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Clinical Report

i-TFCシステムを用いた予知性の高い支台築造(第3報)~システムリニューアルとさらなる進化~

埼玉県川口市 デンタルクリニックK 渥美 克幸

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目 次

はじめに

2003年にファイバーポスト併用レジン支台築造(以下FPC)が我々の日常臨床に登場し、すでに10年以上が経過している。
従来から行われてきた鋳造支台築造や既製金属ポスト併用レジン支台築造と比較して、歯根破折など抜歯に直結するトラブルの発生頻度が低い(図1)ということもあり、筆者の臨床では支台築造の第一選択となっている。
FPCにおいてコンポジットレジンとグラスファイバーを併用する目的の一つは、前者の低い曲げ強さを後者で補強することにある。
一般的に補強材の引っ張り強さに依存する設計では、補強材を最外周に配置するのが原則だといわれている1)。FPCにおける補強材はグラスファイバーであるため、既製金属ポストのように根中央に位置づけるのではなく、なるべく引張り応力がかかる外周に配置するべきである。さらに歯頸部付近での破折を防止するため、垂直的には歯肉縁ラインをまたぐようにグラスファイバーを配置するのが一番効果的ではないかと考えている(図2)。また、このようなファイバーの配置についての設計と実技を真鍋らは「ファイバーアレンジメント」と呼んでいる1)
i-TFCシステムはこのような構造力学に則った支台築造が可能な唯一のシステムとして2007年に発売され、その後もラインナップの拡充を続けている。
2015年8月のリニューアルでは新しいアイテムがいくつか追加されている(図3)が、本稿では特に「アクセサリーファイバー」と「ファイバーポストプライマー」にフォーカスを当てる。
なお、i-TFCシステムを用いた支台築造の基本的な考え方は以前と全く変わらない。その点については拙著2、3)をご参照いただきたい。

  • 図1 ガラス管を歯根と見立て、左が既製金属ポスト、右がグラスファイバーポストを使用した時のイメージ。左はガラス管(=歯根)の破折が認められる(サンメディカル提供)。
    図1 ガラス管を歯根と見立て、左が既製金属ポスト、右がグラスファイバーポストを使用した時のイメージ。左はガラス管(=歯根)の破折が認められる(サンメディカル提供)。
  • 図2 緑枠の部分を補強する、という意識をもつことが大切である。水平的には全周かつ最外周に、垂直的には歯肉縁ラインをまたぐように配置するのが理想である。
    図2 緑枠の部分を補強する、という意識をもつことが大切である。水平的には全周かつ最外周に、垂直的には歯肉縁ラインをまたぐように配置するのが理想である。
  • 図3 新しくなったi-TFCシステムセット。コアレジンのフロアブル化や収納ケースの追加など、より利便性が高まった。
    図3 新しくなったi-TFCシステムセット。コアレジンのフロアブル化や収納ケースの追加など、より利便性が高まった。

アクセサリーファイバーを利用したファイバーアレンジメント

i-TFCシステムの大きな特徴の一つにスリーブの存在がある。これをポストと組み合わせるだけで外周配置を達成できる。また、スリーブを使用してもまだスペースが残る場合、半切したハーフスリーブをその部分に挿入することでさらなる外周配置が可能となる(図45)。しかし、スリーブは2mmφなので太すぎて挿入できない場合があり、またその独特な形状のため操作に慣れが必要でもあった。
このような点を解消するために、0.5mmφのアクセサリーファイバーが発売された(図6)。
使用する際のイメージとしては側方加圧根管充填時のアクセサリーポイントに近く、メインポストの周りのスペースを埋め尽くす感じで挿入するとよい(図78)。また、前述のハーフスリーブのように、さらなる外周配置を狙う際に使用してもよい。
なお、アクセサリーファイバーは必ずメインとなる光ファイバーポストと併用する必要がある。これは、アクセサリーファイバーには光ファイバーによる導光機能が組み込まれていないからである。

