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Clinical Report

特集 CBCTの有効性 3次元CT画像に強くなろう

デンタルスキャン院長 九州大学 名誉教授 神田 重信

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目 次

はじめに…2次元画像の限界

口内法X線写真(以下デンタルと略す)やパノラマX線写真などの従来型の2次元画像は、歯・顎骨の頰側や舌側に限局した小さな病変を映し出すことはできない(図12)。したがって、これらの画像では診断の限界が多い。
一方、一般CTや歯科用コーンビームCT(以下CBCTと略す)などの3次元画像では、体軸に対して横断面・矢状断面・冠状断面および立体像(Volume RenderingImage)が基本画像として表示されるので一挙に診断範囲が広がる(図35)。とくに、CBCTでは空間分解能にも優れ、あらゆる断面を自由に表示できる自由断面を表示でき、他にも歯科診断に特化した優れた機能を持っている。
本文ではCBCTが有している特徴を明らかにし、その自由断面像を駆使して診断に活用するために必要な事前準備(画像処理)を説明し、歯科疾患の症例画像を提示しながら解説したい。
本文で提示する画像の検査は、3DX multi imagemicro CT(モリタ社)を用い、撮影はFOVを4cmまたは6cmにより180度回転で行った。照射条件は80kV、5〜10mAとした。画像再構成ソフトはi-VIEW 2.1.2.7である。

  • 図1 口内法X線写真では一般的な根尖病巣として見られる。
    図1 口内法X線写真では一般的な根尖病巣として見られる。
  • 図2 同部位のCBCT矢状断像。舌側骨が大きく消失している。
    図2 同部位のCBCT矢状断像。舌側骨が大きく消失している。
  • 図3 CBCT撮影後に最初にPC画面に表示される基本像の中の横断像。
    図3 CBCT撮影後に最初にPC画面に表示される基本像の中の横断像。
  • 図4 同じく冠状断像。
    図4 同じく冠状断像。
  • 図5 同じく矢状断像。
    図5 同じく矢状断像。

3次元画像(CBCT)の特徴

歯科用として開発されたCBCTには、一般CTと異なる特徴や利点があり、その主なものは次にあげられる。
1)照射野の可変
撮影範囲を目的や対象により変化させることができる。機種により異なる設定がなされているが、一般的には直径4cm×4cm から8cm×8cmの間で2〜3段の選択ができる。照射範囲によって患者の被曝線量(実効線量)が大きく変化するので、極力小さな照射範囲を使うことが重要である。
2)自由断面
撮影された照射範囲の被写体(目的部位)は、円筒状のvolume dataとして仮想的にコンピュータ内に構築されるので、この円筒内において如何様にも思い通りの断面を表示できる。また断面を移動させたり回転させることができるので、細やかな断面移動により微細構造や病変を表示させ読影に活用できる。
3)断面の厚み
CBCTの断面厚は一般に1mmに設定されていることが多いが(初期設定)、基本的には自由に変化させることができる。最も薄い断面厚はその機種が有しているvoxel のサイズ(約0.1mm)になり、それ以上の厚みなら何mmにでも可変可能である。したがって、根管や薄い歯槽骨をうまく描出させるには、約0.5mm前後の薄い断面にして観察するのが必要である(図69)。
4)被曝線量
CBCTの撮影による被曝線量は実効線量でパノラマX線撮影のおよそ等倍から数倍になる。照射野を最小の4cmに限定することにより、かなりパノラマX線撮影の被曝線量に近付く。

CBCT画像を読む準備…画像処理

CBCTでは一般に撮影直後にPC画面に最初に現れる画像は、暗くコントラストが低い見にくい画質で表示されていることが多い。したがって、診断目的に合わせて最も明瞭で観察し易い画像に処理変換することは必須であり、この操作なしに画像を読影するわけにはいかない。
その手順を順次説明したい。
1)画面の明るさの調整
まず撮影後に表示された画像が暗く軟調な場合は、もっとも見やすい明るさに調整する。この操作は機種によって異なるが、一般的には画面内のヒストグラムを使って操作する(図1012)。
2)コントラストの調整
次にヒストグラムの斜線の傾きを変えながらコントラストの調整を行う。
明るさとコントラストの調整はそれぞれ一発でベストの画質には表示できないことが多いので、お互いに微調整を数回繰り返しながら最良の画質へ持っていく(図1314)。
3)断面移動
次に、観察部位を表示させるために、断面位置を表す縦横の直線を移動させながら、観察部位に合わせる。
縦横の直線だけではベストな観察部位の画像が得られないことが多いので、横断像をドラッグして回転させ、断面の微調整を行う。さらに冠状断像や矢状断像の画像を回転する必要があるかもしれない。
4)断面厚みの調整
一般に多くの機種において表示された画像は1mmの断面厚に初期設定されているが、インプラント術前検査や多くの被写体ではその厚みが適していると言える。
しかし、歯根(根管)や薄い歯槽骨の観察では、断面厚をさらに薄くして、約0.5mm前後の厚みで観察する(図6〜9)。

