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152号 SPRING 目次を見る

CLINICAL REPORT

う蝕治療や歯内治療に低重合収縮フロータイプ裏層材を有効活用した臨床例

北九州市 ナカノ歯科医院 中野宏俊/今村敦

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■目 次

■はじめに

一般歯科診療を行っている歯科医院においては、う蝕治療は特に頻度の高い処置である。そのため裏層材には効率性、操作性、確実性、物性、経済性の高いことが求められる。
医院それぞれのシステムや術者の好みの違いにより求める要件や優先順位は異なるが、2013年10月に発売されたサンメディカルのバルクベース(図1)は、フロータイプの光重合裏層材でありながら、新たに開発されたLPSモノマー(図2)によって2.6%〜2.8%というペーストタイプCR並みの重合収縮率と、硬化深度4ミリという従来のフロータイプレジン系材料とは一線を画した特性を持っている1)
本稿では、低重合収縮フロータイプ裏層材であるバルクベースの特性を活かした実際の治療例を提示し、解説する。

  • 図1 ミディアムフローとハイフローの2種類のペーストとライナー材(接着材)をラインナップしている。
    図1 ミディアムフローとハイフローの2種類のペーストとライナー材(接着材)をラインナップしている。
  • 図2 LPSモノマーの採用により、フィラー充填率はそのままに重合収縮率の低減を実現している。
    図2 LPSモノマーの採用により、フィラー充填率はそのままに重合収縮率の低減を実現している。

■バルクベースでのベース充填・裏層のメリット

バルクベースはライナー材(接着材)であるバルクベースライナーを組み合わせたシステムであり、従来裏層に使用されてきたグラスアイオノマー等と違い、接着によるシール性の向上と歯質との一体化が可能である。また「低重合収縮フロータイプ裏層材」と「接着」の組み合わせは、深いう蝕治療でも少ない積層充填回数でかつ術後疼痛を起こしにくくなる2)
さらに菲薄な遊離エナメル質の保護や、咬合力の負担を強いる臼歯部の裏層でも長期的な信頼性の向上が期待できる。つまりバルクベースは直接法充填におけるベース充填(積層充填の下層)や、間接法における裏層に最適の特性を持っていると言えるだろう。
補綴物の装着においても、接着性レジンセメントを使用する場合の界面は、無機系材料よりもレジン系材料の方が接着の面で有利である3)