ファイバーポストプライマーとピクルステクニック

ファイバーポストと支台築造用レジンを接着させる際、通常は接着前処理としてシランカップリング処理が行われるが、i-TFCシステムのファイバーポストやスリーブは前処理をしなくても高い接着強さが出るように設計されている。これはガラス繊維を編み込むことでできる表面の凹凸が機械的嵌合効果を発揮するためである(図9)。
しかし筆者は少しでもよい結果を得たいと考え、化学的接着の獲得やぬれ性の向上のためにあえてシランカップリング処理を行っていた。
ただ、その効果を最大限に発揮させるためには加熱処理等を追加する必要があること、また、前述の外周配置を狙おうとすると複数本のファイバーポストやスリーブを準備する必要があること、さらに一度に複数本の支台築造を行うこともあり、全てのファイバーに対してきちんと前処理をするために求められる労力は膨大だった。
このような経験から、可能な限り簡便かつ作り置きができる前処理方法はないかと色々模索していたが、最終的には真鍋が提唱した、ファイバーポストやスリーブを低粘度レジンモノマーに浸漬し遮光状態で保存するという方法4)にたどり着いた。
この方法の目的は、時間をかけてファイバーポストやスリーブにモノマーを拡散浸透させることで支台築造用レジンとのぬれ性を向上させ、モノマー重合時の機械的嵌合により接着耐久性を向上させることにある。
また筆者はこの方法をモディファイし、光重合滑沢材に浸したファイバーポストやスリーブを遮光瓶の中で保存する方法で前処理を行っていた2、5)
今回発売されたファイバーポストプライマーは、このような真鍋や筆者の考え方に沿って開発されたプライマーである(図10)。
本製品はメーカーの指示通りファイバーポストやスリーブに塗布するだけで支台築造用レジンとの接着強さを向上させることができる(図11)。
しかし筆者は、遮光瓶にファイバーポストプライマーを満たし、その中にカットしたファイバーを浸漬し保存する「ピクルステクニック」による前処理を行っている(図12)。なぜなら、この方法であれば一本ずつプライマーを塗布する手間が省けること、プライマーの塗布がしにくい筒状のスリーブへの対応も簡単であること、そして長時間浸漬してもその効果は変わらないことが判明したためである。
さらに、前処理済みのファイバーを大量にストックしておくことができるため、複数本のファイバーを使用する際でも安定した結果を得ることができ、かつ使いたい時にすぐ使うことができることも利点だと考えている。
ピクルステクニックを行う上での注意点としては、ファイバー表面に接着阻害因子がつかないように清潔な状態で取り扱うこと、浸漬する前にリン酸処理やシランカップリング処理は不要であること、使用前にはモノマー成分をエアーなどで軽く飛ばすこと等が挙げられる。
なお、この方法で前処理をしたファイバーでは試適ができないため、試適専用のファイバーを別途準備する必要がある。

