スマートフォン版サイト

DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Clinical Report
パナビアV5の臨床
愛知県名古屋市開業医療法人メルサ会飯田歯科 飯田 啓介

■はじめに

パナビアという名称をしばらくぶりに聞いて懐かしく思った歯科医師は、少なからずいるのではなかろうか。ここ数年あまり耳にしなくなっていたが、以前ではパナビアといえばレジンセメントの代名詞といっても過言ではなく、国内外を問わず広く知れ渡っていた。
筆者が初めて使用したレジンセメントもパナビアフルオロセメントであった。15年以上問題なく経過した症例を経験し、その信頼度の高さを実感している。
そのパナビアが第5世代として新しく開発されたと聞くと、思わず期待してしまう臨床家も多いと思う。
オールセラミックスの普及に伴いレジンセメントを使用する機会は増加し、臨床上なくてはならないものとなった。クラレノリタケデンタルは衆知のごとくレジンセメントの開発に長い歴史を有しており、これまでにも信頼できる多くの製品を市場に送り出してきた。
近年の接着技術の進歩には目を見張るものがあり、接着力が向上しただけでなく、操作性も著しく改善され、より簡便に使用できるシステムが登場している。これまでもオールセラミックスの接着に使用できるセメントとして、同社からは最も歴史の長いパナビアF2.0、審美性を追求し様々なシェードを揃えたクリアフィルエステティックセメント、簡便性を重視したクリアフィルSAセメントプラスオートミックスとSAルーティングプラスが用意されており、様々な状況に対応できるようになっていた。
その一方でレジンセメントの問題点として、象牙質への接着の弱さが指摘されていた。修復物の形態にもよるが、クラウンではそのほとんどが象牙質との接着であり、ラミネートベニアにおいても象牙質の露出が多くなると予後が不安となるためこの点の改善が望まれていた。
この度新しく開発されたパナビアV5(図1)は、象牙質への接着力が向上した(図2)ことは大いに期待できる1)
さらに天然歯と同様の蛍光性を有する(図3)だけでなく耐変色性も高いためとても審美性に優れ、その上簡便性も兼ね備えた三拍子揃ったものである。新開発のクリアフィルセラミックプライマープラスはジルコニアや金属にも使用可能となり、応用範囲が広がったことは大変ありがたい。
最近の文献によると、ジルコニアや二ケイ酸リチウムなどに代表される高強度セラミックスは、必ずしも接着が要求されるわけではない2)、との見解もみうけられる。しかし、補綴物は長期間口腔内で機能することを期待されるため、可能な限り耐久性の高いセメントを使用したいと考える。そういった観点から、二ケイ酸リチウムやジルコニアにはもちろんのこと、メタルの修復物にもレジンセメントを選択する機会が増加している。
今回、パナビアV5を使用する機会を得て、大変良好な結果が得られたので報告する。

  • 図1 パナビアV 5 レジンセメント。
    図1 パナビアV 5 レジンセメント。
  • 図2 象牙質への接着力が飛躍的に向上した。
    図2 象牙質への接着力が飛躍的に向上した。
  • 図3 天然歯と同程度の蛍光性を有する。
    図3 天然歯と同程度の蛍光性を有する。