  • 図6 断面厚を0.125mmで表示したが、ノイズが非常に多い。
    図6 断面厚を0.125mmで表示したが、ノイズが非常に多い。
  • 図7 断面厚を0.5mmで表示した。根管の観察に向いている。
    図7 断面厚を0.5mmで表示した。根管の観察に向いている。
  • 図8 断面厚を1.0mmで表示したもので、一般的な顎骨の観察に向いている。
    図8 断面厚を1.0mmで表示したもので、一般的な顎骨の観察に向いている。
  • 図9 断面厚を2.0mmで表示し、無歯顎の顎骨の観察に向いている。
    図9 断面厚を2.0mmで表示し、無歯顎の顎骨の観察に向いている。
  • 図10 適切な明るさとコントラストに調整された横断像。
    図10 適切な明るさとコントラストに調整された横断像。
  • 図11 暗すぎる画像で読影には向かない。
    図11 暗すぎる画像で読影には向かない。
  • 図12 明るすぎて白トビが生じ、所見が欠落しやすい。
    図12 明るすぎて白トビが生じ、所見が欠落しやすい。
  • 図13 コントラストが低く、一般的な読影には向かないが、診断部位によってはこのような低コントラストが所見を読むのに適する場合がある。
    図13 コントラストが低く、一般的な読影には向かないが、診断部位によってはこのような低コントラストが所見を読むのに適する場合がある。
  • 図14 コントラストが強すぎて白トビやバーンアウトが生じ、所見が欠落しやすい。
    図14 コントラストが強すぎて白トビやバーンアウトが生じ、所見が欠落しやすい。

歯や顎骨の読影

1)歯(歯根)および周囲歯槽骨の読影
CBCTを使っても歯根や周囲歯槽骨の構造を鮮明に描出するのはたやすいことではない。困難な理由は、機種によっては空間分解能が低く本質的に細かな構造を描出できないものがかなりある。
また、患者の口腔内には金属補綴物、根充材、インプラント体などが埋入されている症例が多く、それらによるアーチファクトやノイズなどで画像が障害されて見にくくなる場合が多い。
例えば、口腔内に全く金属などの高原子番号材料が存在しない子供や若者のCBCT画像では、アーチファクトやノイズなどの障害がなく、極めて鮮明な画質を持ったベストな画像が描出される。
歯根を観察するには断面厚を0.5mmの薄さにし、横断像上で画像を回転させる中心点(2直線の交点)を根管の中心に置き、ゆっくりと回転させることにより、他の2直交画像が漸次変換していくので、歯根の全断面像を観察することができる。あるいは断面を示す直線をゆっくりと移動させながら断面位置を漸時変換させながら観察して行く。
歯根周囲の歯根膜腔や薄い唇側骨・頰側骨を観察する場合も上述の方法でゆっくりと断面位置や断面方向を変化させながら観察する。
根尖病巣の描出はさして困難なことではないが、歯根膜の拡大や根側病巣の観察にはきめ細やかな断面移動による観察が必須となる。
また、薄い唇側骨・頰側骨の消失有無については、その描出作業は最も難しいものとなるが、この場合は歯に対して横方向からの観察だけでなく、横断面を上下に移動させながら横断像における頰側骨の消失か単に菲薄なのかを読んでいく(図1517)。
2)インプラントのための顎骨の読影
インプラントのための術前検査として、歯牙欠損部の顎骨を観察するために一般CTやCBCTを使うことが常識化してきた。 その主な目的は距離測定にあったと思われる。X線写真では顎堤頂〜下顎管距離や顎堤頂〜上顎洞底距離などの測定が正確にできないからである。
しかしCBCTを使うことにより、どんな方向でも自由に距離測定が可能であり、しかも測定精度も高いので、一般CT画像を利用するよりも格段に優れている。
また、優れた性能を有するCBCT機種では、単なる距離測定だけに終わらず、インプラント埋入母地として顎骨の形態・性状を把握し、埋入の可否や予後などを判断する情報を有している。
顎骨の形態や性状まで鮮明に描出できるので、前項に述べた歯内療法を目的とする歯・顎骨のCBCT検査では、撮影法や画像処理まで重要な因子であったが、インプラント目的の顎骨検査では、特別に配慮すべき検査法はない。
①加齢化や骨粗鬆症化
顎骨では歯が抜去されると顎堤の吸収が始まり、一定の傾向で経過とともに顎堤形態が縮小変化していく。これらの変化を3方向断面像で把握することにより、インプラント埋入の可否や、埋入する場合のフィクスチャーの選定、埋入方向などの決定を行う重要な情報になる。
また、抜去後の顎骨は、高齢者では加齢化により骨梁構造が乱れ、細片化していく。さらに多くの女性では骨粗鬆症が始まっており、この変化が加わり、皮質骨は薄くなり、骨梁構造はさらに小さく細片化し、遂には砂状のパターンを呈する。この段階ではインプラントのosteointegrationは困難であり、仮に生着しても長くは維持できない(図1819)。
②抜歯後治癒における骨脆弱化
歯が抜去されると抜歯窩には骨壁から石灰化が始まる。CBCTでは1〜2ヵ月後にキャッチできる。
その後抜歯窩全体が石灰化で埋まり、化骨治癒に転じていく。1年後には抜歯窩の形態は残したまま化骨治癒が最終段階に達し、天井部も皮質骨が形成されている。しかし、このような正常な治癒機転が働かず、不十分な石灰化の状態のままで化骨化しない抜歯窩が時々見られる。この脆弱な石灰化の領域にインプラントを埋入しても容易に脱落となる。
このような不完全な石灰化や未化骨状態をCBCTは明瞭に画像表示ができるので、抜歯後のインプラント埋入には注意を払わなければならない(図2021)。
③亢進した骨硬化症
根尖病巣などの感染病巣を有する歯の周囲骨や、その歯の抜歯後の顎骨にはしばしば反応性骨硬化症が見られる。
多くの骨硬化症ではインプラント植立に問題は生じないが、高度な硬化症や極めて限局した特発性骨硬化症においては、その硬化骨内は血液循環が乏しく骨を造成する能力に欠ける。
このような場所ではインプラント体へのosteointegrationは失敗に終わり脱落していく(図2224)。
①②で述べた骨梁構造が消失していく骨脆弱症よりも、骨硬化症は診断も容易なので見逃すことがあってはならない。

