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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Clinical Report
前歯部直接覆髄が変わる BioMTA セメントが変える
神戸市開業高田歯科 院長 髙田 光彦

■はじめに

“胸高まる”
これが今の心境である。海外ではすでに普及しつつある新時代のバイオセラミック、BioMTAセメント(海外名RetroMTA)が間もなく日本国内でも入手できるようになるのだ。
このBioMTAセメントとの出会いが私の歯科臨床に大きな変革をもたらした。本稿においてその魅力をお伝えできれば幸いである。
いわゆるポルトランドセメントを元に加工されたMTAセメントが臨床応用されるようになったのは1998年ごろからであり、日本では2007年ごろから直接覆髄用として導入が始まった。そして近年では様々なメーカーからMTAセメントが販売されるようになってきた。
これらのMTAセメントはその大半がポルトランドセメントを主成分としており、また操作性も決して良いとは言えないものであったが、それにもかかわらず急速に普及してきた。その理由は使った経験のある歯科医師が皆一様に口をそろえて言う言葉『不思議なほど臨床成績がいいね!』に集約されているように感じる。事実、論文を検索するとMTAセメントの臨床成績が良いことを示すものが多数検索され、その性能は折り紙つきであることがうかがえる。
しかし、従来のMTAセメントには幾つかの欠点があった。
ポルトランドセメントを主成分として作られているものは不純物として重金属を含有しているものが多く、また、造影剤に酸化ビスムスを用いているものは覆髄後に歯の変色を招くおそれがあるため前歯への適応は避ける必要があった。
そんな中、2012年に韓国で登場した画期的なセメントがBioMTAセメントである。
このBioMTAセメントの特徴としては他の多くのMTAセメントがポルトランドセメントを主成分としているのに対して、試薬ベースでCaCO3、SiO2、Al2O3を主成分とし、造影剤としては酸化ビスムスに代わりZrO2を採用している点がある。
そのため、有害な重金属の混入がなく、変色の危険性も少ない。
そしてもう一つ忘れてはならない特徴が、“初期硬化が早い”という点である。混和後約3分で初期硬化するため、短い診療時間内で覆髄処置と修復処置が完結できるのである。
まさに新時代の水硬性セメントであるバイオセラミックの登場である。
私は海外で発売された当初からこのBioMTAセメントを直接覆髄に限定して用いているが、非常に成績が良いのを実感している。
最近になりその手技がほぼ固まってきたため、今回それらのケースを提示しようと思う。

  • 図1
    図1
  • 図2
    図2
  • 図3
    図3
    • 図4
      図4
    • 図5
      図5
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    図6

■症例1

年齢:27歳女性
主訴:前歯部の隣接面カリエスの治療
特記事項:デンタルIQは低いものの補綴処置は絶対的に拒否。
初診時の口腔内写真(図1~3)とデンタルX線写真(図4、5)を示す。上顎左側側切歯の治療を行うにあたり、電気歯髄診断を行ったところ、生活反応を示した。温熱痛は認めなかった。
露髄を予測して予めラバーダムを装着した状態でカリエス処置を行うことが望ましく、またカリエス処置は非常に精緻な作業を求められるためマイクロスコープや高倍率拡大鏡などの拡大視野下での作業が必須である。
切削器具としては、高速なエアタービンではなくスピードコントロールの行いやすい5倍速コントラを選択するべきである。
適切なミラーテクニックを駆使することでミラーに水滴が付着することを予防しながら軟化象牙質の除去を行うことが可能である。
本症例では軟化象牙質の除去を行っていたところ点状に露髄した(図6)。
露髄点が小さいとBioMTAを用いた直接覆髄を行う際には作業の効率上不利である(図7)。
そこで、露髄点を直径1.8mm以下程度に拡大し、そこに覆髄することとした(図8)。
BioMTAセメントは、製造している本国の仕様では、その容器の内面にて混和することを推奨している。しかし、筆者は“清潔操作・混和の効率性の確保”の二点からガラス練板を用いて混和している(図9、10)。
また、混和したBioMTAセメントを充填する際にはレジン充填器を用いて少量ずつ複数回に分けて充填するようにしており、BioMTAセメントの硬化が早いことを考慮して充填作業の一回ずつに分けて極少量ずつセメントの混和を行っている。
混和の際の練る硬さについてであるが、混和したセメントを窩洞に搬送する間に少し固く変化してくることを考慮して柔らかめに練っている。具体的には“溶けかけのソフトクリーム”または“ツノが立たない程度に混ぜた生クリーム”をイメージしていただければ解りやすいかと思う(図11)。
混和したBioMTAセメントを少量ずつ窩洞に搬送し、充填を行う(図12)。
BioMTAセメントは微小漏洩を考慮して1~1.5mm程度の厚みを確保することが求められており、そこに配慮して圧入するようにしている。
露髄箇所に対する充填が終わったら露出している象牙質の広範囲をBioMTAセメントで覆っておく(図13)。
BioMTAセメントは、5~10μm程度象牙細管の中に入り込みアパタイトのタグを形成すると言われており、筆者は、象牙細管からの細菌感染を考慮して露髄点以外の象牙質を保護することを目的としてこの作業を行っている。
BioMTAセメントは旧来のMTAセメントと異なり早期に初期硬化するため充填後3分経過したらコンポジットレジンを用いた修復治療に移行できるのが大きな特徴となっている。
しかし、セメントの特性を考えて初期硬化後に湿潤養生を行う方が強度が上昇することも考えられるため、筆者は15分間湿潤綿球をセメント上に留置するようにしている。
15分経過後に余剰充填されたセメント部分をタングステンカーバイドバーにて慎重に除去し、象牙質の露出部位に対してボンディング材を塗布し、レジン充填を行った。
現在までに4ヵ月経過観察しているが(図14、15:2ヵ月経過時点)、歯髄の生活反応などには問題は見られない。なお隣在の中切歯も近遠心部にBioMTAセメントにて直接覆髄処置を伴った修復処置を行った。