■臨床応用

近年、臼歯部におけるセラミック修復では、フルジルコニアを選択する機会が増加している。
症例1は、メタルクラウンが装着されている6 に対する審美的な補綴治療を計画した(図4)。術前のメタルクラウンには多数のファセットが観察されることから、パラファンクションの存在と強い咬合力が推測できる。さらに7 が欠損していることからも、同歯にはかなりの負荷がかかっていると考えられた。このような理由からフルジルコニアを選択した。
クラレノリタケデンタルのカタナジルコニアMLは、十分な強度があるうえにステイニング法で審美的な補綴物を作成できるため、本症例のようなパラファンクションがあるパワータイプの患者の臼歯部においては第一選択である。
また、このような患者では補綴物の脱離も起こりやすいため強力な接着が求められる。
通法に従って根管処置後ファイバーコアを作製し、プロビジョナルレストレーションで経過観察した後印象採得を行った。
新開発のクリアフィルセラミックプライマープラスは、シリカ系セラミックスのみならず、ジルコニアや金属などにも有効なものとなった(図5)。一つのプライマーで種々のマテリアルに対応できることは、一般臨床医としては大変ありがたいことである。
また、歯面処理も同様に1液性のパナビアV5 トゥースプライマーを20秒間塗布し乾燥するだけであるため、極めて簡便なものである(図6)。処置のステップが少ないことはテクニカルエラーの減少につながるだけでなく、チェアタイムを短縮できるため患者の負担も軽減できる。
歯面処理が完了したらクラウン内面に少量のパナビアV5クリアを塗布、支台歯に圧接し余剰セメントの流出が完全に終わるまで保持する。5秒ほど光照射して予備重合させ(図7)、余剰セメントを除去する(図8)。この時点であれば余剰セメントの除去を簡単に行えるが、誤って10秒以上光照射するとセメント除去は困難を極めるため要注意である。
その後マージン部に10秒間光照射し、さらに3分間静置し最終硬化を完了する。図9は術直後の状態を示すが、歯肉の損傷もほとんどなく良好な結果が得られた。
現在では欠損補綴にはインプラントが第一選択と考える時代となったが、下顎の前歯部においてはブリッジを選択することが多い。
症例2は、22欠損に対して、33を支台歯とするブリッジを計画した(図10)。欠損部の距離は下顎前歯3本分であった。カタナジルコニアブリッジは本来連続するポンティックは2本までが適応となるため、本症例は適応外と考えられる。
しかし本症例の欠損部の距離は上顎前歯部などの他部位であれば2本分に相当すること、さらにアンテリアカップリングを獲得するため前方に傾斜する形状となり連結部の厚みを十分に確保できたことから、適応症であると判断した。
ブリッジの欠点の一つとして、部分的な脱離があげられる。下顎前歯部のブリッジでは、外側方への応力が加わることは少ないため、部分的脱離は比較的少ないと思われるが、万が一にもそれが生じたときには致命傷になりかねない。そのため可及的強力な接着が望まれることはいうまでもない。
通法に従いカタナジルコニアによるブリッジをレイヤリング法で作成した。支台歯の色調に問題はなかったため、パナビアV5クリアを用いて接着し(図11)、良好な結果が得られた(図12)。
成人矯正後の補綴処置においても強固な接着が求められことがしばしばある。小臼歯抜歯を伴う矯正治療後に少量のスペースが残存することがある。
最近ではこのような場合の修復も、歯質温存の観点から可能な限り低侵襲な処置が推奨されている3)
症例3は、46 の間に1.5 mmほどのスペースが存在したため、4 には支台歯無形成の隣接面ベニアを、6 にはセラミックアンレーを計画した(図13)。二ケイ酸リチウムを用いたプレッサブルセラミックにステイン法で作製した(図14)。
本症例におけるラミネートベニアは無形成であり維持はほぼ皆無であるため、強力な接着が必須となる。また6のセラミックアンレーもテーブルトップベニアに近い形状であり、しかもその接着面のほとんどが象牙質であったため、象牙質への接着力が向上したパナビアV5は適したセメントと思われる。パナビアV5クリアで接着し、良好な結果が得られ患者の満足度は高いものとなった(図15)。
このケースで筆者が驚かされたのは、部分的なセラミック修復物の接着にパナビアV5を用いた場合に得られる審美的な結果である。蛍光性が天然歯と類似しているためか、修復物と歯質の境界がとても分かりづらくなるのが特徴的であった。
一般的にはセラミックインレーやアンレーの装着には、クリアのレジンセメントが推奨される。実際、筆者もクリアを選択することも少なからずあり、症例3の6 のセラミックアンレーもパナビアV5クリアを用いて接着した。しかし歯質の色調によってはクリア以外を選択した方が良い場合もある。
症例4は、6 にメタルインレーが装着されていたが、二次カリエスを認めたためセラミックアンレーでの治療を計画した(図16)。二ケイ酸リチウムのセラミックアンレーをパナビアV5ユニバーサルを用いて装着した(図17)。術後の咬合面観からも歯質とセラミックの境界がほとんど認識できない状態に仕上げることができた(図18)。
最近ではインプラント補綴にもオールセラミッククラウンを選択する機会が増加している。
臨床的に高頻度で遭遇するのは、臼歯部単独欠損に対するインプラント補綴である。このような状況では、チタンベースにフルジルコニア、あるいは二ケイ酸リチウムのステイニング法で作成したクラウンを接着する方法が有効である。
この方法の場合はオペーキーなセラミックでは審美的な補綴物の作成が困難なため、光透過性を有するセラミックを選択する必要がある。しかしここで問題となるのは、金属であるチタンベースが内面に存在するため、補綴物全体が暗くなりやすいことである。パナビアV5オペークを用いることでこの問題を解決できる。
症例5でその詳細を解説する。6 にインプラントを埋入、オッセオインテグレーション確認後(図19)、通法に従ってチタンベースとセラミッククラウンを作製した(図20)。チタンベースとセラミッククラウンの接着面にクリアフィルセラミックプライマープラスを塗布した(図21、22)。
その後、チタンベースとセラミッククラウンをパナビアV5オペークで接着した(図23)。余剰セメントを小筆で除去し、3分間静置し最終硬化を完了する。チタンベースによる暗さは全く認められず良好な結果が得られた(図24)。
今回供覧したように、種々のオールセラミック修復物とパナビアV5を組み合わせることで、様々な状況に対応できると考える。
現在のところ限られた症例数を短期間の経過を観察しただけであるが、その物性と操作性は大変良好であり、さらに知覚過敏なども認められずとても満足の得られるものであった。
今後レジンセメントの使用機会はますます増加すると考えられるため、パナビアV5の登場は革新的であり、私の臨床でのレジンセメントの第一選択になったことはいうまでもない。

