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CLINICAL REPORT

新しいう蝕除去用バー 切れ味がよく、錆びないステンレスバー

東京医科歯科大学大学院う蝕制御学分野准教授 大槻昌幸

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■目 次

■はじめに

Minimal Intervention(MI)に基づいたコンポジットレジンを用いた接着修復は、う蝕治療の主流となっている1)。歯質接着材とコンポジットレジンの改良によって、より広範な症例で、最小限の歯質の削除で、審美的なコンポジットレジン修復が可能となってきている。
最近、スチールバーに代わる切れ味がよく、錆びない球形ステンレススチール製のバー(ステンレスバーハード:マニー)が発売された。
ここでは、う蝕の除去の基礎とステンレスバーの特長について紹介する。

■う蝕の診断

MIに基づいたう蝕治療においても正確な診断が要求される。すなわち、う蝕の有無、修復治療が必要かどうかを診断しなければならず、また、う蝕除去の際には、必要十分なう蝕除去が行われたか判断しなければならない。
う蝕の診察・検査としては、視診、触診、エックス線検査などが行われている。
視診は基本的な診察手技であるが、診療用ルーペ(図1)や手術用顕微鏡(図2)、口腔内カメラ(図3)等で拡大して観察することでより精度の高い治療が可能となった。
特に、口腔内カメラでは、青紫光の照明とフィルターによって、う蝕が疑われる部位を色で判別することができる(図4)。また、レーザー蛍光法を用いた診断器(図5)も有用である。
修復治療の可否を決定するために、う蝕の深さ・大きさを知る必要がある。それには、エックス線検査が有用である。
また、光干渉断層画像法(Optical Coherence Tomography:OCT)の実用化も進められている2, 3)

  • 図1
    図1 診療用ルーペ
    (キーラーフレーム+ガレリアンルーペセット:キーラーアンドワイナー)

    診療用ルーペを用いたう蝕治療も普及してきている。
  • 図2
    図2 手術用顕微鏡
    (ライカM320D:ライカマイクロステムズ)

  • 図3
    図3 口腔内カメラ
    (ペンスコープ:モリタ製作所)

    口腔内カメラもう蝕の診断・治療や患者への説明に有用である。
    • 図4(左)
    • 図4(右)
    図4 ペンスコープによるう蝕歯の観察
    咬合面う蝕のある抜去歯(左)をペンスコープで観察したところ(右)。う蝕が発する赤い蛍光を観察することができる。
  • 図5
    図5 レーザー光を用いた光学式う蝕検出装置
    (ダイアグノデントペン:カボデンタルシステムズジャパン)

    レーザー蛍光法によってう蝕を診断する。

■う蝕の除去

レジン修復のためのう蝕の除去にはさまざまな方法があるが、主に、回転切削器具(図6)が用いられている。その際、スプーンエキスカベーター(図7)などの手用切削器具を併用するのも便利なことが多い。
また、エルビウムヤグ(Er:YAG)レーザー(図8)を用いれば、タービンの不快な音や、マイクロモーターの振動を伴わずに、患者にとって快適にう蝕を除去することが可能である。
回転切削器具を用いてう蝕を除去する際には、う窩の開拡と感染象牙質の除去の2ステップで行う4)
う蝕は象牙細管の走行方向に沿って深部に進行するとともに、エナメル象牙境に沿って進行する。したがって、う蝕象牙質まで切削器具を到達させるために、遊離エナメル質を必要最小限に除去する必要がある。
う窩の開拡は、タービンまたは増速用マイクロモーターにダイヤモンドバーを装着して、高速、注水下にて軽圧で行う。
次いで、感染象牙質の除去を行う。う蝕に罹患した象牙質は、除去すべき外層と、除去せずに保存すべき内層に分けられる。
う蝕象牙質外層は、細菌に感染し、再石灰化不能であり、う蝕象牙質内層は細菌感染がなく、脱灰しているものの再石灰化可能とされている。
う蝕象牙質内層と外層の区別は、硬さだけから判断することは技術的に困難とされており、軟化だけを指標にう蝕を除去すると削りすぎてしまうことがあるので注意を要する5)
齲蝕検知液(図9)は、う蝕象牙質外層を赤染し、バーやスプーンエキスカベーターでう蝕を除去する際には有用である。
う蝕象牙質外層の除去には、マイクロモーターに装着した球形スチールバーを低速・軽圧で用いてきた(図10)。
この際、注水すると術野の確保が難しくなるため、非注水下で除去することが望ましいが、発熱を避けるため軽圧で切削すべきである。
低速・軽圧で効率よく切削するには切れ味のよいバーが望ましい。低速・軽圧で丁寧にう蝕の除去を行うことにより、多くの場合、麻酔は不要である。
なお、エアータービンや増速用マイクロモーターハンドピースとダイヤモンドバーやカーバイドバーを用いたう蝕の除去は、過剰切削のおそれがあるため推奨できない。

  • 図6-1
    図6-1 エアータービン
    (ツインパワータービン:モリタ製作所)

  • 図6-2
    図6-2 増速用ハンドピース
    (トルクテック:モリタ製作所)

