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153号 SUMMER 目次を見る

Clinical Report

即時荷重におけるオステルISQ アナライザの有効利用

日本大学松戸歯学部臨床教授/放射学兼任講師 東京都練馬区医療法人社団庸明会つきおか歯科医院院長 月岡 庸之

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目 次

即時荷重とインプラント固定性の評価

近年、インプラント治療においては、治療期間の短縮や早期の機能回復を確立するため、従来の荷重時期までのさらなる短縮が試みられている。
多くの研究者1)によって即時荷重が成功するための必要条件が報告されているが、共通した重要事項としてはインプラント埋入時の初期固定の確保が挙げられる。そのためインプラント埋入部位に炎症がなく骨量と骨質は良好な状態である必要がある。またインプラント表面はSLA表面のような微小粗面が望ましい2)。また初期固定の獲得については数値的な評価が望ましい3)。臨床においてインプラント固定性の数値的評価検査で求められる条件は、非観血的非破壊的低侵襲検査であること、インプラント埋入時及び埋入後でも同条件で計測可能なこと、計測の再現性があること、また各種のインプラントで計測可能なことである。
現在この条件を満たすものとしては、オステルISQアナライザがあげられる(図1)。この装置は磁気を応用しインプラントの動揺度を計測する共鳴振動周波数分析装置であり、動揺度はインプラントの共鳴振動周波数(RF値)を係数変換計算したインプラント安定指数(ISQ値Implant Stability Quotient)で表され、1から100の指数で表示される。現在の文献的評価としてはISQ値が60未満の場合、低い安定性、60−70は中等度の安定性、70を超えると高い安定性とされる(図2

  • オステルISQアナライザ。外科処置時でも治癒期間中でも計測が可能。
    図1 オステルISQアナライザ。外科処置時でも治癒期間中でも計測が可能。
  • ISQ値とインプラント安定性の関係性を示す。
    図2 ISQ値とインプラント安定性の関係性を示す。

現在の荷重プロトコル

荷重時期の予測と決定は全体治療計画をたてる上で臨床的に重要な要因となる。そのため正確な荷重プロトコルの理解とインプラント安定性の評価が最重要となる。現在の荷重プロトコルは、医療エビデンスの判断基準として用いられるCochraneレビューでEspositoらが報告したシステマティックレビューによっている(図3

即時荷重:
インプラント埋入後1週間以内になされる荷重
早期荷重:
インプラント埋入後1週間から2ヵ月の間になされる荷重
通常荷重:
インプラント埋入後2ヵ月を超えてなされる荷重

荷重時期に影響を与えるのは患者の健康状態や咬合機能状態や歯周組織状態といった全体因子の他、計画されたインプラント部位の骨質及び骨量状態、インプラントのサイズと形状、インプラントの表面性状及び初期固定性といった局所因子である。これらの因子は相互に関連性を保っておりインプラント治療においては継続的にこれらの計測を行うことで予測可能な治療結果を導くことができる。即時荷重治療を施行した場合、全体の治療期間の短縮のみならず、即時の機能改善、審美回復、歯周組織の保全等が図られるものも多く、症例によっては有益性も高くなるものもある。しかし、大きな咬合負担を必要とされる臼歯部領域において即時荷重を行うことは、早期の高い失敗率の報告4)もあり、即時荷重の安全性とリスクを明確にする必要性がある。

  • 現在の荷重分類。即時、早期、通常荷重の3種類となっている。
    図3 現在の荷重分類。即時、早期、通常荷重の3種類となっている。

研究の目的と方法

以上をふまえ筆者らは、未だ検証が十分ではない臼歯部の部分欠損に対する即時荷重を行い、インプラントの経時的固定性をISQ値で評価しその有効性を検証し報告した5)
対象は17部位31本のインプラント。即時荷重可能な初期固定性の指標として埋入トルクとISQ値の計測を行った。埋入トルク15N/cm以上、ISQ値60以上を初期固定の指標とした。その指標を満たしたインプラントに埋入直後、上部構造を装着し即時に荷重を開始した。
インプラントは異なった直径の物が含まれていた。直径内訳は4.1mmが18本、4.1/4.8mm のルートフォームが5本、4.8mm(ネック部同径)が1本、4.8mm(ネック部6.5mm)が7本であった。長さは8mmが4本、10mmが16本、12mmが11本であった。
埋入トルクの計測は、トルクコントロールデバイスを用いて15N/cm以下、15~35N/cm、35N/cm以上の3つの領域で測定した。ISQ値は埋入時を基準として、1週、2週、6週、12週、24週の時点で測定した。統計学的比較評価として,下記の4項目を行った。

