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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

CLINICAL REPORT
オステルISQ アナライザを用いたインプラント安定度の評価
九州大学病院再生歯科・インプラントセンター 佐々木匡理

■目 次

■はじめに

インプラント治療を行っている多くの歯科医師は、埋入時の初期固定の状態に応じて、外科的術式の選択(1回法 or 2回法)、即時荷重も含めた荷重時期の決定、治癒期間の予測などを経験的な判断に頼っていることが多い。実際には、インプラント埋入部位の既存骨の状態(骨質や骨量、骨造成の既往の有無など)、全身疾患や喫煙の有無など、個人差も強く関係しているため、さらに判断に苦慮する症例も多くみられる。また、治療経過中にインプラントの不具合が生じた場合には、インプラント自体に問題があるのか、それとも骨などの周囲組織に問題があるかなど、インプラント周囲で生じている事象を正確に把握できないと問題がさらに悪化し、さらなる偶発症を招いてしまい、最悪インプラント除去に至る症例も少なくない。
これらの疑問を解決してインプラント治療を成功に導くためには、インプラントと周囲骨との状態を正確に表すインプラント安定性(implant stability)を評価することが大事であり、対象となるインプラントの現状の把握や今後の治療計画を立案するためには重要なカギとなる。
そこで、インプラント安定性を簡便に評価できる「オステルISQ アナライザ®」(図1)について、その有用性を実際の臨床例とともに報告する。

  • オステルISQ アナライザ®
    図1 オステルISQ アナライザ®

■インプラント安定性とは?

インプラント安定性には、機械的安定性と生物学的安定性の2つがあり、前者はインプラント埋入時に圧縮された周囲骨とインプラントが機械的に嵌合して獲得される安定性、後者はインプラント周囲骨のリモデリングが生じ、インプラント周囲に新生骨を形成することで獲得される安定性(オッセオインテグレーション)のことである。インプラント安定性は図2に示すように、初期の機械的安定性はオッセオインテグレーションの獲得(生物学的安定性)によって補充あるいは置換され、2つの和で示されるインプラントの総安定性は経時的に向上する。つまり、インプラント治療の成功を評価する場合、オッセオインテグレーションの獲得の有無が極めて重要である。

  • インプラント安定性の経時的変化
    図2 インプラント安定性の経時的変化

■インプラント安定性の評価方法

インプラント安定性の評価方法としては、X 線画像所見、除去トルク値、打診テスト、共振周波数解析などが挙げられる。
X 線画像所見による評価では、オッセオインテグレーションを獲得していなくても、骨吸収を来すような感染を生じていない限り肉眼的な透過像はみられない。除去トルク値による評価は、インプラントに対して侵襲性があり、実際の臨床では用いることは難しい。また、打診テスト(歯牙動揺測定器)による評価は、インプラント体の直径、アバットメントの長さに左右されやすく、槌打位置やハンドピースの角度によって再現性に影響を受けやすい。
これらのことより、理想的な評価方法の用件としては、簡便かつ再現性があって非侵襲であること、インプラント埋入時だけでなく荷重の前後にも評価できること、アバットメントの長さに影響されないこと、異なるインプラント間で比較できることが挙げられる。特に、現在数多くのインプラントが国内で使用されており、どのインプラントでもオッセオインテグレーションの状態(インプラント安定性)を同じ指標で評価できることは極めて重要である。これらの用件をすべて満たしている評価方法は、共振周波数解析(resonance frequency analysis : RFA)のみである。

■共振周波数解析とインプラント安定指数

RFAは音叉の原理を使用し、骨とインプラントの結合が強固であれば、得られる周波数(kHz)も高くなる。
オステルISQ アナライザ®は、操作が非常に簡便であり、各種インプラントメーカーに合わせたスマートペグをインプラントに装着(4~6 Ncm)し、磁気パルスによって振動させて、スマートペグの共鳴振動周波数を測定する(図3)。得られた周波数は特殊な計算式を用いて、インプラント安定指(implant stability quotient : ISQ値)に換算し、1~100 までの数値で示される。