  • 図6-3
    図6-3 マイクロモーターハンドピース
    (トルクテック+トルックス:モリタ製作所)

  • 図7
    図7 スプーンエキスカベーター
    (エキスカベーターラウンド:YDM)

  • 図8
    図8 Er:YAGレーザー
    (アーウィンアドベールEvo:モリタ製作所)

  • 図9-1
    図9-1 齲蝕検知液
    (カリエスディテクター:クラレノリタケデンタル)

■スチールバーの問題点

ところで、院内感染予防のために、治療に用いるハンドピース類は滅菌を行っているが(図11)、それに装着して使用するバー・ポイント類も滅菌を行う必要がある。
スチールバーは、オートクレーブ等で滅菌することになっている。大学病院等では、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌やプラズマ滅菌を行う場合もあるが、いずれにしても、錆びたり、黒変し、切れ味が低下する(図12)。
切れ味が低下したスチールバーを用いてう蝕の除去を行うと、鋭利なバーに比べて切削圧が必要で、それにより発熱量が増加し、切削痛を生じやすくなる。切れ味の違うバーを使用すると、切削時の硬さの感じ方が異なる。
また、たとえ無菌状態であっても、見た目も悪く、口腔内での使用がためらわれる。
毎回、使い捨てにすればよいのであるが、コストの面から保険診療では極めて困難である。

■ステンレスバーハードの特長

最近、スチールバーに代わるステンレススチール製のバー(ステンレスバーハード:マニー 図13)が発売された。
これは、オートクレーブ等の滅菌でも錆や変色を生じない。
切削感は、新品の同形のスチールバーと同等であり、滅菌による切れ味の低下もない。
ステンレスバーハードの切削耐久性は優れているとはいえ、繰り返し使用することで、徐々に低下する(図14)。
切れ味が低下したバーでも、錆や変色がなく新品と同様に光沢があるため、交換時期に関しては注意が必要である(図15)。
さらに、錆びたスチールバーと一緒に保管すると、いわゆる「貰い錆」を生じるので気をつけねばならない。
また、ステンレスバーハードは、スチールバーに比べて高価であるが、耐久性を考慮すると、割高とはいえない。

  • 図-9-2
    図9-2 赤染したう蝕象牙質外層
  • 図10
    図10 う蝕の除去
    スチールバーによる赤染したう蝕象牙質外層の除去
    (マニーダイヤバー:マニー)
  • 図11
    図11 高圧蒸気滅菌器
    (BC-17:IHIシバウラ)
  • 図12
    図12 黒変したスチールバー
    切削性能も低下しているが、滅菌処理を施したとはいえ、患者の口腔内に入れるのをためらってしまう色である。
  • 図13
    図13 ステンレススチール製のバー
    (ステンレスバーハード:マニー)

■MIステンレスバーとの比較

以前から、MIステンレスバーが販売されており、これは意図的に切れ味を落として、柔らかいう蝕象牙質を選択的に除去しようというものである。
国外では、同じような意図でプラスチック製のバーも市販されている。削り過ぎず、う蝕象牙質外層だけを選択的に除去しようという考えに基づいたものである。
しかしながら、急性に進行した象牙質う蝕の内層は軟化しており、硬さだけで除去の有無を判断すると過剰に切削してしまうおそれもある5)
筆者は、齲蝕検知液をガイドにして、鋭利で切れ味の良いバーを用いて、より軽圧でう蝕の除去を行った方が、効率的かつ刺激の少ない処置が可能と考えている。
手術用顕微鏡を用いてう蝕除去を行う場合は、切れ味の落ちるMIステンレスバーの方が使いやすいこともあり、使い分けが必要である。
なお、MI ステンレスバーとステンレスバーハードは、形状が似ているが、ステンレスバーハードは、バーの中央部に溝が刻まれているので区別が容易である(図16)。

  • 図14
    図14 ステンレスバーハード#4 切削耐久性試験
  • 図15
    図15 繰り返し使用後のステンレスバーハード
  • 図16
    図16 ステンレスバーハード(左)にはの位置に溝が刻まれている。右はMIステンレスバー。

■まとめ

ステンレスバーハードは、切れ味がよく、滅菌により劣化しない特長を有し、う蝕の除去に適したバーである。
齲蝕検知液等を用いて、除去すべきう蝕象牙質外層を弁別しながら切削することによって、ステンレスバーハードは、効率的なう蝕の除去が可能である。

参考文献
  • 1) 日本歯科保存学会 う蝕治療ガイドライン作成委員会編著:う蝕治療ガイドライン、永末書店、京都、2009.
  • 2) 島村穣 他:歯質の乾燥状態が光干渉断層画像に及ぼす影響.日歯保存誌 55: 333-339,2012.
  • 3) Shimada Y 他: Noninvasive cross-sectional imaging of proximal caries using swept-source optical coherence tomography (SS-OCT) in vivo. J Biophotonics. 7: 506-13, 2014.
  • 4) 総山孝雄 他:保存修復学総論 改題 第1刷.311-312,永末書店、京都、1996.
  • 5) 田上順次 他 監修:保存修復学21 第4版.43-44.永末書店、京都、2011.

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