  • 図4 症例1、術前。6 にカタナフルジルコニアクラウンを計画した。
    図4 症例1、術前。6 にカタナフルジルコニアクラウンを計画した。
  • 図5 クラウン内面にクリアフィルセラミックプライマープラスを塗布し乾燥する。
    図5 クラウン内面にクリアフィルセラミックプライマープラスを塗布し乾燥する。
  • 図6 支台歯にトゥースプライマーを20秒間塗布し乾燥する。
    図6 支台歯にトゥースプライマーを20秒間塗布し乾燥する。
  • 図7 パナビアV5クリアでクラウンを装着後5秒間光照射し予備重合させる。
    図7 パナビアV5クリアでクラウンを装着後5秒間光照射し予備重合させる。
  • 図8 半硬化した余剰セメントを探針で除去する。
    図8 半硬化した余剰セメントを探針で除去する。
  • 図9 術直後、歯肉の損傷もほとんど認めず良好な結果が得られた。
    図9 術直後、歯肉の損傷もほとんど認めず良好な結果が得られた。
  • 図10 症例2、3 3 支台のジルコニアブリッジを作製した。
    図10 症例2、33支台のジルコニアブリッジを作製した。
  • 図11 パナビアV5クリアで装着した
    図11 パナビアV5クリアで装着した。
  • 図12 術後、経過良好である。
    図12 術後、経過良好である。
  • 図13 症例3、4 と6 の間に1.5 mmの空隙がみとめられる。
    図13 症例3、46 の間に1.5 mmの空隙がみとめられる。
  • 図14 4 には支台歯無形成のラミネートベニア、6にはセラミックアンレーを作製した。
    図14 4 には支台歯無形成のラミネートベニア、6にはセラミックアンレーを作製した。
  • 図15 術後、パナビアV5 クリアで装着したことで自然観ある仕上がりが得られた。
    図15 術後、パナビアV5 クリアで装着したことで自然観ある仕上がりが得られた。
  • 図16 症例4、術前。6 にセラミックアンレーを計画した。
    図16 症例4、術前。6 にセラミックアンレーを計画した。
  • 図17 セラミックアンレーをパナビアV5ユニバーサルで装着した。
    図17 セラミックアンレーをパナビアV5ユニバーサルで装着した。
  • 図18 術後、経過良好である。
    図18 術後、経過良好である。
  • 図19 症例5、6 の欠損部にインプラント補綴を計画した。
    図19 症例5、6 の欠損部にインプラント補綴を計画した。
  • 図20 チタンベースとセラミッククラウンを作製した。
    図20 チタンベースとセラミッククラウンを作製した。
  • 図21 セラミッククラウン内面にクリアフィルセラミックプライマープラスを塗布し乾燥。
    図21 セラミッククラウン内面にクリアフィルセラミックプライマープラスを塗布し乾燥。
  • 図22 チタンベースの接着面もクリアフィルセラミックプライマープラスを塗布し乾燥。
    図22 チタンベースの接着面もクリアフィルセラミックプライマープラスを塗布し乾燥。
  • 図23 パナビアV5 オペークを用いて接着した
    図23 パナビアV5 オペークを用いて接着した。
  • 図24 術後、良好な結果が得られた。
    図24 術後、良好な結果が得られた。
参考文献
  • 1)アラバマ大学(米国)IADR, 2015.
  • 2)Kern M, Cementation procedures forceramics. In: High-strength ceramics interdisciplinaryperspective, p172-186,Quintessence 2014.
  • 3)Andrade OSD, et al., Adhesive oral rehabilitation:Maximizing treatment optionswith minimally invasive indirectrestorations. Quintessence DentalTechnology 37: 71-93, 2014.

デンタルマガジン 154号 AUTUMN