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153号 SUMMER 目次を見る

Clinical Report

日常臨床に接着を活かす ―根管治療への接着の応用―

福岡県北九州市富山歯科クリニック 池上 龍朗

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目 次

はじめに

最近の歯面接着は、マテリアルの大幅な改良とシステムの充実により目覚ましい進歩をとげた。歯面接着の進歩が歯冠修復に大きな変革をもたらしたことは言うまでもないだろう。特にコンポジットレジン修復、ボンデッドポーセレンレストレーションの発展により我々の臨床の選択肢は大きく広がった。
「接着」の可能性は歯冠修復のみならず、既存の歯科治療の概念をも大きく変えるポテンシャルを持っていると感じる。今回は接着とは縁遠いと思われがちな根管治療における、接着の応用について考えてみたい。

根管治療への接着の応用

【隔壁作製】<症例1>(図14
根管治療の本質は、起炎物質の除去と、細菌侵入の防止であることは疑いようが無いであろう。特に抜髄根管治療においては、根尖近くの根管内に細菌感染が生じている可能性は低いため、根管治療時および治療後の細菌侵入を防止することは極めて重要となる。もちろん感染根管治療においても、根管内の再感染や感染菌種の変化による難治化を起こさせないためには、治療時、治療後の細菌侵入の防止は欠かせない。
そのためには、根管治療中の堅牢な仮封と確実な根管充填、その後の支台築造および歯冠修復操作、そして歯周治療が重要なポイントとなるであろう。細菌の根管内への侵入は、①治療期間中の仮封材の脱離、不十分な封鎖、②根管治療作業中の唾液やプラークの侵入、③根管充填後の根管内露出による汚染、④コア形成後の不十分な仮封、以上のタイミングにて起こっていると推測される1)
我々が根管治療を行う歯は残根状態になっているものが多く、仮封材の厚さが不十分になり、唾液などの侵入が生じ易い2)。ここで接着を用いた、コンポジットレジンによる隔壁の作製が有効となる。
最近のフロアブルレジンは物性、操作性ともに大きく向上しており、隔壁の作製にあたってはフロアブルレジンを使用すると良い。特にローフロー、インジェクタブルタイプのものは形態の付与が容易である。その中でもフロアブルレジン系裏層材として登場したバルクベース(サンメディカル社製)は、深い硬化深度と低重合収縮率などの物性、操作性、コストの面から使い易く重宝している(図4)。
隔壁の作製により、歯肉縁からの唾液やプラークの侵入は大幅に減少でき、仮封材の厚さも確保できるため、仮封時の封鎖性が大きく向上する。また、概形成をすればテンポラリークラウンの装着も可能であり、仮封時の封鎖性をさらに向上できる他、ラバーダムクランプの装着も容易になる。
根管治療の際にラバーダム装着は必須かも知れないが、全ての根管にラバーダムを装着するのは一般開業医(General Practioner:以下GP)にとって現実的とは言えない。しかしながら隔壁を作製さえしておけば、治療中の細菌感染の可能性は大幅に減少できるため、重要度は非常に大きいと考える。