  • オステルISQ アナライザ®によるISQ値の測定手順
    図3 オステルISQ アナライザ®によるISQ値の測定手順

■ISQ値とインプラント安定性

これまでISQ値に関する報告は650報(現在も増加中)を超えており、それらから得られた科学的根拠に基づいて、図4に示すようにインプラント安定性の状態と補綴・埋入・修復の各プロトコルを位置付けている。
ISQ値60未満を低い安定性、60~70を中等度の安定性、70以上を高い安定性とし、補綴処置、埋入処置、修復処置の各プロトコルにおいて、それぞれ対応を調整している。
実際には、初期ISQ値が非常に高い場合でも、時間とともにISQ値は少し減少して通常レベルになってくる。しかしながら、ISQ値の大きな減少や継続的な減少は、インプラントが発する警告サインと考えるべきである(図5)。また、初期ISQ値が低い場合では、治癒期間とともに高くなることが予想されるが、低くなる場合はインプラント失敗のサインと捉え、対応を考えていく必要がある。
通常、インプラント安定性はすべての方向(例えば、頰舌方向、近遠心方向)で理論的には同じであると考えられるが、実際にはインプラント周囲のいろいろな骨形態(支持骨の厚さなど)により、測定方向でISQ値が異なることがある(図6)。そのため、可能なかぎり、4方向(近心、遠心、頰側、舌側)からの測定が推奨される。

  • ISQ値とインプラント安定性・各種プロトコルの関係
    図4 ISQ値とインプラント安定性・各種プロトコルの関係
  • ISQ値の減少=早期警告のサイン
    図5 ISQ値の減少=早期警告のサイン
  • 測定方向によるISQ値のちがい
    図6 測定方向によるISQ値のちがい

■ISQ値はいつ測定するか?

ISQ値の測定は埋入時、荷重/最終補綴物装着時は最低でも行う必要がある。埋入時の測定では、初期の機械的安定性の評価、各インプラントにおけるISQ値の基準化、1回法or 2回法の外科プロトコルの選択、荷重方法および時期などの補綴プロトコルの選択に重要であり、荷重/最終補綴物装着時の測定ではオッセオインテグレーションの程度判定、埋入時ISQ値との比較、荷重時期の決定、補綴形態の修正の補助、治療期間延長の判断に重要である。
メンテナンス中も定期的にISQ値を測定し、また患者がインプラント周囲の不具合を訴えた場合にもISQ値を測定して評価することで、偶発症の発生を未然に防いだり、最小限にくい止めることが可能かもしれない。

■症例供覧

実際の臨床経過中にISQ値の測定、評価が有用であった3症例を供覧する。
各症例におけるISQ値は、3~4方向で測定した数値を平均化して表記している。

①症例1(図7図11
76 部歯槽骨過剰吸収のため、上顎洞底挙上術(ハイドロキシアパタイト: HA + β-リン酸三カルシウム: β-TCP)とインプラント埋入術を同時に施行した。インプラント埋入時、埋入トルク値は6 40 Ncm、7 45 Ncm、ISQ値は6 68.5、7 75.5であった。二次手術時のISQ値は6 79.0、7 63.0であり、7 ISQは減少がみられるものの、60以上の中等度安定性が得られていたため、プロビジョナルレストレーションによる咬合を開始した。3~4ヵ月後の再測定では、6 80.0、7 80.0であり、最終補綴物を装着した。以後、定期的なメンテナンスを行い、術後6年経過時も特に問題はみられず、ISQ値も6 82.5、7 83.5と高い安定性を維持し、経過良好である。

  • インプラント埋入+上顎洞底挙上術の術中写真とX線写真
    図7 インプラント埋入+上顎洞底挙上術の術中写真とX線写真
  • 二次手術時の口腔内写真
    図8 二次手術時の口腔内写真
  • 最終補綴装着時の口腔内およびX線写真
    図9 最終補綴装着時の口腔内およびX線写真
  • 現在のX線写真(最終補綴装着後6年)
    図10 現在のX線写真(最終補綴装着後6年)
  • ISQ値の経時的変化(症例1)
    図11 ISQ値の経時的変化(症例1)

②症例2(図12図16
76 部歯槽骨過剰吸収のため、上顎洞底挙上術(HA+β-TCP)と765 インプラント埋入術を同時に施行した。インプラント埋入時、埋入トルク値は6 15 Ncm、7 <10 Ncmと低値であったため、ISQ値は測定できなかった。二次手術時のISQ値は6 59.0、7 49.0であり、76 プロビジョナルレストレーションを装着したが、7 のISQ値が著明に低値を示していたため、咬合を付与しなかった。3ヵ月後、ISQ値再測定を行ったところ、6 71.5、7 59.0であったため、7にも咬合を付与した。上部構造装着15ヵ月後のISQ値は6 81.75、7 75.0であり、現在まで特に問題なく経過良好である。