①ISQ値の分布と経時的変化
②インプラントタイプ別ISQ値の経時的変化
③インプラントの長さ別ISQ値の経時的変化
④埋入トルク別ISQ値の経時的変化

なお有意差の検定にはマンホイットニーp検定を用いた。成功基準は治療期間6ヵ月を通じてインプラントの動揺、痛み、不快感がないことを指標にした。

結果

①埋入インプラントのISQ値分布は65-69の群が最も多く(35.3%)、最大値は88、最小値は53、平均68.6だった(図4)。ISQ値の経時的変化は全平均において第2週目で最低値を示した。そこから緩やかな増加状態を示した。ほぼ18週で埋入時と同じ数値近辺まで回復し、後は上昇傾向が認められた(図5)。
埋入時の値と2週目の値、1週目の値と2週目の値、2週目と24週目の値には統計学的有意差(p<0.05)が認められた。即時荷重を施行したインプラントの24週後の生存率は100%であった。
②インプラントタイプ別ではルートフォームタイプのみ6週後にISQ値の上昇を認めたが統計学的有意差を認めず、インプラントの形態の違いや直径の違いによる経時的ISQ値において統計学的有意差は認められなかった(図6)。
③インプラントの長さ別による経時的ISQ値において統計学的有意差は認められなかった(図7)。
④埋入トルク別ISQ値の経時的変化をみると、埋入トルクによるISQ値の統計学的有意差は、各計測時点において認められなかった(図8)。

  • ISQ値の分布は65-69の群が最も多く最大値は88、最小値は53、平均68.6だった。
    図4 ISQ値の分布は65-69の群が最も多く最大値は88、最小値は53、平均68.6だった。
  • ISQ値の経時的変化は全平均で第2週目を最低値とし、ほぼ18週で回復した。
    図5 ISQ値の経時的変化は全平均で第2週目を最低値とし、ほぼ18週で回復した。
  • ISQ値の経時的変化は、インプラントの形体による相違が認められない可能性がある。
    図6 ISQ値の経時的変化は、インプラントの形体による相違が認められない可能性がある。
  • インプラントの長さによって経時的なインプラントの安定性に差が認められない可能性がある。
    図7 インプラントの長さによって経時的なインプラントの安定性に差が認められない可能性がある。
  • 埋入トルクとISQ値は相関関係がないことを示唆している。
    図8 埋入トルクとISQ値は相関関係がないことを示唆している。

結果から導きだされたこと

①埋入後のISQ値の低下とその後のゆるやかな上昇というISQ値の推移は多くの埋入後非荷重インプラントのISQ値の計測報告と同様な傾向を示している6)。このことはインプラントがオッセオインテグレーションを獲得するまでに既存骨と新生骨の置換を待たなければならない事実を考えると、理論的な背景は一致している。すなわち即時荷重におけるISQ値の経時的測定はオッセオインテグレーションの状態を評価するのに適していると考えられ、荷重後の最もインプラント固定が不安定な時期の推測も可能と考える。
②③の結果より、インプラントの直径および長さの違いおよびインプラント形状の違いが、埋入荷重後の経時的経過でインプラントの安定性に影響を与えるとはいいがたい。このことは初期固定の獲得があれば経時的な骨の治癒は、微小粗面の様な同一構造である限りインプラント形体に差がなく、同様に起こることが示唆された。以上よりISQ値の測定は、インプラントのデザインや直径、長さに関係なくオッセオインテグレーションの過程を計測することが可能な数値目標といえる。
したがってインプラントデサインや長さは最終補綴物に沿った設計で選択すべきであり、微小粗面を有した形状豊富なシステムからの注意深い長さやデザインの選択が有効と考える。
④埋入トルクとISQ値の関係については明確な相関関係は認められなかった。インプラント埋入後の経時的変化においても、低い埋入トルクと高い埋入トルクのインプラントにおけるISQ値の統計学的有意差は認められなかった。このことから初期固定の評価値として、両者は別個の評価基準として捉えられるべきである。すなわち低いトルク値を示した場合でもISQが一定の値を示した場合、咬合機能時の微小動揺を軽減できるインプラント間の固定があればその後のインテグレーションが獲得可能であると示唆された。その際重要なことはISQ値の注意深い経時的変化の観察であり、埋入時の数値への回復が遅延または認識できない場合はインテグレーションが獲得されていない可能性がある。
すなわち即時荷重のケースにおいてはISQ値の経時的計測がインプラントの機能的荷重と最終補綴の時期決定に有力な診断基準となり得る。