  • 図15 薄い頰側骨(唇側骨)の観察において、根尖レベルにおける横断像では頰側骨はしっかり残っている。
    図15 薄い頰側骨(唇側骨)の観察において、根尖レベルにおける横断像では頰側骨はしっかり残っている。
  • 図16 根尖より上方では頰側骨が消失している。
    図16 根尖より上方では頰側骨が消失している。
  • 図17 歯頸部近くの横断像では、歯根が頰側骨から露出している。
    図17 歯頸部近くの横断像では、歯根が頰側骨から露出している。
  • 図18 66歳女性。顎骨全体の骨粗鬆症変化。皮質は非常に薄くなり、骨梁構造は細片化・断片化し、さらに粗になっている。インプラントの生着は困難。
    図18 66歳女性。顎骨全体の骨粗鬆症変化。皮質は非常に薄くなり、骨梁構造は細片化・断片化し、さらに粗になっている。インプラントの生着は困難。
  • 図19 図18症例の歯列直交断像。
    図19 図18症例の歯列直交断像。
  • 図20 40歳女性。抜去後約1年経過。抜歯窩の天井は薄い皮質骨が形成されているが、抜歯窩内は弱い石灰化で脆弱な構造。生着は期待できない。
    図20 40歳女性。抜去後約1年経過。抜歯窩の天井は薄い皮質骨が形成されているが、抜歯窩内は弱い石灰化で脆弱な構造。生着は期待できない。
  • 図21 図20の歯列直交断像。
    図21 図20の歯列直交断像。
  • 図22 インプラントを植立したが数か 図23 図22の歯列直交断像。月後に脱落した。脱落部の周囲は広範囲にわたり強い骨硬化症を呈しており、osteointegrationは期待できない。
    図22 インプラントを植立したが数か 図23 図22の歯列直交断像。月後に脱落した。脱落部の周囲は広範囲にわたり強い骨硬化症を呈しており、osteointegrationは期待できない。
  • 図23 図22の歯列直交断像。
    図23 図22の歯列直交断像。
  • 図24 28歳男性。#25欠損部に特発性硬化症。極めて強い硬化を呈しており、この域内ではosteointegrationは期待できない。
    図24 28歳男性。#25欠損部に特発性硬化症。極めて強い硬化を呈しており、この域内ではosteointegrationは期待できない。

おわりに

CBCT画像を歯・顎骨の疾患、とくに歯内療法のための読影・診断に応用するには、CBCTが持つ性能を最大限に発揮させる工夫が必要である。撮影条件の工夫から始まり、PCで再構成された断面画像を適切に画像処理することにある。
一方、インプラント術前検査としてCBCTを活用するには、目的部位の骨解剖を熟知することと、骨の生理学的変化と画像変化の関連を把握して診断することにある。

参考文献
  • 1) 神田重信、新井嘉則編:歯科用コーンビームCT徹底活用ガイド、クインテッセンス社、東京、2008.
  • 2)吉岡隆知、神田重信:歯内療法におけるCBCTの活用。DentalMagazine 140 :1-4, 2010.

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