  • 図4 左からi-TFC光ファイバーポスト、スリーブ、ハーフスリーブ(スリーブを歯肉バサミ等で半切したもの)。
    図4 左からi-TFC光ファイバーポスト、スリーブ、ハーフスリーブ(スリーブを歯肉バサミ等で半切したもの)。
  • 図5 ハーフスリーブを活用することでさらなる外周配置が可能となる。
    図5 ハーフスリーブを活用することでさらなる外周配置が可能となる。
  • 図6 アクセサリーファイバーは0.5mmφで導光機能は組み込まれていない。そのため必ず光ファイバーポストと併用する必要がある。
    図6 アクセサリーファイバーは0.5mmφで導光機能は組み込まれていない。そのため必ず光ファイバーポストと併用する必要がある。
  • 図7 アクセサリーファイバーでもスリーブと同等の補強効果を期待できる。どちらを選択する場合も外周配置を意識する。
    図7 アクセサリーファイバーでもスリーブと同等の補強効果を期待できる。どちらを選択する場合も外周配置を意識する。
  • 図8 アクセサリーファイバーは側方加圧根管充填に使用するアクセサリーポイントのようなイメージで使用するとよい。
    図8 アクセサリーファイバーは側方加圧根管充填に使用するアクセサリーポイントのようなイメージで使用するとよい。
  • 図9 i-TFC光ファイバーポスト表面のSEM像。ガラス繊維を編み込むことでできる表面の凹凸が認められる。
    図9 i-TFC光ファイバーポスト表面のSEM像。ガラス繊維を編み込むことでできる表面の凹凸が認められる。
  • 図10 ファイバーポストプライマー。i-TFC光ファイバーポストやスリーブ、アクセサリーファイバーの前処理を簡単確実に行うことができる。
    図10 ファイバーポストプライマー。i-TFC光ファイバーポストやスリーブ、アクセサリーファイバーの前処理を簡単確実に行うことができる。
  • 図11 塗布のみでも長時間浸漬しても効果は変わらないため、前処理済みのファイバーを大量にストックできるという点で、ピクルステクニックは有効だと考えている。
    図11 塗布のみでも長時間浸漬しても効果は変わらないため、前処理済みのファイバーを大量にストックできるという点で、ピクルステクニックは有効だと考えている。
  • 図12 ファイバーの保存にはアロマオイル用の遮光瓶(3mL)を使用している。広口なのでファイバーが取り出しやすく便利である。この状態で冷暗所に保存している。
    図12 ファイバーの保存にはアロマオイル用の遮光瓶(3mL)を使用している。広口なのでファイバーが取り出しやすく便利である。この状態で冷暗所に保存している。

臨床での活用方法

アクセサリーファイバーとファイバーポストプライマーを活用した症例を供覧する(図1324)。

  • 図13 30代男性。
    図13 30代男性。5に対し通法に従い感染根管処置を行った。テンポラリークラウンを接着し隔壁として使用している。根管充填直後の状態を示す。
  • 図14 ポスト形成の状態。80番(0.8mmφ)のプラガーを挿入しガッタパーチャ断面の短径を計測している。i-TFC光ファイバーポストは一番細いものが0.9mmφであり、これ以上ポストを深くしてもファイバーが挿入できない部分が増えるだけになるため、この状態で形成を終了する。
    図14 ポスト形成の状態。80番(0.8mmφ)のプラガーを挿入しガッタパーチャ断面の短径を計測している。i-TFC光ファイバーポストは一番細いものが0.9mmφであり、これ以上ポストを深くしてもファイバーが挿入できない部分が増えるだけになるため、この状態で形成を終了する。
  • 図15 試適専用に用意しているファイバーポストを用いてファイバーアレンジメントを行っている状態。本ケースでは0.9mmφのi-TFC光ファイバーポストを頰舌的に3本並べて配置し、その周りにアクセサリーファイバーを挿入することとした。
    図15 試適専用に用意しているファイバーポストを用いてファイバーアレンジメントを行っている状態。本ケースでは0.9mmφのi-TFC光ファイバーポストを頰舌的に3本並べて配置し、その周りにアクセサリーファイバーを挿入することとした。
  • 図16 ピクルステクニックを用いて接着前処理を行った光ファイバーポスト。アクセサリーファイバーは9本挿入することとした。図16 ピクルステクニックを用いて接着前処理を行った光ファイバーポスト。アクセサリーファイバーは9本挿入することとした。