  • インプラント埋入+上顎洞底挙上術の術中写真(ミラー像)とX線写真
    図12 インプラント埋入+上顎洞底挙上術の術中写真(ミラー像)とX線写真
  • 二次手術時の口腔内写真(ミラー像)
    図13 二次手術時の口腔内写真(ミラー像)
  • プロビジョナルレストレーション装着時の口腔内写真( 6 のみ咬合付与)
    図14 プロビジョナルレストレーション装着時の口腔内写真( 6 のみ咬合付与)
  • 最終補綴装着時の口腔内およびX線写真
    図15 最終補綴装着時の口腔内およびX線写真
  • ISQ値の経時的変化(症例2)
    図16 ISQ値の経時的変化(症例2)

③症例3(図17図21
654 欠損部位にインプラント埋入を施行した。術中の埋入トルク値は4 30Ncm、5 20 Ncm、6 35 Ncmで初期固定が得られたため、埋入時ISQ値は測定しなかった。経過良好なため、術後3ヵ月で二次手術を行ったところ、ISQ値は4 80.0、5 79.5、6 69.0であり、プロビジョナルレストレーションによる咬合を開始した。同装着時に軽度の違和感を認め、経過中に6 咬合面の破折を認めた。プロビジョナルレストレーション装着10ヵ月後に6 部自発痛を認めたため、同部デンタルX線写真を撮影したところ、明らかな骨吸収などの異常所見はみられなかった。プロビジョナルレストレーションを外してISQ値を測定したところ、4 79.0、5 80.5、6 58.0と6 ISQ値の著明な減少を認めたため、ヒーリングアバットメントに交換して経過観察を行った。1ヵ月後のISQ値の再測定では47.0と減少し、さらに1ヵ月後の測定では測定不可であり、ペグとともにインプラントの脱落を認めた。

  • インプラント埋入術直後のX線写真
    図17 インプラント埋入術直後のX線写真
  • 二次手術時の口腔内写真(ミラー像)
    図18 二次手術時の口腔内写真(ミラー像)
  • 6 違和感出現時の口腔内およびX線写真
    図19 6 違和感出現時の口腔内およびX線写真
  • 6 インプラント脱落時のインプラント体および口腔内写真
    図20 6 インプラント脱落時のインプラント体および口腔内写真
  • ISQ値の経時的変化(症例3)
    図21 ISQ値の経時的変化(症例3)

■まとめ

日々のインプラント治療において、オステルISQ アナライザ®を用いて得られるISQ値は、①インプラント安定性の可視化、②外科的プロトコルの決定、③荷重時期の決定、④治癒期間の予測・短縮、⑤早期警告のチェックなど、いろいろな重要情報を与えてくれる。インプラント安定性を可視化することは、歯科医師がインプラントの状態を把握できるだけでなく、患者自身も自分のインプラント治療の状態を理解可能となり、良好なコミュニケーションサポートとラポールの確立に一助となる。
また、インプラント埋入時の外科的プロトコルや荷重方法の選択を可能にすることで、治療期間の予測や短縮につながりインプラント安定性を考慮した最終補綴形態も選択可能にする。さらに、メンテナンスへ移行後も定期的にISQ値を計測すること、あるいは不具合を訴えた時にISQ値を計測することで、インプラントの発する早期警告を察知し、インプラントに生じるいろいろな偶発症を未然に防ぐことやダメージを最小限に抑えることも可能である。

参考文献
  • 1) The Implant Stability Quotient Whitebook:The relationship between reliable diagnostics and safe, successful dental implant procedures. 1st edition. Osstell AB (www.isqforum.com)
  • 2) 宮本洋二 .歯科インプラントの安定性評価のための共鳴振動周波数分析装置「オステル®」について.日本歯科評論 63 (11) : 119-124, 2003.
  • 3) 船木 弘 .ISQ値をどう臨床に生かすか~オステルを活用したオッセオインテグレーション獲得評価の試み歯界展望121(6):1064-1078, 2013.

デンタルマガジン 151号 WINTER