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総合病院の一般歯科における医科歯科連携と有病者の歯科治療に対する取組み

日本医科大学千葉北総病院 病院教授歯科部長 鴨井 久博

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はじめに

あらゆる機器や装置が小型化、ポータブル化される時代である。それは歯科の領域でも例に漏れず、入院患者に対するベッドサイドでの歯科治療、訪問歯科診療など、さまざまな場面でそうした機器や装置の普及が進んでいる。日本医科大学千葉北総病院歯科(歯科部長・鴨井久博教授)でも2015年7月に可搬式歯科用ユニットやポータブル歯科用X線装置などを活用し、周術期口腔機能管理に特化した「周術期室」を開設。1994年の病院創設以来、総合病院の歯科として医科歯科連携を積極的に行ってきた千葉北総病院歯科の有病者に対する取組みをクローズアップした。

総合病院の一般歯科における医科歯科連携

総合病院の歯科といえば、口腔外科のイメージが強いが、千葉北総病院歯科は一般歯科だ。歯周治療からインプラント治療までさまざまな症例を扱っている。
「総合病院の歯科なので、ほとんどの患者さんは口腔内以外にも何かしらの疾患を抱えています。また、当科は一般歯科であるため、広く患者さんを診なくてはなりません。そのため、各診療科とのタイアップは必須で、医科歯科間で情報を共有しながら、全身管理のもとで診察に当たっています。そうしたこともあり、当院には医科と歯科の隔たりがなく、それぞれの診療科がそれぞれの専門分野で、できる範囲の協力を行っています」と鴨井教授は話す。
歯科には毎日、電子カルテを通じて各科からコンサルトが届く。他科からの依頼で行う診療は周術期の感染予防から交通事故による外傷性破折など、実にさまざまだ。「例えば、救急の交通外傷の方や生命維持装置を装着した方など、歯科まで移動することが困難な患者さんの場合、我々が他科へと出向きます」。

  • スタッフは歯科医師が10名(うち3名は研修医)、歯科衛生士が4名。周術期室にはローテーションで医師と歯科衛生士を1人ずつ毎日配置している。
    スタッフは歯科医師が10名(うち3名は研修医)、歯科衛生士が4名。周術期室にはローテーションで医師と歯科衛生士を1人ずつ毎日配置している。

ランドリー室を改装し、省スペース、低コストで新たな診察室を

2012年度より歯科診療報酬に「周術期口腔機能管理」の項目が新設された。千葉北総病院でも同年から周術期口腔機能管理の取り組みを開始し、2年間で2000名以上の患者の治療および口腔ケアを行ってきた。当然、外来もこれまで通り行っており、スムーズな歯科運営のためには診察室の拡張が課題となった。
「周術期口腔機能管理の診療報酬は歯科だけでなく医科の点数も上がるシステムです。つまり、経営面でいえば、それだけメリットが増したといえます」と鴨井教授。
保険導入、そして高まる社会的ニーズに対応すべく、「周術期室」の開設へと至るわけだが、決して一路順風ではなかった。「もともと診察室の拡張を想定して建物が設計されていたわけではありません。また、新しく診察室を作る場合、コンプレッサーの設置も必要になり、一大工事となってしまいます。スペース的にもコスト的にも既存の建物に新たな診察室を作ることは容易ではありません」。
そこで目をつけたのが利用者の少ないランドリー室だった。4畳半ほどのスペースに装備を極力外したチェア・ユニットを設置、ユニットは可搬式歯科用ユニットでまかなうことに。同時にポータブル歯科用X線装置も導入した。
「いかにコンパクトな診察室を作れるかが課題でした。可搬式のユニットやポータブルのX線装置は狭いスペースで、しかも設備投資を抑えながら普段と変わらない診療を実現できるので大変助かりました」。
治療は周術期口腔機能管理の術後治療をはじめ、病室で行うことも多い。その際にも可搬式歯科用ユニットは活躍する。「以前は、患者さんが歯科へ移動できるようになるまで現状を維持するための処置しか行えませんでした。しかし、可搬式ユニットは女性職員でも楽に運べ、タービンやバキュームの威力も通常のユニットに比べて遜色ありません。今では必要な治療が病室でも不足なく行えるようになりました」。

全身麻酔下で手術を実施するすべての患者を対象に

現在、周術期口腔機能管理の保険対象者は悪性腫瘍の手術を行う患者など一部に限られている。しかし、千葉北総病院では今年に入り、保険の有無に関わらず全身麻酔下で手術をするすべての患者を対象に実施することを全科一致の見解として決定した。その背景には特に麻酔科からの要望が強くあったという。
「全身麻酔時の気管挿管の際に補綴物が外れたり、弱った歯が破折したりすることがあり、どんな症例であれ歯科が必ず事前チェックを行うことになりました。また、そうした医療安全の観点とは別に、最近では口腔感染巣が全身の状態に影響を及ぼすことが知られており、これらのことを鑑みて対象者を広げることにしたのです」。
現在、周術期室では1日に10名前後の患者を診察している。周術期室の開設は「今までやってきたことの結果」と鴨井教授は話す。「つまり、チーム医療の一員として患者さんの病気に携わってきた、そうした取組みが認められた結果だと思っています」。
周術期室の運用は始まったばかりだ。医科や事務方との連携、あるいは歯科スタッフのローテーションなど、よりスムーズな運営システムを構築することで、今後はさらに多くの患者の口腔機能管理を行う予定だという。開院21年目の新たな試みに鴨井教授は情熱を注ぐ。

  • 北総鉄道・京成電鉄「印旛日本医大」駅から無料送迎バスが運行している。敷地内にヘリポートを有すなど、地域の救急医療にも貢献している。
    北総鉄道・京成電鉄「印旛日本医大」駅から無料送迎バスが運行している。敷地内にヘリポートを有すなど、地域の救急医療にも貢献している。
  • ランドリー室を改装した周術期室。
    ランドリー室を改装した周術期室。装備を極力外した診療ユニットは車椅子からの移乗もスムーズに行える。
  • 周術期室にて可搬式歯科用ユニットを使用した治療の様子。
    周術期室にて可搬式歯科用ユニットを使用した治療の様子。周術期の術前治療は主にここで行っている。
  • 周術期室にてポータブル歯科用X線装置(モリタ社:ポートエックスⅢ)による撮影の様子。
    周術期室にてポータブル歯科用X線装置(モリタ社:ポートエックスⅢ)による撮影の様子。デジタルカメラのような操作で鮮明なX線画像が撮影できる。
  • 可搬式歯科用ユニット(モリタ社:ユーティリオⅡ)
    可搬式歯科用ユニット(モリタ社:ユーティリオⅡ)はコンプレッサーや給水・汚水タンクなど、すべてが内蔵されたオールインワンモデルでありながら、移動もスムーズに行える。
  • 可搬式歯科用ユニットを使用した病室での治療の様子。
    可搬式歯科用ユニットを使用した病室での治療の様子。治療の際には看護師が付き添う。病床から動けない患者さんでも通常と遜色ない歯科治療が可能だ。

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