153号 SUMMER 目次を見る
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 『アドシールド® RM』を支える技術とその特長
- ≫ まとめ
はじめに
合着用グラスアイオノマーセメントは、生体親和性に優れることから、これまで長年にわたって多用されてきたが、現在ではグラスアイオノマーセメントにレジン成分を添加し、機械的強度や接着性の向上を図ったレジン強化型グラスアイオノマーセメントが主流である1)。
また、これらの生体親和性に優れるセメントについては、昨今、酸緩衝能の研究や初期う蝕予防効果に関する研究も進められており、予防領域においても注目されている。
クラレノリタケデンタル社は、接着性レジン技術を基に生体親和性に優れるセメントの開発に取り組み、独自のフルオロアルミノシリケートガラス(CIフィラー:Calcium Integration Filler)およびポリカルボン酸を開発し、さらにリン酸エステル系接着性モノマー「MDP®」を配合することで新たなレジン強化型グラスアイオノマーセメント「アドシールド® RM」を開発した(図1)。
『アドシールド® RM』を支える技術とその特長
「アドシールド®RM」は、グラスアイオノマーセメントとしての特性を有しながら、接着性モノマー「MDP®」等のレジン成分を含むことにより、優れた歯質接着性、機械的強度、簡便な操作性を兼ね備えた合着用のレジン強化型グラスアイオノマーセメントであり、以下の特長を有する。
- ・余剰セメントの除去が容易(トライキュアの採用)
- ・優れた接着性(MDP®配合)
- ・酸緩衝作用(CIフィラー、リン酸カルシウム、POs-Ca配合)
- ・低臭気(独自のポリカルボン酸配合技術)
1)余剰セメント除去性:トライキュアの採用
本品では、セメントの硬化システムとして、①フルオロアルミノシリケートガラス、ポリカルボン酸および水による酸−塩基反応、②過酸化物と還元剤による化学重合反応、③光照射による光重合反応の3種類の硬化システム「トライキュア」を採用している。よって、余剰セメントに短時間の光照射(タックキュア)を施して半硬化させることにより、簡単かつスピーディに余剰セメントを除去することができる(図2)。
タックキュアの時間は、使用する光照射器の光量や照射する距離により影響を受けるが、補綴修復物装着後、わずか2〜5秒の光照射により余剰セメントが除去できるため、チェアタイムの短縮が可能となる。また、光硬化に加えて、化学硬化による除去方法も選択できるため、術者の診療スタイルや症例に応じて処置することができる。
2)優れた接着性:「MDP®」の配合
本品は、当社開発の接着性モノマー「MDP®」を配合している(図3)。MDP®は、歯質中のハイドロキシアパタイトだけでなく、金属や、ジルコニアなどの金属酸化物系セラミックスにも強固に結合することが知られている2、3)。
図4に各種被着体に対するせん断接着強さの結果を示した。MDP®を配合することにより、プライマー等による前処理がなくとも、歯質を始めとした各種被着体に対して優れた接着性を示すことがわかる。
また、人歯象牙質、金銀パラジウム合金に対して良好な接着性を示すとともに、優れた機械的強度を示すことが報告されており4)、本品の臨床的有効性を示唆する結果が得られている。
3)酸緩衝作用: CIフィラー、リン酸カルシウム、POs-Caの配合
本品には、カルシウム、リン、フッ素などのミネラル成分を含む当社独自のフルオロアルミノシリケートガラス(CIフィラー:Calcium Integration Filler)、リン酸カルシウム、リン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca)5)が配合されている。
生体親和性に優れるこれらの成分からはカルシウムイオン等が放出され、酸性成分(MDP®)とイオン反応することにより、セメントの硬化に寄与するだけでなく、硬化したセメントは酸緩衝作用に優れる。
本品のCa、P、Fのイオン放出量を図5に示す。また、図6には、本品の酸緩衝作用を示した。硬化物を浸漬した水中に乳酸水溶液を添加しpHを経時的に測定したところ、pH変化が抑制されることがわかった。
4)低臭気:独自のポリカルボン酸配合技術
通常、レジン強化型グラスアイオノマーセメントの液材は、ポリカルボン酸を含む酸性の溶液である場合が多く、経時的にメタクリル酸が生成して、特有の臭いを生じる。
本品は、当社独自の技術によりポリカルボン酸を粉末にすることに成功し、液材ではなく粉材にポリカルボン酸を配合している。結果、液材を中性に保つことによって安定化を図り、臭気の抑制を実現した。そのため、長期間保存しても、セメント臭気によって患者に不快な思いをさせることなく治療することができる(表1)
-
図1 アドシールド® RM
粉液型のレジン強化型グラスアイオノマーセメントである。
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図2 タックキュアにより、一塊での余剰セメント除去が可能。
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図3 リン酸エステル系モノマー「MDP®」の分子構造
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図4 各種被着体へのせん断接着強さ
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図5 アドシールド® RMのイオン放出量(硬化物1gあたり、28日間の累積放出量)
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図6 酸緩衝作用
本品の硬化物を浸漬した溶液はpH変化が抑制されていることがわかる。 -
表1 アドシールド® RMの組成
まとめ
今回発売した「アドシールド®RM」は、生体親和性やフッ素徐放性などグラスアイオノマーセメントとしての特性に加え、高い接着性や優れた余剰セメント除去性も兼ね備え、さらに酸緩衝作用など、ユニークな特性を有するレジン強化型グラスアイオノマーセメントである。今後、さまざまな臨床で活用いただければ幸甚である。
- 1)歯科機器・用品年鑑2014年度版, 169-175, アール アンド ディー社, 2014.
- 2)Yoshida Y, Van Meerbeek B. ほか,Comparative study on adhesive performance of functional monomers., 454-458,J. Dent Res, 83, 2004.
- 3)Lehmann F, Kern M, Durability of resin bonding to zirconia ceramic using different primers., 479-483, J. Adhes. Dent,11 (6), 2009.
- 4)入江 正郎 ほか, 合着用レジン配合型グラスアイオノマーセメントの硬化初期の接着性と曲げ特性, 153, 日本歯科理工学会誌, 33 (2),2014.
- 5)小林 隆嗣, リン酸化オリゴ糖カルシウムの口内環境を整える効果, 34-35, Dentalmagazine, 139, 2011.
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