■バルクベースの特性を活かした処置

症例1「深いう蝕歯の裏層処置」
初診時の主訴は6の歯髄炎による自発痛で、抜髄処置を行った。
歯内治療完了後、隣在歯7のう蝕処置を行った。
咬合面にインレーの不適合と近心隣接面、頰側面にう蝕を認めるが(図34)、EPT(+)で、自覚症状はなかったため歯髄保存は可能と判断した。
う蝕処置の原則は感染歯質の完全除去であり、筆者はう蝕検知液による染色のないことをう蝕除去完了の目安としている。
まず浸潤麻酔下でインレーを除去し、ラウンドバーで外側の大まかな感染歯質の除去を行い(図5)、次にエキスカベータとう蝕検知液を併用し、慎重に歯髄に近接した感染歯質を除去していく。ブラインド部分についてはミラーを使用し、感染歯質除去の確認を徹底することが重要である(図6)。
感染歯質の完全除去を確認後、バルクベースライナーにて接着処理を行う。
本症例は窩洞が複雑で大きいため、一般的なフロータイプレジンなら何度も積層充填を繰り返さなければならないが、バルクベース(ミディアムフロー)を一括で窩洞に流し込み、近心面、頰側面、咬合面から合計3回の光照射を行った(図7)。
バルクベースの重合収縮率の低さと硬化深度の深さを利用して、歯髄症状を起こすことなく時間短縮が図れた症例である。
裏層から3週間後の来院となったが、バルクベースの十分な接着によって歯質が確実に裏打ちされ、咬合負担の大きい大臼歯部においても菲薄なエナメル質のチッピングを認めなかった(図8)。
ダイヤモンドバーにて支台歯形成を行いフィニッシュラインは歯質に求めた。バルクベースの切削感は健全象牙質に近く、形成を行いやすい。また歯質とバルクベースは乾燥させると識別しやすい(図9)。
このような窩洞表面の大半が裏層材となるような症例で、接着性レジンセメントにより装着する場合に、レジン系材料のバルクベースは有利である。
4週間後、最終補綴物をスーパーボンドで装着し、治療を終了した(図1011)。
症例2「歯冠部が崩壊したう蝕歯の支台築造」
患者の主訴は右下臼歯部の違和感で、6の歯頸部にエアー痛を訴えたため(図1213)、クラウンを除去すると、軟化した大量の感染歯質を認めた(図14)。
慎重に感染歯質の除去を行い、幸い歯髄は保存できたが、フルクラウンの支台歯とするためには健全歯質の高さが不足している(図15)。
大臼歯部で咬合負担も大きく、健全歯質の量も不足していることから、スーパーボンドと歯冠修復用金属ピンを併用してバルクベースで支台築造を行うこととした。
ピンは専用のドリルで象牙質に形成した窩に植立する。
残存歯質の位置と側方への咬合圧を勘案して、頰側へ2本、舌側に1本歯冠修復用金属ピンを植立し(図16)、スーパーボンドを歯冠修復用金属ピンと支台歯全体に塗布し、バルクベースでコア部を築盛する。
スーパーボンドの硬化を待って支台歯形成を行い(図17)、最終補綴物をスーパーボンドで装着し、治療を完了した(図1819)。
バルクベースの硬化深度の深さを利用して、歯髄症状を起こすことなく支台築造のチェアタイムを短縮できた症例である。
症例3「歯肉縁上歯質が確保できない歯内治療での隔壁作製」
初診時の主訴は6の自発痛で、打診痛も認めたため非可逆性の歯髄炎と診断し、抜髄処置を行うこととした(図2021)。
歯肉縁下カリエスを認めたため、歯肉からの出血を避けながら感染歯質の除去を行い、隔壁を作製して抜髄処置を行うこととした(図22)。
残った健全歯質に対してバルクベースライナーにて接着処理を行い、バルクベースを縁上へ築盛し、再形成を行った(図23)。
歯内治療終了後、フェルール確保のための補綴前処置として歯冠長延長術を行った。
骨の削除量を決定するには健全歯質の確認が必要なため、隔壁を除去し、フラップを開き、骨削除後に縫合を行った(図24)。
スーパーボンドとi−TFCシステムにて支台築造を行い、術後6ヵ月後に支台歯形成を行った。フィニッシュラインは全周にわたって健全歯質に設定され、印象採得も出血のない状態で行うことができた(図25)。
最終補綴物をスーパーボンドで装着し、治療を終了した(図2627)。
バルクベースは光重合のフロータイプで操作性に優れるため、隔壁作製のような煩雑な用途でも確実に処置が行える。
また一般的なフロータイプCRはペーストタイプCRに比べてかなり高価であるが、バルクベースは同種の材料の中では最も安価な価格帯であることもありがたい。
歯内治療時の隔壁作製は、経済性の高いバルクベースにとても適した用途であると考える。

