
<症例3>の患者さんは他院で左上7番を抜髄されてから2年間自発痛に苦しまれていた38歳の女性で、左上の歯の自発痛に加え、左下顎は常にしびれた感じ、右上は咬合時の歯痛を訴えておられました。私の手におえるのか不安はありましたが、パントモとデンタルを撮影し、左上7番の根尖部に明らかな透過像があったので(図8)、まず、左上7番の再治療を行うことにしました。ガッターパーチャを除去してからCBCTを撮像しました(図9)。画像から、上顎洞底の骨は消失し、粘膜は肥厚していて、上顎洞炎を起こしていることがわかりました(図9A、C)。水平断の画像からは未処置の遠心根の存在が確認でき、頰側2根は根尖部で癒合していることもわかりました。症例1と同様、水平断を連続的に見ていった方が立体的な根管の走行も把握でき、もっと分かりやすいのですが、今回はややわかりにくい矢状断しかお見せできなくて残念です(図9C)。画像により、この痛みの原因は未処置の遠心根にあると考えられました。また、術中に口蓋根根尖からガッターパーチャを押し出してしまったことがわかったので(図9A、C)、その除去も行うこととしました。
容易に見つけられた遠心根は、根管形成の後、根尖部で近心根と癒合していることを確認しました。癒合部根尖側の目で見えない部分に潜む感染源はマイクロエキスカで丁寧に掻き出した後、遠心根に洗浄液を流して近心根から超音波吸引し、近遠心を反対にして再吸引することを繰り返し、徹底的に除去しました。口蓋根根尖外に押し出されたガッターパーチャをマイクロエキスカで取り出した後、MTAで根管充填しCBCTを撮像しました。再治療開始後5ヵ月が経過していました。
前頭断と矢状断で口蓋根管も遠心根管も根尖まで緊密に充填されていることが確認できました。粘膜の肥厚は消失し、骨も再生しつつあり(図10A、B)、患者さんは目の奥の痛みも頭痛もとれてきたと大変喜んでくださいました。
- <症例3>
図8 抜髄後2年以上自発痛の続く上顎左側第二大臼歯のデンタルX線写真。2根管に根管充填が認められ、根尖部には透過像が確認できる。
図9A 術中の画像。根管内に認められるのはCa(OH)2。前頭断。口蓋根根尖部にガッターパーチャが確認できる(→)。上顎洞底の骨は消失し、粘膜の肥厚が見られる。
図9B 同・水平断。未処置の遠心根の存在が確認できる(→)。
図9C 同・矢状断。遠心頰側根は根尖部で近心頰側根(Ca(OH)2で白く見える)と癒合している。根尖外にガッターパーチャが確認できる(→)。
図10A 根管充填後の画像。前頭断。左が口蓋根管、右が遠心根管。再治療開始後5ヵ月。根尖部に押し出されたガッターパーチャをマイクロエキスカで取り出した後、MTAで根管充填した。粘膜の肥厚は消失し、骨も再生しつつある。
図10B 同・矢状断。癒合部の先にもMTAが緊密に充填されている。左が近心根管、右が遠心根管。
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