臨床例とISQ計測の注意点

ここでは上顎無歯顎症例に対する即時荷重の症例を呈示しながらISQ値測定の注意点について述べていく。本症例は咬合不全を主訴として来院した66歳男性(図910)。協議の結果、即時荷重の予定をした。上顎臼歯部の骨量不足に対して両側上顎洞底挙上術(HA使用)を施行(図11)。その後CTデータを基にインプラントの適正な選択と配置をシミュレーションし(図12)、7ヵ月後に11、14、16、22、23、26部位にインプラントを埋入した(図13)。埋入インプラントは直径4.1mm長さ12mm、SLA表面を使用した。フラップレス埋入のためインプラントのプラットフォームの明視は困難であるがオステルの計測ペグ先端は各種インプラントに対応したスクリュー形状になっており手指感覚にて定位置に固定しやすい(図14)。埋入時全てのインプラントはISQ値70以上を呈したため予定通りテンポラリーブリッジを装着し、同日即時荷重を開始した(図15)。この際、治療期間中ISQ値の計測が必要となり繰り返し補綴物を外す必要があるためスクリュー固定のテンポラリーが望ましい。ISQ値の計測は埋入後2週間間隔で12週後まで行った。全てのISQ値が2週後に最低値を示し、その後6週目には回復し、ほぼ埋入時の数値に到達した(図16)。
先記したように即時荷重の場合、ISQ値の経時的な変化を観察することが重要であり少なくとも通常荷重時期までの計測が必要と考える。
荷重後8週後の口内法X線写真でインプラント周囲及びネック部の骨吸収像は認められない(図17)。その後12週までにISQ値は安定し、臨床的に動揺疼痛は認められなかった(図18)。14週後最終印象を開始し最終補綴物を装着した(図1920)。荷重開始後5年を経過するがインプラント周囲骨も安定し臨床的に問題なく経過良好である(図2124)

  • 初診時口腔内写真。無歯顎状態を示す。
    図9 初診時口腔内写真。無歯顎状態を示す。
  • 初診時パノラマX線写真。
    図10 初診時パノラマX線写真。
  • 両側上顎洞底挙上術による骨増生。
    図11 両側上顎洞底挙上術による骨増生。
  • CT検査データを基にしたインプラントシミュレーションソフトによる設計。
    図12 CT検査データを基にしたインプラントシミュレーションソフトによる設計。
  • インプラントの埋入時。デジタルサージカルガイドを使用した。
    図13 インプラントの埋入時。デジタルサージカルガイドを使用した。
  • オステルによるISQ値の測定。
    図14 オステルによるISQ値の測定。
  • 埋入時テンポラリーブリッジの作製と装着。即時荷重の開始。スクリュー固定が望ましい。
    図15 埋入時テンポラリーブリッジの作製と装着。即時荷重の開始。スクリュー固定が望ましい。
  • ISQ値は2週後に最低値を示し6週目には回復した。
    図16 ISQ値は2週後に最低値を示し6週目には回復した。
  • 荷重後8週後のパノラマと口内法X線写真。骨吸収は認めない。
    図17 荷重後8週後のパノラマと口内法X線写真。骨吸収は認めない。
  • 12週までにISQ値は安定した。
    図18 12週までにISQ値は安定した。
  • 最終印象と咬合採取。
    図19 最終印象と咬合採取。
  • 最終補綴。
    図20 最終補綴。
  • 荷重後1年の口腔内写真。
    図21 荷重後1年の口腔内写真。
  • 荷重後1年パノラマX線写真。骨吸収は認めない。
    図22 荷重後1年パノラマX線写真。骨吸収は認めない。
  • 荷重後5年の口腔内写真。
    図23 荷重後5年の口腔内写真。
  • 荷重後5年パノラマX線写真。骨吸収は認めず安定している。
    図24 荷重後5年パノラマX線写真。骨吸収は認めず安定している。

終わりに

インプラントの表面構造の改善、使用時までの保存方法または新たなインプラントデザインなど、現在も荷重プロトコル改良への周辺環境の改変が進みつつある。しかしながら臨床で最も重要なことは、それらのシステムを使用したときの術者の判断である。そのため正確な診断が不可欠となるが、ISQ値によるインプラント安定性の数字的な評価は重要で、オステルの使用は有効な手段の一つとなる。

参考文献
  • 1) APARICIO, C., RANGERT, B., SENNERBY,L.: Immediate/early loading of dental implants:A report from the Sociedad Espanola de Implantes World Congress Consensus Meetingin Barcelona, Spain, 2002; Clin Inplant Dent Relat Res,5: 57-60, 2003.
  • 2) ROCCI,A., MARTIGNONI,M., GOTTLOW,J. :Immediate loading of Brånemark system TiUnite and machined surface implants in the posterior mandible: A randomized open-ended clinical trial ; Clin Implant Dent Relat Res;5 (suppl 1): 57-63, 2003.
  • 3) MORTON, D., JAFFIN, R., WEBER, H. P. :Immediate restoration and loading of dental implants:Clinical considerations and protocols;Int J Oral Maxillofac Implants,9: Supple:103-108, 2004.
  • 4) ERICSSON, I., NILSON, H., NILNER, K.,RANDOW, K. :Immediate functional loading of Brånemark single tooth implants: An 18-month clinical pilot follow-up study ;Clin Oral Implants Res,11 :26-33,2000.
  • 5) 月岡庸之, 野村智義, 勝山英明, 他:下顎臼歯部部分欠損における即時荷重の短期的評価;神奈川歯学,44-1,74-81, 2009.
  • 6) BAREWAL,R.M.,OATES,T.W.,COCHRAN,D.:Resonance frequency measurement of implant stability in vivo on implants with a sandblasted and acid-etched surface ; Int J Oral Maxillofac Implants,18:641-651, 2003.

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