  • 図17 スーパーボンドを用いた直接法支台築造を行った。アレンジメントの通り、中央に0.9mmφの光ファイバーポストを3本、その周りにアクセサリーファイバーを9本挿入している。
    図17 スーパーボンドを用いた直接法支台築造3、6)を行った。アレンジメントの通り、中央に0.9mmφの光ファイバーポストを3本、その周りにアクセサリーファイバーを9本挿入している。
  • 図18 十分に光照射ならびに重合を行った後、隔壁を除去し支台歯形成を行った。形成後の状態とデンタルX線写真を示す。ポストの挿入状態が確認できる。
    図18 十分に光照射ならびに重合を行った後、隔壁を除去し支台歯形成を行った。形成後の状態とデンタルX線写真を示す。ポストの挿入状態が確認できる。
  • 図19 60代女性。
    図19 60代女性。5に対し通法に従い感染根管処置を行った。テンポラリークラウンを接着し隔壁として使用している。根管充填直後の状態を示す。
  • 図20 左ページの症例と同様80番のプラガーを基準にポスト形成後、試適専用ファイバーを用いてファイバーアレンジメントを行った。本ケースも扁平根のため0.9mmφのi-TFC光ファイバーポストを頰舌的に2本並べて配置し、その周りにアクセサリーファイバーを挿入することとした。
    図20 左ページの症例と同様80番のプラガーを基準にポスト形成後、試適専用ファイバーを用いてファイバーアレンジメントを行った。本ケースも扁平根のため0.9mmφのi-TFC光ファイバーポストを頰舌的に2本並べて配置し、その周りにアクセサリーファイバーを挿入することとした。
  • 図21 ピクルステクニックを用いて接着前処理を行った光ファイバーポスト。アクセサリーファイバーは12本挿入することとした。図21 ピクルステクニックを用いて接着前処理を行った光ファイバーポスト。アクセサリーファイバーは12本挿入することとした。

  • 図22 i-TFCボンドを用いて、直接法にて支台築造を行った。i-TFCボンドのボンドブラシには親水性重合開始剤が含まれており、乾燥しづらく光の届きにくい根管内においても高い接着性が得られる。
    図22 i-TFCボンドを用いて、直接法にて支台築造を行った。i-TFCボンドのボンドブラシには親水性重合開始剤が含まれており、乾燥しづらく光の届きにくい根管内においても高い接着性が得られる。
  • 図23 i-TFCポストレジンを満たした後、アレンジメント通り光ファイバーポストを挿入していく。ポスト形状なのでハーフスリーブよりも挿入しやすい。
    図23 i-TFCポストレジンを満たした後、アレンジメント通り光ファイバーポストを挿入していく。ポスト形状なのでハーフスリーブよりも挿入しやすい。
  • 図24 十分に光照射ならびに重合を行った後、隔壁を除去し支台歯形成を行った。形成後の状態とデンタルX線写真を示す。ポストの挿入状態が確認できる。
    図24 十分に光照射ならびに重合を行った後、隔壁を除去し支台歯形成を行った。形成後の状態とデンタルX線写真を示す。ポストの挿入状態が確認できる。

おわりに

予知性の高いファイバーポスト併用レジン支台築造を行うためには、歯根と支台築造体の一体化に加え、グラスファイバーの長所を十分に活かすための考察が必要であり、それらは確実な接着操作とグラスファイバーの外周配置という言葉でまとめることができると考えている。
今回のi-TFCシステムリニューアルにより、利便性や確実性をさらに増すことができるアイテムが追加されたのは歓迎すべきことである。
本稿がi-TFCシステムを臨床で活用するための参考になれば幸いである。

参考文献
  • 1)眞坂信夫,諸星裕夫編:i-TFCシステムの臨床.(株)ヒョーロンパブリッシャーズ,東京,154,2009.
  • 2)渥美克幸:i-TFCシステムを用いた予知性の高い支台築造.Dental Magazie,138,44-47,2011.
  • 3)渥美克幸:i-TFCシステムを用いた予知性の高い支台築造(第2報) 〜特に直接法について〜.Dental Magazie,150,36-40,2014.
  • 4)真鍋顕:臨床理工講座/「i-TFCシステム」による新しい概念の支台築造.日本歯科評論,67(7):99-104,2007.
  • 5)渥美克幸:予知性の高い支台築造を考える〜ファイバーポストへのモノマー含浸によるレジンとの接着性向上効果について〜.接着歯学,32(3):171,2014.
  • 6)渥美克幸:予知性の高い支台築造を考える〜根管象牙質との接着方法について〜.接着歯学,31(3):122,2013.

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