【根管充填】
最近では、歯質接着能をもったシーラーも発売され、根管充填の際に接着による根管内の封鎖が成立するようになった。このことは、根管充填後やコア形成後に生じ易いコロナルリーケージ(根管内への細菌侵入)、歯冠修復後のセメント溶解やマイクロクラックから生じる根管内再感染の可能性を大きく軽減させることを意味する。
また、根尖が吸収した感染根管治療の際には、しばしば根尖の封鎖が困難となるケースに遭遇する。このような場合において容易に根尖封鎖を得るには、長期にわたって溶解度が低く、なおかつ生体親和性の高いシーラーが必要となる。
さらに、シーラーの歯質接着能向上により、従来の根管充填のコンセプトには無い「接着による残存細菌の封じ込め」の可能性も見込まれるかも知れない。象牙細管の中に入り込んだ細菌を完全に死滅させることは不可能であるのは周知の事実と言える3)。しかしながらカリエス処置に対するコンポジットレジン修復での概念と同様に、接着により、栄養源がなく増殖できない状態、もしくは細菌が生存していても外界に出て行けない閉鎖状態のなかに封入することができれば、細菌の不活性化が期待できるため、我々に得られるメリットは非常に大きい。
このような接着の概念により、従来では必須であった「加圧による圧接」の必要性も少なくなる。このことは根管充填の手技が容易になるばかりでなく、繊細な構造を持つ根尖への加圧によるストレスが回避され、マイクロクラック発生が軽減されるという大きなメリットも期待できる。
当院にて使用している歯質接着能を持ったシーラーを図56に示す。
メタシールSoft(以下、メタシール)は接着力や物性においてはスーパーボンド根充シーラー(以下、SBシーラー)に劣るものの、操作は簡単であるため熟練を要する必要がなく、再根管治療時の除去性も担保され比較的安価である。一方SBシーラーは生体親和性、水分存在下での接着能に加え、物性においても非常に優れた材料ではあるが4)、操作がやや煩雑でテクニックセンシティブであり、やや高価という弱点があるため、両者の使い分けが肝要であると思われる。
つまり、メタシールはアピカルシート獲得が容易な通常のルーチンな根管治療の際に使用し、SBシーラーは歯根破折歯や根尖吸収歯への対応といった稀なケースへの決定打として用いるのが良いのではと考えている。
ここで重要なのが“操作が簡単”であることで、このことはGPにとって極めて大きな意味を持つと思う。もちろん根管治療の分野においてMTAセメントの使用は大きな福音をもたらしてくれるが、充填操作や再根治時の除去が非常に難しくとても高価であるため、GPにとって日常的に使用可能なマテリアルであるとは言いがたいのではないだろうか。その点、メタシールは操作が簡単で比較的安価であり、SBシーラーは、操作がやや煩雑でテクニックセンシティブとは言ってもMTAセメントほどではなく、また混和法でスーパーボンドを使い慣れている術者には使い易いマテリアルであると思われる。

  • 根管治療中の隔壁(仮レジンコア)。中央に穴をあけて根管治療を行う。接着面を明瞭とするため、青色のCRを最下層に使用することも多い。
    図1 根管治療中の隔壁(仮レジンコア)。中央に穴をあけて根管治療を行う。接着面を明瞭とするため、青色のCRを最下層に使用することも多い。
  • 同部位のデンタルX線写真。概形成を行い、テンポラリークラウンを装着している。
    図2 同部位のデンタルX線写真。概形成を行い、テンポラリークラウンを装着している。
  • 切除療法の際においても、メタルタトゥーの回避、歯周パックの容易な固定などの面から、隔壁は有効である。
    図3 切除療法の際においても、メタルタトゥーの回避、歯周パックの容易な固定などの面から、隔壁は有効である。
  • コストパフォーマンスに優れたバルクベース・ローフロー(サンメディカル社製)は裏層だけでなく隔壁作製にも適したマテリアルである。
    図4 コストパフォーマンスに優れたバルクベース・ローフロー(サンメディカル社製)は裏層だけでなく隔壁作製にも適したマテリアルである。
  • 2013年に発売されたメタシールSoft(サンメディカル社製)。
    図5 2013年に発売されたメタシールSoft(サンメディカル社製)。
  • 2005年に発売されたスーパーボンド根充シーラー&アクセル(サンメディカル社製)。
    図6 2005年に発売されたスーパーボンド根充シーラー&アクセル(サンメディカル社製)。

難症例への対応

【根尖クラック】<症例2>(図710
(水上歯科クリニック勤務時の症例:水上哲也先生より貸与)

  • 2007.9.26 6 デンタルX線写真。近心根周囲にびまん性の骨透過像を認める。
    図7 2007.9.26 6 デンタルX線写真。近心根周囲にびまん性の骨透過像を認める。
  • 2008.5.28 根管治療開始時。破折ファイルを除去したところ、根尖にかけてマイクロクラックが存在していた。
    図8 2008.5.28 根管治療開始時。破折ファイルを除去したところ、根尖にかけてマイクロクラックが存在していた。
  • 2008.10.15 接着を期待してSBシーラーにて根管充填。
    図9 2008.10.15 接着を期待してSBシーラーにて根管充填。
  • 2011.4.30 顕著な骨透過像の改善を認める。
    図10 2011.4.30 顕著な骨透過像の改善を認める。