  • 図7
    図7
  • 図8
    図8
    • 図9
      図9
    • 図10
      図10
  • 図11
  • 図12
    図12
  • 図13
    図13

■症例2

年齢:32歳男性
主訴:前歯部の審美回復
特記事項:短期間での治療を希望。補綴は拒否。
前歯群の治療を行うこととなり、電気歯髄診断を行ったところ上顎右側側切歯以外はすべて生活反応を示した。このうち上顎左側側切歯の治療(図16、17)を以下に記す。
ラバーダムを装着した状態で切れ味鋭いタングステンカーバイドバーで軟化象牙質の除去を行う。その際、本症例では露髄の可能性が極めて高いことが事前に予測されたことから、歯髄への細菌感染を考慮して髄角付近以外の軟化象牙質を優先的に除去し、その後髄角付近の軟化象牙質除去へと移行することが望ましいと考えた。
髄角付近の軟化象牙質を除去する際には、よく研いだエキスカベータ(エキスカベーターCDR:YDM)を用いて慎重に除去する。
その結果露髄したため、同部をマイクロプレパレーションバーを用いて開拡し(図18)、歯髄の状況を観察した(図19)。マイクロスコープにて観察すると内部の毛細血管がその構造を維持しており、また、止血剤を用いることなく短時間のうちに自然に止血したことから、歯髄への炎症の波及の可能性は低いと考え、直接覆髄へ移行した。
BioMTAセメントをレジン充填器を用いて少量ずつ充填していく(図20)。
筆者は2~3回充填したら先端の丸いレジン充填器に持ち替えて圧を加えながら充填し(図21)、再び2~3回充填する。これを数回繰り返して充分なBio-MTAセメントが充填できたら、露出している象牙質の表面をBioMTAセメントで覆いつくし、その上から湿潤綿球を置き15分待機する。
BioMTAセメントの硬化が確認できた後に切れ味の鋭いタングステンカーバイドバーを用いて表層のセメントを慎重に削合し象牙質を露出させた(図22)。
他のMTAセメントでは15分放置の後に同じ作業を行うと大半のセメントがウォッシュアウトしてしまうが、Bio-MTAセメントは硬化が早いので僅か15分後でもウォッシュアウトすることなく削合できる性能を持つ(図23)。
そして、1液性のボンディング材を象牙質・BioMTAセメントの両方の表面に塗布し、コンポジットレジンにて審美修復した。1液性のボンディング材を用いている理由は先のケースで記述した5~10μmのアパタイトタグに対して、脱灰の影響を1~2μmに抑えたいためである。ちなみに、2ステップだとおよそ10μm、3ステップだと100μm以上の脱灰となるため、アパタイトタグが全て失われてしまう可能性が高い。
筆者は基本的に、一回目の診療で直接覆髄とコンポジットレジンによる関接覆髄処置を行い、対象歯のシリコン印象採得までを行うようにしている。
そして、超硬石膏にて作成した作業模型上でワックスアップを行い歯冠部の形態を復元し、事前にシリコンインデックスを作成しておき、それを用いて後日歯冠部の審美修復処置を行うこととしている(図24)。
現時点で4ヵ月経過観察を行っている。その間、電気歯髄診断や温熱痛の診査に対して正常な反応を示している(図25、26)。

  • 図14
    図14
  • 図15
    図15
  • 図16
    図16
  • 図17
    図17
  • 図18
    図18
  • 図19
    図19
  • 図20
    図20

■おわりに

筆者はBioMTAが韓国で発売された2012年から使用しており、3年以内の短期的なケースの経過観察を行っている。直接覆髄は年間に60〜80ケース行っているが、現時点ではBioMTAで直接覆髄した後に抜髄に至ったケースは皆無である。
しかし常に歯髄炎や歯髄壊死に対する懸念はあるため、直接覆髄を行ったケースにおいては直接修復処置で対応することが多い。
その理由は、直接修復処置であれば修復物の状態をX線的にある程度診査することが可能であり、また、電気歯髄診断も行いやすい。そして、万一歯髄に影響が出た場合には根管治療への移行や補綴への移行がスムーズに行えることが挙げられる。
かつて、私は直接覆髄治療に懐疑的であったが、『術前の的確な診査診断』、『ラバーダムを装着した清潔環境での操作』、『マイクロスコープを用いた拡大視野下での観察・処置』を行うことが直接覆髄を成功に導く重要な要素であり、『生体親和性が高く抗菌力のある』、『重金属を含まず安全な』、『変色しない』優れたバイオセラミックであるBioMTAセメントを併用することでその成功率は格段に高めることができると考えている。

  • 図21
    図21
  • 図22
    図22
  • 図23
    図23
  • 図24
    図24
  • 図25
    図25
  • 図26
    図26

デンタルマガジン 153号 SUMMER