  • 図3 7 には複数のう蝕が認められた。
    図3 7には複数のう蝕が認められた。
  • 図4 7 処置開始時のX線像。
    図4 7処置開始時のX線像。
  • 図5 インレー除去後、ラウンドバーで大まかな感染歯質除去を行う。
    図5 インレー除去後、ラウンドバーで大まかな感染歯質除去を行う。
  • 図6 ブラインド部分もミラーを用いて確認し、感染歯質除去を徹底する。
    図6 ブラインド部分もミラーを用いて確認し、感染歯質除去を徹底する。
  • 図7 体積が大きく複雑な窩洞の裏層となったが3回の照射で硬化完了。
    図7 体積が大きく複雑な窩洞の裏層となったが3回の照射で硬化完了。
  • 図8 3週間後、歯髄症状もなく、バルクベースの裏打ちにより菲薄なエナメル質のチッピングなども認めない。
    図8 3週間後、歯髄症状もなく、バルクベースの裏打ちにより菲薄なエナメル質のチッピングなども認めない。
  • 図9 フィニッシュラインは歯質に求める。バルクベースは乾燥させると歯質と識別しやすい。
    図9 フィニッシュラインは歯質に求める。バルクベースは乾燥させると歯質と識別しやすい。
  • 図10 最終補綴処置時の咬合面観。経過はまだ浅いが今のところ歯髄症状や咬合痛などなく、経過は良好である。
    図10 最終補綴処置時の咬合面観。経過はまだ浅いが今のところ歯髄症状や咬合痛などなく、経過は良好である。
  • 図11 最終補綴処置時のX線像。
    図11 最終補綴処置時のX線像。
  • 図12 初診時の咬合面観。
    図12 初診時の咬合面観。
  • 図13 初診時のX線像。
    図13 初診時のX線像。
  • 図14 クラウンを除去すると大量の感染歯質を認めた。
    図14 クラウンを除去すると大量の感染歯質を認めた。
  • 図15 感染歯質を全て除去すると露髄はまねがれたが健全歯質が不足し、支台築造が必要となった。
    図15 感染歯質を全て除去すると露髄はまねがれたが健全歯質が不足し、支台築造が必要となった。
  • 図16 健全歯質の少なさを補うために歯冠修復用金属ピンを植立した。
    図16 健全歯質の少なさを補うために歯冠修復用金属ピンを植立した。
  • 図17 スーパーボンド(ポリマー粉末混和ラジオペーク)とバルクベースで支台築造を行う。
    図17 スーパーボンド(ポリマー粉末混和ラジオペーク)とバルクベースで支台築造を行う。
  • 図18 最終補綴処置後6ヵ月の側方面観。
    図18 最終補綴処置後6ヵ月の側方面観。
  • 図19 最終補綴処置後6ヵ月のX線像。症状は消失し、根尖部に透過像も認めない。
    図19 最終補綴処置後6ヵ月のX線像。症状は消失し、根尖部に透過像も認めない。
  • 図20 6 の口蓋側面観。辺縁漏洩による非可逆性歯髄炎と診断した
    図20 6の口蓋側面観。辺縁漏洩による非可逆性歯髄炎と診断した。
  • 図21 初診時のX線像。
    図21 初診時のX線像。
  • 図22 出血を避けながら歯肉縁下カリエスを除去。
    図22 出血を避けながら歯肉縁下カリエスを除去。
  • 図23 バルクベースで隔壁を作製し、唾液の侵入防止と仮封材の厚みを確保した。
    図23 バルクベースで隔壁を作製し、唾液の侵入防止と仮封材の厚みを確保した。
  • 図24 フェルール確保のための歯冠長延長術直後
    図24 フェルール確保のための歯冠長延長術直後。
  • 図25 フィニッシュラインは全周にわたって健全歯質に設定、印象採得時も出血がない。
    図25 フィニッシュラインは全周にわたって健全歯質に設定、印象採得時も出血がない。
  • 図26 最終補綴処置時の口蓋側面観。
    図26 最終補綴処置時の口蓋側面観。
  • 図27 最終補綴処置時のX線像。
    図27 最終補綴処置時のX線像。

■まとめ

筆者の学生時代ではレジン系材料は歯髄刺激が大きいと教わったが、現在では当時の脆弱な接着システムによる辺縁漏洩が歯髄刺激の原因であることが明らかとなっている4、5)
AQボンドから続く信頼性の高い接着システム6)なら、まずその心配はないと考えて良いだろう。
また現在の大学教育においては、直接法のCR充填の下層部はフロータイプCRで裏層(積層充填)することが教えられており、接着による歯髄保護の恩恵は非常に大きい。
「低重合収縮フロータイプ裏層材」と「接着」の組み合わせは、さらに術後疼痛を少なくするとともにチェアタイムの短縮を実現してくれる。
患者と術者にメリットの大きいバルクベースは、筆者の日常臨床に欠かせないアイテムとなっている。

参考文献
  • 1) 中村光夫,坪田有史:フロアブルタイプの低重合収縮型充填裏層材「バルクベース」;日本歯科評論 臨床理工講座 Vol.73(12)/通刊第854号,97-103,2013.
  • 2) 内田昌徳:歯髄保護処置を考察する;アポロニア21,4月号,G10-G15,2014.
  • 3) 二階堂徹 他:接着性レジンセメントを比較検討する;歯界展望96.2,289-301,2000.
  • 4) 安田登 他:Adhesive Resins for Protectionof Pulp接着最前線の5人が語る,座談会 歯髄が危ない(前編)クインテッセンス14.2,76-95,1995.
  • 5) 安田登 他:Adhesive Resins for Protectionof Pulp接着最前線の5人が語る,座談会 歯髄が危ない(後編)クインテッセンス14.3,74-93,1995.
  • 6) 吉山昌宏:1ステップ接着システム その現状と課題;クインテッセンス23.11,79-83,2004.

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