【根尖吸収】<症例3>(図1117
感染根管の再治療において、根尖部のパーフォレーションやジップ、トランスポーテーションを起こしたケースは難症例となる。根管内よりアプローチが不可能となることも多く、このような場合はむやみやたらに根管内を拡大するより、早急に外科処置に切り替えた方がむしろ効率が良い。
外科処置としては歯根端切除術や再植が挙げられるが、どのような場合においても側枝などの感染源を除去するために根尖先端3mmを切除することが推奨されている5)。しかしながら歯根へのダメージや侵襲を考えると、可能な限り削除量は減らしたい。そもそも根尖が吸収している場合、側枝が集中する根先端3mm付近はすでに生体により吸収されて解剖学的形態を保持していない可能性も高いため、切除する必要性に疑問を感じるケースも多い。
そこで筆者は、根尖全周が十分にアプローチできる環境であれば、骨面を含め根尖部を十分に掻爬、プレーニングを行った後に、汚染された象牙細管を接着にて封鎖することを目的として、根尖は切除せず根尖3mm相当部に必要に応じて接着窩洞を形成しスーパーボンド(ラジオペーク)にて覆う術式を摂っている。長期症例がまだないため経過観察は必要と考えるが、いまのところ全てのケースで良好な結果を得ている。

  • 2013.2.5 4 根管治療を行ったが、サイナストラクトが消失しない。根尖部パーフォレーションの可能性が高いため、外科に踏み切ることとした。
    図11 2013.2.5 4 根管治療を行ったが、サイナストラクトが消失しない。根尖部パーフォレーションの可能性が高いため、外科に踏み切ることとした。
  • 2013.1.21 根管充填後のデンタルX線写真。根管内の感染歯質を可能な限り除去し、SBシーラーにて根管充填。
    図12 2013.1.21 根管充填後のデンタルX線写真。根管内の感染歯質を可能な限り除去し、SBシーラーにて根管充填。
  • 2013.2.5 根尖掻爬時の口腔内写真。根尖部パーフォレーションとマイクロクラックが存在していた。接着窩洞を形成し、根尖部3mm相当をスーパーボンド(ラジオペーク)で被覆。
    図13 2013.2.5 根尖掻爬時の口腔内写真。根尖部パーフォレーションとマイクロクラックが存在していた。接着窩洞を形成し、根尖部3mm相当をスーパーボンド(ラジオペーク)で被覆。
  • 根尖掻爬後のデンタルX線写真。
    図14 根尖掻爬後のデンタルX線写真。
  • 2013.5.17 術後約3ヵ月後の口腔内写真側方面観。サイナストラクトは完全に消失した。
    図15 2013.5.17 術後約3ヵ月後の口腔内写真側方面観。サイナストラクトは完全に消失した。
  • 2015.1.8 4 最終補綴装置装着後の口腔内写真側方面観。サイナストラクトの再発等、問題は全く生じていない。
    図16 2015.1.8 4 最終補綴装置装着後の口腔内写真側方面観。サイナストラクトの再発等、問題は全く生じていない。
  • 2015.1.8 最終補綴装置装着後のデンタルX線写真。根管充填から約2年経過。根尖部はフェネストレーションを起こしているものと推察されるが症状は無い。
    図17 2015.1.8 最終補綴装置装着後のデンタルX線写真。根管充填から約2年経過。根尖部はフェネストレーションを起こしているものと推察されるが症状は無い。

【歯根破折】<症例4>(図1825
臨床の現場で良く遭遇する難題は歯根破折である。予測困難でありコントロールもほぼ不可能、抜歯に至るケースも多いため、後手に回った際の対応にはいつも頭を悩ませられる。
最近の歯質接着の向上により、歯根破折にも対応できる可能性が高まってきたように思う。だが、歯根破折歯において確実な接着を成立させることは実は極めて困難である。何故なら、接着面となる破折面は汚染されていることが殆どであり、接着を行う環境は歯肉縁下もしくは骨縁下なので、滲出液のコントロールや防湿が難しいためである。破折歯の接着の際に重要となる点は、①被着面をなるべく薄く形成する(拡大鏡下にて超音波スケーラーを使用)、②防湿のコントロール(エンド用マイクロバキュームチップと止血剤の使用。防湿が不可能であれば再植を考える)、③接着後の確実な固定、④硬化後の余剰セメントの除去(プレーニング)であると考えている。
このような環境下にて接着を成立させることのできるマテリアルは、スーパーボンドが最良であると思う。筆者はスーパーボンド混和クリアとクイックモノマー液をマイクロシリンジにて注入、クランプにて固定、硬化させた後、破折線部の余剰セメントを除去し、接着不良な界面を象牙質ごと一層削合するために、超音波スケーラー、グレーシーキュレット、カーバイドバーを用いてプレーニングを行っている。

  • 2013.1.17 6 口腔内写真咬合面観。咬合時の疼痛を訴え来院。近遠心的に完全に破折していた。
    図18 2013.1.17 6 口腔内写真咬合面観。咬合時の疼痛を訴え来院。近遠心的に完全に破折していた。
  • 破折面をわずかに形成し、スーパーボンド(混和クリア)にて接着。
    図19 破折面をわずかに形成し、スーパーボンド(混和クリア)にて接着。
  • 破折面接着後の咬合面観。この後に早急に根管治療へと移行した。
    図20 破折面接着後の咬合面観。この後に早急に根管治療へと移行した。
  • 2013.1.22 破折面接着後のデンタルX線写真。分岐部から近心根周囲にかけて骨透過像を認める。
    図21 2013.1.22 破折面接着後のデンタルX線写真。分岐部から近心根周囲にかけて骨透過像を認める。
  • 2013.2.25 根管充填後のデンタルX線写真。SBシーラーにて根管充填を行った。
    図22 2013.2.25 根管充填後のデンタルX線写真。SBシーラーにて根管充填を行った。
  • 2013.9.4 6 最終補綴物仮着後の口腔内写真咬合面観。テンポラリークラウンにて十分に経過観察後、補綴修復を行っている。
    図23 2013.9.4 6 最終補綴物仮着後の口腔内写真咬合面観。テンポラリークラウンにて十分に経過観察後、補綴修復を行っている。
  • 6 最終補綴装着時のデンタルX線写真。骨吸収像の改善を認める。
    図24 6 最終補綴装着時のデンタルX線写真。骨吸収像の改善を認める。
  • 2014.12.26 6 デンタルX線写真。根管充填より約2年経過しているが歯周組織に変化は認められない。
    図25 2014.12.26 6 デンタルX線写真。根管充填より約2年経過しているが歯周組織に変化は認められない。

おわりに

以上、当院にて行っている歯面接着を応用した根管治療の一部をご紹介させて頂いた。接着の応用により、簡単で且つ高い総合点が取れるような治療法、いわゆる『いいとこ取り』な治療が可能になってきたように思う。
既存のやり方やシステムに捉われない、より多くのメリットを得ることのできる『いいとこ取り』な治療を具現化するにあたっては、スーパーボンドは有効なマテリアルである。スーパーボンドは暫間固定だけでなく、いろいろな治療に使用できる。応用範囲も広く、このシステム一つで多くのことができ、GPにとって有り難い材料の一つと言えよう。

参考文献
  • 1)Torabinejad M, Ung B, ketterring JD;In vitro bacterial penetration of coronally unsealed endodontically treated teeth. J Endod,16;566-569,1990.
  • 2)Webber RT, del Rio CE, Brady JM,Segall RO. Sealing quality of a temporary filling material. Oral surgery,oral medicine,and oral pathology ; 46:123–130.1978.
  • 3)Ando.N ,Hoshino E ;Predominant obligate anaerobes invading the deep layers of root canal dentin. Int Endodo J,23;20-27,1990.
  • 4)Garza,E.G.,et al., Cytotoxicity evaluation of methacrylate-based resins for clinical endodontics in vitro. J Oral Sci,54(3);P213-217,2012.
  • 5)Incidence of accessory canals in Japanese anterior maxillary teeth following root canal filling ex vivo.Adorne CG.,Yoshioka T.,Suda H.Int Endod J43:370-376,2010.

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